35「母体との遭遇」

 ホームレスとのやり取りから少しして、母体の反応が、再び出たので、

全員、その場を後にしたものの、反応はすぐに消えてしまったのと、

現場には修一たちが先に到着し手分けして探したものの、

直ぐに同じく反応を察知した職員がやって来たので、

職員たちを避けなければならず、中々捜索が進まなかった。


 それともう一つ問題があり、捜索する職員から身を隠した際に、

この時、偶然一緒にいた秋人が、


「地下の事が守護神機関に知られたのは、まずかったかも……」


と言い出した。


「どういう事だ?」


と修一が問いかけると、


「これだけ大勢の人がいると、紛れてしまう……」


確か、捜索する人間たちに紛れ込まれたら、見つけることは困難だ。でも修一は、


「でも逆に見ない顔が混ざってるってなって気づかれるんじゃないか?」


母体の擬態化は、人間になるだけで、特定の誰かに化けれるわけじゃない。

だから捜索する職員に紛れ込んだとして、見慣れない第三者となる可能性が高い。


「だけど、職員が全員が全員顔を知っているわけじゃないだろうし、

大人数に紛れ込まれると、案外分からないと思うけど……」


確かに秋人の言う事にも一理ある。


「確かに、探す側に紛れ込むのは、盲点だろうが、

やっぱり見つかるリスクもあるから、身を隠す方を取ると思うな」


実際、地下空間は隠れるところが多くある。


「さっき会ったホームレスみたいに、

段ボールの中に隠れてるって可能性もあるだろうがな」


ちなみに、違う場所から反応が出たので、さっきのホームレスは、

母体の擬態ではない。


 この後、秋人と別れて、母体の捜索を行う事になるが、その前に、


「母体の正体を暴くとはいえ、あれは、どうなの?」


と苦言を呈す。


「でも、あれくらい言わなきゃ馬脚を見せないよ

それに違っていても問題はないだろ。

本人以外は自分の事だとは思わないんだから」

「そうだけど、聞いてていい気分しないよ。

あのホームレスのおじさんも、少し引いてたし、

それに瞳さんも言ってたけど、トカゲ系の変身能力者だと大変だよ」


と言う秋人。


「その辺は、少し考えるよ」


と言う修一。


 その後、秋人と別れて一人で探索となるが、


(やっぱり、言い過ぎかな……)


ドン引き覚悟だったものの、いざ面と向かって指摘されると、

少し言い過ぎたかもしれないと思うものの。


(でも、あれくらいやらなきゃ……)


そんな思いもあり、方針を変えるつもりはなかった。

トカゲは修正しておくことにした。

しかし、これがのちに功を奏する事となる。


 その後もなかなか反応が出なくて、逸る気持ちの中、

探索を続けていたが、瞳から連絡が来た。

それはメールの一斉配信で場所が掛かれていた。

携帯電話で、メールを確認した修一は、GPSを頼りにその場所を目指す。

なお丁度、修一がいた場所から近かったので、

その場に一番乗りできたが、ただかなり入り組んでいて、

たどり着くのが大変だった。


 たどり着いた場所は、広めの空間で、一見何もないようだった。


「アンタが、一番乗りみたいね」


修一に遅れる形で蒼穹もやって来た。ここで更にメール来て、

反応が長く続いているという事を、伝えてきた。


「じゃあ、今は擬人化を解いているのか……」


周りの見渡す二人。もちろん反応はこのあたりから出てるが、

今いる場所とは限らず、近くの別の空間の可能性もある。


 実際は、二人のすぐ近くに母体はいた。

この時は怪獣と言うには小さく、大形の爬虫類くらいのサイズ。

中規模の魔獣くらいの大きさ、その状態で天井に張り付いていた。

故に、修一たちはすぐには気づかなかった。


 この時、母体は、本能的に二人を敵と判断し、襲い掛かることはできたが、

ただ狡猾な性格故に、ただ襲い掛かるのは、面白くないと思ったのか、

余計なことを考えついてしまった。それが墓穴を掘るとも知らずに。


 そして、物音が聞こえたので、


「誰だ!」


と声を上げながら音のした方を向く修一。

同様に向く蒼穹。そこに居たのは、


「なんだ……あんたらは?」


ボロボロの服を纏っている。

先に出会ったのとは別人のホームレスと思われる男だった。


「ひょっとして、行政に雇われた冒険者か」

「いいや、違う俺たちは怪獣を探しに来たんだ」

「怪獣……?」


最初はトカゲつもりだったが、秋人の話を聞いて、怪獣にした


「宇宙から来たって話だけど、はっきり言って雑魚だな」

「雑魚……」


この時、修一は男の眉がビクッとした様な気がした。


(もしかしてあたりかな)


と思いつつも、


「図体がデカいんだけど、お頭が悪くて、肝っ玉も小さい。

言っちゃ悪いが、下等生物だな。ハッキリってカスだ。カス……」


修一は考えられうる言葉を使って、「怪獣」を罵倒した。

使う言葉があまりにもあまりにも汚いので、

先のホームレスの時も、みんなドン引きし、

今この場にいる蒼穹も、鎧の兜で顔は分からないが、

不快な顔をしていた。


 一方、男の顔は強張って行く。体も震えだす。

その様子は明らかに怒りに震えているようだった。そんな男を前に、修一は、


(こいつは確実に、当たりのようだな)


