13「変貌」

 さて修一の後を追っていたのは、蒼穹だけではなかった。

水野澄玲も後を追っていた。正確には、修一を追っていたわけでは無い。


(あの人は……何で桜井君と……)


彼女が気になったのは千里耕史の方であった。

防犯カメラの映像は不鮮明であったが、犯人が耕史に似ていた気がしたのだ。

もちろん自信はあまりないのであるが、

それでも、足は自然と後を追っていたのだった。

なお蒼穹の存在には気づいていたが、当初は修一を追っている事には、

気づかなかった。


 そんな四人は、バスに乗り修一と耕史は隣同士で座ったが、

残りの二人は、別々の場所に座リ、途中下車をしてから更に歩く。

もちろん蒼穹も澄玲も追っていく。同じバス停で降りたので、

澄玲は、蒼穹が後を追っていることに気づいた。


 一方、修一は耕史に、


「どこまで行くんですか?」


と聞くと、


「この先の湖の近くだよ。そこに和美ちゃんの家があるんだ」


因みにこれから向かう湖は、

ネスブール湖同様にゲート事件の際に現れたものである。

ただネスブール湖はゲートから出現したが、

こっちは地殻変動で出来たものでネスブール湖よりは小さい。


 一方達也たちの会話が聞こえていない澄玲は、


(この先は、湖で確か民家が数件あるんでしたっけ……)


と思いつつも、


(それにしても、天海さんはなぜ彼女を追っているんでしょうか?)


と修一との関係を知らない彼女は疑問に感じていた。







 湖に近づくと、家に行くまでもなく、その湖畔で遊んでいる和美と出会った。


「耕史お兄ちゃん、こんにちは!修一お兄ちゃんもこんにちは!」


と挨拶し、耕史は


「和美ちゃん、こんにちは」


優し口調であいさつし、修一も同じような感じで


「こんにちは」


修一も挨拶した。


 なおこの場には彼女だけでなく、彼女の母親である冴子もいた。

ボランティアの日に彼女も来ていたので、修一も冴子の事は知っていた。


「いつもありがとうございます」


耕史に挨拶するので、普段から交流があるように見えるが、修一に対しては、


「それで貴方は?」


修一とはボランティアの場にいたから、面識はあるものの、

あの時だけなのと、普段からの交流はないので、疑問符が付くのも当然の事。


 そんな彼女に対して耕史が、


「偶然会って、誘ったんですよ。それに彼の話すロボットの話を喜んでましたし」

「確かに、和美はロボットが好きなのよね」


なお和美は、少女向けの作品よりも、ロボットとか特撮とかが、

好きなのである。


「私の影響だけど」


母親である冴子も、そういうのは好きらしい。


「僕も知識はありますけど、彼の方が断然上でしょう」


修一がプラモデルを作りながら、知識をひけらかしていたので、

そう思われてもおかしくはないが、

修一には、なんだかの思惑があって、和美と接近させたいような気がした。


 だが和美から


「修一お兄ちゃん、また色々お話聞かせて」


と純粋無垢な表情で言われると、断ることは出来ないので、


「じゃあ何がいいかな?ロボット?ヒーロー?」

「最初はロボット、その後でヒーローも」

「分かった」


そう優しい口調で言うと、ロボット関係の作品等の話を始めた。







 一方、近くの林で、その様子を見ている天海蒼穹。


(確か、あの子は和美ちゃんよね……一時帰宅なのかな?

元気そうで良いけど)


蒼穹のボランティアは、何回も行っているので、

病棟の子供たちとも顔見知りだし、和美とも仲がいい。


(千里さんは、前から仲良かったけど、何で桜井修一まで……)


