21「交渉開始」

 秋人やミオへの説明の中で、フィレス星人について新たなというか、

割とどうでもいい情報として、フィレス星は24時間周期なので、

その生活リズムも人間と同じだという。

ここで重要なこととして、フィレス星人は夜寝るのである。

つまり夜遅くなると、絶対ではないものの襲ってくることは少ないということ。

したがって24時間護衛する必要はないということだった。


 だから、朝学校に行くときは秋人と一緒に登校する。

二人は普段から一緒だから、周囲にもおかしいと思われない。

とにかくできる限り秋人と一緒に行動する形になった。


 もちろん、遠巻きになるものの、春奈たちも様子を見るし、

特に、部活に時は同じ部なので春奈と麻衣が一緒部部室に行くし、

帰りは部活の関係で常に秋人が一緒とはいかないものの、

パトロールの合間に、魔法少女たちが様子を見るし、

ミオと澄玲が修一を監視していた。


 そして蒼穹も、護衛とかは考えてはなくとも、

話を聞いたからには気になるのか、

階下からの音を聞く形で、修一の状況を気に掛けていた。ただ時々、


(何やってるんだろう。私……)


と思う瞬間は何度もある。

なお修一が恵美になったまま戻れなくなったあの日々から、

二人の距離は縮まりつつあるが、素直になれないところがあった。


 それから一周間、特に何事もなかった。

あとふと気になって修一は蒼穹に、自宅に居るとき携帯電話で瞳の事を聞いた。


「学校には来てるけど、顔色はあまりよくないわね。

彼女に関わりたくない生徒も、心配してるくらい」


本人は大丈夫と言っていると事だが、

この一週間かけても調子は戻っていないとの事だった。


「そうか……」

「彼女の事が心配なの?」

「まあ、あんな姿を見せられたらな」

「そう……」


どこか含みのある言い方だった。


「でもこんな時に、襲ってきたら危ないんじゃない?」

「かもな、でも来るなら来いってところだよ」


基本普通で居たいので、厄介ごとは嫌なのだが、

今回ばかりは、耕史を殴りたいという思いから、

そんな気分になっていたのだった。ここまで話をしたところで、


「里美に気づかれそうだから切るわね」


といって電話は切れた。


 さてその千里耕史に関してであるが、澄玲から連絡があった。

これも家に居るときに受け取った。


「桜井君は無関係とはいえないので、話しておきますが、

千里耕史と言う人間は実体のない人間でした」


千里耕史は、最初に調べたところ記録上は、存在した。

しかしこの一週間、守護神機関に彼をより深く調べると、

ここ最近を除き、彼を知っているはずの人間、誰一人いない事が分かった。


 例えば、彼の生家、既に無くなっていたが、その近所の住民に聞き込んでも、

彼を知る者はいなく、記録上在籍していた学校で、

同級生、小中高と知らべても、こちらでも知るものが誰一人いなくて、


「千里さんを知る人が出て来るのは、彼が就職したころで、

ここ二年くらいの事になります」

「じゃあ、二年くらい前に急に現れたという事か」

「恐らく戸籍や学歴とかは、ハッキングで書き換えたものじゃないかって話です」


ハッキングと言っても宇宙人であるフィレス星人の高度な技術を持っているので、

書き換えは容易だっただろう。


「ご丁寧に、マイナンバーカードまで取得しています」

「随分と用意周到だな」


リュミエールの話ではフィレス星人が地球の方に向かったのは、

二年前だから時期も会う。


「その後は、この二年間は真面目に働き、

ボランティア活動にも熱心だったそうですよ」


なお周囲の評判は悪くはない。でも中には、胡散くささを感じる部分もあって、

距離を置いている人も少なからずいるらしい。


「彼が宇宙人であるかはともかく、

得体のしれない人間である事は間違いないようです。今後も気を付けてくださいね」

「わかった」


と修一は返事をした。


「それと20年以上前の九龍に見た目のよく似た。同姓同名の人間が居たそうです」


それは聞き込みの過程で、分かった事だという。


「年齢的にもあっていないので別人だと思うのですが、

ただフィレス星人は過去にも来訪してるんですよね?」


同一人物は不明という事だったが、もし本人なら

二度目の来訪という事になる。それがどうしたと言う所だが。


 そしてその翌日の事だった。その日も、学校に行く途中で、

秋人も一緒だったし、遠目で春奈たちもいた。

しかし突如、異変が起きた。突然周りの人間の動きが止まった。

当然、秋人の動きも止まっている。


「どうした?」


と声をかけると返事はなく、体に触れると石になったかのように、

固くなっていた。


「何が……まさか!」


すると背後から、


「やあ、修一君」


振り返ると、千里耕史がいた。


 修一は、耕史を睨みつけながら、


「お前の仕業か!」

「そうだよ。時間を止めているのさ」


と言って懐中時計のような物を見せる。


「コイツは、時は止めるけど、止まっているものに、

干渉ができないから、邪魔ものが入らないようにするだけで、

精いっぱいさ」


と言っている耕史に、修一は拳を振りあげ殴り掛かる。

だが、拳がぶつかる瞬間、修一は別の場所にいた。


「ここは……」


そこは何もない殺風景な部屋だった。


 そして横から、


「ようこそ、僕の宇宙船へ」


そこには耕史がいて、再び殴り掛かるが、体をすり抜けてしまい。


「うわっと!」


転倒しそうになった。


「残念ながら、僕の実体はここにはない。これはホログラムさ。

僕だって、この身が大事だからね」


と言って笑った。

 

