37「母体との決着」

 母体は、擬態を完全に解いた後、さっきまで、

酷い目に遭わせた修一を狙っていたのだが、

イクシードが現れると、即座に狙いは移り、


「グゴォォォォォォ!」


と方向を上げたとかと思うと、ものすごい怒りを感じさせつつ、

間髪入れずに突っ込んでいき、取っ組み合いとなる。

その様子は巨大ヒーローと怪獣との戦いのようだが、


(やっぱり、恨みを買っているのか)


母体はイクシードと言うよりも、

中に宿っているリュミエールを狙っている気がした。

そして、先ほどまで自分をボコボコにした相手を放って行くくらいだから、

相当の恨みがあるようだった。


 イクシード、できうる限りこの場から引き離そうというのか、

母体というか怪獣を、一気に人気のない森の方へと押し込んでいく。

そのまま格闘戦に移行。お互い殴り合い、蹴り合いとなる。

言うまでもないが、イクシードの体は、魔力でできているので、

攻撃はおろか触れるだけで、母体の細胞の性質を無力化している。


 戦いは激しく拮抗しているが、問題があるとすれば今戦っているのが、

リュミエールである事。先の闘い疲弊があるので、

そこが不安点であった。そしてイクシードの蹴りが怪獣の胴体に入り、


「グガァァァ!」


と怪獣は苦痛の声を上げつつ、後ろに下がるも、

次の瞬間、口から光弾を乱射する。


 何発かは避けるが、数発胴体に被弾して、


「!」


怯むイクシード、そして、


「あぶね!」


光弾を回避する修一、乱射ゆえに攻撃は、修一たちの方にも来ている。

攻撃してはいけないメイを除き修一と、母体が完全に擬態を解いた事で、

気兼ねが無くなった蒼穹は、助太刀しようと両者の元に向かったが、

二人とも回避に集中せざるを得ず。中々攻撃に移る事ができないし、

それ以前に接近さえできない。


 特に、修一は接近する必要がある。

彼の「イーブン」は相手と互角になれる力だが、

あくまでも、近距離攻撃に関してであり、遠距離には適応されないからだ。


しかし防御面では多少強化される程度なので、

さっきも一方的に攻撃をしていたので、問題はないが、

もし反撃をされたら、半人半魔の時は、そうでもないが、

怪獣形態の時は危険で、この能力は、攻撃している分は良くても、

逆に敵から攻撃を受けた時は最悪、死ぬかもという、リスキーな代物。

故に修一は回避をキチンとしなくてはいけないのと、

攻撃に関しても、接近戦一択なので、回避に集中せざるを得ず、

結果として、イクシードの助太刀に行けない状態だった。


 やがてイクシードは、怪獣の口から光弾を吐きつつ、

時折接近して殴りにかかるという攻撃を、回避しつつ、

その流れで、途中からは飛翔して、飛びながら回避を行う。

すると光弾は乱射であったが、

方向が空中に向いたので修一たちの方には飛んでこなくなった。


 この状況に、修一は、


「今だ!」


と近づこうとする。澄玲たちや、蒼穹も同じく向かっていくが、

ここでイクシードは空に浮いたまま、手招きをした後、空高く飛んで行った。


「まさか……」


次の瞬間、怪獣が衝撃波を周囲に放ち、

修一達はどうにか踏ん張ったものの、おさまった時には、

怪獣の背中には羽が生えていた、さっきの衝撃波は、変化に伴うものらしい。


 そして羽を大きく広げると、飛んで行くのだった。


「空中戦か……」


リュミエールは周囲への影響も考えて、空での戦いを選んだものと思われる。


(昔の特撮映画みたいだな)


