26「耕史との決着」

 亮一達が辿り付いた場所では、壁の向こうから攻撃をしているのか、

壁板が大きく膨らんでいた。そして亮一は、呪文を唱えたかと思うと大声で、


「助けに来たぞ!手伝おうか!」


と呼びかける。声は耳からだけじゃなく、


「何よこれ!」


声は周囲にいた蒼穹達の頭に響いたので、

呪術でテレパシー的な物も付与したものだと思われる。

声を掛けても状況に変化はなく、亮一も、


「やっぱり、聞こえて無いな」


声だけでなく、テレパシー的な物も聞こえて無いようだった。


 だが手伝いの必要はなく、直ぐに壁に穴が開き、出てきたのは、


「赤い怪人……いや、お前、修一か」

「アンタは龍宮亮一、何で?」

「お前の友達から話を聞いて、助けに来たんだ。それにしても……」


亮一は赤い怪人の姿をまじまじと見て、


「『性転換』の事は知ってたが、まさかそんな姿に成れるとはな」

「知ってたのか?」

「ああ、先生から話を聞いて……」


と言った時、しまったという顔で口を塞ぐ亮一。

すると蒼穹は、不機嫌そうに、


「ここにいる皆は、全員知ってるわよ」

「それは良かった……」


と安堵の表情を浮かべた。能力の性質的にデリケートな部分があるからだ。

ただ蒼穹はミオたちの事を失念しているが、

修一が同一人物証明書を発行してもらっている関係上、

役所の記録があるので、二人も調査の過程で、知っていたりする。


 更に修一は、事実を知る母親が学校関係者以外の、

第三者に教えていたとは思わず。


「何やってるんだよ母さん……」


と赤い怪人は頭に手を当てて言った。

だが赤い怪人こと恵美と言うか修一は、そんな事を気にしている暇はなく、


「すいませんが、部屋の中の人をお願いします」

「部屋の中?」


亮一たちが部屋をのぞき込むと、


「これは、またすごい事になってるな」


どこか嬉しそうに言う亮一、蒼穹は、血相を変えて、


「どういう状況なの!これは!」


と声を荒げた。同じく覗き込んだ春奈は、


「エクスマキナのロボット……」


そこには、捕食スキルで召喚された数体の人間大のロボがいて、

更には、修一に迫ろうとしていた女性たちが、意識を失っていた。


 更にミオも、


「説明してもらいませんか」


と迫って来る。


「それはですね……」


千里耕史が色仕掛けと称して、洗脳した女性たちを嗾けてきた事を説明し、


「さすがに女性には、直接手が出せないんで、

ロボを召喚して、抑えようとしたんですけど」


この街の人間なのだから、全員、超能力や魔法、

超技能と言った特殊な力を持つので、

拘束は難しく、ロボに命じて気絶させるしかなかった。

なお気絶はしているが、大した怪我はしていない。


 なおロボを召喚しないといけなかったので、

召喚は赤い怪人の力でもあるので、「イーブン」が使用できずに、

脱出に少し手間がかかった。


「とにかく、後の事を頼みます。あの野郎をぶん殴らないと……」


 修一はその気になれば、あの部屋を脱出できた。

じゃあ、何故いたのかと言うと、

あの部屋で好き勝手した挙句、断るという事をしたかった。

