10「対決、レッドドラゴン」
ナアザの町は周辺を城壁が覆っていて、
その北側に、ゲートが出現し、中から魔獣のレッドドラゴンが現れた。
しかも、ただのレッドドラゴンじゃなく、
上級個体でジビエの店で料理されたレッドドラゴンよりも遥かに強い。
幸いだったのは、ゲートが町の外に出現した事だった。
お陰で城壁と結界で、被害は抑えられているのだから。
とはいえ強力な個体なので、時間が経てば、
結界を破り、城壁を突破してくるのは間違いない。
急ぎ対処する必要がある。警察にはこういう状況に対応する部署はあるが、
直ぐに来れるわけじゃない。
だから地元の冒険者が先行して対応するしかない。
これも、幸いと言っていいのかは不明であるが、ナアザの町は、
冒険者の拠点であるので、町には多くの冒険者が住んでいる。
こういう場合は、直ぐに冒険者たちが対処に当たる。
ただ善意で行っている者もいるが、
中には名声を得る為だったり、魔獣の中には死骸が金になるものもあり、
警察が対応すると死骸は押収されてしまうので、
その前に倒してしまい、手に入れようとする連中もいる。
なお修一を誘った冒険者は善意の方である。
あと警察が来る前なので、規制線を張っておらず、
冒険者たち以外にも、野次馬の一般人も紛れ込んでいた。
この街では、冒険者じゃなくとも何だかの能力を持つので、
ドラゴンと戦える者も、いるかもしれないが、
殆どは戦闘経験がない素人ばかりで、冒険者の足を引っ張る恐れがあった。
(すごい、これが本物のドラゴン……)
そんな野次馬に混じって、喜多村の姿があった。
ドラゴンが出たと聞いていて、好奇心が強く刺激された結果、
(すいません、黒騎士さん……)
とそんな事を思いつつも、場を離れてドラゴンの方に向かった。
北の方と聞いていたのと、それ以前、人の流れを見て、現場へとたどり着いた。
警察はまだなので、規制線は張ってなくて一部の冒険者や、
市民が野次馬を止めてはいたものの、警察ほどじゃないので、
喜多村を含め何人かの野次馬は、それをすり抜けていた。
城壁の外に出て、ドラゴンが見える位置にいたが、
冒険者達が戦っている場所からは、離れた場所にいた。
野次馬の中には、よく見たくて近寄りすぎ、冒険者達の邪魔になって、
怒られている人もいたが、彼女は、好奇心は旺盛でも、それなりに良識はあるので、
自分の身を守る行動と、冒険者達の邪魔をしないと言う配慮は出来る。
とは言え、今のところ安全で邪魔になっていないとはいえ、
非戦闘要員の彼女が、この場に来ること自体、論外な事だ。
それに、状況は変化する。彼女がいる場所がいつ邪魔な場所、
或いは、危険な場所に変わるかもしれないのである。
「!」
今、レッドドラゴンと目が合ったような気がした。
直後、頭が喜多村のいる方を向いた。
そしてレッドドラゴンは、大きく息を吸い込み始めた。
(まずい!)
本能的に、こっちに向かって火を噴くと思い。
喜多村は感じて逃げようとしたが、
彼女の周りには他にも野次馬がいて、同じく状況を察知した所為か、
パニックを起こしていて、中々逃げられなかった。
やがてドラゴンの口元に炎の様なものが見えた。
「!」
この時、死を覚悟し、
(素直に宿に戻っていればよかった)
と思っていた。その時だった。
「バーストブレイズ!」
突如、ドラゴンの複数個所が爆発した。
「ゴォォォォォォォ!」
と言う咆哮を上げるドラゴン。
この攻撃で口から放とうとした炎は不発したようだった。
(あれは、黒騎士さん!)