ふとそんな事を修一は思うのだった。


 このタイミングで魔法少女たちと秋人が廃墟を通って地上に出てきた。

蒼穹が連絡を入れていたので、外に母体がいると知っていたのだが、

外に出るとその姿が見えなかったので、


「母体はどこに?」


と春奈が聞くと、近くにいた蒼穹が状況説明をする。


 話を聞いた魔法少女たちは、


「私たちも……」


春奈は言うと、全員、飛翔する。なおこの際、特に何もなく、

浮遊して飛んでいくフェイブルはまだ魔法少女的な所があるが、

メタルマギアは背中からブーストを吹かせながら飛んでいくし、

千代子こと鬼姫は、巨大な凧を召喚して、それに乗って飛んでいく。

ちなみに凧は魔法で飛んでいる。

明菜ことロストルナはバイクを召喚して、ギガアウラウネの時の様に、

ホバーバイクに変形させ、それに乗って飛んでいく。


 ここまでの様子を見た修一は


(相変わらず、フェイブル以外、魔法少女っぽくないな……)


と思いつつも、


(そのフェイブルも何か怖いけど……)


とそんな事を考えていると、秋人が、


「僕も行くよ」


相手が怪獣だからか、魔王の鎧を召喚して、秋人が、それを着るというか、

取り込まれるように鎧に吸い込まれると、鎧は動き出し、

空へと飛んでいく。


 あと澄玲とミオは、電話で何処かに連絡を取っている。

口ぶりから守護神機関へ状況を伝えているようだった。そして修一たちは、


「ねぇ、アンタはどうするの?」


と蒼穹が声を掛けてきた。

澄玲たちを除き、残されたのは修一と蒼穹とメイだけ、

ただメイは、母体には攻撃できないので、

発見した今となっては、役目はここまでとなる。

母体に攻撃ができるのは、修一と蒼穹だけだが、


「私は飛んでるやつが相手じゃ、ちょっと……」


蒼穹も、能力を応用すれば、飛行ができなくもないが、

あくまでも無理に飛んでいるようなものなので、

本格的に飛行能力を持つ相手に、戦うのは少々難しかった。


 残る修一は、


「俺は行くよ」


彼は、飛行能力は持っているし、少し間が空いたので、

気持ちは冷めてはいるものの、戦う気満々ではあったが、


「でも、このままじゃだめだな」


と修一は言った。







 そして空中では、イクシードと母体こと怪獣が、

ソニックブームを発生させながら、空を舞いつつも激しくぶつかり合う。

イクシードが、魔法陣と共に手から放つ光線と怪獣の口からの光弾との撃ち合い。

お互いの攻撃を避け合い、打ち消しあう。


 遠距離攻撃だけじゃない。時に両者は接近し、格闘戦へと移行、

空中で互いの拳と脚が、交差合う。そのたびに周囲に衝撃波が発生する。

更に、怪獣は尻尾があるので、それを叩きつけてくるが、

イクシードは身をひねって避けつつ、 チョップを叩きつける。


「グォッ!」


怪獣は声を上げつつ、僅かに怯むも再び突っ込んできて、蹴りを入れてくる。

イクシードはそれを腕でガードするも、


「!」


その攻撃の衝撃はすさまじく、イクシードは後方に飛ばされるが、

空中で一回転しつつ体勢を立て直す。

そして怪獣はまたも突っ込んできて、今度は拳を振るうが、

今度はうまく避けつつも、今度はイクシードが蹴りを叩き込んだ。


「グギャッ!」


怪獣は苦悶の声を上げ、今度は怪獣が後方に飛ばされるが、

こっちは空中で、体をのけぞらしつつ体勢を立て直す。


 そしてまた向かってくると思ったら、間合いを取ったまま、

口を大きく開くと光弾を発射した。

ここで、イクシードは回避せずに、光線を放ち打ち消す。

この時、近くを航空機が飛んでいたからだ。正確には空飛ぶ円盤で、

宇宙人でなく人間が操縦している。なおS市上空では、

世間一般では変わった乗り物が飛んでいてもおかしくはない。


 ともかく怪獣は、イクシードではなく円盤を狙っていた。

目的はイクシードの気を逸らすためと、破壊衝動故だ。

