16「イクシード対ギガアウラウネ(1)」
触手は、次々と周囲にある木々や建物に絡みつき、振り回す他、
締め付け、破壊する。まだ人的被害はなさそうだが時間の問題。
「こりゃあ、不味いで……」
と危機感を覚える千代子。瞳は冷静に、
「仕方ない……」
と言って、変身アイテムを取りだす。
「マジカルジュエル・メタモルフォーゼ……」
瞳はイクシードへと変身を遂げ、巨人と対峙する。
そして、春奈たちも
「「「マジカルジュエル・メタモルフォーゼ!」」」
それぞれ、メタルマギア、フェイブル、鬼姫となって、巨人の元に向かっていく。
残された三人、澄玲は対策室の人間として、この場に残る必要が有るが、
修一と蒼穹であるが
「桜井修一、アンタどうする?私は鎧を持ってきてないから、退避するけど」
蒼穹は戦えないわけじゃないが、超能力では細胞を無力化できないので、
細胞を拡散させることになり、新たな怪獣を生み出す可能性があるので、
周りに迷惑をかけるから、戦わない方がよく、邪魔なだけなので、
この場から去った方が良いのである。
なお例の鎧の専用魔法「バーストブレイズ」を使えば、無力化は可能と思われるが、
蒼穹は、今日はペンダントを持ってきていなかった。
「俺も持ってきてない……」
今日は、こんな事が起きるとは思ってなかったからである。
しかし修一は、
「俺は、残るよ……」
この状況への、好奇心とこの状況をどうにかしたいという正義感、
逃げたら負けだという思いから、
負けず嫌いと言う修一の三つの病気がそろった状態であった。
「そう言えば、アンタ規格外だったわね。攻撃魔法でも使えるの」
「まあな……」
と言って目を背ける。確か修一は、攻撃魔法は使える。
(ここで使うと、シャレにならないから使えなんだよな……)
修一が使える攻撃魔法は、一種の上位魔法で、空白の一日を経て、
自然と使えるようになったもの故に、
詳しくは知らないのだが、かなり強力で、もしたらギガアウラウネを、
一撃で倒せそうな気がしたが、この辺一帯に、影響を与え、
この場に似る人々を巻き込みかねないので、安易に使えるものではないのだ。
蒼穹は、何処か悔しそうに、
「とにかく、邪魔なだけの私は、この場を離れるから……」
と言った直後、ギガアウラウネの触手が彼女に巻き付いた。
「えっ!」
「天海!」
触手に捕らえられる蒼穹。しかし彼女の力をもってすれば、
絡まる触手を破壊して、この状況を打開可能だったが、先も述べた通り、
彼女の力では細胞を無力化できないので、
破壊に伴い細胞が散らばる事を恐れ、直ぐに対処する事が出来なかった。
しかし、この状況に咄嗟に動いたのは修一で、
彼は、空中に浮遊すると、
「このっ!」
という掛け声と共に触手に手刀を食らわせた。
この時、修一は切り札である「イーブン」を使っていた。
触手は自分と同サイズの存在に手刀を喰らった形になり、
大きくしなる。蒼穹は、触手から解放され落下したが、
修一がすかさず彼女をキャッチした。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう……」
助けられた事で礼を言うも、複雑な表情。
そして、着地して彼女を降ろすと、頭が冷静になった修一は、
(やっちまったか……)
イーブンは超能力なので、細胞の無力化はできないと思われ、
今の攻撃で、細胞が散らばった可能性があった。
(だけど、後悔はない)
それが、蒼穹であったからじゃない。
誰かを助けるという行為に対し、彼は決して後悔はしない。
それが、例え相手にとって不幸な結果を呼ぼうともだ。
そして修一は、
「早く立ち去った方が良い」
「わかってる。アンタも気を付けなさいよ」
そう言って、蒼穹は去っていった。
そして改めてギガアウラウネと向き合う。
(しかしどうするか……)
彼の力では細胞を無力化できないので、攻撃すれば散らばるだろし、
何もできない。当然ながら今回は赤い怪人も役には立たない。
ただ、この時、巨人が暴れだしたことで攻撃を開始した冒険者たちに交じって、
澄玲も魔法銃で応戦していた。本来、彼女は戦闘要員ではなく、
後方支援が目的だが、触手に冒険者が何人か捕まっていたので、
彼女の持ち前の正義感から、放ってはおけず、救出のために攻撃に参加していた。
その姿を見た修一は、ふと思いついて、
「DXM!」
その手に、出現する。
(うまくいってくれよ……)
と願いつつ、
「魔法弾!」
と叫んだ。そして修一にとって緊張の一瞬だったが、
銃のシリンダーが「カチッ」という音立てて動く。
「やった!」
と声を上げる修一。
DXMは様々なものを弾として発射する。
中には電磁パルスのように実体のないものもある。
澄玲が魔法銃を使っているのを見て、
もしかしたら魔法の弾が撃てるのではないかと思ったのだ。
シリンダーが動いたことから、成功のようだった。
とにかく、これで修一も戦えるようになって、
DXMから発射される魔法弾で、触手を撃っていった。
その様子を見た澄玲は、
「桜井君、魔法銃を持っていたんですか!」
「ええ……まぁ……」
実際は違うので、言葉を濁すように答えるのだった。
一方、魔法少女たちも、次々と襲い掛かる触手を破壊し続けていた。
正確には触手の量が多くて、本体への攻撃が防がれている状況であった。
あとイクシードが現れたからと言って、攻撃が集中するような事もなく、
触手による攻撃は無差別に行われていて、
それに襲われている人々、主に冒険者を助けるということをしていた。
そしてひたすら襲い掛かってくる触手を前に、
(キリがないわね……)
と思う春奈だったが、それでも人を助けたいという思いと、
何よりも、巨人と化した少女を助けたいという思いもある。
なお春奈と麻衣は和美と面識はあるものの、親しくはないし、
千代子に至っては、そういうのは全くない。
しかし彼女たちは、見知らぬ人であっても、大変な目に遭っているなら、
助けたいという思いを抱いていて、
その感情故に魔法少女として活躍しているのである。
(必ず助け出す!)
