28「ミューティの母体に関して」
リュミエールの言葉で、場は騒然となるものの、そんな中でミオは冷静に、
「反応が消えてしまったのは何故なの?」
「母体は漂着した星の知的生物に擬態できる。擬態中は、気配を消せるんだ」
なお人間に擬態している可能性が高いという。
「弱体化状態での擬態中は、細胞が無力化しているのと同じ、
だから反応のない間は安全だ」
擬態化中は細胞が怪獣を生み出すことはない。
それと擬態化中の特性としては、
「奴は、擬態化中の行動範囲は狭い。だからこの街から出ていくことはないと思う。
もし大きく移動するときは擬態化を解除するはずだ」
弱体化している関係もあって、すぐに大きな移動はしないと思われるとの事。
ここで澄玲が、
「けど反応が消えているのに、そのどうやって探せば……」
「奴は定期的に擬態を解く事がある。完全な形じゃないけど。
あと擬態時でも定期的に、反応が出る。
おそらくどちらか、あるいは両方の時に情報収集してると思われる」
母体は特殊な力で、その星の情報を手に入れ、
それを擬態に反映できるほどの高い知能がある。だから言葉、知識や仕草などに、
不自然さがまったくない。
また超能力、おそらく魔法でも見破る事はできないと思われる。
ここで修一が、
「その時々出る反応を手掛かりに、探せって訳か……」
「そうだ。反応が擬態を解いている時なら、あたりだ」
擬態時の際に出る反応は、すぐ消えるが、擬態を解いたときは、
長い間出る上に、その見た目故に目立ちが特定しやすい。
ただ解いたときの度合いは、その都度違い。
巨大な怪獣の時もあれば、人間大の、怪獣と言うよりも怪人の姿の時もある。
なお弱体化の影響で、一時的な解除の場合でも、
反応は出るものの細胞自体は無力化されているような状態らしい。
ただし、その状態で戦闘になった場合は、話は別であるが。
「それと、接近すれば擬態中でも反応を得ることができることもある」
それは絶対ではないらしいが、
とにかく擬態時でも接近すれば見破ることができるという。
加えて、
「奴はこっちが反応を察知できることまでは知らないと思う」
この言葉に疑問を感じた修一は、
「奴は、超能力的なもので情報を集めてるんだよな、
何で知らないってわかるんだ?」
と尋ねると、
「奴の得られる情報は、広く知られている事だけ。
インターネットでだれでも知れるくらいの情報だ。
推測だけど、ミューティの反応を知る方法は、公開はしていないんじゃないか?」
するとミオは、
「確かに、センサーは公開していないわ」
つまり一般人が容易に知れる情報ではないので、母体も知る可能性は低いとの事。
この点が、こちらのとって有利な点と思われる。
そしてリュミエールは頭を下げて、
「すまない、すべてはボクがしくじった事から始まったんだ」
「どういう事?」
蒼穹が聞くと、
「母体は、ミューティがいた場所に引き寄せられることがある。
特に、ギガアウラウネのような強力なやつが現れた時はね」
理由は定かじゃないらしい。必ずそうなるとは限らないとの事。
「ボクが、最初にミューティを完全に滅却しておけば、
この星に迷惑をかけなかったし、こんな事態も引き起こすこともなかった。
すまないと思っている」
と言って頭を下げたままなので、この場が暗い雰囲気となって行く。
ここで修一が、
「でも、ギガアウラウネに関しては、フィレス星人の仕業だろ?
切っ掛けはともかく、君が責任を感じる事じゃないだろ」
更に澄玲も、
「そもそも、ギガアウラウネに使われた細胞は、私たちの組織から、
盗まれたものですし、早く処分しておけば、
こんなことにはならなかったのですから、私たちにも責任があります」
ミオも、
「確かに、もっと早く処分しておけばこんな事には泣かなかったわね」
と同調する。
修一たちは、フォローを入れるものの、リュミエールは頭を下げたままで、
「そう言ってくれてうれしいけど、でも責任はボクにある。
本来なら、ボクがどうにかすべきことなんだけど、今の僕は動けない」
そして彼女は頭を上げて、人々をまっすぐと見つめながら
「ボクの代わりに、この星を救ってほしい」
と訴えた。
ここで修一は、
「世界の危機となれば、黙ってるわけにはいかないよな」
いきなり途方もない話で正直、実感はまだないものの、
修一の正義感と言う病気が出ていていた。
「私たちも、同じよ魔法少女とこの状況を、放っておくわけにはいかない」
と春奈が代表して言う。
この状況に対し、もっとも必要な存在である彼女たちは、
その正義感と言うか、魔法少女の使命感故に、
黙っていることはできなかった。
「僕も、聞いちゃった以上は黙ってられないよ」
と言う秋人。彼も魔法使いなので、母体と戦うにあたって、
問題とかはない。
なお一緒にいるメイは、事情を知るだけの存在で、
魔法が使えるわけじゃないので、直接戦えないというか、
戦うことを控えなければならないが、
「探す事なら……得意だから……」
そう言って探索の面で、手を貸してくれるようだった。
ここでミオが、
「私は、あなたの事を信用している訳じゃないわ」
「ちょっと、ミオさん!」
と澄玲が声をかけるが、ミオは続けて、
「だけど、怪獣の反応が出ている以上、放っておくわけにはいかない。
そして事は、早急に対応しなければいけない」