要は耕史に対して嫌がらせがしたかったのだ。

あとこれが一番の目的だが本人がやって来たら、一発ぶん殴りたかった。


 しかし耕史がまさか、女性を利用して色仕掛けを仕掛けて来るとは、

思わなかったので予定を変更して、こちらから、うって出る事にしたのだ。


「あの野郎、何処に居やがる」


宇宙船の中を家探ししそうな赤い怪人に、


「外で、巨大化変身してイクシードと戦ってるわ」


蒼穹がそう答えると、心配しているような声で、


「大丈夫なのか」

「分からないけど、どうなんだろ?」

「とにかく、外に出ないと……」


宇宙船のサーチ除けはかなり強力なようで、

赤い怪人の力でも、分からなかった。ただ亮一達は入って来たばかりなので、

当然、分かるので、蒼穹が代表するように、


「外に出たいなら、こっちよ」


と蒼穹の案内で赤い怪人は、宇宙船の外へと向かうが、再度、赤い怪人は


「後の事はたのむ」


と言った。なおイーブンを使う為、ロボの召還は解除され、

ロボたちは地面に飲み込まれるかの如くの消え方で、その姿を消した。


 残された亮一達だが、中でもミオは、修一の話を俄かに信じられなかった。

彼女は担当外とはいえ、魔法少女とその敵の情報は知っている。

故に、さっきまでいたロボがエクスマキナの使用していたものである事を、

ミオは知っていたし、それが影響している。

加えて赤い怪人の捕食スキルを知らないので、

何故ロボが消えたのか分からないのも不信感を煽っていた。


 すると、ここで亮一が、呪文を唱えたかと思うと


「今術で、確認したが、洗脳されているのは間違いないみたいだ。

これから解く。目を覚ました時には正気になってるだろう」


と言って再度呪文を唱える。なおさっきのは確認の呪文、

今度は洗脳を解く呪文である。そしてミオは、


「しかし、消えたあのロボは、あれはエクスマキナのロボよ」


と言った後、春奈の方を向いて、


「そうよね?」


と聞くと春奈は、


「ええ……」


と答えつつ


「あれは捕食スキルによるものです。

桜井君は以前エクスマキナと戦ったことがあって、

その時に、スキルでロボを捕食していたようなんです」


そして千代子から聞いたことで、赤い怪人の左手から影のような物を出して、

それがロボを取り込んで捕食した事と、捕食したものを召喚して操る事を話す。


「そんな事が……まあ捕食スキルには、

そう言うのもあるって聞いたことがあるけど……」


この時、赤い怪人が修一だと、

知ったばかりで得体の知れなさも感じているので、

まだ信じがたいという様子だった。


 この後、洗脳解除の処置を行った女性たちを宇宙船から連れ出したり、

ミオが一応巨大な宇宙人が現れたので、対策室に連絡を取った。

郊外の森なので、まだ情報は入っていなかった。

なお女性たちの搬送に当たっては、イクシードとフィレス星人が戦っているので、

気を付けてただ、搬送自体はミオや澄玲、秋人、春奈、麻衣で行って、

亮一は関わっていない。それはミオや春奈が頑なに拒否したからだ。


「私たちの気づかないところで、何をするか分かったもんじゃないから!

