8「魔法学園で」

 有名女優のトークショーの余韻が冷めやらぬ中、


「次は、魔法学園での魔法体験だね」


と修一の横で、ワクワクした様子で話す喜多村。


「この時期に来てよかったなぁ」


とも言っている。


 観光ツアーで、魔法体験と言うのは通年で行われているが、

普段は、前日の様に市の施設で行われている。

今回は彼女の言う、魔法学校で行われるのは、

単純に今が夏休みで、授業が行われていないから。


 バスは、ナアザの町を出て途中までは異界と同じ方向だが、

途中から違う方向へと進んでいく。

そして町から離れ周囲を山に囲まれた場所に、その学校はあった。

ガイドが案内をし、ツアー客の視線が車窓から見えるその建物に、

視線が行く中、修一は、


「あれが、私立マギウス学園……」


口には出さないが、


(アキラの通う学校だな……)


と思いつつ、この街に来た時に駅で見た大きな看板を思い出す。


 その建物は、石づくりで海外の歴史ある立派な学校のようであるし、

どことなくお城のようにも見える。この私立マギウス学園の校舎、

及び寄宿舎はゲートを介して異世界、ファンタテーラからやって来たものである。

そして異世界において魔法学校だった。


 バスが到着すると、魔法体験の前に先ずは、校内の見学が行われる。

事前に聞いていた事だが、夏休みに観光ツアーに学校を解放するのは、

観光客を介し、街の外に口コミで学校の魅力を広げ、

街の外からの生徒を集める為の宣伝と言う目的もある。

余談だが、フローラ・サウザントもこの学校の出身で、

彼女が有名になる事で、この学校の知名度を上げつつある。


 ちなみに魔法学園とあるが、魔法ばかりを教えるのではなく、

一般科目に加えて魔法と言う形。ただ同様に魔法を教える学校は多く。

蒼穹の通う光弓校も、魔法科と言う形で、魔法を教えている。

ただここは生徒が希望するならであるが、より専門的な魔法を教えてくれる。


 校舎内は、映画化もされてファンが多い有名なファンタジー小説の、

魔法学校を思わせるような内装で、その事がツアー客を喜ばしているし、

修一もワクワクする部分があるが、


(この学校に、秋人もいたんだよな。

しかも『エース』とか言われていたのに自主退学)


初めて話を聞いた時に、何か訳アリだとは思っていたが、

事情は聞かず、今日まで来ていた。


 しかしいざ彼が通っていたとされる学校に来たことで、

不意にその事を思い出してしまった。


(まさかな……)


あの頃は、想像が付かなかった事だが、

今では思いつくことが一つあった。そしてこの時、学校を案内していたのは、

旅行会社のガイドではなく、この学校の教師であったが、


「何か質問は?」


と聞いてきたので、


「はいっ!」


修一は手を上げた。この時、一種の好奇心と言う病気にとらわれていて、


「ところで、この学校の安全管理とかは、どうなってるんでしょうか?

例えばゲートから魔獣が現れた時の対策とか」

「もちろん万全ですよ。緊急時は結界を張りますし、

万が一結界内に入ってしまった時は、我々教員が、

体を張って対処いたします。私はまだまだですが、他の皆さんお強いですからね」


と自信たっぷりに言う。


 ここで修一は、本題に入る。


「でも、もし相手が、鎧の魔王ならどうしますか」

「鎧の魔王……」

「最近、目撃もされてますし、

万が一学校に乗り込んでこないとも言えないでしょう」


もちろん秋人が、問題を起こすことは決してあり得ないのだが、

あくまで、揺さぶりをかけるためだ。すると教師は急に眼が泳ぎだして、


「まさか……いや、でも……」


と歯切れが悪くなる。あからさまに動揺していた。

すると別の教員と思える年配の女性が出て来て、


「校舎の結界は完璧です。転移も防ぎますから、魔王であっても通しません。

もし通り抜ける事があれば結界内にゲートが発生した場合ですが、

鎧の魔王はこの世界の存在、ゲートから出て来る事はありません」


と言った後、修一をじっと睨みつけ、


「この学校には、ファンタテーラからの来訪者やその二世などが、

生徒教員問わず、多くいます。そんな人々にとっては、

鎧の魔王は未だに畏怖の対象なんです。軽々と口にしないでください」


と注意された。


 修一は、イラっと来たがこれ以上のトラブルは避けたいので、

これ以上は、何も言おうとはしなかったが、


「あの人は、魔王ではありません。あの方は魔王の鎧を着た勇者様です」


と声を掛けてきたのは、この学校の生徒らしき女子だった。

今は夏休みなので、おそらく補修か何かで、学校に来ていると思われる。


「だから、酷いことは言わないでください」


と修一たちの方を見ながら言った。


(他にも、俺と同じ事を考えている奴がいるんだな)


