11「ボランティア活動」
その女性、白上冴子は大学の研究員で、シングルマザーで、
和美と言う名の幼い娘がいる。彼女が所属している大学は、
怪獣の細胞の分析を依頼した大学の一つであるが、分析には関わっていない。
彼女は娘である和美が病気なので娘と時間が取れるように、
第一線から退いている。娘の病気は小児がんで、脳腫瘍。
既に末期状態。余命はもって半年と言われている。
こうなってしまうと、魔法でも治せないし、超科学だって役に立たない。
特に脳腫瘍となればサイボーグ化も難しい。
そして日に日に弱っていく娘を前に、冴子の精神はすり減っていた。
そんな彼女の元に一人の青年が訪ねてきた。
「貴方が、確かボランティアの……」
冴子は、その青年を知っていた。
彼は液体の様なものが入った瓶を見せて、優し気な口調で
「これを使えば、和美ちゃんを助けることができますよ」
しかし青年は瓶の中のものが何かは、答えない。
ただ助けることができるとしか言わないので、はっきり言って怪しい。
しかし、この時の冴子は精神が摩耗して、まともな状態ではなく、
更に青年の優し気な口調が、心に響いてしまい。その瓶を受け取ってしまった。
「それを注射器で、娘さんに打てば、直ぐに元気になりますよ」
ただ冴子は、
「どうして」
と尋ねた。青年は優しい笑顔で、
「和美ちゃんに死なれると、僕もつらいですよ。
だって僕もあの子の事が好きですから」
と言った。冴子は、その事は知っていたし、
和美も彼の事を好いている事を知っていた。だから余計に彼の事を信じた。
そして彼は、瓶だけでなく注射器や消毒用のアルコールも持っていて、
それも、冴子に渡した。そして彼女は言われるがままに、
瓶の中の液体を、和美に注射した。娘が助かる事を願って。
でもそれが悪魔の罠であることを、彼女は知る由もなかった。
さて怪獣騒ぎが起きる少し前の事。
現視研の活動一つに地元でのボランティアと言うのがあった。
これは、この部に限らず他の部のやっている事である。
別に校則で定められているわけではないが、過去に何処かの部活が初めて以来、
いつの間にか多くの部活がやるようになった。
ボランティアを介して地域と繋がる事で、
部活おいても地元から支援を受けることができる様になり、
また学校としても、地元への奉仕はいい事なので推奨していた。
現視研が、それこそ部長が新入部員だった頃からしているのが、
小児がん病棟でのボランティアであった。
内容は、患者である子供たちのお世話。
部員たちは、それぞれの分野、例えば、ラノベ班なら読み聞かせ、
コスプレ班は、子供たちの為、裁縫をしてあげたり、
時には自慢のコスプレ衣装を着て寸劇をすることもあった。
またイラスト班は、子供たちと一緒に絵をかいたり、
子供たちのリクエストを受けて即興でイラストを描くこと。
そして部長は、もちろんパワードスーツは着てなくて、
私服でエプロンと言った格好で、
子供たち相手に、読み聞かせをしたり、お絵描きをしたり、
一緒に遊んであげたり、時に子供たちに翻弄される事も、
その姿を見た修一は、
(今の部長は、番長だなんて誰も思わないよな)
彼の目には、控え目な性格の女性保育士にしか見えなかった。
余談であるが、コスプレくじで部長が当たりを引かなかった場合は、
新入部員が部長の素顔見る初めての機会になるのは、
このボランティア活動の時らしい。ただ修一を含めた今年の一年生は、
パワードスーツのテストの事故での入院の件があって、
早い段階で、部長の素顔を知ることになったが。
さてボランティアに来ているのは現視研の面々だけでなく、
他の学校の生徒たちも来ていた。もちろん学生だけでなく、社会人もいるが、
ともかく学生たちの中に、
「桜井修一、アンタもボランティア?」
天海蒼穹の姿もあった。
「天海も?」
「うちの学校は、ボランティア活動も盛んだから」
特に特待生は、実績を必要とするため、
彼女は観光ガイドだけでなく、色々なボランティアに参加している。
そして持ち前の性格ゆえにどの活動でも、真面目に取り組むので、
その事が、彼女を余計に有名人としていた。
