第3話 同期の真似
その日の夜、俺はトレットと別れ、俺は
次の日、俺は
そこには昨日言っていた通り、俺の他にもう一人、女の人が試験を受けるそうだ。その女性は俺よりも身長が少し小さい。服が見るからに豪華で、お金持ち感が漂っている。腰には一本のレイピアが刺さっている。
「私と同期ってことになるわね。よろしく、チェルシーよ」
「あ、サクトだ。よろしく。というか、その服凄いな」
「……」
最初に話しかけてきたのはチェルシーの方だった。自分から声を掛けてきたくせに、こちらの言葉に興味を持ってくれない。なんとも不愉快……
「それでは、今から試験を開始します」
昨日と同じ受付のお姉さんがやってきた。
「試験内容を発表します。まず、ランク100000位の人と戦ってもらいます。その後、ランク100000位の人に勝利した場合、90000位、80000位……このように勝ち進んでいく方式となります。負けた時点で試験終了となります。負けた場合、その時戦った人物の独断で初期ランクを決めることになります。ちなみに今のところ、初期ランク15800位が最高記録となります。今日は、80000位より上の方が不在なため、80000位の方に勝利した場合、また後日再試験をすることになりますので、ご了承ください」
やっぱり戦うのか……取り合えず前考えた作戦を実行しよう。けどそのためには、試験を後にやる必要がある。もし仮に順番がもう決まっているとしたらどうしようもない。だが、決まっていなかった時のために、出来るだけ目立たないように立った。
「私、先やります」
そう声を掛けたのはチェルシー。ひとまず一安心だ。チェルシーがそういうタイプで良かった。
「わかりました。ではまずは100000位の方と対戦していただきます」
すると少し太った男がやってきた。背中には、大きな剣を背負っている。
「俺の名前はダンク。よろしくな。ってあれ、その服って――」
「早く始めましょう!」
ダンクの言葉を遮るようにチェルシーが言う。チェルシーは直ぐにレイピアを前に出して構え、それに対抗しダンクも、担いでいた大剣を構える。
「【ハイハイパー】」
チェルシーはこう言った途端、チェルシーの体が赤く光る。きっとスキルか何かだろう。チェルシーは地面を思いっきり蹴った。その速さは全く目で追えない。チェルシーの剣は、ダンクの首に突き刺さる。
「っ――!」
動かなくなったダンクを見て、俺は思わず目を背ける。そして全身に鳥肌が立ち、これが戦いの世界だと言わんばかりの衝撃さに絶望を感じる。体中が熱くなり、今にも逃げ出したい。だが、思いもよらぬ言葉が待っていた。
「んっあああああ。速すぎて見えなかったぜえ。っていうか、ランクに入ってすらいないのに、もうオリジナルスキルが使えるとは……。凄すぎる……」
立ち上がり、首をすりすりしながら感心するダンクを見て、俺は目を疑った。ダンクが言っている声が聞こえないくらい、俺は驚いていた。
「死んで……ない……?」
「ちっ、お前! バカにしてんのか⁉ そんな簡単に死なねえよ!」
「そ、そうですよねー」
考えられる理由は二つ。一つはダンクの耐久力がえげつない。それか、この世界はよほどの事がない限りは死なない、といったところだろうか。だが、前者はほとんどありえないと言える。ダンクもバカにしてるのか、などと言っていたし。
「んー。姉ちゃん強いなあ。今後も頑張ってくれ」
そう言ってダンクは一度本部に戻る。負けたという事は、あれで勝ち負けが付いたという事か。この世界のルールは、気絶や、降参したら負けのようだ。はたから見れば死んでいるも同然だが。
「よっし、次は俺かなー!」
そう言って横から身軽そうな男が飛び跳ねながらやってきた。ダンクのランクが100000位ということで、チェルシーの初期ランクは100000位よりも上なことは確定。この身軽な男は、90000位ということになるんだろう。
「じゃ、ちんたらやるのもあれなんでで、もう来ちゃっていいっすよー!」
身軽な男は、腰にあるナイフくらいの大きさの剣を取り出した。あんな小さい武器で戦えるのか……っていうか、俺武器持ってないんだが、流石に用意してくれてるよな……
「【ハイハイパー】」
さっきと同じ事を発した後、体は赤色に光り、地面を蹴り飛ばす。またもや目にも止まらぬ速さで、身軽男にレイピアを突き刺す。だが、身軽男の反射神経が優れているせいか、ブリッジのような姿勢をとり、槍のように飛んでくるチェルシーのレイピアは身軽男の上を通る。身軽男は、少し着地が崩れそうなチェルシーのお腹に、体を反らせながら小さな剣を突き刺そうとする。だが、チェルシーも劣っていない。その剣から逃げるようにして身軽男の頭上を一回転。身軽男の剣をかわす。綺麗に着地し、すぐさま剣を突き刺しに行くチェルシーとは反対に、身軽男はチェルシーの身体能力の高さに、驚きを隠せていない。その一瞬の隙を見逃さず、身軽男の体をレイピアが貫く。
「つ、強い……」
チェルシーの華麗な戦いっぷりに、一同唖然とする。身軽男もすぐさま起き上がり、頭をポリポリかきながら、悔しそうにしている。
「んー。僕も相手にならないかぁ、惜しかったと思うんだけどなぁ」
そう呟き、身軽男は
これでチェルシーの試験は一旦終了。今日は90000位でとどまっているが、きっとあと相手が数段階強くなっても十分戦えるだろう。真似をしようとか思っていた俺がバカバカしい。こんなのに俺が真似できるわけがない。
「ひとまず、チェルシーさんの試験は終了となります」
受付の方がそう呼びかけ、チェルシーも一息つく。
「次、サクトさんと願いします」
「あの……。僕武器持ってないんですけど」
「申し訳ございません。武器は持参となっております……」
はい積みました。終わりです。無理です。あんな大剣に勝てるわけがないです。
チェルシーにそのレイピア貸して。なんて言えないよな……。
「お、次はお前さんだな」
ダンクが再びやってきた。もう時間がない……。
「うわ! 素手かぁ、格闘系苦手なんだよなぁ」
「はあ?」
「じゃ、早く来いよっ」
まさか剣に拳で対抗する人がいるなんて、信じられない。どうやって戦うんだ、あの大きな剣をすべて避けろと?
それとも体を鍛えに鍛えまくって剣が通らない体にするとか?
俺はどう戦えばいい?
時間がない。
俺は焦りに焦っている中、頭の中をフルスピードで回転させ、一つの答えが浮かびあがった。
やるしかない。
「【ハイハイパー】!」
その技は、チェルシーが作ったオリジナルスキルだとも知らずに――
だが、俺の体は赤く光った。
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