38「さらば、リュミエール?」
母体の爆散後、イクシードは小さな光となって、
何処かに飛び去った。また怪獣の爆散で、注意がそっちの方に向く中、
赤い怪人や魔法少女たち、更には鎧の魔王も撤収した。
地上では、鎧の専用魔法であるバーストブレイズで攻撃していた。
蒼穹や、魔法が使えないゆえに何もできず状況を確認していたメイも、
母体の爆散後、その場を後にした。
そして、廃屋の近くに停めてある車の元に
元の姿に戻った修一がやって来た。周囲には人影とかはない。
そして車に乗り込み。
(みんな戻って来るんだよな)
地下に潜る前に、すべてが終わった後はここに集まるとしていたので、
彼は、待つこととしたのだが、みんなと言うか、少なく魔法少女達は、
あのまま、帰ってしまいそうな気がした。
(創月は、確実に帰って行きそうだな)
母体のテレパシーは全方位で一定距離内に居た人間には筒抜けで、
修一は、「入れ替わった」の下りから聞いていたので、
自分が駆けつけた時のイクシードは、リュミエールではなく、
瞳だと言う事に気付いていた。そして彼女は、マイペースな所があるから、
そのまま帰ってしまいそうな気がしたのだった。
しばらくして、窓を叩く音がして、そっちを見ると、
「天海……」
思わず車の外に出る修一、
「長瀬もか……」
蒼穹はメイと一緒だった。
「他は?」
と蒼穹が聞くと、
「まだ来てない」
と修一が答えると、
「他の皆はともかく、創月さんは来ないと思うけど……」
と修一と同じ考えに至っていた。
この後、秋人がやってきて、後を追う様に、魔法少女たち、
春奈、麻衣、千代子が一緒にと、少し遅れる形で明菜がやって来た。
後は瞳を残すだけで、少し待ったものの春奈も、
「瞳の事だから、先に帰っちゃったかもしれない」
と言い出して、出発しようかと思ったその時、
「待たせてごめ~ん」
と瞳がやって来た。詫びの言葉は使っているが、口調がふざけているので、
反省の気持ちがあるかは不明。
「今さっき、リュミエールの仲間から連絡があったみたいで、
世界の危機は回避されたみたいだよ」
例の恒星系滅却システムが母体の殲滅に反応して停止したとの事。
その話を聞いて、安堵する修一たち。
そして来た時と同じように、車に乗って帰ろうとするが、
「やっぱり、ここに来たのね」
そこに居たのは、ミオだった。後ろには澄玲の姿もあった。
「ここまでの経緯を話してもらえるかしら?」
ただ修一は、人気がないとはいえ、万が一見られたことも考えて、
「ここじゃ何なんで、この中で……」
するとボックスホームの扉を開く。するとミオは、
「これはボックスホーム……」
と言い、澄玲も、
「直に見るのは初めてですね」
と物珍しそうに言う。そして中に入ると、
そこはごく普通の一軒家と言う感じだった。
そしてリビングで、ここまでの経緯を説明する。
母体の発見から、外におびき出して戦うまでの経緯は、
特に重要な事ではなかった。イクシードが現れてからの状況は、
対策室で把握しているので特に聞く必要はない。
ただ今日が急遽タイムリミットになった事は、
電話で聞いていたので、母体は倒したが、
実際のところ、それがどうなったのかを知りたかった。
「そう世界の終わりは回避できたのね」
「よかったですね」
と安堵した表情で言う澄玲に対し、ミオは不機嫌そうだ。
彼女的には、魔法少女に頼る形になった事が気に入らないらしい。
そんな彼女であるが、瞳に向き合い、
「でも、あなたが母体を倒し世界を救ったことには違いないわね。ありがとう……」
と礼は言うが、
「私は、とどめを刺しただけだよ。実際活躍したのはリュミエールだし、
他の皆の活躍もあったし、私だけの手柄じゃないんだよ」
すると修一は、
「ずいぶんと謙虚だな」
普段の瞳の様子から、謙虚さと言うのを感じないので、皮肉めいた言い方である。
「言っとくけど私は、人の手柄を横取りはしないよ」
とニヤニヤ笑いながら言いつつ、
「それに桜井君もお手柄だよ。君のおかげで母体の化けの皮は剝がせたんだから」
「化けの皮?一体何をしたの?」
とミオが聞いてきたが、
「話してもいいかな?」
ニヤニヤしたまま聞いてきたので、
「人様に、あまり話せるような事じゃないから、話さなくてもいい……」
と気まずそうに言う修一。やってる時は気にならないが、
後になって話をするとなると、気まずい思いに駆られたのだった。
二人のやり取りを見たミオは、
