27「世界の危機」

 千里耕史が去って、数日後。

あれからゲートから魔獣が出現して、騒動になった事はあっても、

怪獣は現れないし、いつもの日常に戻ったようであった。

そんな中、修一は下校中に蒼穹とばったりと会った。


「今帰り?」

「ああ……天海もか?」

「ええ……」


出入りする場所が違うものの同じ家に住んでいるので、

方向が同じなわけだから、二人は自然と一緒に帰る事になる。

なお修一は一人だったが、蒼穹も同じで、


「黒神は?」

「学校の用事で、居残りなの」

「そうか……」


このあとは、しばし会話はなかったが、途中、分かれ道に入るところで


「そういえば、あれから創月さんに特に変わったところはないわ。

元に戻ったままよ」

「リュミエールは、もう……」

「いや創月さんの話じゃ、まだいるみたいよ」


瞳は特に聞いてもないのに話してきたという。なんで話してきたかと言うと、瞳曰く


「気になってるででょ?」


との事だった。確かに気にならない訳じゃなかったが、

どうしても聞きたいほどの事じゃなかった。


「まだ治療は、終わってないって事か……」


リュミエールが、まだいるからと言って、何かあるわけじゃないのだが、

何か起こるんじゃないかと言う不安は感じていた。

その不安は現実になっていくのだった。



 深夜、自宅で眠りにつく瞳。その枕元に光の玉が現れる。


『リュミエール、目を覚ませ』


と女性の声が響き、目を見開く瞳。


『緊急事態が起きた。ミューティの母体がそっちの星に向かっている』

『なんだって!』

『こちらも迎撃を行ったが、横槍が入って失敗に終わった。

そちらの応援を送ることもできない。連絡を入れることで精いっぱいだ』


声の主はリュミエールの同胞で、光の玉は通信装置のようなもの。


『敵の速度は速いから、今から迎撃は無理だろう。

いやもう漂着しているかもしれない』

『漂着は、確認していない』


と答えると、


『そうか……今の君に、迎撃自体難しいと思うが……』


同胞は、現在のリュミエールの状況を知っている。


『わかっていると思うが、母体が生物が生息する惑星に漂着した場合。

恒星系ごとの滅却処分だ。かつての悲劇を繰り返さないためにな』

『わかってる……だけど……』

『偏狭で、優先順位は低いとはいえ、命は尊い。我々としても苦渋の決断だ。

だが迎撃には失敗したものの、弱体化には成功した。そして君の報告では、

その星には、魔法と言うミューティを容易に無力化する力がある。

その事実を鑑みて、猶予を与える事とした』

『猶予?』

『そうだ。その星の時間で明日より八日間だ。その間に母体を撃破し、

無力化する事。それ以上だと奴は力を取り戻す上、システムの都合上に待てない』

『分かった……』

『健闘を祈る……』


ここで通信は途切れ、光の玉は消えた。そして漂着を感じたのは、この直後だった。








 翌日、昼休みに修一は瞳から連絡を受けた。

元に戻っているのは分かっているから、正直出たくなかったが、

それはどれで気になるので、結局出る事とした。


「今夜、私の家にくれないかな?」

「なんで?」

「リュミエールがチミたちに話があるんだって」


リュミエールは、基本寝ているそうだが、時折起きて、

瞳とは意思疎通が取れるそうだが、

ただ以前の様に瞳の体を使って外部と意思疎通するとなると、

さらに時間が限られていて、その日は夜にならないとできないという。


 リュミエールが話があると聞いて、ものすごく嫌な予感がした上に瞳が、


「この世界の存亡にかかわる重要な事だよ」


なんていうものだから、正直行きたくはなかったが、

その日の晩、瞳の家に向かった。


 瞳が意地の悪そうな笑みを浮かべて、


「おやおや、チミ達お揃いで」


この時修一は、蒼穹と一緒だった。彼女も呼び出されていて、

家を出る時間は、蒼穹は里美を誤魔化すために、

手間取った所為もあって、出かける時間は異なっていたが、

偶然にも、一緒になってしまった。


 修一たち以外にも人を呼んでるようだが、


「君たちが一番乗りだよ」


と言うように、他には誰も来ていなかった。そして応接間に案内される。


「待ってる間、お茶でもどう?お菓子もあるよ~ん」


ティーポットと、クッキーの乗ったお皿を見せつける。すると修一と蒼穹は、


「「結構!」」


と強い口調で、同時に言った。


「おやおや、息ぴったりだねぇ~」


と指摘され、顔を赤くする二人。


「ほら~そんなに顔赤くしないで~」


と煽りつつ、


「ほら、遠慮しないでさぁ~」


と言って勧めてくるが、


「アンタが勧めるものは、食べちゃいけない。そんな気がする」


と修一が言うと、蒼穹も頷いた。瞳は出す食べ物に一服盛っていても、

おかしくないと思われる人間である。


「失礼だねチミ達は」


と言いつつ彼女は、ソファーに座り、

ティーポットから紅茶をカップに注いで飲みクッキーを食べて、

安全性をアピールするが、それでも安心感はない。


 なおこの時、修一と蒼穹は、立っていたが、


