32「街の地下にて(2)」

 戦いの時は近いとは思ったものの、あれから反応は出ない。

全員、地下空間の構造を知るすべは、例えば修一と蒼穹なら来ている鎧に、

メイのサーチも、地下空間に入れば機能するし、

魔法少女たちも変身できない瞳以外、魔法でわかる。


 しかしながら地下空間が入り組んでいるので、いくら構造がわかるとはいえ、

迷う可能性があるので、もし母体の反応を察知しても、

うまく進めないという事もある。とにかくヘタに動き回るよりも、

次の反応が出るまで待機しておくのが得策として、この場に留まっていた。


「ここは、人が来ることは少ないだろうから、居ても問題はないよ」


と瞳が地面に座り込みながら言った。


 すると修一は、


「随分詳しいな?ひょっとして、こっそり忍び込んで探検しているとか?」


と聞くと瞳は、ニヤリと笑いながら、


「そんな事はしてないよ。推測さ」


そう言うと、壁の傷を指さしながら、


「敵は、あちこちに傷を残している。かなり騒がしかったはずだよ」


人が来ることがあれは騒ぎを聞きつけて、集まってきているだろうし、

対策室の耳に入れば、公園の時と同じになっている。


「公園での反応は地下からの物だって気づいて、こっちに人員を割いているはずだ」


しかし、公園での捜索から時間が経っているのに、

そんな気配がみられないので、気づかれていない。


「それに音を聞くことがなかったとしても、壁のひっかき傷や、

足跡を見れば、騒ぎになるはずだよ。そうなってないって事は、

人が寄り付かないって事だよ」


と何処か得意げに言った。その様子を見て、修一は、


「どうだか……」


彼女の事が信じられない所がある。


 まあ、これ以上問い詰めるつもりもなく、だまって待機としたかったが、

瞳が修一に話しかける。


「チミはオタクだと聞くけど、特撮もかも好きなんだよね」

「まあな……」

「じゃあ、ヒーローショーとか行く?」


急に妙な事を聞かれたんで、苦笑いしつつ


「もういい歳なんだから、そう言うのには行かねえよ」


と言いつつも、


「まあ、アルバイトでショー自体には、参加してみたいけどな」

「やっぱり、やるならヒーロー役かな?」

「そこまで高望みしてない。参加できてもやられ役の怪人が、関の山だろうよ」


と修一が言うと、興味深そうに、


「ふーん」

 

