36「母体への攻撃」
蒼穹が到着して、遅れる形で瞳やメイがやってくる。
秋人や、魔法少女たちはまだ来ていない。そしてこの現状蒼穹は
「止めた方がいいのかな……」
傍目から見れば、相手は半人半魔だが、この街には、そう言う人間も多いから、
この街の住民的には、修一が単純にホームレスを
暴行しているようにしか見えないからだ。
「止めない方がいいよ。このままくたばってくれた方が、
世のため人の為、宇宙の為だし」
と瞳が言うが、それでも、もどかしい気持ちに襲われた。
もし事情を知らなければ、確実の修一を止めていたと思われる。
なお瞳は一度接近して、反応を確認し、修一が殴っている相手が、
母体である事は、蒼穹の話だけでなく確証を得ている。
一方の修一は、彼の病気である正義感と、
負けず嫌いから来る破壊衝動にとらわれていた。
特に母体が、破壊と殺戮を目的にこの星に来たこと、
更に奴が見せた持ち前の凶暴さを露にした表情を前に、スイッチが入ってしまい。
元より戦うつもりだったが、相手をボコボコにして、
なぶり殺したいという衝動にかられた。
なお現在修一は「イーブン」を使っていて、攻撃力が同等であるが、
発動中に唯一使える体術があり、
そのおかげで修一の方が上を行って、この状態を許していた。
「クソ……虫けら……」
とボコボコにされながら母体は悪態をついたが、
それが火に油となって、修一は容赦なく、殴り続けた。
それともう一つ、母体にとって不利な状況があった。
それは、修一たちに不意打ちを仕掛けるために、
自然と擬態が解かれている際に、無理に人間に擬態したことだった。
その影響で、現状で本来使えるはずの力が、
いくつか使えない状態だった。これはリュミエールの同胞の攻撃で、
弱体化したためであるが、それでも戦うには十分だし、
その肉体は強靭の防御力を持つので、よっぽど強力な攻撃でもない限りは、
相手の攻撃はものともしないはずだったが、
しかしその防御力は、自分が繰り出す接近攻撃には、弱かった。
そして修一は「イーブン」によって同等の攻撃力を得るだけでなく、
その性質もコピーしているので、現在の修一の攻撃の前では、
人間並みの防御力しかない。その上、力任せの戦い方しか知らないのだから、
体術を使う修一の前では、この状況も当然だった。
なお上記の弱点は、誰も知らないし、本人も気づいていない。
これまで同じような状況になっても、成功しても失敗しても、
このような事態になった事は無いし、
そもそも自分で自分の体を殴るようなこともない。
それと今までなった事のない状況に、パニックになっていると言う事もあって、
それらも相まって、修一の攻撃に対しまともに抵抗できない状況であり、
修一の攻撃を受け続けるしかなかった。
その後も、修一は母体を殴りつけてぐったりとしたところで、
止めと言わんばかりに首に手を掛け力を入れる。
このまま絞め殺そうと言う感じだったが、
「ダメ!」
と声を上げたのは蒼穹だった。しかし声を上げた本人も、
兜の上からであるが口の部分を手で塞ぐと言う動作をしていて、
表情は分からないものの、その仕草から困惑しているようで、
何で止めようとしたのか蒼穹自身、分かって無いようだった。
彼女の声にハッとなって、手の力が抜けた。
(何やってるんだよ俺……)
目の前にいるのは人間に化けている上に、凶悪な化け物だ。
この星に、破壊と殺戮の為にやって来た上に、
明日の朝までに殺さないと、地球はおろか太陽系まで消滅する状況。
殺すことが世界の為であり、殺したら擬態が解かれ、
怪物の死体が残されるのだから、後々罪にも問われない。
そうは思っても、相手は人間に近い外観をしている。
そして修一は、人間相手に攻撃を加えてこともあるし、
メイがいた組織の刺客を結果的に死に追いやった事はあるものの、
直接手を下したことはない。人を殺すと意識してしまうと、
一線を越えそうで躊躇してしまう。
それは相手が人間もどきであっても同じこと。
とにかく蒼穹の一言で、正気を取り戻した修一は、
急に母体に攻撃ができなくなった。
その直後、衝撃波が襲い、吹き飛ばされる修一。
「良くもやってくれたな……」
修一は躊躇した僅かな時間で、丁度、力が使えるようになったのだった。
この状況に、他の面々も身構える。
「殺してやる。皆殺しだ!」
すると光に包まれ、10メートルくらいの怪獣へと姿を変えた。
完全に擬態を解くことは出来なかったが、これでもさっきよりも遥かに、
凄まじい力を持つ。
しかし母体は気づいていない。墓穴を掘っていると言う事に。