少し離れた距離にいるから、会話が聞こえづらいので、状況がつかめていない蒼穹。

なおボランティアを通じて耕史とも顔見知りであったが、

彼女もまた、修一と同じく耕史の事をうさん臭く思っていて、

それが何故か修一と一緒だったので気になったのである。


 そうこうしていると


「あれ?蒼穹お姉ちゃん」

「!」


この距離から、気づかれると思わなかったので、

驚く蒼穹。すると耕史が、


「もしかして天海蒼穹さんかい?」


と言うと和美は頷き、蒼穹の方を指さした。


「えっ!天海が!」


と声を上げつつ、指さす方を見る修一。咄嗟に隠れつつも、


「おい、何で隠れてる?」


と修一からも言われたので、

観念して姿を見せ、修一たちの方へとやって来た。


 そして、


「蒼穹お姉ちゃん、どうしたの?」


すると蒼穹は、本当の事は言えないのか、


「ふっ、風光明媚じゃなくて、フィールドワークで来たのよ」


子ども相手なので、笑顔で言う


「確か、お姉ちゃんは、この街の色んな所を見て回ってるんだよね」


すると、耕史は


「ここも、穴場スポットだからね。

やっぱりガイドのボランティアは、そういう所も抑えとくんだね」


というが、どこか意味ありげな言い方だ。修一に至っては、


「フィールドワークか、お疲れさん」


と言いつつも、疑いを抱いているのかジト目で見ている。


「なによ。文句でもあるの?」

「別に……」


という修一に、耕史は


「見た所、君たちって親しんだね。ボランティアの時も話をしてたし、

もしかしてこれかな」


左手で親指を立て、右手で小指を立てる。

親指は男の恋人を差し、小指は女性の恋人を差すので、

修一と蒼穹は、顔を赤くして、


「「違う!」」


と息ぴったりに言った。


「そんなに怒らなくてもいいだろ。冗談だよ、冗談」


と言って笑う耕史だった。


「それより、怪しい人がいるよ」


そう言うと、蒼穹がいた近くの林の方に向かって、

指さした。そこは蒼穹のいた場所とは違う場所。そこに向かって、耕史が、


「そこの君、何してる」


と声をかけて、


「別に怪しい者じゃありません」


と言いながら出てきたのは、澄玲だった。





 澄玲は、林から出て来ると、側に来て身分証明書を見せて、


「守護神機関、怪獣対策室の水野と言います」


すると冴子が、不安そうに


「もしかして、最近の怪獣の調査に?」


と聞くと、


「はい、その一環で、ここに来ました」


と言いつつ、


「でも、ここで何かあったって訳じゃないですよ。

ローラ作戦で、手あたり次第、調べている状況でして……」


と冴子を安心させるように言っているが、その会話を聞いた修一は、


(まだ俺の事が気になってるのかな)


と思った。


 ただ怪獣対策室と聞いて、


「お姉ちゃん、怪獣に詳しいの?」


と和美が目を輝かせながら澄玲に向かって言う。


「まあ、一応ね」


と笑顔で答えるものの、子ども相手とは言え、緊張している様子。


「それじゃあ、怪獣の話を聞かせて」

「え~と……」


と澄玲は少し困った感じだった。職務上言えない事も多いからであるので、

外部で話していい事を思い出して、


「まずは……」


この街で過去に起きていて、広く公開されている。

怪獣の話をいくつかした。知られている話しとはいえ、

和美はまだ幼いから、知らないし


「そんな事が……」


という修一。彼の場合は、この街に最近来たばかりだから、

彼も知らない話で、どれも怪獣映画のような出来事で、

町の人たちが団結して倒したというような内容。


「すごいね!」


と喜ぶ和美。その姿を見て、澄玲も嬉しそうにする。また途中、


「そう言えば、桜井君が撮った動画、見せてあげたら」


と話が振られ、修一は持っている携帯端末で、

光の女神と怪獣の動画を和美に見せた。もちろん大喜びだったが、

怪獣の話をした事で、何か影響があるわけでないが、

偶然にもそれが予兆となっていた。


 引き続き興味津々に話を聞いている和美だったが、異変が起きた。

突然、和美が苦しみだしたのだ。母親の冴子は、血相を変えて、


「和美!」


と声をかける。血相を変えるのは修一、蒼穹、澄玲も一緒で、


「まさか、容体が急変してるんじゃ」


という修一に、事情を知らない澄玲は、


「容体って、あの子は病気なんですか?」


そして蒼穹は、


「早く救急車を」


と言い出すが、そんな中で耕史だけは、表情一つ変えてなくて、

その様子に修一は、不快感を覚え、一言言ってやろうとするが、

ここで澄玲の方から電子音がして、彼女は機械を取り出して、目を丸くした。


「そんな、まさか!」


この直後、和美の体は光に包まれ、消えてしまった。


「まさか転移!」


と声を上げる蒼穹だったが、直後、湖の中に何かが落ちる音がして

全員がそっちを向いた。

 

 次の瞬間、湖に波を起こしながら、姿を見せるものがあった。


「巨人!」


それは全長60メートルの身長で女性の姿をしていて、

肌は緑色で、太い蔦のようなものが、体に巻き付いていた。

その顔は和美によく似ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る