20「ミオにバレる」

 どうみても大丈夫そうに見えない瞳の姿に修一は、


「今日は、帰った方がいいな」


と言うが


「気を使わなくていい。こんなんだが、

瞳さんの体には影響がないから、辛いのはボクだけだ」


どっちにせよ体調不良には違いない。すると蒼穹が、


「やっぱり帰った方が良いわね」

「そうですね」


と同調する澄玲。だけど


「いいんだ。気を使わなくても、話をする位なら問題ない」


そして秋人の方を見ると、


「確か、秋人君だったね。君も事情を知ったのか?」

「ええ……」

「まあ、君も現場にいたから、そこで知ったんだな」

「えっ?」

「君いたよね。鎧を着て」


この一言で真っ青になる秋人。明らかに秋人が鎧の魔王だと示唆している。


「それは、いつ知ったんです?」


と聞く秋人。現場でなら特殊な力で見破られたとなるが、


「瞳さんの記憶……」


それを聞いて秋人はますます顔を青くした。

彼はリュミエールが、瞳の記憶を知っているという事実を聞いていたが、

まさか瞳に知られているとは思いもしなかったからだ。

そんな秋人を尻目に、


「とにかく、一刻も早く事情を知りたいよね。

ボクは大丈夫だから、中で話をしよう」


そう言って家の中に、皆を招き入れようとする瞳。


 みんな遠慮がちにしているが、ここで背後から、


「澄玲、これはどういう事かしら?」


という声がして澄玲の顔が引きつる。

振り返ると連尺野ミオが腰に両手を当てて立っていた。


「なっ……何でこんな所に!」

「最近の貴方が怪しいから、今日も単独行動するって言うし、

だから付けて来たのよ」


そして修一の方を一瞥すると、


「まさか、桜井修一と通じているなんて」

「ちょっと、通じてるって、人聞きが悪い」


と抗議する修一だが、ミオはそれを無視するように、


「それに、これはどういう集まりなのかしら、天海さんまでいるし」


すると瞳は、ミオをじっと見ると、


「いいよ。君にも説明する。君は信頼できそうだから」


と言って家に上がるように促す。


 ミオも体調が悪そうな瞳の姿に躊躇している様にそぶりを見せつつも、


「お邪魔するわ……」


家に入っていくミオ、後を追う様に修一達も入っていく。

そしてリビングにて、瞳は、


「お茶を出したいけど、あいにく切らしていてね。

水で良ければ汲んでくるけど……」


「いや、お構いなく」


と修一は即座に言い、他も同じように言う。


「わかった……」


と言って、ソファーに座る。他の面々も別のソファーに座って、

まずは修一が、


「体調不良は、やっぱり昨日の戦い所為か?」

「ちょっと無茶しすぎちゃって……」


特に例の赤い光線の使用が大きかったという。

なおアレはリュミエール自身の武器のような物らしく、

使用すると体力の消費が激しいとの事。


「でもあの時は、アレを使わないと勝てなかったんだ」


あの時のイクシードは、けっこうあぶなかったとの事。


「少し休めば、元に戻るから安心して」


と言って笑うが、顔色の悪さゆえに説得力がなかった。


 そして彼女は、話題を逸らすように、


「それより、初めての人に説明しないと」


そう言って彼女は、自分の正体やミューティの事、

ここまでの出来事を話す。正体を語る過程で、

必然的に瞳がイクシードである事も話した。


 この際に、他の魔法少女の事は話さなかったが、ミオは、


「天海さんと桜井君が魔法少女じゃないのは、分かっているから、消去法で……」


春奈、麻衣、千代子を見て、


「あなた達が魔法少女ね」


と言った後、春奈を指さして、


「あなたはメタルマギアね」

「!」


同じように結衣を指さしフェイブルである事を指摘し、

更に千代子の事を指さしつつ、


「あなたが鬼姫かしらね」


と言う感じでミオは見事にいいあてた。すると


「どうして分かったんや!」


と千代子が声を上げたので、


「どうやら正解のようね」


思わず口を塞ぐ千代子。すると瞳は表情を変えず、


「これが穴掘りって奴か」


と言い、顔を赤くする千代子。そしてミオは、


「特に根拠があるわけじゃないわ。

私たちはロストルナの正体は知っているし、

イクシードの正体を知った今、残りは三人……」


この場に居て確実に魔法少女じゃない人間を覗くと、

丁度、春奈、麻衣、千代子の三人になるから、

彼女たちが魔法少女ではと、推測した。


「誰がどの魔法少女かは、何となくだけどね」


でも見事に当ててしまった。

それでも根拠はないから、いくらでも誤魔化せたが千代子が墓穴を掘った。


 そしてミオは、


「魔法少女の事は一旦置いておくとして、問題は貴方の話ね」


すると秋人は、


「修一君から、事前に話は聞いていて、

改めて君の口からも聞いたけど、俄かに信じがたいな

宇宙人が憑りついているなんて」


なおこの街では、珍しいものの普通に宇宙人も暮らしているので、

信じがたいのは、憑りついているという部分だけである。しかしミオは、


「公になっていないけど、少数だけど過去に同様に事例はあるわ」


その後、怖い眼付きを瞳に向けながら、


「ただその殆どが、侵略だったけどね」


だが即座に、それでいて冷静に、


「ボクは違う」


答える。更にミオは、


「まあ、ミューティって奴の事は、こちらでも確認は取れてるし、

ここ最近の貴方の行動から、貴方に敵意がないのは分かってるけど……」


まだ完全には信頼できないようだ。


 そしてミオは、


「本来なら、貴女を確保して、事情を聞きたいところだけど、

まあ私も鬼じゃないわ。肉体が回復するまで、この件は私の方で保留しておく。

それまでは、勝手な事はしないで、もし何かしようものなら、

貴女を敵対宇宙人として、我々は全力であなたに対処するから」


すると瞳は、


「そうならない様にする」


と答えた。


 そしてミオは


「それよりも、さしあたっては千里耕史の事を優先しないと言えないわ。

あなたの話では、フィレス星人とかいう宇宙人みたいだけど、

現時点では、彼の出自におかしい所はない。れっきとしたこの星の住人よ。

因みに会社員ね」


ただ本人所在は不明で、現住所とされる家にも誰も居なくて、仕事もやめていた。


「まああくまでも、現時点よ。取り掛かって間もないから、

時間を掛けたら、何かが出て来るかもしれないけど」


まだ調査を始めて間もないのだから、これからという事。


 そして修一の方を見ると、


「事情は分かったけど、貴方への疑惑は残っているから」

「疑惑って、彼女の話を聞いたなら、俺は無関係でしょ」

「彼女の話が本当ならね。たとえそうであっても、

貴方が宇宙人に目を付けられてる可能性がある事は確かでしょ」

「まあ……」


交渉相手になっているかは、さておき目を付けられていることは修一も感じていた。


「だから、当面、護衛の意味でもあなたの監視はさせてもらうから」

「え~~~~~~~」


護衛とはいえ、あまりいい気分はしない。更には春奈たちも、


「狙われると聞いたからには、黙ってられないから……」


と前の様に修一の護衛と言う話になった。


「僕も……」


と秋人も、名乗り出る。


 すると瞳は、


「別に護衛は必要ないと思う。奴らはああ見えて紳士だから。

捕まえてすぐ殺すような事はしない。

万が一掴まったとしても、そこからで十分。

その時はボクが必ず助けに行く……」


ここで修一は、


「捕まえに来るなら、好都合だ。来たら一発ぶん殴る。

とにかく顔面に一撃食らわせないと、気が済まないからな」


修一の、正義感と言う病気が出かかっている。


「確かに、キミのあの力、『イーブン』だったかな、それを使えば、

奴が本気ででも、ダメージを与えられるだろう。

だけど、その前にボクが対処する。奴をどうにかするのもボクの仕事だから」


任務外の事であるが、目の前で一方的な武力攻撃と言う形での、

侵略行為があれば、自己判断であるが対処できるらしい。

今回の場合は、そこまで行っていないものの。


「奴はミューティの細胞を利用したから、大義名分は十分立つ」


なおこれはフィレス星人が細胞の事を知り尽くしているからであり、

地球人の場合は、まだ無知に近いと判断なので、

細胞を利用しても特に問題はないとの事。


 ここで修一は、


「そういえば、和美ちゃんの病気が完治していたけど、

それはリカバー光線のおかげなのか?」

「それは、ボクにもわからない。確かに癌が消えていくのは確認したけど」


和美が治った理由は瞳ことリュミエールにもわからないとの事。


 そして瞳は、表情を変えずに、


「ともかくフィレス星人の事はボクの仕事だ。みんな何もしなくていいよ」


修一は、


「仕事っていうけど、今の状況で働けるのか?」


見るからに体調が悪そうであるが、


「ちょっと辛いけど、大丈夫。倒すことは出来なくても、

追い出すくらいはできる……」


と言って笑うが、その言葉に説得力はない。


 とにかく話は終わった。そして瞳の家を後にする。

そして、春奈たちに秋人が加わる形で、今後の話し合いが行われ、

ミオは、瞳の事を報告しているようではないが、

今後の事で、本部と話をしているようだった。


「なんだか、とんでもない事になってきているわね。

怪獣の次は宇宙人って、まるで特撮の世界よ」


と言う蒼穹。


「そうだな……」


と修一は言いつつも、


「まあ、いずれにしても、俺のすることは一つだ」


千里耕史の目的を阻む。少なくとの一発殴る。そう決意を新たにするのだった。

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