 一発殴れないので、悔しさを覚えながらも、


「やはり俺を、交渉相手に選んだのか?フィレス星人」

「リュミエールから、話は聞いたんだね。そうだよ」


と言いつつ、


「でも、名前で呼んでくれないかな。千里耕史と言うのは本名だからね」


正確には耕史の本来の名前を日本語読みにしたものらしい。


「まあ、話を聞いているなら、僕の言いたいことも分かるよね。

単刀直入に言うけど、地球を僕にくれないか?」

「断る!」


すると特に焦る様子もなく、


「まあ、そうだよね」


笑みを浮かべるので、修一は余計に腹が立った。


 更に修一は、


「大体、何で俺なんだ。アンタと会ってそんなに経ってないし、

それに和美ちゃんの事だって、あの状況に巻き込むためだな」

「そうだよ」

「じゃあ、交渉相手を間違えたな。

あの事で、アンタへの不信感が高まってるからな」


絶対に、首を縦に振る事はない。


 だが耕史は、余裕たっぷりに、


「それが良いんだよ。凋落が難しければ難しいほど、

達成時の評価が上がるというもの」

「評価?」

「僕らは星では、侵略行為に評価が付けられるんだ。

それらが母星での社会的な評価にもなる」


その評価は、侵略の内容や、成功時の状況などを点数で評価し、

最終的に、全体の評価となる。


「最初の交渉は、結構点数が高くてね。ここでの状況も

今後の評価に大きくつながるんだよ」


なお修一を選らんだ理由としては、


「ボランティアの時に、君と初めて会って、手強そうに感じた。

だから選んだのさ。あの状況に巻き込んだのは、難易度を上げる為さ」

「その為だけに、あの子を……」


その言葉が修一を余計に腹立たせた。


 そして耕史は、


「あと、リベンジってのもあるかな」

「リベンジ?そういや過去にも来訪したフィレス星人が至って来たが、

それもお前なのか?」


と聞くも返してこなくて


「それより話を戻して、もし僕の要求を呑んでくれれば、

地位も名誉も異性も望むなら永遠の命も与えてあげるよ。

侵略と言っても、武力制圧じゃないし、裏から支配する形になるから、

表向きは平和な世界が維持されるよ」


要求をのめば、出世街道を歩み、特権階級の仲間入りで、

不老不死にも成れるとの事だった。


「でも、僕の命は上げられないから、それだけは勘弁してね」


と言って笑う耕史に、修一は、彼がやろうとしていることに対し、


「昔の映画に出て来るグラサン付けたら正体がバレる宇宙人みたいだな」

「僕もその映画は見たことあるよ。そんな感じだね」


修一は、耕史を睨んだままm


「今の俺は、アンテナを破壊したい気分だ……」


と言いつつ、


「永遠の命とかいうけど、それができるなら、和美ちゃんを治してあげない」

「治してあげたじゃないか、荒療治だけどね」

「はぁ?」

「彼女の病気は、僕らの科学力でも治せないところまで来ていた。

出来る事と言えば病気のまま死ななくすることだけだ。

でも、それは可哀そうだよね」


病気の体のままの不老不死、それは生き地獄である事は、

修一にも理解できていた。


「僕らは、リュミエールたちができなかった。

ミューティを無力化し元の生物に戻す技術を得ている。

その副作用として、あらゆる病気を治す事が出来る」


ただその技術は容易に使えるものではないという。


「ただ、イクシードが使う光線も一つが同じ性質がある」


それは、リカバー光線の事だと分かる。


「リュミエールも、意図的に光線を使って、

ミューティを元に戻しているみたいだしねそれを利用させてもらったんだ」


これが、和美の病気が完治していた理由。全ては耕史の思惑通りだった。


「僕が、彼女の事が好きなのは確かだよ。だから、助けたんだ」


ただ和美も耕史の事を好いているので、

交渉の難易度が下がるので、彼女を交渉相手には出来ないという。


「でも、一歩間違ったら、あの子が死ぬかもしれなかった」

「何もしなかったら、あの子は死んでたよ。危険な事でも、

助かる可能性があるなら、賭けてみる価値はあるそれだけだ」

「だからって!」


修一は叫ぶが、耕史は表情を変えず、


「君ならわかるはずだよ。君だって目的の為なら、手段を選ばないタイプだろ」

「………」


そう言われるとぐうの音も出ない。

確かに修一も、そう言う部分がある事は理解している。ここでハッとなって


「ミューティがこの星に来たのは、お前が」

「違うよ。奴が来たのは偶然さ。それを僕が利用したに過ぎない

現地で利用できるものは、何でも利用するのは、うまいやり方だろ?」


と答える耕史。どこまで本当か分からない。


 その後、


「まあ、交渉は急ぐ必要はないから、じっくりとやらせてもらうよ。

そうだ。学校は休校だから気にすることないよ」


そう言うと耕史は消えた。それと同時にちゃぷ台にその上にはノートパソコン。

更にはテレビに、ゲーム機も置いてある。更に漫画や雑誌、文芸書が並んだ本棚に

冷蔵庫が姿を見せた。なお冷蔵庫には、ジュースやお菓子も入っている


(暇をしない様に配慮してるってか……)


学校が休校になってるというのも気になったが、


(長くなりそうだな……)


修一は覚悟を決めたのだった。

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