18「イクシード対ギガアウラウネ(3)」
イクシードの見た目だけでなく、触手が増えていくので、
状況は悪くなっても好転するようには思えなかった。
更に玉になっている触手、先ほどから時折、赤い怪人がイーブンを使って、
新たな触手への攻撃の合間に、一撃を加えることで、玉になったままにしていたが、
徐々に、動きの乱れが見えなくなってきているように見えた。
(おいおい、ヤバいぞ……)
加えて、触手が変化しているのが見えた。
新たな触手に対応しながらなので、ずっと見てるわけじゃないのだが、
少しずつ触手が、新たな触手と同じように、太くなっていき、
先端が変化しつつあった。そう爬虫類の口の様に。
そしてすぐに、音を立てて玉は弾けた。
いくつかの触手を犠牲に、絡まりを解いたのだ。
そして先の触手も新たな触手と同じものになっている。
しかも犠牲になった触手も瞬時に再生したので、状況はかなり悪くなった。
触手の数が増えたことで、先ほどよりも激しさを増す。
さっきまでのように、混乱させて球にすることも出来なくなった。
もちろん変化した触手も炎や電撃を撃って来る
また本体からの光線や衝撃波の頻度も増えて来たので、更に危険な状況になる。
そんな中、触手の一本がメタルマギアに迫る。
当人は別の触手に気を取られていて、直ぐに気が付かなかった。
「危ない!」
と赤い怪人は気づき叫ぶ。イーブンを使用している関係で赤い怪人の力は使えず、
普通なら、間に合う助けであるが、間に合わず、
「!」
メタルマギアも気づいたが、回避が間に合わない。
他の仲間たちも、他の触手が邪魔で向かうどころか、
遠距離攻撃で、触手を止める事も出来なかった。
だが次の瞬間、迫っていた触手が大きく吹っ飛んでいた。
「ごめんなさい。ラビリンスの連中とやり合っていて遅くなった」
「明……ロストルナ」
孤高の魔法少女ロストルナがやって来て、ここに魔法少女が五人そろった。
彼女は普段乗っているバイクが変形していると思われるホバーバイクの乗っていて、
それで、触手に体当たりをしたようだった。
なおこのバイクも魔法で生成されているので、細胞は無力化されている。
とにかくロストルナが加わった。彼女はホバーバイクに乗りながら、
銃や剣を武器として触手を破壊していき、時にはホバーバイクから飛び降り、
蹴りや拳で攻撃をしけかける事もあった。
もちろん攻撃の後は瞬時にホバーバイクに戻っていく。
一人増えた所で、思うかもしれないが、
魔法少女の戦闘力は高いので、並の冒険者が一人来るのとは訳が違った。
多少は状況が楽になった。なおここに来た時点で、リュミエールから、
テレパシーのようなもので、情報を聞いていて、赤い怪人の力の事を聞いている。
ただ確かに状況は楽になったものの、やはり焼け石に水のような状況は否めない。
だが状況を大きく変える様な助っ人は直ぐに来た。
「ダークネス・サンダー!」
黒い雷が、触手に落ちた。
「!」
触手は、大きくダメージを受けたようで、怯んでいるようだった。
(今のは、まさか!)
周りを見渡すと、鎧の魔王の姿があった。彼は飛行魔法で空に浮かんでいる。
(今日は異界に行くって言ってたが……)
後に聞いた話だが、鎧の魔王こと秋人は、異界から出て来たところで、
冒険者ギルドの呼びかけで、事態を知りここに来たのだった。
彼の登場は、その力ゆえにゲームチェンジャーとなりうるわけだが、
強すぎる故に、
(まずいな……)
危機感を覚え、状況説明の為、魔王の元に向かう。
「ちょっと待て!」
と声を上げながら、更なる攻撃を仕掛けようとする魔王に接近し、
攻撃を邪魔するように立ちふさがった。
「急に何!」
と突然の事に素が出る形で、魔王は問うが、
「あの怪獣は人間が変身してるんだ」
「えぇ!」
取り敢えずミューティの事は伏せつつも事情を説明。
「元に戻すにはダメージを与えて、弱らせる必要が有るが、
勇者様の力だと、強すぎて殺しかねない。
だから気を付けて、せめて攻撃は触手に絞ってほしい」
「わかったよ」
と言いつつ、
「でも、勇者様ってのはやめてね」
という鎧の魔王だが、
「素が出てるぞ」
と言われて、口調を変えて、
「わかった……とにかく攻撃はお前の望み通りにする」
そう言うと、手を怪獣の方に向けて、
「ダークネス・カノン……」
闇の魔法による黒い球体が周囲に複数出現し、射出される。
それらは約束通り触手に向かっていく。
さすがは魔王の力と言うべきか、触手は破壊されるが、
