第2話 叶わない

「ここが……オカランド……」


 俺の目の前には、想像する何十倍もの大きさの街が待ち構えていた。フリスト村を見た後だからということもあるだろうが、流石に大きすぎる。そして色鮮やかなその見た目はどこか美しかった。元の世界は、どこを見てもビルばかりが立ち並んでいた印象が強い。それに比べオカランドは、見ているだけでも満足してしまうくらいの引き込まれる魅力があった。

 オカランドの外周には、大きな障壁がたっている。きっと魔物か何かから身を守るためだろう。入り口は見たところ一つしかなさそうだ。それにして出入りする人間も多い。


 入り口には、4人の男が立っていた。きっと門番的な何かだろう。スラっとした体型の人に、少し太った体型。容姿はさまざまだが見るからに優しい雰囲気が醸し出されている。


「ちょっと君、見ない顔だね」


 俺は出入りが頻繁な事を利用し、さりげなくオカランドの中へ入っていこうとしたが、ガッツリ止められてしまった。声を掛けてきたのはいかにもモテそうなスラっとした体型の人だ。


「あの、喫軌きっきに入りたいんですけど……」

「了解。じゃ、ついてきてー」


 俺は言われるがままに男について行った。


 オカランドの中も、思った通り賑やかだ。そしてカラフル。だが、少し感じたことがない雰囲気もある。きっと戦いが全てということもあって、みんな疲れているんだろう。


「そういえば名前聞いてなかったね。君の名前は?」

「サクトって言います」

「サクト! じゃー転移者か―」

「……」


 歩きながら聞いてきた。そして転移者であることも直ぐにばれてしまう。別に隠そうとしていたわけでもないが、何故この世界の人たちは、名前だけで転移者とわかるんだろうか。正直違いが全く分からない。


「ちなみに僕の名前はトレットだよ!」

「よろしくお願いします。トレットさん」

「えっと今、喫軌きっきに入る手続きをするために、喫軌きっき本部に向かってる。ちょっとここからだと遠いけど。」

「大丈夫です!」


 この街は眺めているだけでも十分楽しい。道行く人々に剣、弓……。剣にも大きな剣を持っていたり、小さな剣を持っていたり色々だ。しかも驚くことに女性の方も多い。商店街や鍛冶屋。いかにも異世界感が溢れ出ている。この世界で戦っていけるのかは一旦置いといて、かなり楽しい生活になりそうだ。でもやっぱり、妙な雰囲気に包まれている。


 歩いておよそ20分。俺たちは喫軌本部に着いた。喫軌本部は街の中央にあり、目立っている。喫軌きっき本部の屋根には、喫軌の国旗らしきものも飾ってある。


「とりあえず中に入ろうか」


 これでもかというほど大きな扉を開けると、中には教会のような光景が広がっていた。


「とりあえず、手続きはここから右に曲がったところにあるよ」


 そう言うと、右へ曲がったところに、本屋のような部屋があった。そこには受付に女性の方が一人立っていた。


「すいません。喫軌きっき加入の手続きをお願いしたいんですけど」

「はい。では、まず喫軌きっき加入に当たって詳しく説明させていただきます――。」


 トレットが言ったことに対し、受付の女性がこう切り出した。説明はそう長くはなかった。


 女の人曰く、ランクは現在125003名で、俺は125004人目であること。そして喫軌はランク8位、7位、6位、5位、4位、3位、2位、1位の8人が指揮、政治している。そのランク上位8人の事をかめと呼び、その中でも3位から上の人を大甕おおがめと人々は呼ぶ。


「最後に、クラスを図らせていただきます」

「クラス?」

「クラスとは、平均ステータスを表します。クラスは上から、A、B、C、D、Eが存在します。大体7割はCクラスであり、Aクラスは全体の1%しかおらず、さらにEクラスは、この世界に数人しかいないほど偏っています。基本的にクラスは変わることができません」

「なるほど……これはかなり重要なようだな」


 正直期待はしていないが、Aクラスだったら、なんて思うとつい頬が緩む。


「それでは、ここに手を置いてください」


 受付の人は、綺麗な水晶玉のような物を俺の前に置いた。俺は恐る恐る慎重に、そっと手を置いた。


「っ……!」


 俺の額の汗が地面に滴れ落ちる。落ちた水滴は音もしずに消えていく。緊張のあまり、手が震える。受付の表情を見るからに、きっと珍しいクラスであることは間違いない。俺は目を瞑って、受付の声に耳を傾ける。


「Eクラスです……」

「……」


 まあそりゃそうかという気持ちと、何か大物を逃してしまった絶望感が混ざり合って脳の中で攻防を繰り広げている。どうしようもない結果、変えようもない結果という事は分かりきったことだが、何とも悔しい。


「どうします? ランク、入るのやめますか?」

「ランクに入らない選択肢なんかあるんですか?」


 ランクに入ること自体っも否定される、絶望的なEクラス。ますます落ち込んでしまう。それにしても強さこそが全てのこの世界。ランクに入らないでどう生活するというのか。


「一応あります。まあ誰かと結婚すれば、の話ですけど」

「あー」


 思わず声が出てしまう。

 この世界のランクとは、元の世界の仕事といったとこだろうか。仕事をしないともちろん生活できない。でも結婚して夫か妻のどちらかが働ければ、片方も養うことが可能だ。つまり受付の人は俺に専業主夫を勧めているということか。というか、俺まだ結婚できる年代じゃないんだが……。


「ま、まあ、そう気を落とすなよサクト」

「ああ……」


 自分の才能を知らしめられた気がした。きっと俺の姉なら絶対にAだっただろう。そう言い切れる。むしろSクラスとかになってるんじゃないか。姉の真似をしてきて、少しは姉に追いついたとも思ってきたが、やはり姉にはかなわない。


 今は亡き姉。時々俺はこう心の中で姉と比較してしまう癖がある。そんな根拠、どこにもないのに。


「では、後日、初期ランクを決める必要があるので、喫軌きっき本部裏にある広場へよろしくお願いします。ちなみにもう一人、試験をする方がいるので、二人で試験をする形になります。」


 最初のランクが125004位ではないことに少しほっとした気もするが、よく考えればわかる。俺はEクラスだ。雑魚だ。どっちにしろ似たようなランクになるだろう。

 取り合えず俺は、その人よりも後にやって、その真似でもするか。


 そして、その行為こそが、俺の最大の強みになることを知る。

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