25「助けに来た者たち」
千里耕史は、相変わらず穏やかな口調で、
「さっきも言ったけど、僕たちだって一枚岩じゃない。
僕は、紳士な方だけど、掟破りの奴もいる。実際、僕の妹なんてそれさ」
「お前、妹がいるのか」
「ああ、これが酷い奴でね。乱暴者で卑劣で下品極まりない掟破り。
僕も迷惑してるんだ。おかげで僕の行う侵略も厳しい目で見られるようになった」
彼が点数を気にするのもその所為らしい。
「妹も、この星の将来性に気づいている。
今はこれまでの事があるから、実家で大人しくさせているけど、
いつまで抑えられるか分からない。そう言う奴は他にもいる。
さっきも言ったとおり、不出来な同族から守るためにも、
僕と手を結んでいた方が良いけどね」
そうは言われても、やはり心は動かない。
あからさまな悪魔が、いくら美味しそうな飴をちらつかせても、
普通は手を伸ばそうとは思わない。それでも手を伸ばす事があるなら、
それは、その飴が正常な感覚を狂わすほど魅力的が、
或いは手を伸ばさなければいけない程、追い詰められているかのどちらか、
しかし修一はどちらにも該当しない。だから、
「断る!」
とはっきりと答える。
耕史は、予想していたと言わんばかりに、
「まあ、時間は十分あるから、じっくりと……」
と言いかけて、
「いや、そうでもないか、また邪魔者が来たね」
「また?」
修一は、自分を助けに友人が来たと思ったが、「また」という言葉が気になった。
「君のお父さん時と同じだよ」
と言いつつも、
「こんな破廉恥な手は使いたくないけど、しかたない」
そう言って指を鳴らすと、
部屋の一角が開いて修一よりも年上の美女達が姿を見せた。
「彼女たちは、この星の女性だよ。軽く洗脳してるけどね」
そして女性たちは修一の寄って来る。
「お前、何を……」
「実は、色仕掛けは、原点対象じゃないんだよ。
僕はあまり好きじゃないんだけど」
と耕史は苦笑いしながら言って、
「じゃあ、楽しんでね」
と言うと耕史のホログラムは消える。
「ちょっと待て!」
と叫ぶが、
「さあ、たっぷりと可愛がってあげる」
女性達が迫って来る。ある意味ピンチな修一だった。
一方、森の中で早口で呪文を唱えた後、
亮一は、しばらく印を組んだまま黙っていたが、ガラスが割れるような音がすると、
「結界は解けた。行くぞ」
前へと進みだす亮一、後を追う秋人たち。
蒼穹は、さっきまでは、変化がなかった風景が、
進むにつれて、これまでとは変わっているように感じた。
やがて、開けた場所にやってくる。すると先客がいた。
「貴方たち……」
「ミオミオ……」
「その名で呼ぶな!」
と怒号を上げるミオ。どうやら亮一とは面識があるようだった。
「所で、これはどういう集まりなの!アンタまさか!」
ミオは亮一が女たらしである事を、知っているのか、
蒼穹と同じようなやり取りが行われ、秋人が事情を説明する。
「後は、私たちに任せるように言ったでしょ、それに学校はどうしたの?」
ミオたちは、学校が休校になっていることを知らないようだった。亮一は、
「今、学校は休校になってるんだ。それよりどうしてお前たちがここに居るんだ?」
すると、側にいた澄玲が、
「それはですね……」
と説明しようとすると、
「しなくていいわ。企業秘密よ」
今回、転移残滓を追跡した装置は、守護神機関が既存のものを改良したもので、
そこでしか使っていないものであるが、
「秘密にするような事でも……」
転移残滓の追跡は、一般人ではできないが、知られている事で、
「大方、転移残渣を追って来たんだろ?」
と亮一にも言われた。
実際、転移残滓を追って、途中、結界の所為で迷ったわけであるが、
亮一が解除したのでこの場に、しかも亮一達よりも先に到着した。
そして亮一は
「とにかくここに修一がいる……」
と言う亮一に、蒼穹は不機嫌そうに、
「何もないじゃない……」
と言うが、澄玲は、
「残滓を追跡したところ、ここで間違いないですよ」
でもこの場には何もない。しかし亮一は冷静な口調で、
「姿を隠してるだけだ。前もそうだった……」
亮一は何もないところの向き、
再び早口で、呪文を唱えながら、素早く複数の印を組んだ。
すると、何もない所に円盤が出現した。
「円盤の形も昔と同じだな」
と亮一は言ったので、ミオは
「昔って、どういう事?」
亮一がかつて耕史と関わった時は、守護神機関は公的なものになっていたが、
伝えてはいなかった。別に通報義務はないし、
特に話すべきこととも思わなかったからだ。
それは今も同じで、特にこの事を話すつもりはない。
ミオの質問に答える事はなかったが、円盤とは別の方向を向き、
「そこいるのは誰だ!」
呼びかけると、物陰から瞳が姿を見せて、
「気づかれたか……龍宮亮一だっけ、さすがだ」
「創月瞳……」
亮一と瞳には面識があるようだった。
瞳が知っていれば彼女の中にいるリュミエールも知っている。
なお彼女の登場にミオは不機嫌そうな顔をした。
だが亮一は目を細め、
「いや、お前は誰だ?瞳に憑りついているお前は!」
どうやら、リュミエールの存在に気づいたようで身構えるが、麻衣が、
「あの……瞳さんに憑りついてますけど、信頼できますから」
と言うと、
「麻衣ちゃんが言うなら……」
亮一は構えを解くが、信用できてないという様子だった。
そんな瞳は、先の戦いの疲労が残っているようで、まだ顔はやつれていた。
