29「母体の捜索」
翌日から、母体の探索が始まったが、修一たちの枷となったのは、
やはり学校だった。反応を察知してすぐ動ける澄玲たちとは違い。
反応をキャッチしても、それが授業中なら何もできないし、
加えて情報をくれる瞳も、
「どうせ、授業中で動けないでしょ」
と言って放課後まで教えてくれず、
居所は分かっても、向かっても無駄と思われるほど時間が経っていた。
幸いと言っていいのか部長の都合で、その週は、部活はお休みだったので、
放課後は時間が取れたものの、先述の理由で動いても無駄という事で、
初日は瞳の家に集まって、彼女の情報を元にマッピングをしつつ、
今後の事を話し合う事にした。なお瞳の元に集まるのは、
反応を察知した際に、すぐに動けるようにするためだ。
瞳の家のリビングで、修一と蒼穹、魔法少女たちが集まり、
瞳が地図を広げ、反応がした場所にピンを刺していく。
「こんな所かな」
刺したピンは三本、どれも街の郊外の森の中で、最初の二回は午前中、
最後の一回は、午後の授業が始まる頃、もう二時間以上前である。
なおどちらも反応が短かったので、擬態を解かずに出たと思われる。
そして今更向かっても意味はないが、マッピングをすることで、相手の動きを読み、
今後現れそうな場所を、予測しようとの事だった。
地図から分かる事は、
「この動きだと街に向かってるな」
と修一が言い、そして時間の事も考慮して、蒼穹が、
「もう森を出てるかも……」
心配そうに言う。
なお明菜は家に来た時に、
「私は、現場に行ったんだけど、守護神機関の連中が山狩りをしていたわ」
大学生である彼女は、今日は昼からの講義がない。
その事を瞳に伝えていたので、午前中の講義が終わったあたりで、
瞳から、最初の二つの反応の情報を聞いて、すぐ大学を出て現場に向かい、
三回目の反応の時は、なんと現場にいたという。
現場は守護神機関が一帯を封鎖していた。強引に入ろうと思えばできたが、
山狩りの規模が大きかったので、すぐ見つかって騒ぎになるのと、
それ以前に、明菜には知る術がないので、状況を見守ることにしたという。
なお現場では職員がすでに森に居たと思われるハイカー達を、
森の外に追い出す際に、
機械、ミューティの反応をキャッチするセンサーと思われるが、
それで入念に調べていたが、
「接近していても反応は出ない場合もあるから、見逃していても、
おかしくないし、それにあの二人以外、人間に化けてるって事を知ってるのかな」
母体が人間に擬態しているという事は、
リュミエールの話だけで確証はない。実際、澄玲とミオは報告していないし、
この時のハイカーたちのチェックも、
微量の細胞が体に付着してないかどうかという名目で行っていて、
人間が擬態と言うのは想定していない。
していたら、その場でのチェックで済まさず身柄を確保して、
様子を見るというのが正解だ。時間が経ては擬態を解く機会が、
あるかもしれないからだ。
ともかく機械で調べただけだから、その際に反応が出なくて逃げられたと見て、
修一たちは話を進めるが、
「あのさ……人間の姿の時に分かったとして、どうするの?」
と麻衣に言われて、
「あっ!」
そう見つける事と、始末する事ばかり頭にあって、
人間の姿の時にどう対応するか、考えてなかったのである。
ここでメイが、
「袋叩き……」
すると春奈が、
「それはダメ!」
春奈たちは魔法少女、すなわち正義の味方なので、そう言う事はご法度だ。
ここで蒼穹が、
「相手は狡猾だって言うじゃない。
変に立ち回って、私たちを悪人にしかねないわよ」
「あり得る話だよな。敵の擬態は超能力や魔法でも分からないからな。
こっちの言い分は、信じてもらえないだろうし」
と修一が言い、
「私たちの方が排除対象になりかねないわね」
と明菜も言う。
「それに、倒せたとしても人間の姿のままだった。私たちは犯罪者」
と麻衣が言うと、瞳が、
「それは大丈夫だよ。母体は死んだら擬態が解けるから」
死んだ場合は怪獣の死体が残ると言う事らしい。
かといって人間の姿のままで手を出すのは問題で、
「どうすれば……」
と言う春奈。リュミエールは母体をどうにかしてほしいとは言っていたが、
擬態化している場合見つける以外の対処については、何も言っていなかった。
するとここで、修一が何か言おうとしたところで、瞳が、
「煽ればいいと思うよ」
「煽る?」
と言う春奈に、
「狡猾な奴ほど、案外、煽り耐性がないと思うよ」
つまり、煽って馬脚を現させるという事だ。ここで修一が、
「俺も、そうすべきだと思う」
とどこか不機嫌そうに言う。彼が言おうとしていたのはこの事だったが、
先に言われたのと、それ以前に瞳と同じことを考えていたと思うと、
いい気分はしなかった。
「でも言葉は選ばないと、逆に利用されかねないかも……」
と明菜が心配そうに言うと、
「その辺は大丈夫だ。言葉はきちんと選ぶからな。その辺は任せておけよ」
とにかく人間擬態時の対処は、修一に任せる事となった。
そして反応は、その日は、以降は無くて、まだ森の中にいるのか、
街に出てきたのか、分からないまま時間が過ぎ、一日目が終わった。
そして翌日だが、やはり修一たちが授業中に、反応があったが、