かなりのダメージ故か、これまでとは違い再生が遅れていて、
結果、数を減らす形になった。
そして更に、新たな冒険者たちと共に先の冒険者も戻ってきた上。
警察の魔法隊も到着した。もちろん守護神機関の職員も数を増やしてやって来た。
魔王以外は大して役には立たなかったものの、
状況は一気に好転した。特に触手が減ったことで、
怪獣本体への攻撃、すなわちイクシードへの援護も可能となっていた。
ただ、触手なしにしても怪獣本体からの攻撃も強く敵の攻撃を避けながらなので、
容易ではないし、正体を知っているから、気落ちして強い攻撃は使えない。
更に触手の数が減っていく中、イクシードの方にも異変が起きた。
(妙に辛そうだな……)
見た目はボロボロになって行っていたものの、
動き自体には変化はなかったが、
ここに来て息が切れているような動作をするようになった。
(まずい……)
イクシードが倒されては、和美を元に戻すことは出来ない。
赤い怪人はイーブンを使っている関係上、
遠距離攻撃ができないので、触手に集中していたが、
怪獣の方に近づいた。そして攻撃を避けながらも接近した。
見た目は変わり果てているが、頭に和美の姿が浮かんで、パンチとかは使えず、
足を軽く小突く。イーブンによって、同サイズに怪獣に小突かれる形になるので、
その所為でバランスを崩し転倒した。
ただ怪獣が倒れた瞬間、イクシードは、
右手を空に向けた。すると空から赤い光が降ってきて、右手に宿る。直後に
『切り札を使う。その後にリカバー光線を使えば、
彼女を元に戻る。でもボクは変身を維持できないから、彼女を助けて』
と言う声が響いた。
そしてギガアウラウネが起き上がってくると、光の宿った右手を向ける。
すると赤い光線が怪獣に放たれ、怪獣に命中した。
「グォォォォォォォォォォ!」
と悲鳴を上げて苦しみだす怪獣。そして間髪入れず、リカバー光線を使った。
そして怪獣は光に包まれて、小さくなっていき、和美の姿に戻った。
しかし、空中でも元に戻ったので落下することになるが、
元に戻る直前に、赤い怪人はイーブンを解除していたので、
瞬時に彼女の側に向かい、受け止めたのだった。
なおリュミエールの声は、他の魔法少女にも届いていたので、
周囲にはほかの魔法少女たちも集まっていた。
和美は、意識こそ失っているが、息はしているし、怪我とかはしていないようで、
「良かった……」
と安どの声を上げる修一。直後イクシードは、
光の球体になり、どこかに飛んで行った。
これ以上、変身を維持できない様だった。
ここで、フェイブルが
「とりあえずこれを……」
彼女は布を渡してきた。魔法で生成したものとの事。
なぜ布がいるかと言うと、和美が生まれたままの姿だからだ。
とにかく彼女の体に布をかけて、一旦近く湖畔に移動し着地。
「これからどうする?」
とにかく、和美を誰かに預けたいわけで、
周辺には冒険者たちが大勢いて、突然の事に唖然としているが、
彼らに保護を頼めそうだが、誰に渡せばいいか分からなかった。
ここでロストルナが、
「ここに来る途中、守護神機関の現地対策本部らしきものを見かけたから、
そこに行きましょう」
確かに、そこは安全そうに感じたし、
何より母親である冴子もいる様な気がするから全員、
それがいいとは思ったが、そのあと素直に返してくれるかは、
不安であった。なぜなら澄玲は違うが、
守護神機関自体は、魔法少女の事を探っているからだ。
しかし当ては他にないので、引き続き、赤い怪人が彼女を抱える形で
冒険者たちが、混乱状態にある隙に、飛翔して、そこに向かう事になったが、
その途中、状況の変化を確認し、
一人現場に向かっているであろう澄玲の姿を見かけた。
思わず、全員彼女の元に降りる。
「あなた達……」
そして抱えられている和美を見て、
「無事、助けることができたんですね」
そして赤い怪人を見て、
「見たところ、あなたは魔法少女の関係者のようですね」
魔法少女4人と一緒にいるわけだから、関係者と思われてもおかしいことではない。
「和美ちゃんは、私が預かって保護しますから、あなたたちは、
すぐに離れてください。
そうじゃないと正体がわかるまで返してもらえないと思いますよ」
そうなるのは目に見えているのと、
彼女は信頼できるという事もあって澄玲に和美を預け、
魔法少女と赤い怪人はその場を後にするのだった。
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