「一体何をしたわけ?」
と言いつつも、
「まあいいわ。世界が救われたのが分かっただけでもいい。
それに、この件は報告ができる事でもないしね」
対策室としても、怪獣が倒せれば、それ以上求めることはない。
ただ二人としては、世界の危機がどうなったか知りたいだけだった。
「重要な事は聞けたから、私たちは帰るわ。行くわよ。澄玲」
「はい」
そして二人は帰ろうとして、玄関のあたりまで来たところで、修一の方を向いて、
「どうやって開けるの?」
と言われた。玄関の扉とされる部分は、壁の様になっていて、ドアノブとかもない。
「今開ける」
そう言うと、修一はポケットに手を入れ、スマートキーを触れると、
壁の部分に転移ゲートが現れた。二人はそこから外に出ていきつつも、
澄玲は、振り返り、
「それじゃあ、皆さん、さようなら」
と頭を下げて挨拶をした後に去って行った。
余談であるが、今回はスマートキーを使い遠隔で
転移ゲートを開いたが、玄関の傍にボタンの様なものがあり、
それに触れれば、誰でも開ける事ができるが、
説明が面倒なので、遠隔で扉を開けたのだった。
なお廃墟に向かう際に、ボックスホームに入った魔法少女達には、
この話はしているが、中に入っているといつ到着したか分からないので、
迎えに行くと言う形を取るため修一が開けている。
澄玲たちが帰った後、修一たちは改めて、
来た時と同じように車に乗って、帰路につこうとして、
魔法少女を残し、修一達は運転席に向かおうとすると、今度は瞳が、
「ちょっと待って」
と呼び止めた。雰囲気が違うから、
「リュミエールか?」
頷く瞳。
「この場を借りて、礼がいたい。母体を倒してくれてありがとう」
蒼穹は、テレパシーの範囲外にいたので、入れ替わった事を知らず、
「最後に倒したのは貴女でしょ?」
と言うと、
「瞳が言ってただろ、『とどめを刺した』って、
あの時、ボクは限界で瞳に代わっていたんだ」
「いつから?」
「触手につかまる前あたり」
すると修一が
「やっぱり、怪獣にやられて、落ちかけてた時か?」
修一は現場に駆け付けるときに、その様子を見ていた。
「ああ……」
春奈も、
「それまでは、貴方が戦ってたんだよね。あの空中戦とか……」
彼女は望遠魔法で、状況を見ていた。結構激しい戦いだったので、
中々助太刀には行けなかったが。
「じゃあ、十分貴女も活躍してたじゃない」
と春奈が、言うも、
「いや、君たちが居なければ、この勝利はなかった。改めてありがとう」
と礼を言った後、瞳に戻り、
「謙虚な人だね~」
評したが、修一を含め、普段から瞳の謙虚さを感じていない面々は、
(お前も見習え)
という思いを抱いた。
この後は、今度こそ、来た時と同じように車に乗って帰路につき、
瞳の家の近くのコインパーキングの向かい。
そこでみんな降りて解散となった。その後、修一は車で帰るわけだが、
同じ家の蒼穹は、歩いて帰ると言う。
「乗って行かなくてもいいのか?」
「だって、駐車場は表玄関の方でしょう。里美に見られかねないし、
行きは大丈夫だったけど、帰りは分からないから」
確かに、見られたら、何もなかったとはいえ、
変に勘繰られて、色々とうるさく言われるのは目に見えていたからだ。
そんな訳で修一は車だったが、蒼穹は歩きで帰った。
ただ、修一と同伴ではなかったものの、
実は里美に内緒で外出していたので、彼女から問い詰められて、
誤魔化すのに大変だったのは言うまでもない。
その日の夜の事、自宅で眠りにつく瞳の枕元に、再び光の玉が現れる。
そして、目を開ける瞳。
『リュミエール。ご苦労様。その娘の治療を終え次第、帰還せよと言いたいが、
その前に、聞いてほしいことがある』
『何かあるのか?』
『フィレス星人の先見の明は知ってるだろ?』
『ああ、知ってる。奴ら目を付けたものは、一見価値がなくとも、
将来的には価値がでる』
『そのフィレス星人が、その星を二度も狙ったという事実が、
話題になりつつあるようだ。これまでは一部の物好きしか、
狙ってこなかったが、この先は違うかもしれない」』
これから先、地球が積極的に狙われる可能性があるという。
『もしおかしな連中が、その価値を手に入れることがあれば大変だ。
しばらく、その星に監視のための人員を送ることが決定された。
人選はこれからだが』
母体の一件で、リュミエールのまだ動ける状態じゃないと事。
『なあ、その役目をボクに任せてくれないか?