そう修一がやって来て攻撃をしたのであった。
さて、誘ってきた冒険者と共に急ぎ現場に向かったが、
(中々、進めない……)
道中は人が殺到して、中々現場にたどり着かなかった。
喜多村よりも動き出すのが少し遅かった程度だったが、
そのわずかな差で、混雑に巻き込まれたのだった。
殺到しているのは、事情を知って対処に向かう冒険者達だけでなく、
野次馬が大勢いるからだった。
しかも今は夏休みで、修一が護衛しているツアー客以外にも、
別のツアー客など、大勢観光客がいて、そんな人たちが野次馬になって、
混雑する羽目になり、なかなか修一達は先に進めずに、ようやく到着した時には、
レッドドラゴンは火を吐く直前で、
とっさの思い付きで、バーストブレイズを使ったのである。
結果的に功を奏したわけであるが、ハッキリ言って運であった。
まあ修一の悪運は強かったりするが、それは置いておいて、
ただ使用した魔法が珍しいものであった為、
「おい、黒騎士!何だ今の魔法は!見た事ねえぞ」
と一緒に来た冒険者に言われただけでなく、
他の冒険者達からも注目を浴びる。更にどこからか、
「黄金騎士と同じ魔法……」
という声が聞こえた。
(黄金騎士?)
それが何を意味するのか、修一には分からなかったが、
(まずい……目立ってる……)
この場に来たものの、正直修一は目立ちたくなかった。
それが自分を普通じゃない状況にいざなうかもしれないからだ。
それに赤い怪人とは違って、冒険者登録の際に、鎧の事も教えているので、
調べられたら、黒騎士が修一である事は、分かる事でもあった。
とはいえ、個人情報であるから調べるのは容易ではないし、
そもそも黒騎士の名は、いま勝手に呼ばれているだけで、
役所にその名で届けているわけではないので、
調べれたとしても、黒騎士から修一にたどり着くのは容易ではない。
自分から足を突っ込んだものの、修一は今後への不安を感じた。
だが今は、ドラゴンをどうにかしないといけない。
(とりあえず、喜多村さんは無事みたいだけど……)
バーストブレイズを撃って、炎攻撃を無力化した後、
修一は野次馬に混じってこっちを見ている彼女を確認していた。
しかし、その場から動いてくれそうになかった。
(とにかく彼女を巻き込まないようにしないと……)
なお一度は、逃げかけた彼女が、この場に再び留まっているのは、
黒騎士が現れたから、彼の雄姿が見たいからである。
つまりは修一の所為なのだが、彼はその事に気付いていない。
ただ野次馬が多いだけでなく、
町の城壁の、正確には結界のすぐ外での戦闘は、
危ないという考えにがあったのか、対処に当たっていた。
冒険者の中で、年配で見るからに熟練の冒険者と言う感じの男が、
「ドラゴンを街から離すぞ!手伝ってくれ!」
と呼びかける。修一も含め他の冒険者も、同じことを思っていたのか、
みんな同意した。
そして、その冒険者が仕切る形でレッドドラゴンの誘導が始まる。
具体的には、向かわせたい方向から攻撃を行い、注意をその方向に向けて、
城壁から離れさせようという作戦だ。
そんな中で修一は、近距離で攻撃する冒険者がいたので、
最初に使った時は、大丈夫だったが、今度は巻き込みそうだったので、
バーストブレイズは使わず、
メタモルブレードをショットガンの様な姿に変形させて、
それから発射される光弾で攻撃する。
修一を含めた冒険者の攻撃を受け、思惑通り方向に動き出すドラゴンだったが、
相手は上位魔獣で、上級個体という最悪な組み合わせ故に、
咆哮を上げて怯むことはあっても、体には殆ど傷はなかった。
正確にはバーストブレイズの攻撃によるやけどのような物は見えるが、
それでも軽少の域だった。熟練の冒険者の一人が、分析魔法を使うと