授業で動けないと判断したのか瞳は話してくれなかったが、
放課後、修一たちが自由な時間に反応があり、
瞳から連絡を受けて現場に向かった。
予測通り、母体は街の方に来ていて瞳が指定した場所に、
みんなで向かい、手分けして探している訳だが、
「ほんとにここにいるの?」
と蒼穹は、顔を赤くしながら瞳にスマホで確認する。
「間違いないよ~」
「本当に?まさか、かついでるんじゃないでしょうね」
蒼穹がいる場所は、歓楽街で、未成年がいるとまずい場所である。
「そんなことないって」
と言うが、笑い混じりなので、少し怪しいところがある。
「とにかく頑張って探してね。反応は長いから、擬態を解いているんだと思う」
と言って通話は切れた。
擬態を解いているとはいえ、巨大な怪獣の姿はないわけだから、等身大の姿で、
どこかに身を隠していると考えられる。
ただ反応があるとはいえ、具体的な場所までは分からない
加えて、ここは路地裏とかで、隠れるところは多い場所だ。
しかし、蒼穹にとって問題なのは、場所的に未成年と言うだけでなく、
進学校の生徒となると、余計にいてはいけない場所であるという事。
もし学校に知られれば、口頭での注意にとどまるだろうが、
今後の進路に響きかねない。加えて蒼穹は有名人だから、
実生活においても、肩身の狭いことになる。
一応、ここに来るにあたって、帽子に伊達メガネに、マスクと言うように、
小手先であるが変装はしている。しかし一番の問題は、
「そこのお嬢さん、一緒に遊ばない」
と言うようなナンパや
「ねえ君、かわいいね。うちの店で働かない?」
と声を掛けてくるスカウトであった。
「お断りします」
と言って、断ってすぐに諦めてくれる奴もいるが、
中には、特にナンパ目的の奴が、
「そんな事言うなよ!」
と言って強引に迫ってくる奴もいる。
そんな時は、その場から逃げていたが、遂には
「逃げんじゃねえよ」
と腕を掴まれて、捕まってしまった
「嫌っ!離して!」
普段の彼女なら、自分の能力を活用して、強引に振りほどく。
実際、彼女を捕まえているナンパ野郎は、
彼女より図体はでかいが、蒼穹の力を持ってすれば、
容易に振りほどけるし、なんだったら倒すこともできる。
あと周囲には、ナンパ野郎の仲間たちもいるが、
全員KOさせることも可能だ。
しかし蒼穹の力も有名なので、力を使うだけで身バレしてしまう。
だからこそ、実力行使は出来ずに困っていた。
もちろん本当に危なくなったら、身バレ覚悟で、能力を行使するつもりだったが。
そんな時だった。
「おい、やめとけ。嫌がってるだろ」
声の方に男たちの目が行く。
「桜井……恵美」
そこに居たのは、桜井恵美だった。
彼女の登場に、男たちはいやらしい笑みを浮かべ、
「お前の方がよさそうだな」
と言って蒼穹の手を放して、恵美の方に来る。
「なあ、俺たちと遊ばないか?」
と言った瞬間、恵美は、アッカンベーのポーズをとる。
すると男たちは、顔を真っ赤にして、
「てめぇ!」
そう言って恵美の腕をつかんだ。次の瞬間、
「きゃあああああああああああああああああ!助けてぇ!」
と恵美が大声を上げた。あまりのでかさに思わず蒼穹は耳を塞いでしまう。
「なんつう大声を出すんだ!」
びっくりして恵美の腕を離す。更には、
「なんだ、なんだ」
と人が寄って来たので、気まずくなったのか、ナンパ野郎たちは、
全員逃げて行った。
この状況に乗じて、
「行こう」
と蒼穹と恵美はこの場を後にする。
なお恵美こと修一は、途中で別れたものの、
途中まで一緒に来ていたので蒼穹がどんな姿をしているかは知っている。
離れたとこまで来て、
「とりあえず、助かったわ。ありがと」
と言う蒼穹。
「どういたしまして」
と返す恵美。言うまでもないが、
恵美はわざと大声を上げることで、
注目を集め男たちが去っていくように仕向けたのだ。
蒼穹にもできなくはないが、有名人ゆえに声で気づかれる可能性があった。
なお修一も、こういう場所に来ているのと言うのがあまり知られたくないので、
恵美の姿で、ここに来た。
「しかし便利よね。変身能力って」
変装よりも確実に、身バレを防ぐことができる。
もっとも、一つの姿にしかなれないから、
修一=恵美と言うのが、一部の人間にしか知られてないからできる事でもある。
身バレの心配がなくて余裕な様子の恵美こと修一を、
恨めしそうに見つつも、さっきのような奴らの事を気にして、
二人で行動する事にした。
修一が恵美の姿をしているせいか、バレないか気になっているからか知らないが、
一緒に行動していても意識することなく、歓楽街を探索した。
だが見つけることはかなわず、瞳からは
「反応が消えちゃったよ」
と言う連絡もあり、結局立ち去ることに。
ただ帰る途中に、修一と蒼穹は、ミオと澄玲の姿を見た。
彼女たちも、センサーで察知してここに来たと思われるので、
瞳にかつがれてはいないようだった。
あと明確な脅威は確認されてない上、街中なので、商業活動の事も考慮して、
歓楽街の封鎖とかはしていないようだった。
ただ歓楽街まで来て、見つけられないということで、
修一たちは、いい気分はしなかった。
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