そして襲って来る触手に攻撃を仕掛けていく。
「このっ!」
とレーザーブレードのような物で斬りつけるメタルマギアだが、
触手は、しなるだけで、切り裂くような事は出来ない。
他の触手たちも同じで、
「火遁の術!」
凧のようなもので、飛行しながら触手に火炎放射を行うが、
焼けるような気配はなく、しなるだけで、
「………」
フェイブルはマスケット銃のようなもので銃撃するが、
命中はしているが、同じような状況で、見た目的にはダメージのないように見える。
ただ、しなっているだけでなく、必ず掴んでいるものを手放すので、
(一応、ダメージはあるみたいね)
と思うメタルマギア。余談だが、一見そうは見えないが、
魔法少女たちの攻撃は、発動時に魔法陣が発動しているので、
魔法によるもの。従ってミューティの細胞は無力化している。
なお触手が、壊れないのはイクシードの攻撃でも同じで、
接近を邪魔する触手たちを、掌から光の刃で、切り裂こうとするが、
しなるだけで、切り裂くことはできないし、
光弾も触手によって阻まれ、本体には当たらない。
そして体に絡みついた時、力任せに引きちぎろうしても、
途中で力が抜けて、解ける事があっても千切れる事はない。
また触手の動きは精密と言っていいのか、動きに乱れがなく絡まる事はない。
例えイクシードの攻撃を受け大きくしなったとしても動きが乱れる事はなかった。
とにかく触手の数は減らない。もちろんダメージは受けているので、
その内、破壊できるだろうが、巨人は外観からは分からないが、
変化を続けているので、いつ強力な怪獣に変化するか分からないから、
早期決着が必要だった。
だがこの状況では、触手が邪魔で、本体への攻撃が出来ない状態。
本体にある程度ダメージを与えなければ、巨人を和美に戻す事は出来ない。
この状況下でイクシードの中のリュミエールは、一つだけ策を思いついていた。
少し心苦しさを感じたが、それを実行するために助けを呼んだ。
引き続きDXMの魔法弾で触手に攻撃を仕掛けている修一、
この時、彼の頭に見知らぬ女性の声が響いた。それは穢れ一つない様な綺麗な声だった。
『桜井君』
『誰だ?』
『リュミエールだ』
普段は瞳の体を介し、彼女の声で話しているので、
これが彼女の本来の声のようだった。
声が違うので、普通だったら怪しむところだが、不思議と信じる事が出来た。
『君の力を貸してほしい』
『俺の力?』
『君が触手を殴った時の力だよ』
イーブンの事を言っているようだ。
『あの力は、魔法と同じでミューティの細胞を無力化している。
それだけじゃない。触手の神経を乱す効果もある』
リュミエールは、戦いながらも、ここで起きている状況を、
常に分析している。なお先ほどは一発殴っただけだから、効果は薄かった。
『その力で、一時的でいい、触手を混乱させてほしい。
あとはボクがどうにかするから』
『わかった……』
返事をする修一。
修一は、ここまでの状況からどうすべきが、直ぐに判断したものの
(このままだと目立つな……)
そう思った修一は、林に入って身を隠し、
恵美へと姿を変える。そこから赤い怪人に変身した。
なお赤い怪人の状態でも「イーブン」は使える。
ただし、赤い怪人の武装がすべて使えなくなる。
(身バレさえしなきゃそれでいい)
修一にとって、赤い怪人は、その力を利用する事もあるが、
身分を隠すマスク代わりとしての役割の方が大きい。
あと過去の一件から、赤い怪人の正体の事は、
以前の戦いで、一緒だった魔法少女の内、メタルマギア、フェイブル、鬼姫に加え。
コスプレデートの時の勝負の所為で、瞳も知っていた。
瞳が知っているなら、リュミエールも知っているので、
魔法少女たちに不審がられる事はない。
とにかく、赤い怪人は飛翔し、触手へと向かっていく。
触手も迎え撃つように、襲い掛かって来るが、
赤い怪人は避けつつも、巨大な触手に触れた。
もちろんイーブンを使用しているから、触れた途端に、
巨大な手形のくぼみが付いた。
まるでギガアウラウネと同じ大きさの見えない巨人が、掴んでいるようだった。
そして赤い怪人は、
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
という掛け声と共に掴んだ触手を振り回した。
掴んだ状態であるので、触手の神経は大きく乱れ、
