6「ツアー二日目」
宿泊施設は、ネスブール湖近くのホテルだった。
ホテルでは、殆どイベントはなく出された食事も普通なものだった。
そして修一は、他のツアー客に気付かれないように、添乗員たちの元に向かった。
今日一日の事を報告するためだ。もちろん未来電気街の事も話す。
「それは大変でしたね。ありがとうございます」
と添乗員の女性が言うので、
「いえ、相手が弱かったんで、そんなに大変じゃありませんでしたよ」
と修一は返す。実際、大したことのない連中だった。
そして別の、年配の男性の添乗員が、
「今回は皆さん、おとなしいと思ってましたが、喜多村様は要注意ですね」
このツアーで注意を聞かず、おかしな場所に行ったのは彼女だけだと言う。
「普段なら、一人や二人で済まないんですけどね」
多くのツアーで、喜多村のような事をする客は、複数人いるらしい。
ただ、危険な目に合うのは、一人か二人らしいが。
加えて好奇心で行っていけない場所に行くのは、かわいいもので、
過去には、もっとひどい客もいたらしい。
「とにかく、私たちも注意はしますが、
桜井君は喜多村さまと親しくなられているようなので、
引き続き、気を付けてもらえますか?」
「わかりました」
と修一は答える。
その後、明日の事についての話をした後、女性の添乗員が
「今日は、問題は少なかったですが、明日になるとお客様も慣れてきて、
問題行動が出てくるかもしれませんので気を付けましょう」
と言い、修一には、
「桜井君、明日も頼みましたよ」
と言われ、
「分かっていますよ。仕事はきちんとこなしますから」
と修一は答え、その場は解散となり、修一はホテルの自分の部屋に戻った。
そのまま、お風呂に入って持ってきていたパジャマに着替えた。
修一は、昔からホテルや旅館の浴衣で寝れないので、
いつもパジャマを持ってきている。
そしてすぐに就寝しようとしたのだが、外が騒がしくてベッドに入る前に、
窓に近づき、カーテンを開けて外を見た。部屋からはネスブール湖が見えたのだが、
首長竜の様なものは、湖面に姿を見せていた。
「ウォーティドラゴンか……」
前に学校をサボった時以来だった。
なお今回で二度目だが、基本年に一回しか現れないから、騒ぎになるのも頷ける。
まあ前に水中での直に見たこともあって、
湖面に現れた程度では、あまりワクワクすることは無く。
一応、観光客なので、持ってきたデジカメで撮影しつつ、
「寝よう……」
とベッドに入り、そのまま眠りにつく。
明日も何があるか分からないのだから、ゆっくり休養を取る必要があった。
翌朝、ホテルで朝食だったが、そこで喜多村と会い、
「桜井君!昨日の夜、ネッシーを見たよ!」
と興奮した様子で言って、スマホの画面を見せる。
そこには、湖面から姿を見せたウォーティドラゴンが映っていた。
以前も記したが、ここで言うネッシーはネス湖のUMAではなく、
ウォーティドラゴンの事。見た目と湖の名前のせいでそう呼ばれる。
「俺も見ましたよ」
と言ってデジカメを出して昨夜撮った画像をモニターに写す。
「桜井君もなんだ。まあ、外が騒がしかったしね」
と喜多村は言いつつも、
「今日はいいことあるよ」
と浮かれたように言うが、修一は冷めた目で、
(おかしな事をしてくれるなよ)
と思っていた。
本日の予定は、昨日が超科学の体験だったので、
今日は、魔法と言うかファンタジーを体験する。
まず天空城へと向かう。一応異世界から現れた城だが、
ツアー内容自体は単純な見学だった。
(まさに、海外の城って感じだな)
修一は、外から見たことはあっても、中に入るのは初めてだった。
ただ、あまり物珍しくは感じなかった。
まあ彼は、こういう場所には興味はないのである。
でも、変の思われたら悪いので、形だけ見て回る。
この時も、側に喜多村がいたが、
彼女は、ツアー客全員に配布されたパンフレットを興味深そうに見ながら、
「飛ばしてくれないかな……」
と言い出したので、
「えっ?」
と思わず声を上げる修一。
「だってパンフレットには、飛行能力は健在って書いてるからさ」
天空城は、移動要塞で空を飛んで移動するので、その名がつけられたというし、
パンフレットにはゲートから現れた際も、空を飛んでいて、
湖の一角に着水したと書かれている。
「なんかさあ、空飛ぶ城ってさあ、何だかロマンを感じない?」
「確かに……」
実際、修一も空飛ぶ城にはロマンを感じる。
加えて喜多村は、
「それに、天空城の巫女にもあってみたいしね」
「天空城の巫女?」
