14「事情の説明」
修一は湖から現れた緑の巨人を見て、瞬時に一つの考えに憑りつかれたが、
その前に聞いておきたいことがあって、澄玲に、
「ところで、あなたが持ってる機械は?」
「これは、例の怪獣の細胞を検知する機械なんです……」
そして彼女は動揺しながら、
「どういう訳だかあの子から反応が出たんです」
「やっぱり……」
なんとなくだが、そんな気がしていた。
和美が消えたのが転移だとすれば、直後の音と言い、
湖に転移したのは間違いない。そしてミューティの反応と、
彼女に似た巨人と来ると一つしかない。
(和美ちゃんが怪獣化したって事か……)
人間とミューティの細胞が結合した場合、
かなり厄介だと聞いていたので不安を感じた。
一方、冴子は、
「そんな和美が……」
顔が似ているのだから、分かると思われるが、
それ以前に肉親だからこそ、気づいたという感じで湖の方に向かっていく。
「ダメです!」
と言って止める澄玲。
「とにかく避難しましょう。貴方たちも」
と澄玲は修一や蒼穹にも避難を促して、全員この場を離れる事にしたが
(あれ、アイツ、何処に行った)
いつの間にか、耕史の姿はなかった。
とりあえず、安全な場所に移動した修一達。
冴子は、ショックで茫然自失で地面に座り込んでいる。
澄玲は、スマホで恐らく仲間たちに怪獣出現の連絡を入れているようだった。
そして蒼穹は、修一に、
「考えたくないんだけど、あの巨人はミューティの細胞で、
和美ちゃんが変身した姿じゃ……」
と修一と同じ考えに至ったようだった。
「間違いないな」
「でも、自然界じゃ人間と結合する事はないんじゃ」
その点は疑問だが、修一は、
「ああ、でも和美ちゃんは病人だ。治療で注射とかはするはずだろ」
「まさか……」
「なんだかの理由で、細胞を混入したものを打ち込まれた可能性はないか」
「あり得ないでしょ、そんな事……」
蒼穹には、一応病院は薬とか管理はきちんとしているから、
ミューティの細胞が紛れ込む余地はないように思えた。
「念の為、聞いてみる」
修一は、地面に座り込んでいる冴子に話を聞こうとした。
ただ見た所、話が聞けるかは分からないが。
「すいません」
「はい……」
元気なく答える冴子、
「和美ちゃんが、最後に注射を打ったのはいつですか」
と聞くと、
「注射……」
と呟いたかと思うと、大きく目を見開いて、
「まさか、あの薬が!」
「薬って何ですか?」
「実は千里さんが、和美が元気になるからって薬を……」
そうあの時、彼女に液体の入った瓶を持ってきた青年は耕史だったのだ。
それを聞きつけた澄玲が、
「詳しい話を、聞かせてくれませんか?」
と言うと冴子は自分が知ってる事を話した。
「やっぱりあの人が……」
「やっぱりってどういう事だ?」
と修一が聞くと、
「ちょっといろいろありまして……」
保管していた細胞が盗まれたとはさすがに言えないようだった。
その後、冴子に、
「しばらくしたら、対策室の人たちが来るんで、お辛いでしょうが、
もう一度同じ話をお願います」
その後、澄玲は対策室に連絡を取っているのか、忙しそうにする。
一方修一も、彼女様子が気になりつつも、瞳に連絡を入れる。
「気づいてる……」
ただいつもと状況が違う気がするので、様子見の為、
変身はせずにこっちに向かっているらしい。修一は、
「今度のミューティは人間が、変化した奴で、
和美っていう幼い女の子が変身しているみたいだ」
「確か人間が変化した時の感じに似ているけど、いつもと違う……」
と言いつつ、少しの間の後。
「もしかして、その子は小児がんじゃないかな?」
「そうだが、何かあるのか」
「人間と結合するだけでも厄介なのに、癌となるとかなり不味い」
と言った後
「あっ、バスが来たから、後はそっちに着いてから話すよ」
そう言って電話は切れた。
「バスに乗るんじゃ、電話はできないよな」
と修一は呟き、瞳が来るのを待った。
なお巨人は出現したばかりなので、情報はまだ広がっておらず、
交通機関は止まっていないようだった。
瞳が到着する前に、対策室の面々がワゴン車タイプの空飛ぶ車でやって来た。
やって来たのは、ミオ含め、室長のチェルシーや六華の姿もあった
そして、やって来るなりミオが、
「澄玲から話を聞いてたけど、まさか、ここであなたと会う事になるとはね」
何かしたとでも思っているのか、その眼差しには疑いを含んでいた。
「言っておくが、俺は何もしていない。
むしろ黒幕の化けの皮を剥いでやろうと思ったくらいだ」
まずは冴子が一連経緯を話すと、
「どうして、そんな怪しげなものを」
と六華が聞くと、
「藁をもすがる気持ちだったのよ!