蒼穹がいる場所には言うまでもないが里美の姿もあって、
「お喋りしてないで、真面目に活動してください」
と二人の間に割り込んできて、睨みつけた後、
持ち場へと戻っていくのだった。
さて修一は、子供たちと一緒にロボットのプラモデルを作る。
これは、プラモ班と言うだけではなく、
この手のボランティアが初めてなので、部長と話し合って決めた事で、
「その日のうちに完成するプラモを用意しろよ」
と釘を刺された。その理由はかなり重たいものだった。
子供たちと一緒にプラモデルを作りつつ、
プラモに関わるエピソードを語り、子供たちを楽しませる。
ちなみに作っているのは魔機神のプラモデルで、
「そのロボットって本当にいるんだ。すごい~」
特に一人の女の子が話に喰いついた。ツインテールの髪型のかわいらしい少女だ。
相手が女の子だっからじゃないが、興味のある分野に喰いつかれると、
うれしくなって、プラモを作りつつも、つい饒舌になってしまう。
そして少女は話を聞きながら、うれしそうに、
「すごい!すごい!」
と嬉しそうに言うのだった。
そんな中、その女の子は、
「あっ耕史お兄ちゃん!」
少女の視線の先には、髪の長い青年がいた。
「やぁ、和美ちゃん。今日も楽しそうだね」
その青年は、修一のもとに来て、
「初めて見る顔だね。僕は千里耕史」
と自己紹介をした。修一は、自分の名前を名乗ると、
「ここでのボランティアは初めてかい?」
「ええ……」
「僕も、最近始めたばっかりだけど、
まあ君よりは先輩だから、困ったことが合ったら色々教えるよ」
優しい笑顔と言葉遣いで、子供たちに人気があるようで、
特に和美が懐いているようだったが、
「………」
修一はどうも、この人物に心が許せなかった。何と言うか、
本能的に胡散臭さを感じていたからだ。
さて修一と子供たちのとのプラモづくりは、
「よし完成だ」
無事に終わり、完成したプラモデルはプレゼントとして、
子共たちにあげるので、子供たちはさらに大喜び。
そして修一達が帰るときは、みんなお別れの挨拶をしてくれて、
「また来てね~」
と口々に言った。
「また来るよ」
と修一は答えたが、子供たちの言葉に重みを感じていた。
それを態度に出すことなく、笑顔で病院を後にする。
その日の内に、完成するプラモを持っていく理由は、
「あの子たちに、次はないかもしれないんだ」
今日、一見元気そうな子供達でも、いつ亡くなってもおかしくない状況だという。
だから未完成で、次の機会にと言う訳にはいかないのだという。
これはプラモデルだけでなく、お絵かきも、読み聞かせも、裁縫も、
その日のうちに完結するものを用意するよう皆に言っていた。
「心残りにさせるのは、忍びないからな」
これは、部活の一環として、
長年、このボランティアに関わって来て、そういう状況に出くわした事があり、
そうならないように、気を付けてきているという。
「あの子たちは、この一瞬、一瞬が大切なんだ。
だから悔いを残さないようにしないとな」
と部長から言われていた。
修一は、テレビとかではあるが、この言う命の現場は知っているし、
部長の思いも理解できた。だから子供たちの「また」という言葉が重く感じたのだ。
でもその事を口だけでなく、態度でも出さない。そうするように言われている。
今を必死で生きるあの子たちに、悲しい思いをさせたくないから、
だから。もう会えないかもと思いつつもまた来ると言い、笑顔で、病院を後にした。
そして帰り道、修一は、
(魔法や、超科学って奴も万能じゃないって事か)
とそんな事を思う。
がんと言う病気は、魔法や超科学を持ってしても治療が難しい病気だと聞いていて、
この街に来て、魔法や超科学の凄さを目の当たりしてきたが、
それでも出来ない事があるという現実に、憤りのようなものを感じるのだった。
さて部活の一環として、今後もボランティアに関わる事となるのだが、
この時、出会った和美と言う少女と、千里耕史と言う男に、
例のミューティの細胞と絡んで関わっていくことになるのだった。
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