怪獣こと、ミューティの母体は、破壊と殺戮が好きだ。半ば依存症にちかい。


 なお円盤はイクシードと怪獣の存在に気づき、

一目散に逃げていくが、そこに攻撃を仕掛ける母体。

イクシードは円盤に気づき、守ろうと盾になったが、

そこに怪獣が体当たりを仕掛けて来て、


「!」


イクシードは、もろに食らうも、踏ん張る。だが円盤が安全な距離に行ったことで、

安心して、気が抜けてしまい。怪獣ともども、

そのまま雲の中に突っ込まれていく。


 その後蜘蛛の中で、どうにか体勢を立て直しつつ、格闘戦で反撃し、

もみ合うような形で雲から飛び出してくる。

そして雲から出ても攻撃の手は休めず、互いに蹴りや拳を繰り出し、

ぶつけ合わせ、ある時の拳のぶつけ合いの際に、

相討ちのような形になって、互いに吹き飛び、距離を取る事になる。


 そして両者体勢を立て直すと、再び遠距離攻撃の打ち合いとなり、

光線と光弾がこれまで以上に飛び交い、周囲の雲を吹き飛ばしていく程だったが、


「!」


この時、活動限界を感じ、焦りを覚える。


(早く奴を倒さないと……)


と思うが、同時に今いる場所が市街地の上空であると気付く。


(万が一、母体が落下したら……)


このまま倒した場合、母体の細胞は無力化されるが、

破片が落下して、地上に被害をもたらす可能性があった。


 激しい戦いを予測できたから、空中戦を選んだリュミエールは、

この事も予測していて、戦いながら大丈夫そうな場所に誘導するつもりだったが、

思うようにはいかなかったのである。


(これ以上、この星に迷惑を掛けたくない……)


すべては最初のしくじりが切っ掛けだ。


(あの時、ミューティは焼き払っていれば、

それ以前に、彼女を巻き込まなければ……)


降着時に修一はどうにか出来たが、瞳を巻き込んだことで、

動揺したことが原因だが、それ以前の問題として、

あの時、リュミエールは焦っていた。


 当時、リュミエールはミューティの地球方面に向かう事を、

阻止できず、そして母体ほどではないが、

生物のいる惑星に漂着することの危険性を知っているので、

急いで処置しようと焦るあまりに、あのような降着となってしまった。

普段の彼女なら、状況を確認して、誰にも知られず、迷惑もかけずに、

星に降り立つことが出来たからである。

だからこそ、彼女は責任を感じざるを得ず、

迷惑を掛けたくないと言う思いを強く感じていたのだった。


 とにかくこのままじゃ駄目だと思ったので、

イクシードは怪獣に体当たりをして、

そのまま、市街地上空の方へと突っ込んでいく。

もちろん、サーチを使って航空機等の飛行物体が無いのも確認済みだ。

あと市街地の方に向かいながら、高度は下がって行くが、

これは本人の意図したことじゃない。

丁度いいと思わる場所に来た時、怪獣に蹴りを入れて間合いを取った。


 市街地で地上は森林地帯、地上への攻撃があっても、

問題はないとされる場所で、再び戦いは再開され、

イクシードの光線と怪獣の光弾の撃ち合いとなったが、

途中で、限界が近づいて、動きに乱れが生じ、

そこを突かれ光弾を撃ち込まれ、体に被弾し、その後は、何度も被弾した。

そしてテレパシーの様なもので母体は声をかけてくる。


『他人の体を使わずに、自分の体で戦えばいいものを』


母体は特殊な力でイクシードをスキャニングしていて、

彼女のおかれている現状を把握している。


『そんな娘、さっさと捨ててしまえば、良かったのになぁ、

そうすりゃ、こっちは手負いだから楽に勝てたはずだぜ』


母体は、幾度となくリュミエールと、その同胞とやり合っているので、

その性格から、そんな事は出来ないのは分かっていた。


『お前らは甘い奴らだからな、そんな事は出来ねえか』


さらに強力な光弾を食らい、地上に落下し始めるイクシード。


(もうだめか……)


