12「騒動への序曲」

 守護神機関の施設への侵入者であるが、

結局のところ逃げられてしまった。そして対策室のオフィスに戻って来た面々、


「よりによって処分前のファーストの細胞を盗んで行きやがって」


と机をたたきながらチェルシーは憤る。

この事で、この件は怪獣対策室が担当する事になった。ここで六華が


「しかし、どうやって侵入してきたんでしょう?」


ミオも、


「物理的な侵入の痕跡はないらしいけど……」


犯人はセキュリティーに引っかかり、保管室前の防犯カメラに鮮明ではないがその姿を見せている。しかし、そこに至るまでの足取りが分からず、


「状況から見て、突然現れてセキュリティーに引っかかったとしか思えないわ」


すると澄玲が、


「でもここの施設って、転移は出来ないんじゃ」


と疑問を呈した。建物自体が転移による侵入を防ぐため、

魔法や超科学による転移を防止する装置が使われている。

侵入するとすれば物理的に入って来るしかない。

もちろんセキュリティーはしっかりしているから容易ではないし、

そもそも、その痕跡もない。


「それに出ていった痕跡もないし、施設内を徹底的に探しても見つからない。

あり得ないけど、転移としか考えられない」


とミオは頭を抱える。


この場が重い雰囲気なので、耐えられなくなった澄玲は、軽い感じで、


「でも、最後の最後でセキュリティーに引っかかるなんて、間抜けですよね」


と言うも、ミオは


「ワザとかもしれないわよ」

「何ですか?」

「挑発よ。実際にセキュリティーに引っかかったけど、

盗み、逃亡にも成功している」


実際、最初に警備員が駆け付けた時は、引っかかってから直ぐだったが、

既に逃げられた後であった。


 ここでチェルシーが、


「バカにしがって!」


と激高した。そして六華は冷静に、


「やはりラビリンスでしょうか?」


「孤高の魔法少女ロストルナ」の敵である組織ラビリンスは、

守護神機関とも長年にわたり対立関係にあった。


「しかし、奴らとて『転移除け』を破ることは容易じゃないでしょうし、

もしかしたら、我々の知らない勢力が動いているのかもしれない」


とミオは言いつつ、


「それよりも、ファーストの細胞を持ち出してどうするつもりなのか」


六華が、


「まさか、ラットの時と同じような事をする気じゃ……」


と不安そうにした。なおラットと言うのは守護神機関が、

ネズミ怪獣につけた名前である。

こっちも本体は消えたものの射出した棘など残っている部分から、

スラッグと同じであることは突き止めていて、

更に対策室は状況から、最初に死んだ研究員が細胞を持ち出し、

注射器でネズミに打ち込んだ結果、怪獣が生まれた事も突き止めていた。


 六華の話を聞いたミオは、


「そうなると、絞られてくるけど……」


細胞の事を知っているのは、対策室を含めた守護神機関の職員と、

複数の研究機関で分析を頼んでいた関係上、

そっちの方の関係者もいて結構な人数になる。


「唯一の手掛かりは、防犯カメラの映像ですけど」


と言いながらパソコンにその映像を映し出す。


 その映像には侵入者が映っているが鮮明ではないので、

顔がはっきりとは映っていないが、

髪が長く、体格から20代くらいの男であることは確かで、

手袋の様なものはしていないようだが、

指紋は残っていないし、それどころか体毛、体液さえ残っていないので、

DNAを採取することもできない。


 この状況下では頭を抱えるしかないが、ここでオフィスに電話が、


「はい、怪獣対策室……」


と六華が電話に出るが、


「えっ、わかりました!直ぐに取りに行きます」


電話を切ると、チェルシーが


「どうした?」


と聞くと、


「技術班からです。例のセンサーが完成したそうです」


澄玲が


「それって、ミ……じゃなくてファーストの細胞を感知する」

「そうよ」


と六華が言い、


「ついに完成したんだんだな」


チェルシーが待ちかねていたかのように言い、


「手がかりになってくれればいいんだけど……」


犯人は細胞を持って行ったのだから、

センサーで居場所をつかめる可能性があった。

もちろん相手が細胞を手放さないで、ずっと持っていればの話であるが。


 善は急げと言わんばかりに六華が、


「取り敢えずラボに行って、取ってきますね」


澄玲も、


「私も一緒に行きます」


と言って二人へ部屋から出た。

そして六華と一緒にラボに向かう途中、澄玲は、


(この事は、彼女に伝えた方がいいのかな……)