「こいつは、防御スキルを持ってない。でもこの強靭さ、上級個体だな」
と言い出す。この時点でレッドドラゴンが通常の個体でないことに、
冒険者達は気付いた。修一も以前レッドドラゴンと戦っているので、
(こいつは、以前のとは段違いの強さだ……)
と思いつつも、
(赤い怪人で来ればよかったな……)
修一的にはこの鎧よりも、赤い怪人の方が強く感じでいたのと、
弱い個体ではあるが、一応レッドドラゴンとの交戦経験があるのと、
先にも記したが冒険者登録の際に、赤い怪人の事は伝えてないので、
そこから、身バレしないと思っていたからだ。
しかし赤い怪人になるには、まずは女性に変身しないといけない。
修一から直接、赤い怪人に変身は出来ないからだ。
しかし女性になるには、鎧を脱ぐ必要がある。
鎧が男性専用の所為か、着たままだと「性転換」が作動しないからだ。
しかし、ここまでの状況で、それをする暇はないし、
加えて、誘ってきた冒険者もいるのだから、余計だ。
ただ現場に来て状況を知った事で、軽く後悔しているのだった。
とはいえ赤い怪人の力なくとも、勝機は無いわけじゃない。
「口を狙うぞ!」
と熟練の冒険者は言う。そうどんなに体が強くても、
口と言うか、内臓は弱いのである。これはレッドドラゴンに限らず、
多くの魔獣にいえる事で、表面からの攻撃が効かないときは、
口から体内をねらっての、魔法による遠隔攻撃。
相手が魔力を吸収するようなスキルを持っているときは、
爆薬などを使うが、中には口の中に飛び込んで、
剣とかで直接攻撃する者もいたという。
なお防御スキルは体内も守るので、スキルがないが、
持っているかの如くの強靭さがある時の対処法と言える。
だがこの方法も
魔獣が口を空ける時は大抵、攻撃を受けて苦しんでいる時か、
何だかの攻撃をするときである。
ただ口を狙わなきゃいけないときは、外部の攻撃で苦しむなんてことは少ないし、
たとえ苦しんでいる時でも、攻撃を仕掛けて来る事もある。
その上、口からの攻撃は強力だから、こちらもダメージ覚悟という事である。
レッドドラゴンの場合は、口を開け炎を吐く前に、攻撃を口の中に入れれば、
ダメージを与えられる上に、攻撃を無効化できる。
だが相手の攻撃が早い時は、逆に攻撃を押し返される。
正に一か八かと言ったところ。
また火を吐く前は、大きく息を吸い込むが、その際はあまり口を開けないので、
その時に入れそうな魔力弾は小さくなってしまうので、
小さいと威力が低く、効果的ではない。
ただ修一は、思い立ったことがあるので、
「もしかしたら、口を開けさせる事かできるかもしれない」
と言った後、接近戦を行っていた冒険者が離れていたので、
「バーストブレイズ!」
レッドドラゴンの胴体に撃ち込んだ。強力な炎で火傷のようなものはできたが、
口は開けなかった。
「さっきは、咆哮を上げたのに」
咆哮を上げる事、口を開ける事だと思ったからだ。
すると熟練の冒険者が、
「それは既に口を開けてたからだ」
「そうなのか……」
結局、無駄撃ちしたみたいで、がっかりするが、
「だが今の魔法は、使えるぞ。お前、黒騎士って感じだな」
この冒険者は、かつての黒騎士を知らないようだったが、
鎧のデザインから、黒騎士と言う名前が浮かんだようだった。
「とにかく、黒騎士。さっきの魔法なら、口が開き切らないうちに、
それこそ、吸い込むときに魔法を撃ちこめる」
この冒険者は、その経験故なのか、一目見ただけで、
バーストブレイズの性質、魔力を圧縮して、
小さな魔法弾として撃ち出し、着弾と共に解放して、
大きな爆発にすると言う性質を理解したようだった。
そして小さければ、冒険者の言う様に、開き切る前や、