「チミ達も座りなよ」


と言われたが、素直に座る気にはなれなくて、二人とも立っていたが、


「さっさと、座りなよ。こっちも気を遣うじゃないか」


と言われ警戒しつつも、修一は先に座った。


「特に何もないよね。気にしすぎなんだよ」


とはいえ何かしでかしそうな雰囲気を醸し出す彼女を前に、

気にするなと言うのが無理だった。


 修一が座った後、蒼穹は彼から離れた場所に座ろうとするが、

瞳が妙にニヤニヤするので警戒してしまい、

場所を中々決められず、結局、修一の隣になってしまった。

彼の隣が安心するとかじゃない。

他の場所が、なんかありそうで、怖かったからである。


 瞳は蒼穹が座るとしてやったと言うような表情を浮かべたかと思うと、

丁度チャイムが鳴った。


「春ちゃんたちかな?ちょっと出てくるから」


そう言って一旦居間を離れようとするが、


「そうそう、席は変わらない方がいいかもね……」


と怪しい笑みを浮かべて瞳は一旦出ていく。

この言葉は、呪いのようになってしまい。

蒼穹は、この場から動けなくなってしまった。

だがこの後、瞳に呼ばれたであろう春奈たちがやって来て、

他の場所に座り、何事もないようなので、嵌められたと思った。

そう修一の横に座るよう誘導されたのである。

だがそれに気づいたところで、今更動くと妙な目で見られそうなので、

今更動くことができず、恨めしそうに瞳を睨むことしかできなかった。


 さてこの場に集まったのは、修一と蒼穹の他、魔法少女たち全員に、

途中からあまり関わっていないメイに、

逆に途中から事情を知った秋人、対策室から澄玲とミオ。

連絡を入れたのは澄玲だけだか、ミオは、その事に気づきついてきたのだった。

ともかく、事情を知る関係者がそろった。


 そして全員がそろうと瞳は、ソファーに座り、うなだれたかと思うと顔を上げた。

表情から笑みが消えて、真面目な顔立ちになる。


「リュミエールか?」


と修一が尋ねると


「そうだ……」


と答え、


「この星に危機が迫っている。ミューティの母体が出現した」

「母体?」


と修一が聞くと、ミオが


「やっぱり……」


と言った。


「やっぱり?」


と蒼穹が聞くと、澄玲が、


「昨夜、郊外で、わずかな時間ですけど、

セカンド、あなた達の言うミューティの反応があったんです」


ただ今は消えているという。その事を聞いたリュミエールは、


「君たちも察知しているとは、さすがだ」


と言いつつも、母体の説明を始めた。


「母体と言うのは、すべてミューティの根源となる怪獣」


その見た目は、巨大な爬虫類と言うか恐竜みたいな感じだが、

醜悪で狂暴そうで、禍々しく見るからに悪魔と言いたくなるような。

これぞ怪獣と言えるような姿だという。


「突然変異で、とある惑星に現れた。これまでの個体とは違って、

自然界でもあらゆる生物と結合するし、結合も頻繁に起きる」


それによって、その惑星のすべての生命体が怪獣に変わり、

怪獣たちは、惑星を飛び出し、それぞれがまた多くの怪獣を生み出した。

なお怪獣にならなかった生物もいて、

そこにはリュミエールの一族やフィレス星人も含まれるが、

少数である。


「ボクたちはミューティを倒してきたけど、母体はいつも取り逃がしてきた」


そして長く行方不明なっていた母体が突如として現れ、

地球へとやって来た。

 

 そして、同胞が迎撃に当たったが失敗し、現在身動きが取れないことを話し、


「最初の惑星時、ボクたちの同胞は惑星の生物を救おうとして

失敗して、多くの惑星に迷惑をかけることになった。

故に、母体が生物のいる惑星に漂着した場合、

恒星系ごと滅却処理する事になってる」


この一言に、修一が血相を変えて、


「滅却処理って……」

「自立起動している恒星系滅却システムが、母体が惑星に漂着を確認次第、

超高熱の火球を地球に撃ち込み。太陽系そのものを蒸発させる」

「えっ!」


驚く一同。漂着は、確認されているから、ミオは


「じゃあ、この世界は終わりって事!」


だが瞳は淡々とした口調で


「いや、今回は猶予がある。同胞は失敗したものの、弱体化には成功した。

今の母体は通常のミューティと同じだ。

この星には、ミューティの細胞を無力化する術もあるから」


そう魔法や、修一の「イーブン」の事。

加えて、弱体化した細胞は本体から離れた場合は、

力を取り戻すことはなく弱体化したまま、

それでも危険なものであることには違いない。


「期限は今日を含めて8日、それ以上だと母体は力を取り戻すし、

システムも抑えることはできない」


もう夜なので、実質7日だ。その間に母体を探し出し、撃破しないといけない。

そうしなければ、世界が終わるからだ。


 この状況に修一は、


(これまで厄介ごとはあったが、世界の危機とは、特大級だな。

昔の映画に、こんな展開合ったような)


途轍もない状況下であったが、現実感が湧かないところがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る