2「世界遺産の神社と魔法街」

 この街の観光ツアーは、浅めであるが、街の全体を周る初心者向けのものと、

場所を限定し、より深く穴場とかも周る上級者向けの二種類に分けられる。

このツアーは前者の初心者向けの方で、

形としては一日目は、市街をメインにし、超科学系の場所を周る。

二日目は、郊外をメインにナアザの町に行き、

異世界系を楽しむ内容になっているが、きっちり分けてるわけじゃない模様。

 

 まず午前中は世界遺産の神社に向かい、そこから歩いて近くにある魔法街に行き、

短いが自由行動となる。移動中、バスガイドが、


「分からない事があったら、私たちの他

、街にはボランティアのガイドもいますので、

そちらにも聞いてください。今年は皆さんコスプレしていますよ」


蒼穹達が参加しているガイドのボランティア。修一も話は聞いていた。

ただどんなコスプレをしているかは知らないが、

蒼穹は、なんとなく想像がつき思わず、笑いそうになった。


「どうしたの?」


と喜多村に聞かれたので、


「いや、なんでも……」


と適当に誤魔化す。


 そうこうしている内に、神社に来た。広く歴史のある神社で、

世界遺産にも指定されていて、ゲートの影響も受けていない場所。

ツアー客以外にも観光客がいる。

そしてアニメのキャラのコスプレをしたガイドのボランティアもいたが、

「ガイド」と書かれた腕章をつけてる。


(そういや、地元民に普段から似たような恰好をしてる人いたな)


そう言う人がいるから、区別してもらうために付けていると思われる。


 さて境内に入って、軽く自由行動。

お守りを買う客、御朱印をもらう者、おみくじを引く者、参拝する者。

記念撮影する人もいるが、この後に残していくためか、少ない。


 修一は、観光客の振りをしなきゃいけないんで、神社の中を見て回りつつも、

護衛でもあるので、ツアー客の動向も確認する。

ここでは、何か起こる事はなさそうなので、あまりにする必要はなさそうだった。


 しかし神社に来たからには、参拝をしなきゃという気分になるので、

手水舎にて右手で柄杓を持ち、たっぷりと水を汲んで左手を清める。

柄杓を左手に持ちかえて、同様に右手を清める。

再び柄杓を右手で持って、左手で水を受け、口を漱ぎ、

その後、左手を清める。最後に柄杓の柄を水で洗い清めて、元の場所に置く。


 手水を終えると、賽銭箱にお賽銭を投げて、鈴を鳴らした後、

二礼二拍手一礼。その様子を見ていた喜多村が、


「ずいぶん本格的だね。私なんか全然わからなくて」

「こういう所の作法って、つい拘っちゃうんですよ」


と答える修一。これは誤魔化しとかじゃなく、本当の話である。


 そして添乗員が、


「移動しますよ」


と呼びかけられたので、ツアー客は移動を開始する。


「魔法街ですね」


とどこか楽しそうな喜多村。ただ修一は、


(また魔獣が出ないだろうな……)


初めて魔法街に行った時の事を思い出し、不安を感じた。

まあ、あのような事はしょっちゅうある事でもない。


 あれからあまり経っていなっからか、魔法街は変化はなく、

相変わらずヨーロッパ風の街並みが拾っていて、

魔法関係の商品を扱う店が並ぶ。ここでも短い時間だが自由行動である。


「魔法街って、名前の通り、魔法とかの店が並んでるんだね」


と目を輝かせながら言う喜多村。


「まあ、そうですね……」


と修一は答える。


「見るからに魔法使いって人もいるし……」


魔法使いに限らず、ファンタジー的な格好が人々が多い。


「でも、たこ焼きや、おにぎりみたいなものを食べているのが気になるけど」


と言う喜多村に対して、


(まあ、この辺の一番の名物はたこ焼きと、めはりずしだからな)


