15「経過観察」
修一たちは、対策室に気づかれないように、
湖にやってきた。修一と蒼穹と澄玲は舞い戻ってきた形であるが、
相変わらず湖の中心には、緑色の巨人がいる。
ただ眼を閉じたまま、動こうとはしない。巨人の体から生えている蔦が、
動いているので、死んでいるわけじゃない。
「一種の休眠状態だと思うね」
「それじゃあ、今のうちに攻撃して、リカバー光線を撃てば……」
「いや、僕が出て行っただけで、すぐ目を覚ますと思う……
あと相手が相手だから、もう少し様子を見る」
と言う瞳。その横で千代子が、
「それにしても、うまく隠しとるな……」
と言う千代子に対し、その意味に気づいたのか、春奈は顔を赤くしながら、
「どこを注目しているのよ!」
と声を上げる。すると澄玲が、
「静かにしてください。バレちゃいますよ」
修一たちは、対策室の面々がいるので、
来るときだけじゃなく、現在も身を隠して状況を見ている。
なお周辺の封鎖はまだ行われていないので、周囲には野次馬が集まりつつあった。
「なんか、どんどん集まってきとるで」
と言う千代子に、スマホを手にした麻衣が、
「何だか、バズってるみたい……」
SNSでは何枚かの写真や動画がアップされていて、
先の光の女神に、対して緑の女神と呼ばれていたり、
巨大なアウラウネだという書き込みもあった。
この後も、野次馬の数が増えてきたが周辺封鎖が始まって、
野次馬たちは、やって来た警察官に注意を受けたりしながら、散っていった。
ただ一部の野次馬は、身分証明書のような物を見せると警察官は、
「ご苦労様です」
と言って、追い出す事はしなかった。
「冒険者カードか」
冒険者登録証明書の事で、残った野次馬たちは冒険者のようだった。
恐らく怪獣退治のボランティアと思われるが、
見た感じは、スマホで動画を撮っていたりと、野次馬にしか見えない。
ただ一部の冒険者らしき人はカードを見せても追い出されていた。
ここで澄玲が、
「冒険者ギルドに掛け合って、ボランティアは魔法使いのみにしてもらっています」
それは、魔法攻撃が細胞を無力化する為である。
追い出された冒険者は、魔法使いではなく、 武術や超科学の兵器、
あるいは超能力を主体にして仕事をしている冒険者のようだった。
冒険者ギルドは、魔法使いに召集をかけているようだが、
騒ぎを知って勝手に来た者と思われる。
魔法使い出ない冒険者が細胞を無力化させずに散らばらせる可能性があるので、
ボランティアを断るようにしていた。
また魔法系のロボが使えないとの事で、例のロボット部隊も出番はない。
ここで瞳が、
「そう言えば、ボクも他の巨大ヒーローにミューティと戦わない様に、
頼んでいる」
瞳や、リュミエール自身もこの街の他の巨大ヒーローと繋がっているらしく、
手を回していて、今回の件には関わってこないとの事。
なお修一達は、修一と蒼穹は、冒険者登録はしているものの、
二人とも魔法使いじゃないし、春奈と麻衣は魔法使いだが、
冒険者登録はしていないし、瞳は魔法使い出ない上に、
冒険者でもないので、対策室の人間である澄玲以外は、
見つかったら追い出される可能性があるので、身を隠して状況を見守っている。
ここで瞳が、
「千里って奴の事なんだけど、思い当たる節がある」
と言いつつ、澄玲に、
「もしかしたらなんだけど、君らが回収したニューティの細胞が、
盗まれたんじゃないのか?」
「!」
その一言に顔が真っ青になる澄玲。
「そうなんだね?」
彼女は観念した様に、
「その通りです。すいません……」
ここで、春奈が血相を変えて、
「守護神機関のセキュリティーはかなり高いって聞きますけど、
それが破られたんですか!」
「声が大きいですよ!」
と涙目で言う澄玲。
「すいません」
と言って声を潜める春奈。千代子は、
「ウチが聞いた話やと、守護神機関のセキュリティーちゅうのは、
あの『別班』でさえも、破れなかって聞いたで」
「『別班』とはいい関係ですよ」
と澄玲は言いつつ、言っちゃいけなかったの
しまったという顔で口を押える。
ここで修一は、
「とんでもない事みたいだが、千里って奴が、盗み出した犯人で、
それで、追って来たのか?」
「いえ、あの時は、確証はありませんでした。
証拠となる防犯カメラの映像も不鮮明でしたしね。
なんとなく彼の様な気がしただけで、
