4「路地裏にて」
自由行動の前に、ガイドから、
「電気街の路地裏には、危ない人のたまり場となっていますので、行かないように」
と注意は受けていたが、喜多村には、抑えられないものがあり、
彼女は路地裏に向かっていた。
(ネットによると路地裏には、表じゃ見られないアングラな物が売っている……)
その情報が、彼女の好奇心をくすぐった。
S市の情報は、基本的にはネットにはあまり乗っていない。
そこには、大十字久美なる人間の暗躍が噂されるが、
あくまでも噂レベル。しかし情報を完全に遮断しているかと言うと、
そうではなく、一部のインターネット掲示板に、
真偽不明な形であるが情報は乗っている。そこが、彼女の情報源であった。
しかし実際に来てみて、覗き込んでみると、怪しげな雰囲気が漂っていて、
それが真実であると確信し、中へと入った。
(このヤバい感じがいいわね……)
路地裏にある店は、どこも商品がごちゃごちゃに陳列していて、
あまり綺麗なものではないし売っているものも、
素人目では、何の部品か分からないが、中には明らかに武器のような物も、
置いてある。また店舗だけでなく露天商もいて、
年配の男が、シートの上に訳の分からない機械を並べている。
店よりも、こっちの方が気になった彼女は、立ち止まった。
商品は値札があって値段が分かるだけで、後は分からないので、
「これなんですか?」
と喜多村は質問したが、男は黙ったままで答えようともしなかった。
何度聞いても答えてくれないので、彼女は別の場所に向かう。
そんな彼女をヤバそうな男たちがいやらしい目で見ている事に、
彼女は気づいていない。
次に向かったのは、やはり露天商だったが、
(フロッピーディスクだ。珍しい)
ここの露天商も男であったが、さっきの露天商よりは若く饒舌で、
「お姉ちゃん、いらっしゃい。面白いゲームが揃ってるよ」
と言うので、ゲームを売っているようで、どれも安価で手が出せる代物だったが、
「気になるけどディスクドライブが……」
彼女はパソコンは持っているが、フロッピードライブは付いていない。
この時代、標準装備のパソコンは皆無に等しかった。
「それだったら、表通りのパソコンショップで買うといい、
外付けディスクドライブは安く手に入るし、標準装備のパソコンも売ってる」
なおそのパソコンは旧式パソコンではなく、
この街でしか売っていない超高性能パソコンである。
その割にはフロッピードライブがついている。
ただ彼女はフロッピーディスクについて知っていて、当然その容量も知っている。
フロッピーディスク一枚のゲームなんて、たかが知れている。
露天商は、そんな彼女の心を読んだように、
「フロッピーディスク一枚のゲームなんて、たかが知れているって思ってるだろ?」
「!」
「みんなそう思うんだ。でも実際にプレイしたら満足間違いなしだぜ。
なんせ、異世界のゲームだ。六万の価値はあるな」
その価値はどこから算出したものかは分からない。
「でも六百円で売ってやる」
「六万が、六百円って」
「元手はタダだからな。ゲートから落ちてきたゲームをコピーした奴だ」
「海賊版って事ですか……」
「まあ、文句言う奴はいないだろ」
権利者は異世界に居るのだから、文句を言いようがない。
「で、内容は」
ソフトはラベルにマジックでタイトルは書いているが、
内容までは分からない。
「それはプレイしてのお楽しみだ」
と答えるだけで、教えてくれない。
彼女は興味はそそられたが、ただ彼女はゲームに関しては、
ギャンブルはしない性分だ。中身を知れなきゃ買いたくはなかったので、
「今回は遠慮しておくわ」
と言って露天商の元を離れ、その露天商はがっかりしているみたいだった。
そして少しの間、路地裏をうろついていると、
「おい、姉ちゃん」
とさっき彼女を見ていた男が数人やってきて、
「なぁ、俺等と一緒に遊ばねぇぁ?」
と言ってきたので彼女は、
「ごめんなさい。お断りします」
と言ったが、男たちは聞く耳持たずで、
「そんなこと言うなよ。」
と言って、男の一人が彼女の腕をつかんだ。
「やめてください!」
「俺たちが楽しませたやるからよ」
と強引に連れて行こうとした。
ここで、
「何やってるんだ。お前ら」
「なんだお前」
ここにやって来たのは修一であったが、
「黒騎士……」
そう修一は黒騎士の鎧を着ていた。もちろん正体を隠すためだ。
まあ鎧の名前を知らなくともその見た目は、
黒騎士と呼んでしまっておかしくはない。
そしてやって来た修一は、
「話してやれ、嫌がってるだろ」
と言うと男は、
「うるせぇな!そんな鎧着てるからって怖くねえぞ!」
ここで修一の、負けず嫌いと言う病気が出て来る。
「こっちだって、怖くねぇよ。つーかイキがってるんじゃねえよ。チンチラが!」
と言い返した。
「生意気、言いやがって、やっちまえ」
と手下の男に命令した。すると男は修一の方に手をかざす。
すると衝撃波の様なものが修一を襲った。
(サイコキネシスか……)
最初こそ、たじろいだが、すぐに持ち直し、向かっていく。
「ひぃ!」
