第49話

 犯人は現場に戻ってくる。これは最早常識だ。

 奴等は自分の犯行現場の様子を知りたがる。故に戻ってくるのだ。


 これで捕まった名探偵コ◯ンの全身黒タイツ犯人は数多くいる。


 人間というものは歴史の中で同じ過ちを繰り返している。本当の意味で「学ぶ」ことがないようだ。


 王道はふらりと船内からエンジン修復をしている機械班のもとに現れた。

 頭がいいのか悪いのか解らないやつである。


 ミヤギの指示のもととは言え、あの新世冷夜の船のエンジン内部まで侵入できるほどの頭脳は持ち合わせているのは確かだが......



「あ、あなたは.........!」



 最初に現場への来訪者に気がついたのはルオ 月鈴ユエリンであった。


 彼女は人脈が広く、特に何も無い時は常に食堂や共用スペースにて交流をして更に人脈を広げたりしている。

 それもある種の特技だろう。


 その人脈の広さ故に、彼女の情報網はあちこちに張り巡らされている。

 彼女は王道に会ったことはないが、情報の特徴より彼が宇界の話していた王道だと判断した。


 宇界が話していた、と言っても彼が直接 月鈴ユエリンに話したわけではないが。

 これぞ人脈の広い人の怖い所。



「どうした、 月鈴ユエリンなにか............なるほど」



 先程の 月鈴ユエリンの声を聞き、駆けつけてきたロン・ウィカードは王道の姿を見ると額にシワを寄せた。



「ツバキさんを呼んでくる。」


「あ、はい。」



 その後に 月鈴ユエリンはできるだけ早く、と小さな声で付け足した。

 犯人かも知れない人間と二人きりになるのは誰だって嫌だろう。


 ロンが椿を呼びに行き、それから一分も経たない内に椿達が来た。


 彼は相当走ってくれたのだろう、汗だくである。それに比べて椿は息一つ切らせてはいない。 

 帰りも走ってきたのだろうが、その落ち着きっぷりは見事だ。心臓も心も落ち着いている。



「王道瑛王さんですね、エンジンになにか用でも?」


「い、いや...道に迷って」


「道に迷ってあの隠し通路を見つけたのですか。ここはどう『道にっ迷って』もたどり着けるような場所では無いはずですが。」


「う......」


「回りくどく探るのは時間の無駄なので率直に聞きます。あなたはここへ何をしに?」


 

 椿は「時間の無駄」と言っているが、それはただただ面倒くさいからである。その辺りは宇界と似ているのだろう。

 時間の無駄というのもあながち間違いでは無いだろうが。



「それは......エンジ――――」

「あれ、王道じゃん」


「!?」



 その声に全員が出入り口の方を向く。そこには、散歩に出ていた彼が立っていた。

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