さっきだって洗脳を解除するとか言って、何かしたんじゃないの」


実際に洗脳を解除しただけで、それ以上の事は何もしていない。

亮一は、女好きであるが、

意識を失っている女性に何かするような外道ではなかった。


「信用ねえんだな」


ミオたちによって女性たちが運ばれていく姿を前に、亮一は苦笑いするのだった。







 外では、イクシードとフィレス星人との戦いは続いていた。

円盤に人が入っていくのを確認していたので、その後は戦いながらも、

巻き添えにしない様に距離を取るようにフィレス星人を誘導し、

離れた場所で行っていた。

ただフィレス星人も円盤を巻き添えにしたくなかったので、

イクシードに誘導されたというよりも、あえて乗っかったという形が正しかったが。


 なおイクシードが押され気味になっていたが、

状況はさらに悪化し完全に劣勢になっていた。

蹴りを喰らい地面に倒れ込むイクシードに、フィレス星人は、

追撃として両手から無数の光弾を放たれ、イクシードは爆発に包まる。

そして煙が消えると、ボロボロになって倒れているイクシードの姿。


『もうやめよう。僕はこれ以上女性をいたぶる趣味は無いからね』


だがイクシードは立ち上がり、光弾で攻撃を仕掛ける。

フィレス星人はそれを腕で振り払った。


『戦いを辞めないというなら、紳士な僕でも手を上げざるを得ないんだよ』


それでもイクシードは、戦いを挑み、接近し拳や蹴りを繰り出すが、

フィレス星人は腕でガードし、カウンターを叩き込む。


『さてとそろそろ終わりにしようか』


フィレス星人の右手に光が集まり始めて攻撃の準備が整う。

一方、イクシードも両手を前に突き出し、光が収束する。

そして、お互い必殺の一撃と言わんばかりの光線が放たれる。


 光線はぶつかり合うが、最初は拮抗しているも直ぐにイクシードの光線が押し負け始める。


『今の君に勝ち目はないと言っただろ。

勝てるとすれば、一体化している娘の治療を諦めることだ。

治療に割いている力を戦闘に回せば多少は勝ち目はあるだろう』


もちろんギガアウラウネとの戦いによる疲弊があるので、

勝てるかどうかは、分からない。

それ以前にリュミエールは、その選択は選ばない。


 だがイクシードの光線が押し負けていき、


『終わりだね。僕としては穏便に済ませたかったんだけど……』


絶体絶命の状態だったが、突然それは起きた。


『えっ!』


突然、転倒するフィレス星人。突如として足に蹴りを入れられたのだ。

それは自分と同サイズの巨人のものだ。

しかしイクシード以外にそんな巨人はいないし、

光線を撃ちあっているイクシードとは距離が離れている。


「変身して巨大化とは、特撮みたいだな!」


という声がした。


『桜井修一……』


声の方には修一の姿があった。

彼は元姿に戻っていて「イーブン」を使ってフィレス星人の足に蹴りを叩き込んだのだった。

イクシードに集中していて、修一の姿に気づかなかった。


 そして修一は「イーブン」にも付随する飛翔能力で、空を飛び、

倒れているフィレス星人の脛に踵落しを食らわせる。

フィレス星人は自分と同サイズの巨人に踵落しを喰らう形になり、

のたうち回る事に、更に落ち打ちとして、鳩尾に急降下キックを喰らわせた。

更に悶絶したような状態になる。


 しかしここまで済ませるつもりはなく、倒れて悶絶している体をかけていき、

丁度、頭のあたりに来た時、思いっきり殴りつけた。

拳が当たると、フィレス星人と同サイズの強靭が殴ったかのように、

頭が大きくへこむ。そして一発とは言っていたが、気持ちが収まらず、


「オラオラオラオラオラーッ!」


と言う掛け声と共に何度も殴りつけ、文字通りボコボコにした。


 やがて、


『降参だ!』


と声が聞こえると、フィレス星人の体が光りに包まれる。

修一は素早く体から離れる。するとフィレス星人は千里耕史の姿になっていた。


「酷い顔ね」


状況見守っていた蒼穹が、耕史の顔を見て言った。

耕史の顔は晴れ上がり、鼻血もでて、文字通りボコボコなっていた。


 そんな耕史は、修一を見て、


「ここまでされたら、不本意だが、手を引かざるを得ない。これも僕らの掟だ」


フィレス星人の侵略の掟では、交渉役に暴力を伴なう拒否をされた場合。

侵略は失敗とし、撤退しなければいけない。


「結末は一緒だな」


とここにやって来たのは亮一。女性たちの搬送の手伝いは拒否されたので、

こっちに来たのだった。


「あの時も、涼一にボコボコにされてたな」

「父さんが……」


耕史は修一を見ながら、


「そうだよ。彼は最後まで僕を拒否して、最終的に、こんな目に遭わせたんだ。

『歴史は繰り返す』僕の苦手な言葉だ」


そう言って自嘲気味に笑う。


 そして、


「今回も失敗だけど、僕は諦めないからね。次こそは上手くやって見せるさ。

必ず戻って来るからね」


そう言うと耕史は姿を消した。直後、森の中の円盤も飛び去った。

どうやら耕史は去って行ったようである。


 耕史が消えた後、修一達の視線はイクシードの方に向いた、

彼女は地面に膝をついた状態で動かなくなっていたが、

光に包まれると、瞳の姿に戻った。蒼穹が、


「随分と顔色良くなってるわね」


と言うと瞳が、


「たぶん彼女が眠ってるからだろうね」


と返してくる。


「眠ってる?」


その後、修一たちの方を見ると、


「チミ達、面白い組み合わせだね」

「!」


修一達も瞳の様子が変わっていることに気づく、

正確には戻っているというべきか、


「女たらしのたっちゃんに、桜井君とどうしてこうなってるのかな?」


修一は、


「お前、まさか」


亮一は


「戻ったのか」


そして瞳は、


「リュミエールは眠ってる。私は創月瞳だよ。お久しぶり」


と言って笑みを浮かべるのだった。

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