と思う修一だった。


 ここで、


「あっ」


と言う声がした。声の方を向くとそこに他のは秋人だった。

異界に行くときローブを着て杖を手にしていて、

肩には「ガイド」と言う腕章。修一や秋人自身としては、

コスプレにならないのだろうが、街の外から来る観光客には十分コスプレに思える


 なお冒険者として活動している秋人は、観光ツアーの護衛の事は知っているが、

彼は募集が出る前に、ガイドのボランティアが決まっていたので、

参加はしなかった。


 そして喜多村は、


「お知り合い?」


と聞いてきたので、秋人は軽くしまったと言う感じの顔をした。

修一からバイトの事を聞いていたので、修一を見かけても、

あまり声をかけないでおこうと思っていたからだ。

そして修一は、喜多村に、


「同級生です。最近、知り合ったばかりですけど……」


と冷静に答える。


「そうなの……」


と言ってそれ以上深くは聞いてこなかったので、

秋人は安堵したような様子を見せた。それを見て、


(そんなに気を使わなくても良いんだけどな……)


と申し訳なく思う修一だった。


 一応、秋人はガイドなので、喜多村は、


「ところで、君はガイドだよね?この魔法街で、

お薦めの店はあるかな?ガイドブックにはちゃんと載ってなくて」


と聞いたので、


「そうですね……」


秋人は、いくつかの店を紹介した。

それらは、魔法を使ったお菓子を売る店や、

同じく魔法を使って作った民芸品の店の他、

素人でも扱える玩具程度のマジックアイテムを売っている店など、

観光客に勧められる無難な店を紹介した。


 すると喜多村は、


「もっと専門的な店は無いかな?」

「専門的?」

「例えば、魔法の杖とか魔導書とか売っているようなさ」


それを聞くと秋人は、あからさまに困った顔をした。

そう言う場所は、素人である観光客にお勧めできる店ではなく、


「そう言う店は素人方は、商品を売らないどころか、

店にも入れてくれませんよ」


喜多村は、ますます目を輝かせて、


「本格的なんだね」


と言いつつも、


「大丈夫、外から見るだけだから、ねぇ、教えてよぅ~」


とおねだりするように言う。秋人は悩まし気にしながらも、

店の場所を教えた。


「ありがとうね~」


と言いながら喜多村は、意気揚々と速足で去って行く。


 その様子を見ていた修一だが、ここで、


「修一君、あの人は気を付けた方がいいよ……」


と秋人が耳打ちする。


「どういう事だ?」


と返すと、


「これは、僕の経験からだけど、あの人、かなり好奇心が旺盛のようだから、

勝手な行動して、トラブルに巻き込まれるタイプだよ」


秋人は、小学生の事からガイドのボランティアをしているから、

その経験則は確かな所がある。

とにかく護衛として気を付けなければならない人物のようだった。


 修一は、自分の病気の事もあるから、


(人の事は言えないな)


と思いつつも、


「分かった」


と答えた。すると秋人は、


「取り敢えず、頑張ってね」


と言い去って行く。そして修一は、秋人の助言もあって喜多村を追うのだった。


 追うと言っても秋人と別れた時点で、まだ視界にいたので、

すぐに追いついた。なお秋人が教えた場所は、

特殊な場所と言う感じはせず、魔法街の他の店と取り立てて変わりはない。

人気がないという事もなく、ファンタジックな所はあるが、

普通な場所である。喜多村は、そのから見ると言いながらも、

その内の一軒に入ってしまった。まあ、すぐに出てきたが、


「冷やかしは出て行ってだってさ」


ちなみに、やんわりとした口調だったらしい。


「外から見るだけじゃなかったんですか?」

「そのつもりだったんだけど、我慢できなくて……」


それを聞いて、


(秋人の言うとおりだな……)


彼女には要注意だと思った。


 このままだと、ひと悶着起きそうな気がしたので、


「戻りましょう」


と修一が促すと、喜多村は、


「わかった……」


と言いつつも、


「でもちょっと外から見るだけ……」


と言い出したので、


「見るだけですよ。中に入って揉めるような事になったら、不味いですからね」

「分かってる。分かってる」


そう言うが、修一はジト目で彼女を見ていて、


(まあ、店に入ろうとしたら、無理やり止めよう)


