3「超科学の体験」
魔法街に次は、昼食である。昼食は、超科学の体験と言う事で、
超科学関係の食事で、とある食堂を借り切って、行われるのだが、
そこでは、トレイに入った五色のペースト状の物が、配られた。
事前に、どんなものが出るかは聞いていたが、改めて見て、
(ディストピア飯だな)
と修一はそんな事を思った。
そうSF作品のディストピア的な作品で描かれる食事で、
栄養分は十分だが、軽少淡泊で、正直言って味気ない代物。
超科学系、すなわちテクノスガイアと呼ばれる世界から来た食事は、
こういう感じで、食事と言うよりも、錠剤やドリンクに近い。
(あごの筋肉を鍛える薬が入ってるんだよな)
その手のものは、食事をよく噛んで食べたくらいに顎を鍛える性質があるので、
テクノスガイアから来た人間はそんな食事ばかり食べていても、
顎は決して衰えていない。
ただ今回出された食事は只のディストピア飯ではない。
食事の配膳が終わると、食堂の職員が、
「変換の方は、こちらに来てください」
と呼びかけたので、修一を含めた何人かのツアー客は、
食事の入ったトレイをもって、そこに向かい並ぶ。
そこには電子レンジの様な機械が置かれていて、
「何に変換しますか?」
と職員が聞いて来るので、食べたい食事を言うと、
それに合わせた食器にペースト状のものを、トレイから移したのち、
装置の中に入れる。なお扉は透明なので中の様子がよく見える。
そして職員がタッチパネルの様なものを操作すると、
中にあるペースト状のものは、別の物。リクエストした食事に変化した。
「これがチェンジフードです」
と職員が説明する。それは様々な姿に変化する食べ物で、
何でもと言うわけではなく、チェンジフード自体も幾つか種類があり、
肉料理にしかならないもの、野菜にしかならないもの、飲み物にしかならないもの、
と別れている。違いはペーストの色で区別される。
ただ変化した料理は、見た目、味、食感、のど越しまでがそっくりな別物であり、
中の成分も全く異なる。ただ完全栄養食なので、栄養の偏りはない。
なお修一は、パンにステーキにローストチキン、ポークチョップに、
野菜サラダに変換してもらった。テーブルに戻ってくると、
横に座っていた喜多村は、
「ずいぶん豪勢だね」
と言うので、修一は、
「そっちこそ、そのままでいいんですか」
チェンジフードは、そのままでも食べられる。
「これはこれで、美味しいと聞くよ。
それにお腹に入ってしまえば一緒だって話だし」
「そうですか……」
と修一は答える。
食事となり、修一が、パンを一口食べると、
「まあ、美味しい……」
味自体は、スーパーとかで売っている普通のパンだ。
ステーキも焼き具合は良いけど、ものすごく美味しいと言うわけではなく、
なんというか、普通としか形容できなかった。
それに、結構な量の食事だが、その割には腹が苦しくなるようなことは無い。
それは、胃に入ると本来のペーストに戻ってしまうからだ。
チェンジフードはテクノスガイアにおいては、
見た目や食感で食事を楽しむためのものであるが、
味に関しては、この世界で改良はされたが、何処まで行っても普通どまりなもの。
それにいくら似せていると言っても、食通が食べると偽物であることがわかるらしい。
この街での普及率に対しては、変化させるために専用に機械が、
いるのと、味がどこまで行っても普通どまりな事もあって、
普及率はそこまで高くない。
ただその性質故にアレルギー対策、
例えばチェンジフードを変化した親子丼は見た目と味、
食感が似ているだけ別物だから、
卵アレルギーの人が食べても、アレルギーは起こさない。
あと見た目は変わってもカロリーとかは変わらないから、ダイエットにも有効。
あと超科学系の食事で、おやつ系を除いて、
おもてなしに唯一適しているものなので、こういうツアーでは定番だと、
旅行会社の人と修一は打ち合わせの際に聞いた。
そして修一の横で、喜多村はペースト状のチェンジフードをパクパクと食べる。
「なかなかおいしいよ」
ディストピア飯には、結構愛好家がいるみたいで、
彼女を含め、あえて変換しない人も多いという。
食事を食い終えて、今回、修一は初めてチェンジフードを食べたのだが、
(食べた量と、腹の膨れ具合が違うと、違和感が凄いな)
と言うのが彼の感想だったが、横にいた喜多村は妙に満足気で、
「美味しかった」
と言った後、
「ごちそうさま」
と手を合わせて言った。
昼食後はバスで移動し、未来電気街の近くにある施設へと向かった。
そこは超科学体験所と言って、様々なオーバーテクノロジーを体験できる。
当然ながらシミュレーターも置いてあるし、
アキラが興味を示していた空飛ぶスケボー、スカイティグボードの体験もできた。
(そう言えばアキラの奴、冒険者の稼ぎで買って、乗りこなしてたな)
そんな事をふと思っていた。
他にも、この街でもまだ一部の施設でしか実用化されていない物質電送機の、
体験と言うのもあって、案内役の男性職員が
「転送時には分解後、再構成の際に、キチンと分類しますので、
もしハエが入り込んでいても、混ざることはございません」
と言っているのだが、何故か機械を操作している奴は、
白衣を着たハエ人間だった。メイクや着ぐるみではなく、