あの子の命がもう長くないの!でも、どうしても助けたかったの!」
と冴子は涙ながらに訴えた。
確かに、それが危ないものではないか言う思いもあったそうだが、
それでもすがってしまったのだ。娘を思う気持ち故に。
この言葉を聞いた修一は、
「親とは、子供が取り返しの付かない事をした時は、全力で断罪し、
同時に、子供を守る為なら全力で守る。例え悪魔に心を売ったとしても……」
と呟く。側にいた蒼穹は、
「なに言ってるの?」
「母さんの言葉だ」
と修一は言うだけだった。
この後、修一、蒼穹ともにここに来た経緯を話す。
蒼穹は、引き続きフィールドワークであるという。
彼女は、有名人ではあるが、この件では重要視されてないので、
深くは追及されないが、冴子の証言から、
この件の黒幕とされる耕史と一緒に来たこともあるのと、
光の女神の一件の事もあるので、疑いを向けられたままで、
「だから、アイツとは偶然街で合って、誘われたんですよ。
前から、胡散くさく感じてたんで、化けの皮を剝がしてやろうって思ったですよ」
「だから貴方がどうして、そんな事するわけ」
とミオが聞くと
「言ってるでしょ、俺の病気ですよ。正義感って言う」
「本当は、千里って奴の仲間じゃないの」
「そんな事はない!」
ここで澄玲が、
「さっきから、私は、桜井君は嘘は言っていないと思いますよ」
「だから、澄玲は黙ってなさい。同い年の妹がいるからって、甘いんだから」
「妹は、関係ないでしょう」
という澄玲を無視して、修一に
「もう一回聞くわよ」
という形で同じ話を繰り返した。
なお修一は、負けず嫌いと言う病気が出ているため、
こういう場面で根を上げたく無いという思いに駆られ、
話を繰り返すたびに、語尾はきつくなり、声も大きくなり、
終いにはミオ含めた周りの人間が、耳を押さえないといけない状況になってしまい。
「もういいわ……」
疑いは消えてないが、ミオが根を上げるしかなかった。
「じゃあ、もう行ってもいいですか?」
という修一に対し、一緒にいたチェルシーが
「別にいいわよ」
と不機嫌そうに言う。
「それじゃ」
と言って修一は去っていくし、蒼穹も、
「私もこれで」
と言って去っていく中、
その背後では、チェルシーがミオに二人を尾行する様に指示を出すが、澄玲が
「私が行きます」
「ちょっと待ちなさい」
とミオが止めようとする前に、澄玲が二人の後を追った。
そして修一は瞳に、連絡を取る。
「事は見てたよ」
修一たちと対策室の面々とのやり取りを遠くから見ていたという。
とりあえず待ち合わせ場所を決めて、
そこに向かうつもりだったが、
「待ってください!」
と後を追っていた澄玲が声をかけてきて、
「創月さんに会いに行くんですよね。私も連れてってください」
彼女は事情を知っているし、一応瞳というか、
リュミエールが信頼できるというので、彼女もいっしょに行くことになった。
待ち合わせ場所に行くと、
(やらかしたか……)
と修一は、そんなことを思った。
そう瞳だけかと思っていたが、春奈や麻衣、千代子の姿があったからである。
春奈が、
「桜井君、その人、部室に来た守護神機関の」
すると瞳は、
「大丈夫。その人は事情を知っているよ」
すると、三人が血相を変えて、特に千代子が、
「まさか、うちらが魔法少女ってことも」
すると澄玲が、
「えっ、あなた達も魔法少女だったんですか!」
と言い出したので、しまったという顔をする。
「ボクが話したのは、ボク自身の事とイクシードの事、
それと、ミューティだけだよ」
愕然とする千代子に澄玲は、
「聞かなかったことにしますから……」
と慰めるように言う。
暗い表情の千代子をしり目に修一は瞳に、
「さっきの話、続きを聞かせてくれるか?」
「がん細胞は、他の星の生物でも同じだけど、変異しやすいんだ。
それとミューティの細胞と結合すると、影響を受けて、
ミューティも変異してしまう」
その変異は強力な怪獣になるという形で現れる。
だが人間と結合すると、より強力な怪獣となるが、
がん細胞が、さらに拍車をかける様だった。
「ミューティの気配が、人間と結合したようで、
違うような気配がしたのは、もしかしてと思ったけど、
がん細胞のせいだったんだね」
「それと……」
修一は耕史の事も話す。すると春奈が、
「そんな、千里さんが……」
麻衣も、
「うそ……」
もちろん春奈や麻衣もボランティアを通じて耕史と会っていて、
好印象を抱いていたとの事で、驚きを隠せずにいた。
そして瞳は、
「とにかく様子を見に湖の方に行くよ」
澄玲が、
「今はまだ、周辺の封鎖はしてませんから、今なら湖の方に行けますよ」
こうして、瞳と澄玲、そして修一たちも湖の方に向かうのだった。
その頃、どこかの部屋に耕史の姿があった。
彼は大きなモニターで、緑の巨人を見ながら指を組んで、
(和美ちゃんのミューティ化には成功した。後はリュミエール。君の出番だよ)
と口元に笑みを浮かべた。
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