5「ロボット部隊の公開演習」

 商店街の後、今日行われるイベントを見に行くことなる。

このツアー自体、このイベントに合わせて日程を組んでいる。

それは、例の防衛省の特殊機動兵器隊の公開演習。場所は、沿岸部の埋め立て地。

会場に着くと、喜多川が、


「本物の空中戦艦だ」


と声を上げた。確かにロボットアニメに出てくるロボの母艦的な戦艦が、

空中に浮かんでいた。実際にあの戦艦は部隊の母艦でもある。


 ロボット部隊の正式名称は、防衛省、超常自衛隊、特殊機動兵器隊。

超常自衛隊と言うのは、ゲートから得られた魔法や超科学を運用する組織で、

陸海空三自衛隊と並ぶ新しい組織。公表こそされているものの、

一般的には認知度は低い。この時、修一の側にいた喜多川は知っていて、


「そう言えば、設立には、あの大十字久美が関わってるって話だよ。

何でも政治家から市民団体まで、反対する奴らを強引に抑え込んで、

設立に、こぎつけたんだって」

「都市伝説ですけどね」


と修一は言う。ただ設立に関しては謎が多く、

謎があると大十字久美が黒幕と言う話になるので、

まあ陰謀論の一種といけるものだ。


 さてこの公開演習だが、

自衛隊員がきて警備を行っているので物々しい所があるが、

出店等も出ていて、祭りのような形相を見せていた。

演習を見に集まってくるのは、他の旅行会社のツアー客の他、

オタクっぽい人たちが多くいる。中にはアイドルの親衛隊らしき人の他、

マスコミも駆けつけていた。その理由は演習が始まるとすぐにわかる事。


 そして演習開始のアナウンスが流れた。


「これより演習を開始します。まずは機体の紹介です」


そうすると、空中戦艦から次々にロボが出撃する。さて自衛隊所属なのだから、

ミリタリー色の強そうなリアルロボットを思い浮かべる人も多いだろうが、

降りてきたのは、バラエティー豊かなスーパーロボットたちだった。

まあ中にはリアルロボット系の機体もあったが

それを含めても正にアニメの世界から飛び出してきたかのようなロボ軍団だった。

しかし、よく言えばバラエティー豊かだが、

悪く言えば統一感がない寄せ集め軍団であった。


 それでも登場するとオタクを中心に歓声が上がり、喜多村も目を輝かせる。

修一もオタクなので、歓声こそ上げてないが、内心興奮している。

そして演習内容は、ロボ同士や張りぼてを敵に見立ての模擬戦をしたり、

武器を公開したりとするが、ただ軍事演習と言うよりも、

客を集めたショーの様な感じで、何かするたびに観客から、

歓声が上がっていた。


 いや実際にショーの側面が強かった。


(確か、予算確保のためのショーなんだよな)


事前に話を聞いていた修一は、そんな事を思った。

巨大なロボットを維持するわけだから、金がかかる。

その為に機体を見世物にして人を集め、そしてグッズを売って金を得るらしい。

出店は、パンフレットの他、そう言うグッズ類を売る場所でもあった。


 さてグッズ類の内訳は、所属するロボの完成済みフィギュアや、

プラモデルに、その姿が描かれたタオルやコップや缶バッジ、

また単純なプロマイドなどもあった。中にはパイロットのサイン入りのものある。

更には隊員が描いたとされる同人誌まで売っていて、

それらに混ざって、なぜかハゼの干物。それを見た修一は、


(昔のアニメみたいに、密漁して、こっそり製造してるんじゃないだろうな)


そんなことを思ったが真偽は不明である。

ただ買ってみて、食べると癖はあるものの、美味であった。


 さて演習の方は、小型で妙にかわいくて、

魔法少女ぽさがある女性型ロボと、同じく女性型だが大柄で、

何処かセクシーなロボとの模擬線が行われていた。

魔法少女ロボは、攻撃がハートマークの光弾、ピンク色の光線を

撃ったりするほかにその動きも、

時折、可愛らしさを強調するような決めポーズを取ったり、

普段の動きも、まるでアイドルのダンスを思わせていて、

とにかく可愛さ満載で、さっきほどアイドルの親衛隊風の連中が、

応援していた。

 

 なおセクシーロボの方は、

実弾兵器や光学兵器などを使うがそれら自体は、ごく普通だし、

通常の動きも普通と言っても良かったが、

ただ攻撃時は、こっちはセクシーな動きをする。

魔法少女は、時折、ポーズを取る形であったが、こっちは攻撃のたびに、

セクシーなポーズを取り、攻撃と同時に色気を振りまいているように見えた。

こっちも熱狂的に応援している人がいる。


 この二体の模擬線を見ながら修一は、

出店でハゼの干物と一緒に買ったパンフレットに目を通しつつ、


(あの二機は、どういう経緯で作られたんだ?)