と思ったが、年配の教師が、


「お客様の前ですよ。下がりなさい」


と一喝し、生徒は不満そうな様子で立ち去った。

この後は、後から来た年配の教師が変わって学校の案内をするが、

余計な事をした事に腹を立てているのか、時折、修一を見ていた。


 その後は、魔法体験と言う事で、 実際に簡単な魔法を教わり、

使用する。それらの魔法は、すぐに習得できるが、

大して役に立たない。見せかけだけの魔法。

例えば魔法陣を発生させるだけとか、光るだけと言うようなもの。

なお本来魔法が使えない超能力者でも扱える代物であるが、

これが使えたからと言って、「規格外」扱いはされない。


 役には立たないとはいえ、魔法に馴染みのない観光客を喜ばせるには、

十分で、手に小さな光を発生させながら、


「すごい、これが魔法!」


喜多村は大喜びしているが、実際に魔法を使うものから見れば、

入口にさえ達してないとの事で、修一はその事を知っているが、

この場に水を差すわけにはいかないので、


「よかったですね」


と答えるだけだった。


 そんな修一は、魔法陣を出すだけの魔法を使っていたが、

魔王の件、睨みを利かせていた女教師が、


「あなた、魔法の才能があるわね」


と言われた。修一は隠しているが既に魔法が使えるが、

それはさておき、


(魔法街の人たちといい、よくわかるな)


と思う修一だが、魔法街のほうは職業柄、

教師の方は魔法を教えれるほどの高位の魔法使いだから、

そう言うのが分かると思われる。


「よければ、この学校に転校しない?あなたなら、いい魔法使いになれるわ」


ここで、小さな声で、


「冒険者としても大成できるわよ」


と言った。

そう学校側には修一が、観光客に紛れている護衛であることは伝えている。


 元よりそのつもりは無いけど、ただこの教師にいい印象は抱けないので、


「結構です」


言葉は丁寧だが、辛辣な口調で返した。すると女教師は、


「あらそう。残念ね……」


と言って、修一の元を離れた。すると喜多村も


「魔法街の人にも言われてたし、ここは魔法使いを目指したら」

「いえ、そのつもりはありません」


それ以前、修一は魔法使いの様なものなのだから、


「もったいないなぁ……」


と残念そうにする喜多村。


 魔法体験が、終わった後はバス乗って、今日の宿泊場所の、

ナアザの町にあるホテルへと向かった。

そして夕食が終わった後は、自由時間となる。

この間に何かあっても、多少の責任は発生するが、

一部自己責任で通せるので、昨日もそうであるが、

ホテルに入った時点で、とりあえずは護衛完了となる。


 修一は夕食後、今日の事を報告する。

昨日とは違って、特に何事もなかったし、そう報告した。

斬撃の魔女の件は、ツアー客には関係ないので報告はしなかった。


 ただ添乗員からは、


「魔法学校から苦情が来たよ。魔王の事に触れてくれるなって

桜井君、気を付けてくれよ。

会社としては、マギウス学園とは揉めたくないんだから」


旅行会社は、今回のツアーだけでなく、より魔法体験に特化したツアーやっていて、

学園と協力しているので、関係にひびは入れたくないのである。


「すいません」


と謝る修一。


 ここで別の添乗員は、


「でも変ね。魔王の事を聞かれて、苦情を言うなんて」

「確かに今回が初めてだ」


修一以前にも、観光客が魔王について質問する事はよくあったという。

その際には、あんな風に動揺する事もなかったし、

修一以上にしつこく聞く観光客もいたが、苦情が来ることもなかった。


「あの頃は、魔王が学園近くの現れる事で言う話だったからな」


と聞いて修一は、


「そうなんですか?」


と言う。これは修一も知らない事だった。


「二年位前まではね」


と添乗員が言った。


 それを聞いた修一は、秋人がいつくらいまでで学校に居たかは知らないが、

学校の周辺で目撃例があるのは

おそらく秋人が学園に通っていた影響と思われた。

そして同時に、学園周辺での目撃例がないのは、

秋人が、自主退学していた影響だと、修一は思った。

ここまでの事があって、やはり秋人の自主退学には魔王の鎧が、

関わっているんじゃないかと思った。


 さてツアーは明日が最後である。

とにかく、このまま何事もなくと思ったが、この後ひと騒動待っているのだった。

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