と思いつつも、「怪獣」の罵倒を続けていたが、


「ウグッ!」


突然、男が修一の首を片手でつかみ締め付けてくる。

動きが速くて、避ける事ができなかった。


「黙って聞いてりゃ、いい気になりやがって、下等生物は、お前たちだろ」


突然の事に、蒼穹は、


「ちょっとアンタ!」


駆け寄って修一を助けようとするが、


「来るな!」


と修一が声を上げる。なおこの時、蒼穹は気付いていないが、

男の顔は、変化し、半分異形化していた。更に腕も異形のものになっている。

そうこの男が、擬態化した母体だった。

その表情は、修一から煽られたことへの怒りと、

元来の凶暴さを醸し出す恐ろしい顔だが、修一は、動じず、


「馬脚を露したな……お前がミューティの母体か」

「辺境惑星の下等生物の癖に、よく知ってるな……奴らの仲間か」

「まあそんなとこだな……」


と返しつつ、


「お前は、何しにこの星に来た……」

「分身が呼んだんだ。楽しい星があるってな」

「楽しい……?」

「ああ、壊しがいがある星だ。殺しがいのある生物がいっぱい居るしな。

長らく暇だったからな。たまには、遊びたいんだよ」


この星に来たのは、ミューティに引き寄せられたからだが、

目的は破壊と殺戮らしい。


「そして怪獣を、増やすのか……」

「俺だって増やしたくねえよ。あんなもの、

分身になっちまうと、殺したくても手が出せないしな」


ミューティが生まれていたのは本人の意図してない事らしい。


「まあ。壊しがいのある星を教えてくれるのが唯一の取り柄だけどな」


邪悪な笑みを浮かびつつも、


「少しじゃべりすぎたな、死ね虫けら!」


と言って首を絞める力を強めるも、

修一は、締めあげてる腕に向かって、ダブル水平チョップを食らわせた。


「ぎゃああああああ!」


と言う悲鳴を上げ、首から手を放す男。更にその腹に向かって、

修一は、蹴りを入れた。


「グッ……!」


腹を抑え後ずさる男。


「何なんだお前……」


実は、瞳から連絡を受けた際に、修一はイーブンを発動させていた。

ただ、敵と同じ強さとなったからと言って、

体格差もないし、力の差も向こうが上であったが、そんなにないので、

あまり意味がなかったが、向こうは修一の強さを、

自身の能力で測り、自分より弱いと思っていた分、

油断していたので、不意打ちに近い状態になった。


 男は悔しそうに、


「クソが……」


と言ったかと思うと背中から突起の様なものが生えてきた。


「本当に母体……」


本人は認めていたし、話もしていたが、ここにきて蒼穹は実感を持てたのだった。


 相手が変化しようが、修一は


「下等生物に蹴られて痛がってるお前は、それ以下って事だよな。

悔しいか、ムシケラ以下」


と煽りつつ、右手の中指を立てて挑発する。

母体は情報収集でその意味が分かっているので、


「殺してやる!」


とキレて、突っ込んでくる。修一は素早く避けると、母体に背を向け、


「捕まえてみな。この……」


修一は母体に向かって、ここに記すのも憚られるほどひどい事を言った後、

走り出した。


「待て!ぶっ殺してやる!」


と母体は現場にいた蒼穹には目もくれずに、真っ直ぐに修一を追って行った。







 修一と母体との、やり取りを呆然と見ていた蒼穹は、

ハッとなって、二人の後を追いつつも、スマホでみんなに連絡を入れる。

ただ出遅れたせいで、両者を完全に見失ってしまった。


(アイツ、どこに向かって……)


修一の様子から臆病風に吹かれて逃げたんじゃなく、

相手を都合のいい場所に誘導する事が目的なのは分かる。

だけどどこに向かったか見当がつかない。


(さっきの場所でも十分戦えたのに……)


ここでふと思い立って、現在位置を確認する。


(もしかして!)


思い当たった蒼穹は再度、みんなに連絡を取りつつ、

その場から駆け出すのだった。






 その頃、修一は、


(よし、付いて来ているな)


敵は追ってきているのを、確認しつつも、目的の場所に誘導していた。

そして、たどり着いた場所は廃屋の地下で、地上へと出る。


(地下だと、後々大変だからな)


そう思いながら、廃屋の外に出て、更には鎧を脱ぎ待ち構える。


 そして廃墟から飛び出してくる母体。


「てめぇ、どうして鎧を脱いでる?」


母体は気配を読めるので、姿が変わっていても相手を認識できるようだった。


「ハンデだよ」


と修一が相手を馬鹿にしたような口調で言う。


「バカにしやがって、ムシケラが!」


ここからは地の底から轟くような声で


「殺してやる!」


しかし修一も、病気である負けず嫌いが出ているので、大声で、


「やってみろ!その前に俺がお前を嬲り殺す!」


そして、両者がぶつかる。


 すこしして、思い当たってこの場に駆け付けた蒼穹が、


「なにこれ……」


と言って唖然となっていた。

そこでは、修一が母体に馬乗りになって、相手をボコボコにしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る