パンフレットにがロボの情報は載っているが開発の経緯は載っていない。

さらに目を通す修一。


(聞いてはいたが、まじで寄せ集めなんだな)


パンフレットには、結成の経緯が載っていた。


 それによると、相次ぐ、巨大生物や巨大ロボを使ったテロ行為に対抗すべく、

結成が決まったものの、戦力となる機体の開発は時間がかかるので、

そこで、過去にゲートから現れて回収していたものや、

何だかの理由で、行政が差し押さえた物を利用しているのだと言う。


 だから魔法少女ロボも、セクシーロボもこの部隊の為に開発されたものではなく、

前者はゲートから出現したの回収したものであり、

後者は、ゲートからもたらされた技術を元に民間で作っていたものを、

税金滞納で差し押さえたものらしい、


 それと寄せ集めなのはロボだけじゃなくて、

パイロットも同じで、自衛官もいるらしいが、

多くが民間からの募集した人材との事。

原因はロボが一般的な操縦技術だけじゃなく、

相性とかそれ以外の技能を重視してしまう為で、

その結果、訳ありの人が集まる結果となったという。


(自分たちが作ったものじゃないから、都合よく行かない部分もあるって事だな)


そんな事を思いつつも演習を見る。


 模擬戦は、魔法少女ロボの勝利で終わると、親衛隊風の人々が、

歓声を上げる。パイロットの可愛らしい女性が姿を見せて、


「みんな!応援ありがとう!」


と声を上げと、更に歓声が大きくなった。その女性を見て、


「本当にあのアイドルだったなんて」


魔法少女ロボのパイロットは、修一も知っている。

最近引退したばかりの元アイドルだ。

なお落ち目なったわけじゃなく、絶頂期での電撃引退なので、

謎が多いが、それはさて置いて、親衛隊風の人々も現役時代からのファンで、

マスコミも芸能記者の様だった。すで引退しているのに、その人気の高さを物語る。


 なおパンフレットには、彼女は登用は、応募があったからだが、

決して話題作りではなく、

魔法少女ロボが、歌唱力とダンスの腕が戦闘力に反映されるから、

事実、元アイドルだけあってどちらも高いのは有名な話で、説得力はある。

なお今回は模擬戦だったから使わなかったが、強力な武装を使う時は歌うらしい。


(実際に、ご活躍なのは知ってるけど……)


客寄せパンダである事は、否めなかった。


 そして模擬戦が終わったくらいで、横にいた喜多村が、


「それにしても、ロボの寄せ集めがいい感じね。

なんか夢の共演って感じでさぁ」


人員の寄せ集め、民間からのロボットパイロットというのが、

実にアニメ的だが、系統があからさまに異なるロボの集まりは、

クロスオーバー作品のような感じがして、それが人々の興味をそそるようだった。


 模擬戦は終わったが、まだ演習は終わらず。


「最後に新型機のお披露目をします。既に出撃経験があるので、

初披露ではないのですが」


とアナウンスが流れ、直後、戦艦から漆黒のロボが降り立つ。


「なんだか、悪役ロボみたい」


と喜多川が言った。確かにデザインがおどろおどろしく、

背中には漆黒の羽があり、悪魔のようにも見える。


(ダークヒーローって感じで、これはこれでかっこいいな)


それが修一の感想。


 そして、ロボが姿を見せると、アナウンスが流れる。


「これが、新型機ウィザードです。超科学と魔法の粋を集めた最強のロボです。

そのパイロットは、わが隊唯一の男性隊員です」


これは、以前修一も聞いたことがある話で、偶然だがロボット部隊は、

整備班に至るまで、女性しかいない女の園だという。


「そして弱冠14歳で、兄の死を乗り切り……」


と言いかけた所で、ロボットの方から、


「ストップ!ストップ!それ以上はダメ、個人情報!」


と言うパイロットと思われる少年の声がした。


 声を聞いたとき修一は、


(もしかして彼が、部長の言ってた夏樹って人の弟……)


と修一は声の主に思い当たる節があった。

ちなみに、夏樹と言う人物は鋼のスケバンこと、

現視研の部長の知り合いで、先に彼女が入院した時に、

亡くなったという。ただ会う時はパワードスーツを着ていなかったので、

彼女が鋼のスケバンであることは最後まで知らなかったらしい。


 その夏樹の弟がロボット部隊に入ったという話を、部長から聞いていた。

故に修一はウィザードのパイロット人物だと思ったのである。

実際にその通りだった。そして演習は、


「今回は、演習用の調整が間に合わなかったんで、お披露目のみとなりますので」


このお披露目を持って、演習は終了となった。


 演習終了のアナウンスの後、喜多村は


「14歳のパイロットって、ロボットアニメみたいよね」


と目を輝かせながら言う


「そうですね」


と修一は返すが、


「でも、学校とかはどうしてるんだろう?」


と言われて、修一は無意識に


「学業優先……」


と言いかけたハッとなり、


「……じゃないですか?それに出撃だって、毎日あるわけじゃないですし」


と返した。部長の話から学業優先は知っていたのだが、

知っていたら妙に思われるので推測の体を取った。


「確かに、それが当然の話よね」


と喜多川が言う。


 この後、出発の時間まで出店を周ったりして過ごし、

そしてバスに乗った後じゃ、本日の宿泊のホテルに向かう。

これで今日の日程は終わり、修一は一息ついた。


(今日は未来電気街の一件だけで済んだが、明日はどうなる事やら、

まあ仕事をやり遂げるだけだが……)


それでもトラブルは起きてほしくないので、

何もなく、このツアーが終わる事を願うのだった。

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