振り回している間は、無茶苦茶な動くをする上に、
「とりゃ!」
という掛け声と共に、手放したが、その後も神経の乱れは収まらず、
加えて、乱れは触手たちに伝染していき、
気づくと、触手たちは絡まり合って、玉のようになり身動きが取れなくなった。
ギガアウラウネは無防備となり、
チャンスと言わんばかりにイクシードが光弾を撃ち、追従するように、
他の魔法少女やボランティアの魔法使いたちの一斉攻撃が始まった。
この状況の中、赤い怪人は、
(この様子が、和美ちゃんのお母さんに見られてないだろうな)
いくら怪獣になったとはいえ、この状況を母親に見せれば、
そのショックは、計り知れない。
幸い対策室の面々も同じような事を考えていたのか、
母親である冴子には、現場に様子を見せないようにしていたので、
ショックを受ける事はなかった。
一方、一斉攻撃が始まったが、直後、ギガアウラウネが口を開き
「ラァァァァァァァァァ!」
と甲高い声を出したかと思うと、攻撃は、全て跳ね返った。
撃った側が一斉射撃を受ける事になり、魔法少女たちは避け、
イクシードは防御するものの、ボランティアの冒険者たちは
反射された攻撃に、軽くパニックになる。
どうやら先の甲高い声はどうやら音波兵器と呼べるもので、
遠距離攻撃を跳ね返す様だった。
加えて軽い衝撃波を伴なっていて、前に進むのも容易ではなく、
あと転移も無力化する
しかし遠距離攻撃は跳ね返す様であるが、近距離はそうではないので、
甲高い声が聞こえ、衝撃波が来る中、イクシードは真っすぐ、敵の元に向かっていく。
そう接近戦で挑むようだった。衝撃波の所為で、進みにくいようだったが、
触手による防御に比べればマシで、ギガアウラウネの元に到達し、
徒手空拳で攻撃を仕掛けた。向こうも応戦し
、イクシードとギガアウラウネは、 殴り合いを始める。
その間、巨人は甲高い声を上げていて、
遠距離攻撃は跳ね返って来るし、衝撃波でイクシード以外は接近できなかった。
ただ接近し殴り合いをしているイクシードも衝撃波の影響で、
側にいるだけでもダメージを受けている状態だった。
それでも確実にギガアウラウネにダメージを与えてる様だったが、
突如、バックステップで、間合いを取ると、
右手を開いた状態で突き出し、魔法陣が出現したかと思うと、
ビーム光線のようなものが照射された。
甲高い声を上げていたものの、それは跳ね返ることなく、巨人に命中した。
実は跳ね返るとな射出系の物だけであり、照射系攻撃は跳ね返らないのである。
最初の一撃では、照射の攻撃は使っていなくて、
それ以前に発動までに時間が掛かるものも多く、
使おうとした者もいたが、最初の跳ね返りを見て、使うのをやめてしまっていた。
リュミエールは戦いながらも分析をして、この事実に気づいたのだ。
この状況に、照射系の攻撃魔法を使い始めた。
加えてダメージを受けた影響で、声を上げなくなったので、
衝撃波も無くなり射出系の攻撃も跳ね返らなくなった。
一斉攻撃を受けるギガアウラウネは、一気に弱っていくように見えた。
この状況を、見ている赤い怪人。正確には触手の見張りをしている状態で、
触手が解けそうになると、再度攻撃を仕掛け、動きを乱し、
この状況を維持していた。
(元に戻す為とは言っても、さすがに彼女は、殴れない……)
招待を知ってる上、ギガアウラウネは人間に似ているので、
触手ならまだしも、本体を殴るのは気が引けていた。
さてイクシードは、ギガアウラウネが弱ったら、
結界を張って冒険者たちの攻撃を遮断して、リカバー光線を撃つつもりで、
そのときが近づいている様に感じていたが、
だが突如、強力な衝撃波が襲い掛かって来た
「!」
イクシードを体勢を崩し、少し後ろに下がっただけだが。
他は、赤い怪人も含め大きく吹っ飛ばされた。
体勢を立て直した赤い怪人は、
「何が……」
と声を出すが直後、ギガアウラウネに変化が起きた。
新たな触手が現れ、それが巨人の全身を覆ったと思うと、
その状態で、体が変化していき、
「グォォォォォォォォォ!」
という咆哮と共に、植物の様な爬虫類の様な怪獣に姿を変えた。
先ほどより少し巨大化し、 更に複数の触手が生えていた。
「第二形態……」
どうやらここからが本番のようだった。
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