と言ったかと思うと、


「でもハルちゃんは、今でもよくヒーローショーに行くけどね」


と言い出し、


「ちょ、ちょっと!何言ってるのよ!」


と声を上げる春奈。変身しているから表情は判らないが、

顔を真っ赤にしているように思われる。


 そんな春奈をしり目に、瞳は、


「今じゃ、立派な特撮ヒーローだよね」

「正確には、魔法少女よ」


余計な事を暴露されたので、苛立っている様子で答える。


「でもその姿は、ハルちゃんがヒーローを望んだからでしょ、

魔法少女の姿は、本人が求める力が形になって表れたものだからね」


言うまでもないが、他のみんなも同じで、


「そう言う瞳だって同じでしょ、アンタが巨大ヒーローを望んだから、

あんな姿になったんでしょ」


すると瞳は、余裕な表情で、


「そうだよ。私は特撮の巨大ヒーローが好きだもん。

私もヒーローショーにはよく行くよ。

そこで、ハルちゃんを見かけたんだけどね」


と言いつつ、


「別に隠さなくてもいいのに」

「うるさいわね!」


と声を荒げる春奈。


 しかし瞳は、特に臆することなく。


「まあヒーローショーの事は兎も角、魔法少女だとか言われてるけど、

正直、私、魔法少女系には全然ときめかないんだよね」


そう言いながら変身アイテムを取り出す。


「私としては、巨大ヒーローのつもりなんだけどね。

でもこれまでの流れで、それっぽくないのに、

同じ魔法陣がでるから魔法少女扱いなんだよね。

変身の呪文もそれっぽいけど、そろそろやめてほしいな」


と愚痴を言ったかと思うと、


「愚痴を聞かせてごめんね」


と詫びの言葉を言うが、笑っているので、詫びているようには見えない。


 そして瞳は修一に向かって、


「ところで特撮な日々はどうだった?」

「特撮な日々って」

「私はリュミエールとは、まあ私と一体化して以降だけど、

記憶は共有しているから、何があったかも知ってるよ」


と前置きしつつも、


「怪獣に、宇宙人、しかも誘拐までされちゃって、

正に特撮の世界じゃない。オタクにとっては、

どんな気分だったのかなって思って」


と言われて修一は、


「どんな気分って……まぁ、ああいうのは見ている分にはいいけどさ、

実際に遭遇すると、大変だったよ。もう勘弁してほしいけど病気がな……」


修一の病気である好奇心、正義感、負けず嫌いが、

いつもながら、修一を今回の事に巻き込んだと言ってもいい。


 事実、発端は修一の好奇心からだ。

あの時、怪獣のいる場所に向かわなければ、

リュミエールの降着に巻き込まれることは無かったし、

この後の一件に巻き込まれなかったんじゃないかとも思われる。

ただし、千里耕史に関してはボランティアの時に、

目をつけられたし、そもそも親の頃からの因縁の様だから、

最初の一件とは関係があまりない。


 しかし正義感と言う病気が、これまでの怪獣騒ぎに関わる原因と、

それに今この件に関わっているのも、その病気の所為ともいえる。


「なんだかんだいって、楽しかったんじゃないの?」


と瞳は意地の悪そうな笑みを浮かべながら言う。


「だから、特撮にせよ、アニメにせよラノベにせよ、

ああいうのはな、見てる内がいいんだよ。現実だったら、辛いぞ」


それがよくわかるのか、魔法少女たちは全員、頷いている。


 この面々は、今回だけでなく、魔法少女として活躍する中で、

少し変わっているが、文字通り魔法少女なのは麻衣こと、

フェイブルだけで、他は魔法少女的と言うよりは、

特撮のような出来事、瞳の言う「特撮な日々」を送っているし、

春奈ことメタルマギアは、

敵対しているのはマッドサイエンティストのロボット軍団だし。

明菜に至っては悪の組織的な存在なので、

余計に特撮的である。千代子こと鬼姫は特撮時代劇的であるが。


 それはともかく瞳は、


「オタクって、こういう状況を楽しめてると思うんだけどねぇ~」

「そういう奴もいるだろうけど……」


修一自身も、まったく楽しめていないかと思うと、

そうでもない部分がある。基本は大変だけど。

ここで、思い出したように瞳が、


「そう言えば、チミがこの街に来たばかりの頃は、

妙にワクワクしていたように見えたけど」


と言いだして、


「えぇっ!」


思わず声を上げていた。まだ出会う前なのに、なんで彼女が知っているのか。


「3月の終わり頃、偶然、駅でチミの姿を見たんだよ。

ボストンバックを肩から下げていたチミをね。

あの時はチミと関りになるとは思わなかったよ」


あの日の事は、よく覚えている。二度目だったが、

初めて来たときは受験があって余裕がなかったから、

その日、はじめて街をじっくり見て、

その混沌さに、確かにワクワクする部分はあったが、

あまりにいろいろありすぎて、

食傷気味になっていた。あと蒼穹との出会いもあって、

忘れられない日でもある。


「そう言えば、あの日は天海さんがワイバーンを撃ち落として、

子供を救ってたよね」


すると蒼穹は、顔を背けながら、


「あの日の話はやめて、思い出したくないから……」


その様子を見た瞳は、


「私ね。あの時は変身できなかったけど、現場にいたんだよね

たしか、ワイバーンがどぶ川に落ちて、その余波で頭から、

どぶ水を被ってたよね?」

「だから、やめてって……」

「あの後、お風呂には入ったよね?もしかしたらその後で……」


次の瞬間、修一と蒼穹が、


「やめて!」

「やめろ!」


と同時の声を上げた。すると意地の悪そうな笑みを浮かべた瞳が、


「仲いいねぇ」


と言ってきたので、二人とも目線を背ける。

両者、鎧を着ているので分かりにくいが、

気まずそうな表情を浮かべていた。


 修一は、話題を変えようと、


「とにかくだ、特撮にせよ、アニメにせよラノベにせよ。

見てる内が、いいんだよ。例えばラノベのヒロインは、

物語だから好きになれるんだよ。現実いたら、どうだか……」


すると瞳は


「ふ~ん、でもここにはラノベヒロインみたいな人いるよね~」


と言った後、蒼穹を指さして、


「リアル御……」


と言いかけたところで、


「やめて!」


と蒼穹が大声を上げて、以降の言葉を阻んだが、瞳は、


「しかも、ビリビリも使える」


修一が、


「えっ、使えるの?」


と声を上げた。すると、蒼穹は瞳に迫りつつ、


「なんでアンタ、私の第五元素を知ってるの!」

「結構知ってる人いるよ」


修一は、


「第五元素?」


と言うも蒼穹は答えず、


「私は、自販機に蹴りは入れないし、喧嘩っ早くもない!」


と瞳に顔を近づけながら言った。


「はいはい、わかったわかった」


と瞳は言うが、口調が軽いので本当に分かっているかは不明だ。


 今度は蒼穹が、話題を変えようと、


「ところで、あれから反応は無いわけ!」

「ないね。こういうのは気長に……」


と言いかけたところで、足音が聞こえた。

それはこっちに向かってくる。取り敢えず、瞳はライトを消すが、

相手も暗視が使える可能性があるので、


「みんな集まれ、魔法で身を隠す」


とフェイブルがいい、みんなが集まり、迷彩魔法で、姿を消す。

ただやって来た者達は、ライトを持っていたので、

暗視は使っていないようだが、相手を確認して、フェイブルは魔法を解いた。


「あなた達は!ここにいるって事は、澄玲の予想が当たったようね」


やって来たのはミオと澄玲だった。

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