眠らない男 7

 外の音が騒がしくなる。目を瞑っていても、だんだん明るくなってきていることが分かった。俺は頭上にある携帯を見た。先ほど布団に入ってから、1時間が経過している。

 体は疲れいるはずなのに、眠気が一向にやってこなかった。先ほどからずっと寝返りをうっている。気を紛らわせるために、音楽をかけた。

 3曲目が終わったところで、いよいよ朝日が眩しくなってきた。車の音に紛れて、時々人の話し声まで聞こえてくる。立ち上がり、窓を閉めた。そのままクーラーを起動する。涼しい風が流れこんできた。

 完全に昼夜が逆転したな。そう思いながらカーテンを閉めた。いくらか暗くなったので、これで眠れるだろうとベッドに戻る。


 目を瞑ると先ほどのゲームの残像がありありと浮かんでくるようだった。きっと朝までプレイしていたから、脳に焼きついてしまったのだろう。混乱した脳味噌を沈めようと布団に潜り込む。しかし、やはりどう頑張っても眠れる気がしなかった。


 そうしているうちに、だんだんとお腹が空いてきた。

「ええい!」

 俺は諦めて起き上がり、そのままキッチンへと向かった。

 

 テレビをつけると、いつもは寝過ごして見逃してしまう土曜の番組が始まったばかりだった。3時間番組で、食べ物やファッション、家電に映画など様々なもののトレンドを伝えるものだ。意外に思われるのだが、こういう番組は嫌いではない。

 トーストにジャムを塗ってかじりながら、それをぼーっと眺める。そうやって眠たくなったらベッドへ行けばいいと思っていたのだが、最近映画を観てないな、などと考えているうちにどんどん目が冴えてきてしまった。


 ここまできてしまえばもう仕方がない。一晩くらい眠らなくたって死にはしないだろう。

 俺は久々に休日を有意義に過ごすことに決めた。


 まずは部屋の掃除だ。言葉の通り、足の踏み場もないくらい散らかっている。最近は仕事に追われすぎて、ゴミ箱のゴミを出すことくらいしかできなくなっていた。

 それでもキッチンのシンクにはいつかのカップ麺の残骸や箸が転がっているし、よく見ればあちこちに埃が積もっている。

 幸い外は晴れなので、窓をあけて空気を入れ替えながら捨てるべきものを集めることから始めた。


 2時間ほどで掃除は終わり、久しぶりに床がきれいにみえた。これだけ活動しても、時刻はちょうど正午になった所だ。

 心地よい疲労感と達成感に満ち溢れていた。俺は自分への褒美に、昼食は外へ行くことにした。


 土曜の真昼ということもあってどの店も混んでいたが、特に用事があるわけでもない俺には時間と心の余裕があった。強いて言えば腹は空いていたので、迷って決めたとんかつ屋の前でいい匂いを嗅ぎながら、席が空くのをまだかまだかと待っていた。


 そうしてようやく店に入ると、のれんを潜って一歩進んだところで懐かしい顔と目が合った。俺を見つけるなり大きく手を振ってきたのは、大学時代の友人たちだった。悪友とも呼べるそいつらは、4人席を2人で使っていた。俺は招かれるままにそこへ相席し、仕事が休みで羽を伸ばしていた2人につられて昼間からビールを飲んだのだった。


 昼食が終わると店を変え、そのまま外が暗くなるまで飲み明かした。聞けば2人とも久々の休日だったらしく、俺たちは学生時代に戻ったように止まることなく語り合った。

 このまま夕飯をどうするかという話になった時、近くにある俺の家で飲みたいと提案された。半分以上無茶振りだったが、ちょうど部屋がきれいになったところだったし、再び店をはしごするより財政的にもありがたいので俺はそれを承諾した。


 スーパーで買った惣菜をつつきながら酒を飲む。そのあとは、夜通しゲームをして盛り上がった。こんなに笑ったのはいつぶりだろう。2人はそのまま当然のように泊まっていった。もともと俺もそのつもりだったので、2人が寝落ちした後も楽しい気分でしばらくゲームを続けていた。


 時計の針は3時半を指している。俺はゲームを切り、床に転がる2人をまたいでベットに向かった。気持ちよく酔っていた俺は、その時になってようやく違和感を覚えた。

 昨日は一睡もしていないのに、しこたま飲んだ今日のこの時間になっても全く眠たくならないのだ。

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