「この城を管理していた人たちの事だよ。パンフレットに書いているよ」
パンフレットを確認する修一、
そこにはこの城を管理していた巫女たちの事が載っていた。彼女たちの仕事は、
城の管理だけでなく、
「勇者のサポートもしていたんですね」
元々はそっちの方がメインで単純に巫女としか呼ばれなかったが、
天空城ができてからは、管理の仕事も追加され、
いつの間にか天空城の巫女の呼ばれるようになったという。そもそも天空城自体が、
魔王の城に対抗するための存在で、勇者を支援するためのもの。
故に巫女たちが、管理をすることになったという。
天空城の巫女の項目を呼んでいると
「んっ?」
「どうかした?」
と喜多村に聞かれ。
「いえ、何も……」
と返すも、気になる事があった。それは巫女の外観だ。
巫女は理由は定かではないが、みんな魔法で
髪色をアクアブルーにして、瞳の色を青くしていると書かれていた。
(委員長と同じだ)
単なる偶然かもしれないし、何かあるのかもしれないが、
この時はまだ分からなかった。
巫女の事はともかく、更に喜多村は、
「どうして、実戦に投入されなかったんだろ?」
と疑問を呈した。
パンフレットによれば、天空城が作られたのは、
魔王、正確には鎧の魔王との戦いが休戦状態の頃とある。
ここからは、修一が以前に図書室の本で読み知った事であるが。
勇者と魔王との戦いはどちらかが勝っても、痛み分けで終わり、
人間は剣を、魔族は鎧を回収し、次世代に引き継がれ、
世代を超えた戦いを続けていた。
ただ次の世代に受け継がれるまでの間は、争いは起きない。
つまり休戦状態になる。天空城は、その頃に作られたのだが、
それが過ぎて戦闘が再開されたものの、
どういう訳か、天空城は戦いに使われることはなかった。
「長年、使ってこなかったせいで、いざ使うとなって、
何か問題が発生したんじゃないですか?」
長年使ってない電化製品をいざ使おうとすると、
壊れていたと言うような感じだ。
「そうかもしれないけど、まだ何か秘密があるのかも……」
と言う喜多村だが、それ以上は、何も思いつかなかった。
その後、一通り城の中を巡る中、美術品が展示されている場所があったが、
そこには勇者の石像や絵があった。どれも鎧姿で描かれているので、
顔とかは分からない。ただ勇者の象徴が剣である故に、
どれも、剣を構える姿であった。
それを見ながら喜多村は、
「そう言えば、勇者がどうなったか知ってる?」
「本には、行方不明になったとしか……」
最後の勇者は、聖剣を持ったまま消息を絶ったとしか、記載されていない。
「私も、そう聞いている。加えて魔王も、それ以降は動向が分からないとか」
まるで勇者と魔王がそろって、行方不明になってしまったかのようだった。
「でも、少なくとも魔王は健在だよね。この街に、現れてるって話は聞いてるから」
「俺も、話だけは……」
実際は正体も含め詳しく知っているが、その事は言えない。
「行方不明なのは、この世界に来たからだとは思うけど、
聖剣を持ってるって事は、勇者が敗れたって事かな?」
どこか不安げに言うが、
「逆もあり得ますよ。勇者が魔王を倒して鎧を奪ったとか」
と答えるが、実際のところは不明だ。
現在の持ち主である秋人自身、分かってないのだから、
勇者と魔王に何があって、どういう経緯で秋人に鎧と剣が渡ったかは、
正直、謎である。
喜多村は、
「まぁ、本人に会えば、何かわかるかも、このツアーの間に会う機会はないかな」
「そんな機会は、絶対ないですよ」
突っ込みを入れると、
「冗談よ」
と言って彼女は笑った。そんな彼女に対して、
(本人に会っても、分からないんだけどな。あともう既に会ってるし)
と思う修一だった。
最後に、天空城には一か所、謎の部屋がある。隠し部屋で、
部屋の中には模様のついた黒い立方体が多くあって、
中央には石で出来た台があって、
そこにはファンタテーラの文字とも異なる謎の文字が書かれている。
最大の謎は、この部屋の使用目的が不明な事。
この部屋は城に何の影響も与えない。石碑も立方体も、ただの飾りと言う。
だから特に何もないので一般公開されている。
「ねぇ桜井君、手を貸して」
「あれをするんですね」
ここでは某有名アニメの真似をするのが、
観光客のお決まりとなっているとの事。
この後、城の見物を終えて、バスで移動する。
行先は、ナアザの町。そこが午後のメインとなる場所であった。
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