火炎放射の前兆である吸い込みの時点で撃ち込むことができる。
同じ大きさの魔力弾とは違い、ドラゴンにダメージを与えるには、
十分の威力を持つ。
「お前に、レッドドラゴンへの攻撃を頼みたい」
もちろん他の冒険者たちも攻撃に参加するが、
修一が切り込み役みたいになってしまった。
この状況で、断れるわけにもいなくて、加えて、
(喜多村さん、まだいる……ドラゴンを倒されないと帰らない気か)
実際は、先に記したと通り、黒騎士の雄姿を見る為だったが、
似たような物である。とにかく彼女に帰ってもらう為にも、
ドラゴンを倒す必要がある気がした。
しかし方向性が決まったのだが、以降ドラゴンは、口を開けなくなった。
近距離は爪や尻尾、遠距離は目からビームの様なものや、
足踏みと共に出す衝撃波で攻撃してくるだけ、
それらも強力だから大変なのだが、とにかく火を吐くどころか、噛みつきさえしてこない。
「まさかコイツ、人の言葉を理解できるのか!」
と熟練の冒険者が声を上げる。
ドラゴンの中には言葉を話す者もいるというが、
上級個体の中には、言葉を話さなくとも、言葉を理解しているかのような、
仕草をするものがいるという。
もちろん仕草をするだけで、本当に言葉が理解できるかは分からないという。
その後、戦いは続くが、状況は膠着したままで、
あと野次馬も増えてるようだった。修一は引き続き、遠距離攻撃主体で、
他の冒険者たちと一緒に、攻撃を回避しつつ、ひたすら攻撃し続けていたが、
手ごたえがいまいちなのにイライラしていた。
(イーブンを使えれば……)
レッドドラゴンをボコボコにできそうだが、あまり人前では使いたくない。更に、
(その内、状況を聞きつけた秋人か、魔法少女が来そうだけど、
頼りにするのは悪いな……)
そんな事も思った。
そして、
(どうにか、口を開けさせる方法は……)
と思っていたら、ハッとなって、
(そうだ!)
修一は、ドラコンに向かっていく。
「おい!いきなりどうした!」
という冒険者の声がしたが無視して、ドラゴンの背後に近づく。
ドラゴンは尻尾で攻撃してきたが、
それを避けつつも、跳躍して、尻尾の上に乗り、背中を駆け上がっていき、遂にはレッドドラゴンの頭部まで来た。
ドラゴンは、肉体の強靭さゆえに、近づくは攻撃する割には、
振り払おうとはしなかった。
(開かぬなら、開けさせて見せよう。レッドドラゴン!)
そんな事を思いながら、メタモルブレードを、
ドラゴンの鼻の穴に突き刺し、グリグリとねじる。
するとドラゴンは口を開き始めた。
そう鼻を刺激されたことによるくしゃみである。
この状態で鼻の上にいた修一は、開いた口に飛び込み。
「バーストブレイズ!」
ひたすら魔法を撃ちまくった。
しばらくすると口の奥の方で爆発音して、
「ゴォォォォォォォ!」
と言う咆哮と共に、口から煙を拭いて倒れた。なお修一は倒れる前に脱出する。
そしてドラゴンは動かなくなり、熟練の冒険者は、
「死んだな……」
そうレッドドラゴンを倒したのだった。
更に、その冒険者は、修一に向かって、
「お前も無茶な事するな、くしゃみで口を開けさせるとは、
一歩間違えたら大変なことになってたぞ」
「えっ?」
「まさか、知らないのか!」
くしゃみで、口を開けさせることは多くの冒険者が思いつく事だった。
「レッドドラゴンは、くしゃみをするときは、
通常よりもかなり高温の炎を出すんだ」
しかもその範囲も広い。だからくしゃみは普通に口を開けた時よりも、
リスクが大きいので、誰もしないのである。
知らなかったとはいえ、かなり際どい事をしていたという事を知り、
肝を冷やす修一だった。
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