この星に今から人員を送るのは大変だろうし』
『そう言うと思っていた。まだ責任を感じているのか』
『………』
『お前は十分活躍した。地球人も許してくれるだろう』
『でも、まだ足りない気がする』
『そうか、まあお前に任せても構わないが、
ただ、今のままと言うわけにはいかない』
魔法少女とはいえ瞳はあくまで一般人だから、行動範囲には限りがある。
『お前には、人間に擬態するなどして怪獣対策室とかいう組織に入ってもらう。
報告通りの組織なら、動きやすいはずだ。その娘の治療が終わり次第、
その体を離れ、準備に入れ』
『わかった。もとよりそのつもりだ。これ以上彼女に迷惑をかけられないしな』
そして光の玉は消えた。
それから数日後の事、修一は、ばったり瞳と合った。
「やあ奇遇だね。チミは部活帰りかな?」
正直会いたくない人間なので、冷たい口調で、
「ああ、そうだが」
とだけ答えた。すると、
「そういえば、リュミエールはもう行ってしまったよ」
と言い出したので、
「じゃあもう治療は終わったと事か?」
「そうみたい」
すると修一は、上の方を向いて、
「じゃあ、空の向こうに帰っていったって事か?」
「そうかな。まだ地球に居たりしてね。勘だけど」
と言う瞳だが、修一は一連の出来事が、終結したような気がした。
(もう怪獣とか、宇宙人と正直こりごりだ)
とは思うが、またもし同じことがあれば、
関わっているであろう自分の事を想像して、ため息をつくのだった。
その日、水野澄玲が職場から帰宅しようとした時だった。
小さな子供が、車に引かれそうになっていて、彼女は思わず飛び出し、
子供を突き飛ばした。だか代わりに自分が車にぶつかり、宙を舞った。
そして地面に叩きつけられた。状況から見て即死で、魔法でも治せないほどだった。
だが、搬送された病院で彼女は息を拭き返した。
医者は
「奇跡ですよ。これは」
と言うほどだったが
「はぁ~」
いまいち実感がわかない澄玲だったものの、
「それより、子供は?」
気になるのは助けた子供の事だった。子供は怪我もなく、
病院に搬送されなかったので、
「私には、分かりかねますね」
と医者は答えるが、その後、警察が来て、
子供が無事である事を伝えられ、安堵するのだった。
その後、ミオが見舞いに来て、
「全く無茶なことして……」
と苦言を言うが、澄玲は、
「あの子供を見たら、咄嗟に体が動いてしまって」
「まあ、澄玲らしいと言えば、澄玲らしいけど、でも気をつけてね」
「はい……」
と申し訳なさげに返事をする。
その後、しばし入院する事になる澄玲だが、
夜の病室で眠っている彼女の枕元に光の玉が現れた。目を開く澄玲。
『手間は省けたが、複雑な気分だな。リュミエール?』
『ボクは、ただ彼女を救いたかっただけだ』
そう瞳の体から離れたリュミエールは、
実体のない状態で街にとどまり、
そして偶然にも澄玲が車に轢かれるところを見てしまい、
彼女を助けようと一体化したのだった。
『前の娘とは違って、その女性では何かあった時に、まともに戦えないだろうから、
改めて例の物を送る』
『わかった』
『これからも、頑張ってくれ』
そして、光の玉は、消えてしまった。
さて、瞳の言うようにリュミエールは地球にいたわけだが、
彼女と、修一達が再び出会うのは、少し先の話だった。
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