ただ、桜井君が一緒というのちょっと気になって」
事情は話したものの、まだ疑われている部分があるようだった。
するとここで、瞳が、
「気に病む事じゃない。相手が悪すぎるんだ。
千里って奴は、たぶんボクと同じ宇宙人だよ」
「宇宙人……」
「ボクの様に、人間に憑りついているのか、
それとも人間に化けているのかは不明だけどね」
その言葉に、麻衣が、
「えっ! 宇宙人? まさかあの人が……」
と声をあげ信じられない様子だったが、瞳は、
「実は思い当たる節があってね。ミューティを追って、この星系に入る前に、
こっちの方にフィレス星人が向かったという情報があったんだ」
「フィレス星人?」
「強大な力を持って、あちこちを侵略している宇宙人だよ」
侵略と言っても、必ずしも武力制圧とは、限らず自分たちにとって、
優位な形で、条約を結ばせても侵略完了とみなすらしい。
そして修一は、
「まさか、千里がフィレス星人って言うんじゃ」
「あくまで可能性だ。ただ奴らはミューティの事は詳しいしね」
と言った後、
「ただ、奴らのやり口から考えても、
今回の事は本格的な侵略じゃなくて、準備段階なのかもしれない」
和美を怪獣にしたところで、厄介な存在になるには違いないが、
それが、地球侵略の道具にするには心もとないからだ。
「まあ、奴らも色んな人がいるから、もしかしたら侵略じゃなくて、
愉快犯みたいなやつなのかもしれないけど……」
すると修一は、
「もしそうなら、許せない」
と低い声で言って身震いする。幼い女の子と利用しているだけでなく、
その親の子を思う心に付け込んでいるわけだから、余計に怒りが湧いてくる。
「ホントよね……」
と低い声で言う蒼穹。他の皆も怒っているようだった。
だが修一は、ここでふと、
「しかし、奴はどうして俺を誘ったんだろう」
なお耕史の事を話す際に、修一が湖に来た経緯も話している。
「もしかしたら、交渉相手に選ばれたのかもしれないね」
「どういう事だ?」
「奴らの侵略前の儀式で、侵略対象の星の住民の一人を選んで、
そいつに侵略の許可を取るんだ」
選ばれるのはごく普通の一般市民だという。
「じゃあ。俺が地球の運命を背負うって事か」
「あくまで推測だよ」
と瞳は答える。
そして瞳は、
「奴の事は放っておいて、ミューティを注視しないとね」
と言いつつ、緑の巨人を監視する。なお瞳というか、
リュミエールは、ただ見ているわけではなく、
特殊な力で分析していた。これはリュミエール自身の能力で、
瞳の治療にほとんどの力を使っているものの、これはまだ使用できる能力である。
「これは、かなり危ないね……」
「どう言う事だ?」
と問う修一に、瞳は答えた。
「がん細胞の影響で、今も肉体は変異を続けている」
ただ魔法が細胞を無力化するのと、リカバー光線で戻せるという点は変化はない。
しかし、その強さの面では、どんどん強力になっているという。
「今は、第一形態、その内、第二形態になる」
ならば、速く倒さなければと思うが、
「攻撃を受ければ、防衛反応で変化は早まるだろう。
もちろん、時間経過でも変化する」
「じゃあ、どうすれば」
「変化するのを覚悟で戦うしかない。まあ第二形態で打ち止めになると思うけど」
ただ相当強力な怪獣になる可能性があるという。
「出来る限り、人払いしてほしい。結構激しい戦いになりそうだから」
そう言うと、澄玲の方を見た。
その澄玲は、困った顔で、
「私に、そんな権限はないですよ」
ここでメールが入り、
緑の巨人は「ギガアウラウネ」と言うコード名が付けられた事を、
知らせてきたが、それはさておき、どうやって人払いをするかという事になる。
だがどうするか考えてる中、状況に変化が起きた。
冒険者たちも、身動きをしないギガアウラウネに、
様子見をしていたのだが、そこにドラゴンがやって来た。
ドラゴンの背には人間が乗っていて、ドラゴン自体はその人間の使い魔だった。
その人物も、様子見をするつもりだったが、ドラゴンの存在自体が不味かった。
ドラゴンが湖畔に降りたのだが、その事が刺激となってしまい。
ギガアウラウネは目を開けた。
「不味い!目を覚ましたよ」
と瞳が言い、直後、本体は動かないものの触手を伸ばし、
周囲への攻撃が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます