19「秋人への事情説明」

 途中、別の用があるというロストルナこと明菜と別れ、離れた場所に移動して、

変身を解く面々、赤い怪人も恵美に戻り、そこから修一に戻る。

事がうまく行ったことで安心しきっていて油断していたのだろう。

誰も居ないと思っていたのだが、


「君らが、魔法少女の正体だったのか」


ハッとなって声の方を向くと、


「「「鎧の魔王!」」」

「後をつけさせてもらった」


相手は魔王なので、正体を知っている修一以外は警戒するも、


「心配するな。誰にも言わない……」


と言って去ろうとするが、ここで空気を読まない奴がやって来た。


「アキト、丁度良かった。道に迷っちゃって……あっシュウイチも居たんだ」


現れたのはアキラだった。アキラもまた冒険ギルドの呼びかけで、

怪獣退治のボランティア参加するはずだったが、

本人の言う通り、道に迷ってここに来たのだった。


 ただ、「アキト」と呼んだことで、


「まさか……有間君?」

「有間って麻衣ちゃんや、春ちゃんの同級生のか?」


と言う千代子。

名前を読んだからじゃなく、さっき鎧の魔王に状況説明するところを、

春奈は見ていた。修一と秋人が親しいし、あと以前の日曜日の一件から、

アキラの事も知っているし、アキラと秋人が親しいのも知っている。

加えて最初に赤い怪人を見かけた時、秋人が一緒だったことに気づいていたので、

赤い怪人の正体を知っているとも思い。

そして名前も一緒なので、もしやと思ったのである。

しかし声も違うし、何より体格が違い過ぎる。


 ここでしまったという顔で、口を抑えるアキラ。修一は、


(どうせ後で、さっきの怪獣の件で事情を聞変えるんだから、

この際、巻き込んでしまえ)


という気持ちになり、


「勇者様、この件に、関わるならそっちも正体を明かす。

関わらないなら、この場を去る。どうする」


見てしまって、自分は隠しておく事に気が引けるのか、

鎧を脱ぐというか、鎧から分離する形で秋人が姿を見せた。


「本当に、有間君が鎧の魔王だったなんて……」


ただ、アキラもいる事だし、お互いの事情は後日話すという事で、

この場は一旦解散となった。


 





 ギガアウラウネは消滅したが、後始末があるので、

現地対策本部はまだ解散していない。

和美は澄玲に保護された後、検査の為、守護神機関の施設に運ばれ、

親で冴子も同行した。


 そして、対策本部の後片付けをしている対策室の面々だが、

ミオはどこか悔しげに、


「結局、今回も魔法少女の、イクシードのお手柄って事ね。

怪獣が元に戻ったのも、状況からイクシードの所為みたいだし……」


そしてチェルシーが、どこか腹立たし気に、


「あと鎧の魔王もな……」


ここで六華が、


「それにしても、秋人君が丁度、異界から出てきてくれて良かったですね」


守護神機関は鎧の魔王の正体が秋人である事は知っている。


「しかし、魔王の力を借りたってのがな……」


魔王の強さは分かっていたから、方針を変えて、

結界による時間稼ぎを辞めて、攻撃に転じた。ここで香澄が、


「秋人は優しくていい子だと聞きますよ」

「それは、知ってる。でも親から魔王の事を聞いてきた身の上としてはね」


チェルシーは複雑そうな様子だった。

なお秋人に関しては、守護神機関でも、怪獣対策室の管轄外なので、

彼女たちが、どうこうできる立場にない。そんな中ミオは、


(そう言えば、秋人君と桜井修一は知り合いなのよね)


今回も含めた怪獣の一件を含め、妙にかかわって来る修一が気になるのだった。



 今後の方針であるが、施設への侵入、ギガアウラウネを含め、

一連の首謀者である千里耕史を追う事を決めた。


「とにかく、千里って奴の化けの皮を剥がさないと」


とチェルシーは言いつつも、


「ミオと澄玲は、引き続き桜井修一の方を頼む」


今回の現場にも立ち会い一緒に行動をも共にしていたので、

疑いを抱かれてしまっていた。


 澄玲は、


「私は、共謀とかは無いと思うんですよ。

むしろ私たちと同じように、千里さんの正体を暴こうとしていたそうですし」


するとミオは、


「相変わらず香澄は甘いわね。疑いがある以上、確かめておく必要が有る」


しかし香澄の方は、


「でも……」


と不満そうだが、チェルシーが、


「とにかく、桜井修一はアンタ達に任せる。こっちは千里耕史って奴を追うわ」


とにかく方針は決まり、

守護神機関の怪獣対策室の仕事はまだまだ終わらないのであった。


 翌日、修一宅のリビングに集まる面々、春奈、麻衣、千代子、秋人、

蒼穹は二階にいるが里美の目があって、

降りてこれないとの事。そして瞳の姿はない。春奈によると、


「電話に出ないから、アプリでメッセージは送っておいたけど」


既読になっているので読んでいることは間違いないようだった。

あと明菜は都合があって来ていない。


 そしてこの場で秋人は、自分が鎧の魔王であることを話すものの、

何で、魔王の鎧を持っているかは、自分でもわからないと言う旨を話した。

春奈や麻衣は、秋人の人となりを知っているので、

追及してくることはなかったし、千代子も二人が納得しているようなので、

こちらも深くは聞いてこなかった。


 その後、改めて秋人に話をする。

最初に、事情を話す関係上、イクシードの事は話さねばならないので、

その事を話すと、


「まさか、あの瞳さんが」


と驚いたように言い、残りの話をすると、


「つまり最初に現れた怪獣がミューティって奴で、後から来た光の女神が、

リュミエールって存在で、昨日のも含め、ここ最近現れている怪獣は、

そのミューティって奴の細胞によって、これまでの怪獣が生み出されて……」


話を聞いて状況をまとめる秋人。


「何だか昔の特撮みたいだね。瞳さんに、かつがれてるんじゃないよね?」


秋人も零也を通す形であるが、瞳の性格は知っている。


「俺も信じがたいんだけど、ミューティに関する部分は、

守護神機関の方でも確認が取れてるみたいだしな」

「確かに、ここ最近のイクシードの奇行にも説明はつくけどさぁ……」


やはり信じがたい様子だった。


 ここで改めて、ギガアウラウネに関わる話をする。

人間が怪獣になるという話については、


「怪獣はともかく、巨大魔獣に変身する人間と言うのは、

珍しいけど、事例としてはあるから、

そう言うのがあってもおかしくないけどね」


と言いつつ、


「まあ、怪獣が人間に変わっていくところは見ていたから

間違いないのは分かってるけど、それより問題なのは、千里って人だよね」

「ああ、リュミエールの話では、俺に目を付けてる宇宙人らしい」


ギガアウラウネに関する話には、もちろん耕史の話も含まれている。


「これも内容が昔の特撮みたいだね」


修一も同じような事を思っていた。


 そして秋人は、


「瞳さんと言うか、リュミエールに直接話を聞きたいね」


電話には出ない、メッセージアプリに返信がないとの事なので、

直接会いに行こうという事になった。

家の電話が鳴ったのはちょうどその時だった。

ディスプレイには澄玲の名前があった。

電話番号とかは学校に問い合わせたのだろうが


(名前を登録してたっけ?)


覚えがないので、疑問を感じつつ出ると、

確かに澄玲からの電話で、和美に関することで、

修一が赤い怪人である事を知らないからか、和美の無事を伝えて、


「もしかしたら、気にしているかと思い電話しました」


との事。わかっていた事だが、


「そうですか」


とだけ答える。


 だがこの際に、


「それと和美ちゃんの脳腫瘍は完治してたみたいです」

「えっ?」


痕跡は残っているらしいが、あり得ないことだという。


「念のため担当医にも、問い合わせたんですけど、

かなり驚かれてましたよ」


ここ最近に彼女の腫瘍は、一時退院ができるほど小さくはなっていたそうだが、

消えてしまったというのは、驚くべきことらしい。


「原因は彼女と怪獣化と関連があるとは思いますが、不明です。

とにかく彼女は元気なので、その事は伝えておきます」


そう言って電話は切れた。


 電話を切った後、修一はその事を伝えて、


「なあ、リカバー光線で癌が治ったりするのか」


すると麻衣が、


「確か、癌とかは治せないって言って様な……」


と言いつつも、申し訳なさげに、


「うろ覚えでごめんなさい……」


すると修一は、気を使うように、


「別にいいよ。どうせ創月に会いに行くんだし」


正確にはリュミエールにだが、瞳の知ることは、

彼女も知っているわけでだから、状況は同じである。


 いざ出発しようとすると、蒼穹が二階から降りてきた。


「今、所用で里美が出かけたから」


との事。


「今から、創月の所に向かうけど、天海も行くか?」

「ええ、あの後の顛末も詳しく知りたいし」


蒼穹も加わる形で、瞳の家へと向かう事になった。


 そして瞳の家の前に来ると、澄玲がいた。


「どうして……」


と言う修一に澄玲が、


「瞳さんと話がしたくて、電話をしたんですが、出なくて、それで直接……」


修一は、


「それは、対策室の」

「いえ、私が個人的に話を聞きたいだけです」


この後、家のチャイムを鳴らすと、しばらくは反応がなかったが、


「今行くよ……」


元気のないような声で、そして少しして扉が開くと、


「ちょっと大丈夫?!」


と声を上げる春奈。出てきた瞳はパジャマ姿で、顔色も悪く、

見るからに体調不良のようだった。

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