修一の鎧は見た目だけならかなり厳ついので、
近づいてくると結構怖く、手下はビビりだったようで、
引き下がってしまった。
「お前、何やってるんだよ」
と叱責されるが、逃げなければ確実に一発喰らってたので、
手下は運がよかったとしか言いようがない。
ただ手下の情けない姿を見て、頭が冷えた修一は、
状況から、どうするか考える。場所が場所なのと、
人間相手なので、バーストブレイズは使えないし、
連中は何だかの能力は使うとは思うが、
(素手相手にメタモルブレードは不味いか)
脅しとはいえ、かつて不良連中やブローカー連中相手に、
高周波ブレードを突き立てていたこともある修一。
まあブローカー連中はナイフを手にしていたし、今回は、妙に遠慮していた。
しかし、状況を長引かせるわけにもいかないので、
早期決着を図るしかない。
(そうだ、アレを使うか……)
手に入れたものの、使っていない力を使った。
「ギャア!」
とリーダ格の男が声を上げた。
その時、マスク姿で赤いぴっちりとしたボディースーツを着た、
大柄でムキムキの女性。修一のジェミニがそこに居た。久々に使用する能力だが、
何故使用していなかったかと言うと、単純に忘れていたから。
そしてジェミニは、男の腕を強い力でつかんでいた。
「こいつ、ジェミニか……」
基本的に一目でジェミニとわかる者はいないが、
触れる事で、分かる人間が稀にいる。更には、
「お前のだな!」
と誰のかもわかるようだった。
更に、ここでジェミニが力を入れると、
「グッ!」
痛みで、喜多村の腕を離してしまう。
「しまった!」
修一は、
「早く逃げろ!」
喜多村は、言葉に従う様に、その場を後にする。
この状況にリーダー格は
「あっ!」
と声を上げつつも、修一の方を睨みつけ、
「てめぇ……」
と修一に襲い掛かり、引き下がった手下以外の全員が襲い掛かる。
チンピラたちは、超能力はあまり強くは無く、
実は引き下がった手下が一番強かったりする。そして魔法も使えない。
だが、それを凌駕する腕っぷしだけはある。
超能力が強いにもかかわらず、下っ端になってる奴がいる事が、
それを物語る。
状況は、多数のチンピラに対し、修一とジェミニを含めても二人。
敵は素手だが、修一も魔法や武器が使いづらいとあって、
素手だし、ジェミニも素手だ。一見多勢に無勢のようだが、
修一の体術もかなりのもので、まあそれは魔法や超能力同様に、
空白の一日を経て、手に入れたもの。
そして、それはチンピラの腕っぷしを遥かに、凌駕する。
加えてジェミニは本体、すなわち修一の力が反映される。
故に同じだけの腕っぷしがあるので、
結果として、襲い掛かって来たチンピラたちはあっという間に、
全滅し、
「覚えてろよ!」
と言う、ありきたりな捨て台詞を残し、連中は逃げていった。
そして残された修一は、ジェミニを引っ込めると、
「ありがとうございます」
と喜多村が声をかけてきた。実は彼女は逃げたふりをして隠れていたのだった。
「立ち去れと言っただろ……」
「そうしたかったんですけど……」
己の好奇心を抑えられなかったのである。
「それにしても凄かったですね。ジェミニでしたっけ」
彼女はこの街に来る前に、文献で超能力の知識は身に着けている。
特にジェミニは、彼女の好きな漫画に出てくる能力に似ているので、
気に入っていて、実物を見た興奮で、目が輝いていた。
そんな彼女に、修一は、
「早く、ここから立ち去れ、ここにはさっきの連中と同じような奴らが
多いんだから」
というと、彼女は残念そうに、
「分かりました……」
と言いつつも、
「最後に、お名前だけでも……」
と言うが修一は、
「通りすがりの冒険者だ。名乗る者じゃない」
と答えた。すると彼女は、
「それじゃあ、黒騎士さんって呼ばせてもらっていいですか?」
「勝手にしろ……」
と言うと、
「では黒騎士さん、改めてありがとうございました!」
そう言うと喜多村は、去っていた。
残された修一は、
(俺も鎧を脱いで、戻らないと……)
と思っていると、背後から、
「頑張ってるわね」
という声、振り返ると蒼穹がいた。
「付いていてたのか……」
「そりゃ、アンタが急に走り出したから、気になったのよ」
と言いつつも、
「それにしても中々のご活躍じゃない。でもね……」
蒼穹は、さっき笑われた復讐と言わんばかりに、イヤミったらしい口調で、
「その活躍は、アンタの力じゃないって事。忘れないようにね」
と指さしながら言った。すると修一は、
「そんな事は、わかってる……」
と低い声で言って、
「俺も、戻らないと……」
と言った後、修一はその場を後にした。
その後、途中で鎧を脱ぎ、元の姿に戻った後、表通りに戻る。すると
「あれ、どうしたの桜井君、暗い顔をして」
と先に戻っていた喜多川に声をかけたが、
「何でもないですよ……」
と答えるしかなかった。
少しして、自由時間は終わり二人含めたツアー客は、別の場所に向かうのだった。
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