34「タイムリミット」

 状況の変化に、修一は、


「理由を説明してくれるか?」

「昨夜、恒星系滅却システムが、何者かの介入で抑えが解かれてしまった」


しかも再度、抑え込むことはできないという。


「明日の朝には準備が整い発射される。ただ発射前なら、たとえ一秒以下でも、

止めることはできる」


止めるには母体を倒すしかない。そして死の察知は、瞬時に行われるので、

一秒を切っていても、大丈夫だという。


 とにかく状況は切羽詰まっているので、早速出発する事に。


(車で来ていて良かったな……)


普段は、功美が使っている事が多い自家用車だが、

今日は家に置いていたので、移動の事も考えて車で来たのだった。

なお近くのコインパーキングに停めている。

なお先のコスプレデートでは、蒼穹が運転した関係上、

修一は運転免許を取って以来、かなり久々の運転だが、

AIカー故に、まったく問題なかった。


 取り合えずこの車で移動するわけで、瞳の家を出た後、

コインパーキングに全員で移動したが車は、5人乗りで、

9人いるので全員は無理なので、春奈は


「私達は、自分で行くから」


春奈、麻衣、千代子、明菜は魔法少女に変身して、空を飛んで行く事ができるが、


「いや、大丈夫。こっちに入ればいいから」


修一はスマートキーを手にすると、車の側に転移ゲートのようなものが開く。

それを見た秋人は、


「これは、ボックスホーム!」


それは魔法の家で、本体は掌サイズで箱の形をしている。

中は、最低でも一軒家くらいの広さがあり、素材さえあれば、

いくらでも拡張できるもの。なお出入りは転移ゲートで行う。

結構なレアアイテムであるが、桜井家の自家用車には、そのボックスが搭載されている。


「車にボックスホームって、まるでカオスセイバーだ」


と秋人が言うと、蒼穹が、


「そう言えば、桜井さんはカオスセイバーⅢって呼んでたわよね」

「母さんが、勝手にそう呼んでいるんだけどな」


ここで、メイが


「Ⅲ……Ⅱはどこに……」

「知るかよ。それより出発しようせ」


運転は、当然ながら修一だが、何か動きがあった時の為に、

助手席には瞳というかリュミエールが座り、

後部座席には、蒼穹、秋人、メイが乗り、残りの面々はボックスホームに入り、

修一は車を発進させた。


 とりあえず、昨日の廃屋に向かい、そこから地下に入るつもりだった。

昨日の段階で、ミオと澄玲を撒いた事で、ばれてないと思われるし、

地下空間は広いから、母体の捜索に守護神機関が出てきても、

場所が、すぐにはバレてないかもしれないとの事。


 そして廃屋に向かう途中、瞳は助手席にいるが、

まだリュミエールが表に出ているようなので、


「なあシステムに介入したって奴に、心当たりは?」

「多分、潔癖症な奴らだ」

「潔癖症?」

「宇宙の為と言って、様々な星を滅ぼしている連中だ」


なお、その者たちはリュミエール達が勝手に、一括りにしているだけで、

手を結んでいるとか、そういう事はない。


「奴らに言わせれば、地球人は野蛮で、滅ぼさねばいけない宇宙のゴミだそうだ」

「酷い言われようだな」

「しかし、奴らだって似たようなものだ。

自分の事は棚上げにして、他人の粗を探す様な奴ら、

その行いで、自分たちが宇宙の敵になってる」


なお地球の優先順位はかなり低いので、積極的に攻撃を仕掛けてくる連中は、

無いわけじゃないが少ない。


「だけど、機会があれば逃さない」

「今回は、絶好に機械だったって事か」

「そう、あと同胞たちが母体との戦いで疲弊していたのも大きい」


本来なら、リュミエールの同胞たちがシステムを守っているので、

介入なんてことは出来ないが、今回はそれを許してしまった。


「それでも、抑えを解くだけで精一杯。

まあシステムはボクらでさえ目的外使用はできないものだ」


故に、母体が生物のいる惑星に漂着と言う事態が発生した際に、

使用しないと言う選択肢は取る事かできず、

一定期間システムを抑えて置くことしかできない。


 ここで修一はふと思い立って、


「なあ、そのシステムは母体が滅んだらどうなるんだ?」

「自壊する。あくまで母体抹殺の為の最終兵器だ。

流石に恒星系ごと滅却する兵器は抑止力としてもやりすぎだから」


それと、リュミエールの一族が宇宙で高い信頼があるので、

特別に持つ事が許されている物。

それでも母体抹殺という条件付きだと言う


「まあそれでも、文句を言う奴らはいるけどね。

惑星間での抑止力で最大なのは惑星破壊までだから」

「なんだか、スケールが大きいな」


なお惑星破壊兵器は、地球における核兵器のような存在で、

その形も星々のよって異なり、ミサイルだったり、巨大なロボだったり、

人工の天体だったりと千差万別らしい。

一応抑止力ではあるが、もちろん使用なんかすれば、

非難の的になるのは言うまでもない。


 惑星破壊兵器はともかく、今は母体の事が重要である。

だからと言って交通違反はできないので、

逸る気持ちを抑えつつも安全運転で車を走らせるなか、

リュミエールは、引っ込んで瞳が出てきたようだが、彼女はニヤニヤしながら、


「なんだか、大変なことになっちゃったね」


と言って妙に他人事なので、後部座席にいた蒼穹は、

イラっと来たのか、後ろから瞳の頭を叩いた。


「いた~い!」


流石に頭を押さえて、声を上げる瞳に対して、蒼穹は、


「なんなの。その他人事のような態度は!」

「そんなつもりじゃないんだけどな。

てゆーか、天海さんも喧嘩っ早いよ。まるでビリビリちゃんみたい」


と言われたので、


「だから!ビリビリはやめて!私は炎と水と風と土がメインなんだから!」


と言うも瞳は、ニヤニヤと笑うだけだった。


 そうこうしている内に、廃墟へとたどり着いた。全員車から降りると、

昨日と同じように、修一と蒼穹は鎧を着て、瞳以外の魔法少女は変身する。

秋人は暗視魔法で、メイは特に何もせずに、

そして瞳は懐中電灯は持ってきておらず、

暗視ゴーグルのようなものを付けている。昨日の事があったから、

地下空間には、守護神機関の職員がいる可能性があるので、

見つかったらややこしい事になるので、

そうならないように、ライトは持ち込めなかった。


 地下に降りた修一たちは、最後に反応があった場所に向かう。

実は修一たちが捜索を打ち切って以降も、

反応は二度ほどあったと言う。ただどれも短かったので

擬態を解かずに行ったものと思われる。

ちなみに一度目は夕方で、二度目は深夜と言う。

なおこの日まで、反応があった場所は引き続き、マッピングしていた。

最初は街に向かっていたが、街に入って以降は、迷走状態で、

特に法則性はなかった。


 この事については、廃墟に到着前の車中で瞳が、


「リュミエールから聞いたけど母体の目的は、生きる事だよ」

「ただ生きるだけってわけじゃないよな?」

「もちろん他人を顧みずに自分勝手にだけどね。そして、奴の娯楽は破壊と殺戮」


なお対象にはミューティは含まれていない。


「最悪な奴だな」

「娯楽にしてるって言っても、主目的じゃない。奴の目的は、あくまで生きる事だ」

「じゃあ地下にもぐっているのも、身を隠す為って事か?」

「そうだろうね。奴はリュミエールの気配を感じれるみたいだから」


正確にはリュミエールの一族であるが。


「動き回っているのも、場所か特定されないため。

そして動きを読まれないように適当に、動き回ってると思う」


地下での動きに法則性が無いのはその為だと思われ、

マッピングは、あまり意味はなかった。


 地下に潜った修一たちは、とにかく最後に反応あった場所を目指したが、

近づくにつれて、騒がしい音が聞こえてきたので、一旦立ち止まった。

どうやら守護神機関の職員たちの様だった。

向こうも、反応を察知できるわけだから、ここにいてもおかしくはない。


 先も述べた通り、鉢合わせたら、面倒なので、

連中を避けて適当な場所で、次の反応が出るまで、待機した。

ここは開けた空間だが、ここもサーチの効きが悪いので、

誰か来たとしても、秋人やフェイブルの魔法で、上手く身を身を隠せるとの事。


 そして中々反応が出なくて、逸る気持ちを抑えていると、


「ん?」


修一は空間の一角に段ボールが積み上げられている事に気づいたのだが、

その段ボールが動いた気がしたのだ。気になって近づき、段ボールを開けると、


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


と言う声と共に、中からぼろぼろの見なりの男が出てくる。

見るからにホームレスの様だった。


 男は出てくると、


「お願いだ、見逃してくれ!」


と土下座した。


「見逃す?何のことだ」

「アンタら、行政にやとわれた冒険者じゃないのか?」


既述であるが、地下空間は年に一回の頻度で、調査が行われる。

その際に行政は、職員だけじゃ手が足りないので、冒険者を雇うことがある。

冒険者が地下空間に入るのはそういう時だけだ。

そして調査は、地下空間の変化の他、

不法に住み着いている人がいないかの調査、摘発も行われる。


この男は地下空間に不法に住み着いているホームレスだった。

地下空間の調査の事は聞いていたので、


「俺たちは、アンタらをどうこうするために来たんじゃない」

「そうなのか」


と男は不安そうに言うが、


「ただ聞きたいことがある」


と修一が言うと、男は、


「な、なんだ?」


と恐る恐る聞く。すると修一は


「俺たちはトカゲを探している」

「トカゲ?」

「でっかいトカゲなんだ」

「もしかして、魔獣かなんかか?」

「そんなところ、そのトカゲは……」


その後の修一の話を聞いて男は、


「酷い言われようだな」


若干引いてるようだった。


「それでトカゲは……」

「小さいのは見たことがあるけど、でかいのは見てないな」

「そうか」

「まあ、頑張ってくれ」


そう言うと、男は再び段ボールの中に姿を隠した。


 ここで、修一は段ボールから離れて、

皆が集まっている場所に戻る。すると蒼穹が


「何、いまの?」

「今の人が、母体か確かめたんだ。あの様子だと違うようだな」

「そうじゃなくて、今の話、酷すぎない?」

「あれくらい言わないと、馬脚は見せないだろ」

「だけど……」


すると瞳が、


「私も、あれで良いんじゃないかなって思うけど、

まあ相手がトカゲへの変身能力者なら、怒られる気がするけど、

その辺を気を付けるべきかな」


とアドバイスを言うが、他はメイ以外はドン引きしている様子だった。


 修一はドン引き覚悟だったが、瞳が賛同したことは、

何とも言えない気分となった。

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