とそんな事を思っていた。


 だがここで、


「そこの少年!」

「えっ?」


さっき喜多村が追い出された店から、年配で髭面の男性が顔を出していた。

店の店主の様であったが、この時、その場には、大人の男女と少女ばかりで、

少年と呼べるのは、修一しかいなかった。


「なにか?」


男性は、修一の側に来ると、


「君は、観光客かい?」

「いえ、最近越してきたばかりの住民ですか」


向こうの剣幕に押され気味に言うと、


「超能力とかは?」

「まだですけど……」


実際は嘘だが、喜多村がいるのでそう答えるしかない。


 すると男性は嬉しそうに、


「じゃあ、魔法を学ぶと良い。君には才能を感じる」

「………」


修一は、「規格外」であるが故に、超能力だけでなく、すで魔法も使える身で、

今は勝手に覚えていた魔法しか使えないが、

その気になって学べば、立派な魔法使いになれる可能性があると、

秋人からも言われたことがある。


 そして男性は、


「魔法使いになるなら、ぜひウチの店で杖を……」


そう喜多村が追い出された店は魔道具の、杖の専門店だった。


 するとここで、


「ちょっと待った!」


と声がしたので、そっちの方を向くと、

金髪のショートヘヤーで、胸元を開いたシャツを着たチャラ男風の男がいた。


「今どき杖なんて、お洒落じゃない。魔道具はウチのアクセサリータイプがいいよ。

身に着けておけるから、持ち運びに便利だし、

デザインもお洒落な物ばかり、女の子にもモテるよ」


チャラ男は、アクセサリー型の魔道具の店に人間の様だった。


 更に、ここでロングヘヤーで眼鏡でスーツ姿の女性がやって来て、


「そこの貴方、魔法は覚える事が多くて大変て思ってない?

そんなあなたには、魔導書をお勧めするわ」


ここでいう魔導書と言うのは本の形をした魔道具で、

最初は白紙の本で、自分が習得する魔法を書き込んでいき、

発動の際はそれを見ながら行う。魔法発動の補助だけでなく、

一種のメモとしての役目も果たすもの。

修一は秋人から話は聞いたことはあった。


「うちの本は分厚いけど、軽量だから持ち運びにも不便しないよ」


この女性は魔導書を売っている店の人間らしい。


 更にここで、もじゃもじゃ頭で、

丸メガネで身なりはあまり良くない女性が声を掛けて来る。


「杖やアクセサリーや本なんて、今や時代遅れ、これからの魔法もデジタルの時代」


と言いながら、スマホの様なものを見せて来る。

魔法と超科学の合いの子、機械式魔法の魔道具を売る店の人間の様だった。


 この状況に


(魔道具の勧誘か……)


そうこの辺は、魔道具の専門店が多い店の様だった。

しかし、修一はここで、こんな目に遭うとは思いましなかった。


 とりあえず断りをいれて、この場を離れようとした時、


「みなさ~~~~~ん、路上での勧誘は禁止ですよ!」


その場にいた面々は、


「秋人君」


と言ったので、どうやら秋人と面識があるようだった。

彼の一言で、全員修一から離れる。


 なお秋人は、修一に任せたものの、喜多村の事が気になって、

ここに来て、


「お二人さん、もう時間みたいだよ」


実際は、まだ時間はあるが秋人が機転を利かせて、

そう言っていると感じて、修一は、


「まあ、機会があれば」


と4人に言った後、秋人と喜多村と一緒に、その場を後にした。


 そして移動しながら秋人は、


「有名な魔法使いになれば、御用達の店の拍がつくからね。

だから、ああやって才能のある人に声を掛けておくんだよ」


と説明する。特に地元民と言ったから余計だと思うが、

観光客にも声を掛ける事があるという。ここで喜多村が、


「でもさっきのラノベのワンシーンみたいだったよ」


と言った後、


「桜井君って、ラノベの主人公みたいだね。

特に髪の毛をトゲトゲにしたら、それっぽくなるよ」

「そうですか……」


彼女が何を言わんとしているか分かったが、


(そんなに似ているか?)


と思いつつも実感はわかない。


 その後、秋人とは別れ、喜多村は観光客向けの店で、

お菓子や民芸品などを買った後、

時間が来たので、他のツアー客と同じくバスに戻る。

修一もツアー客らしくするため、

形だけだが、お菓子を買った後バスに戻った。


 そしてバスが動き出すと


「この後は、SFの世界が待っているんだよね。たのしみ~」


と見るからにワクワクしている喜多村に、


(他のツアー客の事もあるけど、秋人の言う様に彼女に気を付けるべきだな)


と彼女を警戒すると同時に、どことなく自分と近い所があるように気がした。

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