ファーストことミューティの細胞にまつわる事なので、

一応関係者である瞳に伝えるべきか悩んだ。

もちろん、まだ彼女の事を信じ切れてないところもあるが、

加えて、所属する組織の失態でもあるので、細胞に関しては関係者かもしれないが、

組織から見れば完全な部外者なので、

そんな人物に、わざわざ組織の恥を伝えるのは抵抗があり、

余計に悩むことになった。








 ネズミ怪獣の件が、終結して数日、その間、何度か街中にイクシードが現れ、

リカバー光線を使う。つまりミューティの細胞を無効化すると言う事をしたが、

それもしなくなって、何事もない日々が続いていた。

守護神機関の二人も話を聞きに来ない。

事情を知った澄玲が、報告したなら確認に来そうなものだが、

来ないと言う事はそれも無さそうだった。


 そして休み時間、空き教室に修一と、春奈、麻衣、メイが集まった。

なおメイには事情を説明したと言うか、春奈と麻衣が、

半ば問い詰められる形で、ミューティの事、リュミエールの事を話した。

ともかく、何も起きてはいないが故に、

裏で何か起きているんじゃないかと言う不安を感じた修一が、

春奈に話しかけ、ここに集まることになった。

ちなみにメイは春奈に勝手についてきた。


「瞳に、状況を聞いたんだけど、ミューティの細胞は

まだ残ってるみたい。恐らく守護神機関が回収している分だと思うけど」


なお守護神機関は、この街では公になった組織ではあるが、

元々は秘密結社と言う事と、今でも悪の組織と戦っている関係で、

出先となる事務所ははっきりしているが、

本体となる拠点は非公開となっていて、どこにあるか分からないと言う。


「ただ感じ方がおかしいとも言ってたなぁ」

「おかしい?」


細胞の状態では、具体的に位置は分からなくとも、

街中にあるか、郊外にあるか位の事はわかる。

ただ今は、それが酷くなっていて、街中か校外かもわからず、

この地方のどこかと言う状態らしい。

 

 話を聞いて、


「なんで、そんな事に?」


と修一が聞くと、麻衣が、


「瞳って言うか……リュミエールさんは思い当たる節が、

あるみたいだけど……」


それが、何であるかは、この星の人間には関係のない事と言って、

教えてくれなかったと言う。


「まさか、別の異星人が関わってるって言うじゃ」


と修一が言う。まあ彼女の様子から見れば、

その線が濃厚ではあったが、当人が何も言わないのだから、

何とも言えない状況。ただ今後何か起きるのではと言う不安だけが残った。


 そんな中の事である。それは土曜日、食料の買い出しに出かけた時の事、


「やあ、桜井修一君」

「あんた確かボランティアに来ていた」

「千里耕史だよ」


笑顔で、優し気な口調な上、気さくな感じで話しかけてきたが、

初めて会った時と同じように、どうも胡散臭さを感じて心を許せなかった。


「それで、何か御用ですか?」

「前に君がお世話した女の子、和美ちゃんのこと覚えてる?」

「ええ……」

「あの子、あの後、病気が良くなって、一時的に退院しているんだ。

それで、様子見にね」


と言った後、


「ここで会うのも何かの縁、君も来ないかい?」

「なんで?」

「君だって、あの子になつかれてたろ。またロボの話をしてあげなよ。

喜ぶと思うよ」

「一度に会ったきりですし、それに……」


修一はジト目で、


「俺、そう言う趣味ありませんし」

「なんだい?その眼は?僕は純粋にあの子が心配なだけだよ」


そうは言うが、彼から感じる胡散臭さゆえに、

どうも信用が出来なかった。

それに、修一を誘う事にも意味があるように感じた。


 しかし、ここで考えを変えた。


「まあ、確かにこれも何かの縁でしょうし、付き合いますよ」


と嫌味たっぷりな言い方で言う。


「なんだか気になるけど、まあいいや一緒に行こうか?」


と一緒に、歩き出す二人だが修一は


(化けの皮がしてやる……)


そんな事を思っていた。







 一方、この様子を見ていたものがいた。

それは、蒼穹だった。今日は彼女一人である。


(桜井修一と確かボランティアの千里さん?)


この二人が話をして、一緒に何処かに向かう姿を見て、

気になった彼女は、自然と足をつけていた。

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