そう怪獣の姿になった事で、修一に芽生えていた、躊躇が完全に吹き飛んだ。
そして修一は、母体の足に蹴りを入れた。
当然イーブンを使用しているわけだから、母体は同サイズの怪獣に、
思いっきり蹴られたような状態な上に、言うまでもないが油断もあり、
そのまま仰向けに転倒した。なお周囲には廃墟以外に何もないのと、
その廃墟を避けるように倒れたという事もあり、
周囲への影響はほとんどなかった。
更に仰向けに倒れた母体の上イーブンに付属する飛行能力で、宙に浮いた修一は、
怪獣の鳩尾に向かって、急降下キックを食らわせる。
「!」
自分と同サイズの怪獣に鳩尾に一撃喰らったみたいになったのだから、
体を、くの字に折り曲げた後、苦しそうにする母体。
その状態で、顔の方に向かっていき、パンチを食らわせる。
もちろんイーブンを使っているわけだから、修一のパンチは、威力、攻撃範囲共に、母体と同サイズの物になるので、母体よりはるかに小さい修一に、
ボコボコにされるようなもので、
「グアァ……」
と怪獣が、唸り声を上げるも、修一の攻撃は止まらない。
というか怪獣に変身したが状況は全然変わらなかった。
一応、母体は人間の姿からまだ小柄ながらも完全な怪獣の姿の姿になったのだが、
「どうしようか?」
と言う蒼穹、気兼ねなく攻撃が出来るようになったはずだが、
修一が、イーブンを使う姿はこの街においても、異質な所がある。
だから、この様子を呆然と見てしまっているのと、
あまりにも一方的なので、一緒になって攻撃するのが妙に気が引けた。
「もっと圧倒的な存在なら、やりやすいんだけど……」
今の状態でも、魔獣みたいなものだから、
一緒に攻撃をしたところで責められることじゃないが、
それでもこの状況を見ていると、妙に気が引けた。
反面、修一は正義感と負けず嫌いと言う、
いつもの病気も出ているという事もあって、
とにかく容赦がない。怪獣の顔は腫れあがっていき、
歯と言うか牙が、数本折れている。
もちろんイーブンによる攻撃で、細胞は無力化されているので、
それらが、新たな怪獣を生むことはない。
ここで、廃墟の方から澄玲とミオが出てくる。
二人は反応を追って、廃墟の地下のあたりまで来ていて、
母体が倒れた音を聞きつけたうえ、地上への出口を探し、
廃墟の出入り口に気づき、そこから外に出たのであった。
「あれはイーブン。桜井君も使えるなんて」
と修一と赤い怪人が、同一人物と知らないのでミオは驚く。
「たしか、イーブンって希少な能力なんですよね。
それが短期間で二人も見つけるなんて」
と澄玲も驚く。
そしてミオは、この場にいる魔法少女たちを見向きもせずに
「私たちも続くわよ!」
と彼女も魔法銃で攻撃に参加しようとするが、澄玲も魔法銃を装備しつつ、
「いいんですかね……」
と躊躇する。
「何言ってるのよ」
「だって、なんか卑怯な気がして……」
澄玲も、一方的な状況に気が引けたのだった。
躊躇している澄玲に対して、
「卑怯って、あなたねぇ……」
というやり取りをしていた頃、修一は、
再び母体の首に手を掛ける。見た目的には
両手をのど元に当てているようにしか見えないが、
力を籠めると、首が大きな手の形にくぼむ。その大きさは母体の手を同じであり、
修一と言うより、まるで見えない怪獣が首を絞めているような感じになる。
しかも、さっきとは違ってもう躊躇はしないので、
容赦なく力を入れていくが、
「うわっ!」
と言う修一の声、再び衝撃波で吹き飛ばされたようだったが、
飛翔能力を駆使して、空中て体勢を立て直し、
地面に着地する。そして母体は巨大化していき、
より怪獣的と言うか悪魔のような姿になって行く。
そう擬態を完全に解いたようだった。
ただ先ほどまで修一から受けた傷はそのままなので、
顔は腫れあがり、牙も数本折れたままなので、少しみすぼらしさがある。
姿が変わろうが、「イーブン」の前では何も変わらない。
また同じことを繰り返すだけで、
再び修一は、怪獣の足元にむかって、蹴りを入れるつもりだったが、
「桜井君!」
と大声を上げる瞳。
「!」
急な事に思わず動きを止める修一。
「ここからは、ボクの仕事だ」
と言って前に出てくる瞳。しかしその口調から、
「リュミエールか……」
彼女は、変身アイテムを手にし、上に掲げ、
「マジカルジュエル・メタモルフォーゼ……」
彼女はイクシードに変身し、母体と対峙するのだった。
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