変身能力者の変身体と思われる。
これは一種の演出なんだろうが、
(昔のSF映画にかけてるんだろうが、ちょっと笑えない……)
と少し引いてしまう修一。他のツアー客も半数は引いてるみたいだが、
残り半数は大ウケ。その中に喜多村もいて、
「ハエ人間がいるんじゃ、説得力ないって~」
と言って笑っていた。そして体験は、喜多村をはじめ、
ウケていた連中が最初で、それを見て安心したのか、引いてた人たちも、
体験をはじめて、修一は、
(お客さんを優先させよう)
ツアー客のふりはしているが、旅行会社側なので、
一番最後に体験することにした。
修一の行動は、功を奏した。なぜなら最後に修一が、機械に入った時、
何故かエラーが発生したからだ。
「変ですね……」
案内役の職員は首を傾げ
ハエ人間の職員は、そのままだと作業がしづらいのか、
元の人間の姿に戻って機械を操作する。
ちなみに元の姿は、女性で中々の美人だったから、
一部のツアー客に妙にウケていたが、
それはさておき、原因不明との事で、男性職員は、
「すいませんが、電送機の体験はここまでと言う事で」
「別にいいですけど……」
と答えるが、もし自分が途中で体験しようとしたら、
その場でエラーが、起きて中断になって、
後の人が体験できなくなる可能性があったから、
(一番最後でよかった)
と思い安堵するのであった。なお喜多村からは、
「残念だったね」
と言われたが、
「大丈夫ですよ。そんなに気にしてませんから」
と返しておいた。気にしてないのは事実であるし、
転移自体、修一は経験があるから、
特別に体験したいわけじゃなかったと言うのもある。
なお失敗の原因は、その後もわからず、職員を困らせる事となった。
それはさておき、その後もツアー客は、特にトラブルもなく、
いろんな超科学を体験して、大満足だったようで、
電送機のトラブルはあったものの、それ自体もあまり影響がなかった事もあり、
ツアーとしては、成功の範疇だった。
そして次は、歩きで未来電気街に移動し、そこで短めであるが、
自由時間となった。魔法街とは対照的なSF的な場所を前に、
ツアー客は興味津々と言ったところで、
ジェットパックの使用体験や、パワードスーツなど、試着など、
同様の体験は先の体験所でも行っていたが、改めて体験する人もいた、
そして魔法街でもそうだったが、ここでもツアー客がおかしな場所に行かないか、
修一や、添乗員たちは注意していた。
特に修一は魔法街での秋人からの助言を受けて、
他のツアー客も注意していたが、特に喜多村の行動に注意していた。
そんな最中、
「パソコンショップは、こちらですよ」
と観光客を案内する蒼穹を見かけた。
ちなみにこの商店街での変えるもので、街の外に持ち出せるのは限られている。
オーバーテクノロジーであるから当然の事と言える
各店舗それを理解していて、使用体験や試着させているものは、
観光客が買って帰っても問題ないものが選ばれている。
ただパソコンに関しては、性能が良くて安価と言うだけで、
持ち出されたところで、大したことは無いという判断なので、
パソコンの購入を目的とした観光客も多い。
それはさておき、蒼穹の案内が案内を終えると、観光客から、
「写真いいですよね?」
「はい……」
「ポーズお願いします」
と言われ蒼穹はポーズを取り、写真を撮られる。
「ありがとうございます」
と言って、観光客が店に入ると、
修一が我慢できなくなって、思わず吹き出してしまった。
彼女の格好が、サマーセーター姿で、以前のコスプレデートと同じ格好。
ポーズも元ネタのキャラのものである。
思った通りの格好な上、ポーズまで取ったとなると我慢ができなくなった。
その事で、蒼穹が修一に気づいたようだった。
(やば……!)
彼女は事情を知らないので、ひと悶着は避けたかったので、
背を向けて、やり過ごそうとしたのだが、
「ちょっと待て!桜井修一!」
と声をかけられてしまい、振り向かざるを得なかった。
振り返ると、蒼穹は怖い顔をしていて、
「やっぱり、桜井修一ね。アンタ今笑ったでしょう……」
「いや……あの……その……」
怒った顔が、ますます元ネタっぽいので、
修一は笑うのを必死に堪えて言葉が出ない。
「アンタねぇ……」
ここで揉めてはいけないのは、彼女も同じこと、ボランティアの途中だからだ。
だから蒼穹の方は怒りを抑えて、
「つーか、なんでアンタ、リュックサックなんて背負って、
ツアー客みたいな恰好……」
と言いかけて、
「アンタ、まさか護衛?」
修一が参加しているとは知らなかったものの、
募集の事は知っているので、もしかしたらと思ったのである。
蒼穹が護衛と言ったのでハッとなって、喜多村の事を探した。
そして彼女の事を見つけたものの、ある事に気づき
「あっ!」
と声を上げたのに、
「悪い、ちょっと用事ができた!」
と言って修一は走り出した。
それは喜多村が路地裏に入っていくところを見たからであった。
(確か、路地裏はヤバ気な連中がいるんだったな)
それは旅行会社の人、それ以前に秋人から聞いたことであった。
このままだと、彼女が危ない。そう思い、修一は急ぐのだった。
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