次の瞬間、頭に声が響く。


『ご苦労様、後は私の仕事』


直後、イクシードは瞬時に体勢を整え、再び浮上し、

怪獣へと向かっていき、格闘攻撃を行い、拳と蹴りが叩き込まれる。

この時、怪獣は勝機を感じ油断していたので、もろに喰らう事になった。


 そして鳩尾に蹴りを食らった際に、怯みつつも間合いを取り、

口から光弾を放ち、以降は光線と光弾の撃ち合いとなった。

そんな中、怪獣こと母体は状況を察して、


『入れ替わって、調子を取り戻したか……だが』


次の瞬間、怪獣の背中から触手が飛び出し、

それは光弾よりも速い速度で襲ってきて、回避できず四肢に絡み付かれてしまう。


『こっちも、力を取り戻してきたぜ』


この触手は、母体の弱体化ゆえにこの直前まで使えなかったものである。


 そして触手はイクシードの体を雁字搦めにして、締め付けつつ、


『しびれさせてやる』


触手が電気を放電して、イクシードの体に流し込む。


「!」


触手に締め付けられて、体がしびれるが、それでもイクシードは、

拘束を解こうと試みるが、


『無駄だ。もっと痛めつけたやる』


今は電撃だが、もっと他にも攻撃ができる事を匂わている。


 しかしその時はこなかった。この時怪獣は、頬を突かれる感触がした。

横を向くと、赤い怪人の姿。なお怪獣は気配から、修一である事がわかったらしく。


『あっ、お前は!』


とテレパシーを発するも、次の瞬間パンチが炸裂。

当然、イーブンが付与されているので、その拳の大きさに反して、顔が大きく歪み、牙が数本折れた。なおテレパシーは全方位なので声を発しているに等しい。


 怪獣の注意は赤い怪人に向くが、赤い怪人だけじゃない。


「セイヤッ!」


と言う掛け声とともに刀で触手を切り裂くのは鬼姫。

なお魔法によって刃が大きくなっている。

両手から発射される魔力砲で、触手を攻撃するのは、メタルマギア。

更に宙に浮かぶ大砲のようなもので、触手を砲撃するフェイブル。

ホバーバイクに乗った状態で、

ロケットランチャーのようなものを背負って攻撃を仕掛けるロストルナと

魔法少女たちが全員そろって、触手を攻撃し、イクシードの救出を試みる。


 もちろん怪獣も邪魔をしようと試みるが、

あちこちから攻撃が飛んでくる。それは守護神機関の職員や、

機関が手配した冒険者たちで、こういう事態の為に準備は整えられていて、

澄玲達からの連絡を受けて、動いていた。もちろん全員魔法使いで、

攻撃はすべて魔法によるものだ。炎、水、風、土と、

更に光と闇と様々な属性の攻撃が飛んでくる。

この中には、鎧の魔王の攻撃も混ざっていて、これが一番強力だったが、

とにかく、一斉攻撃のせいもあって、イクシードの解放の邪魔はできなかった。


 なお怪獣こと母体は、力を取り戻してきたとは言っているが、

使えなかった武装が増えてきただけで、

実際は、イクシードの攻撃で弱っていた。

そして、魔法少女たちによって、イクシードは解放されて、

更に、冒険者たちの攻撃で羽が弱っていることに気づいた。

イクシードは、羽を狙って光線を撃った。

光線は直撃し羽がもげ、怪獣は落下する。

イクシードは、空から落下中の怪獣へと飛び、

そのまま蹴りで追い打ちし、怪獣は地面に叩きつけられる。


 ふらつきながら立ち上がる怪獣から少し離れた位置に、

イクシードは着地した。そして両手を開き、胸の当たりで、

何かを包み込むようなしぐさをする。リカバー光線とは、感じが違う。

そして魔法陣が浮かび上がると、両手の間にバチバチの雷のようなものが発生し、

やがて光のようなものが、両手に集まっていく。その様子に、メタルマギアが、


「アルティメイト・バニッシュ……」


それは、イクシードの切り札と言うべき魔法による破壊光線。

発動の準備が終わるまで時間が掛かり、実は、戦いの中で準備続けていた。

そして両手を前に突き出すようなポーズを取ると、

光がビームとなり怪獣へと向かっていく、そして弱っているため回避はかなわず、

怪獣に直撃する。


「グォォォォォォォ!」


怪獣はしばし耐えるも、やがてに限界がきて光に呑み込まれて、

爆発した。もちろん攻撃は魔法だから、細胞は無力化されている。

ともかく、勝利の時であった。

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