と言った後、
「この件は、我々がどうにかするわ。それこそ七日以内にね」
とにかく協力はしてくれるようだった。
ここで、残るは蒼穹だけであったが、
彼女としては正直、面倒ごとには関わりたくないし、
そもそも関わる義理もない。しかし世界の危機なんていわれると、
彼女も、さすがに黙ってはいられないし、
加えてこの場で断れるような雰囲気でもない。
「話を聞いた以上は、放っておけないわね。まったく……」
と蒼穹も関わることになる。
この状況にリュミエールは、
「ありがとう……」
と礼を言う。すると修一が、
「早速だけど、擬態化した時の特徴とかはないのか?」
と尋ねると、
「母体とは言ってるけど、男性に擬態化する場合することは多い。
どんな顔になるかは、その星々で異なるから、
なんとも得ないけど、不細工にはならないらしいけど……」
なお一つの星に擬態する姿は一つ、別の星にでも行かない限りは、
同じ姿に擬態を続けるらしい。
なお、この擬態や情報収取に関しては、滅却システムが完成する前に、
何度か生物のいる惑星に到着した際に得られたことらしい。
ちなみにいずれの際には、弱体化していて、
力を取り戻す前に、星から追い出すことに成功して事なきを得ている。
あと定期的な解除とは別に、
中途に擬態を解いて半獣人的な姿になることがあるという。
この際は当然反応が出る。
「擬態時に激高したときとかは、この形態になるようだね」
ここで、修一はふと思い立って、
「ところで、母体はどんな性格をしているんだ?」
「狡猾で残忍だ」
肉体的だけでなく性格的にも危険な存在らしい。
これを聞いた修一は、
(やりやすいな……)
と思った。肉体的に危険でも、心はまともという奴はいる。
そう言う場合は、つらいことになるが、
だが、母体は身も心も危険な存在なので、
気を使うことは無いという事。
そしてここで、リュミエール、
「そろそろ限界だ。後は頼んだ……」
再びうなだれたかと思うと、瞳に戻り、
「まあそう言うわけだから、みんな頑張ろうね。私も頑張るから」
瞳に言われると、少し腹が立った。
そしてミオが、
「とにかく時間がないようだから、私たちは早速動くわ。行くわよ澄玲」
「はい……」
と言って二人は出て行った。もう夜なので、できることは限られているだろうが。
そんな中、修一はふと、
(一日だけとはいえ、無駄にしてるよな)
そんな事を思ったら、瞳が心を読んだように、
「一日無駄にしたって、思ってるでしょ?」
「!」
なお修一だけじゃなく、この場にいた面々で無表情なメイ以外は、
みんな表情が変わったので、他の皆も同じことを思っていたらしい。
「リュミエールを責めないで上げてね。すべては私のわがままだから」
「どういう事?」
彼女の一言に怖い目で睨み付けながら言う春奈。
その目つきに動じることなく、あっけらかんとした様子で、
「じつはさあ、夜まで表に出ることはできないからって、
伝言を言付かったんだよね。でもこういう大事なことは、
自分の口で言うべきだと思ったんだよ」
リュミエールとしては一刻も早く事を伝えたかったのだが、
瞳が伝言を断ってしまい、結局一日無駄にする結果になった。
つまりすべては瞳が悪いのであった。
この一言に、一発殴りたい気持ちに駆られる修一だが、
女性相手に、手を上げずらいので、とりあえず抑えたが、
その代わり、春奈の拳が瞳の頭に炸裂した。
「いた~い!」
殴られた場所を手で押さえながら言う瞳。
「何が自分の口でよ!アンタの所為で一日無駄になっちゃったじゃない!」
と怒号を上げる春奈。この瞬間、この場にいた全員が春奈に同意している。
「一日くらい、いいじゃない。それに今日は水曜日だよ」
「それがどうしたのよ?」
「途中に土日を挟んでるって事、対策室の二人はともかく、
私たちが本格的に動けるのは、土日しかないじゃない」
「それは……」
言葉に詰まる春奈。そう、瞳の言うとおりなのである。
世界の危機とは言え、状況が状況だけにこの街においても、
信じてもらえる内容じゃない。
澄玲やミオも、怪獣の反応があるから、動けてるだけで、
世界の危機を信じて動いているわけじゃない。
それ以前に、タイムリミットがあるとはいえ、
その気になれば修一たちでも、どうにか出来るほど規模自体は小さなことだから、
周りを巻き込む必要はないし、また事が無事終わった時の事を考えても、
普段の生活の維持も必要であった。
さらに瞳は、意地の悪そうな笑みを浮かべて、
「それに、あの二人、特にミオって人は情報をくれないだろし、
私はリュミエールからミューティの反応を察知する力を借りてるから」
つまり瞳が唯一の情報源となるようだった。
「つまり、私の機嫌は損ねない方がいいよ」
と言い出して、その場は静まり返った。
情報源が失われるのは、問題なので瞳には何も言えなくなったのだが、
(こいつって、本当に本質は正義なのか?)
そんなこと思う。修一だった。
その後、みんな瞳の家を出て帰路に就くのだが、
(あと七日か……)
事が大きすぎて、まだ実感はわかないが、
先も言った通り正義感と言う病気が出ているので、やる気だけはあった。
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