そこに本当に信用できない奴が現れた。
「久しぶりだね。龍宮君」
声のする方を見ると、
「千里耕史……」
耕史は、円盤の前に余裕ぶった表情で立っていた。
「あの時を思い出すねえ。
変わったのは、君が『先生』の立ち位置になった事くらいか」
「桜井修一は返してもらうぞ!」
「セリフはほとんど一緒だね」
そう言って、耕史は笑いだす。
この直後、瞳が、
「マジカルジュエル・メタモルフォーゼ!」
とイクシードに変身し、巨大な腕で耕史を捕まえ、持ち上げた。
「ぐ……」
しかし耕史は、巨人に積まれている状況の中、余裕の表情で、
「リュミエール、君の様な淑女が、
人間の姿の僕に手を出すという卑怯なマネをするとは……」
「………」
険しい表情で、
「目的の為には手段を選ばず。僕の好きな言葉だ」
すると耕史は光に包まれ、衝撃波が放たれ、手放してしまうイクシード。
そして耕史は、巨大化し黒い巨人となった。
「あれは!」
と声を上げる秋人に亮一は、
「あれが、フィレス星人の戦闘形態だ。もっとも昔はあんなにでかくなかったがな」
亮一がかつて対峙した時は、人間サイズだった。
そして亮一は、麻衣に、
「アイツは、信頼できるんだよね?」
「はい……」
「じゃあ、後は任せて修一を助けに行く」
円盤の方に向かっていく亮一に、付いていく秋人達。
そして亮一は円盤に近づくと、素早く印を組み早口で呪文を唱える。
すると扉のようなものが開いた。
「どうやらあの時と一緒だな」
安堵した様に言った。そう亮一は、かつて同じ状況にあった時、
いろんな術の組み合わせを試し、時間を掛けて見つけている。
その為、以前はかなり焦ったが、開け方に変化は無かったので安堵したのだ。
そして円盤の中へと入って行く亮一。
「ちょっと待ちなさい!」
と声を上げ追っていくミオ、
そして残りの面々もあと追って円盤に入っていくのだった。
亮一達が円盤に入って行ったあと、
対峙するイクシードとフィレス星人。両者テレパシーで会話する。
『フィレス星人、桜井君を解放し、この星から出ていくんだ』
『断るよ』
両者は戦闘を開始した。イクシードは左手に魔法陣が浮かび上がると共に光弾を発射する。
フィレス星人も青い光弾を撃って来て、打ち消し合う。
その後も光弾による撃ち合いが続くが、互いの光弾で打ち消し合ったり、
打ち消せなかった分は、互いに手で弾いたりして、互角の勝負になっていた。
遠距離戦では勝負はつかないと思ったのか、
接近し格闘戦に移行、イクシードの拳がフィレス星人の顔を狙うが、回避される。
そしてフィレス星人は、蹴りを入れて来るが、イクシードは腕で防御。
その後も、両者の戦いは続いた。
最初こそ互角かと思われたが、途中からフィレス星人の方が有利になっていた。
イクシードの拳や蹴りよりもフィレス星人の攻撃の方が、
徐々に当たり始めていたのだ。
『どうやら、ギガアウラウネとの戦いの傷が癒えていないようだね。
それに礼の切り札を使ったのも不味かった』
と余裕の態度で言うフィレス星人。
『別に狙ったわけじゃないよ。でもこの状況はラッキーだね』
イクシードは返答する事はなく、構え直し、
フィレス星人に殴りかかるが、ギリギリで回避され、拳によるカウンターを喰らう。
イクシードは後退するが、直ぐに反撃のキックをフィレス星人に繰り出す。
しかし再び回避されて、再度、今度は蹴りによるカウンターを受けてしまう。
ここで更に、
『これ以上続けると、君だけじゃなく、一体化している人間にも影響が出るよ。
ダメージの引き受けにも限度があるだろうしね』
するとフィレス星人に再び蹴りを入れられてよろけてしまうイクシード。
『今の君に、勝ち目はないんだよ。リュミエール』
だが、それでも戦わなければならなかった。
それは、彼女の性格と言うべきか、
耕史がミューティの細胞を利用したという事もあるが、
侵略されようとしている星を前に黙っていられない。いわば正義感故であった。
さて、円盤内部に突入した。亮一達の前に、
無数の人型ロボットが、向かって来る。
「ガードロボットね」
そう言うと、ミオは銃を取り出す。
更に秋人は杖を手に、蒼穹は素手で、身構え、
春奈と麻衣は変身アイテムで、今すぐ変身しようとするが、
亮一が、前に飛び出し、早口で呪文を唱え、素早く印を組み手を前に突き出し、
「破!」
と言う掛け声と共に気弾が放たれ、ロボットたちを破壊していく。
「ガードロボットは、この星の超科学のロボとあまり変わらない。
お前らでも、容易に破壊できる」
と言いつつ、
「あの頃と一緒だ」
とも言った。
かつて、囚われた涼一を助けに円盤に乗り込んだ時もこんな感じだった。
ただあの頃よりも亮一の腕は上がっているので、
ロボットは彼一人でも十分のようだった。
ガードロボットは一通り倒すも、問題は修一の居場所だ。
ただ宇宙船の中は広いので、秋人は、
「サーチ……」
分析魔法を使うが、
「無理か……」
サーチ除けがされているのか、
それとも異星人の船ゆえにか、効果はなかった。更に、澄玲が
「時間切れで、もう残滓は追えません」
と言った。蒼穹は、
「広いから、手分けして……」
と言っていると奥の方から、壁を叩くような音がした。
「どうやら、探す必要はなさそうだな」
と亮一は言い、音のなる方へと向かって行った。
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