10「怪獣が消えた後で」
蒼穹は、怪獣の消滅を聞き、家に戻っていた。
今回は、蛞蝓の時とは違い、中継が間に合っておらず、
話を聞いただけであったが、事情を知る彼女は、イクシードが戦って、
リカバー光線で、怪獣を元に戻したのは分かった。
なお修一にも、連絡して状況を聞こうとしたが、途中で里美と会い、
その後も彼女と一緒なので、
彼女の目が気になって、連絡が出来なかった。
余談であるが、里美は外出自粛なのに出て行った蒼穹を、
呼び戻しに来たのであり、
「もう化け物もいなくなったそうですから、さあ帰りましょう」
と怪獣消滅の第一報を伝えたのも彼女である。
そして家に帰っても、彼女に見張られるような形になっていた。
家に帰ってしばらくするとドアホンが鳴った。
ワイヤレス親機に手を伸ばして、モニターを確認すると、
(この人は、確か守護神機関の水野って人じゃ……)
彼女はミオと一緒に、光弓学園にも聞き取り調査に来ていた。
蒼穹は対象ではなかったが、聞き取り対象の生徒の元に案内をしていて、
その関係で、彼女の事を知っていた。
(何しに来たんだろ……)
彼女が自分の元を尋ねてくる理由が分からなかった。
この日、怪獣を追って奔走したものの、
彼女自身は怪獣に接触することはなかったのだから。
でもすぐに、
(桜井修一の方だ)
と思い当たった。彼女は、修一が「女神」の件で守護神機関から、
聞き取りを受けたと聞いていたので、
修一に、再度話を聞きに来たのは確かと思ったのだ。
蒼穹は、修一に連絡を取った。客が来たことを伝えるだけだから、
里美の目も気にならない。
「桜井修一、今どこ?」
「家にいるけど、どうした?」
「表玄関に、客が来てるわ。守護神機関の人よ」
「分かった。伝えてくれてありがとう」
連絡を終えると、側にいた里美が、
「どうして、彼の客だと分かったんですか?」
と疑いの眼差しで聞いてきた。
なお里美は、蒼穹がミオたちを案内した際に、
一緒にいたので、客が守護神機関の人間であることは分かっていた。
「だって、身に覚えは無いでしょ?
それに、アイツが『女神』の動画を撮ったとかいう話を、小耳に挟んだし……」
動画の事は、修一から話を聞いたが、
それ以前に、名前こそ聞かなかったが不津高の生徒が、
「女神」を姿を近くで動画に納めたと言う話を聞いていたので、
小耳に挟んだと言うのは、あながち嘘ではない。
ただ里美は、この前のコスプレデートの一件以来、
修一と蒼穹との関係を邪推しているようで、
彼が絡んでくると、見る目が厳しくなるようになっていた。
確かに、あの時以来、二人の距離は近づいた感じはあったが、
しかし、恋人と呼べるほどではない。
だから、蒼穹にとっては妙な勘繰りをされてるみたいなもので、
正直うっとうしかった。
蒼穹から、連絡を受けて表玄関に来た修一。
澄玲が来るだろう事は予想していた。
あんな事があったし、家の住所も知られているのだから。
そして修一の顔を見るなり、
「お話、聞かせてもらえますよね?」
「はい……」
と答えつつも、
「でも俺だけだと何なんで、少し待って……」
と言って携帯電話で瞳に電話を掛けた。
電話に出た彼女に、今いる場所とこの後の予定を聞いた。
「今、家にいる。この後、特に予定はない」
「じゃあ、今からそっちに行ってもいいか、
さっき会った守護神機関の人も連れていくけど」
「構わない」
と彼女と約束を取り付け、澄玲には、
「約束は取り付けたんで、場所を変えましょう。
どうせ、創月の所にも行くんでしょう?」
「はい」
そんな訳で、二人で瞳の家へと向かう。
その途中、修一は、
「すいません。勝手に帰っちゃって……」
あの時は、あの場で話を聞かれるのが、何だか面倒な気がして、
澄玲が気を取られている内に、その場を去った。
もちろん、知られてしまったからには、話をせざるを得ないとは思ってはいたが、
後で話をと言っても、聞き入れてくれないような気がしたからだ。
そんな修一に対して、澄玲はどこか不機嫌そうに、
「元々、私は貴方たちに帰宅を促していたわけですから、
貴方たちはそれに従っただけでしょうから、気にしていません」
との事だったが、その態度ゆえに、気にしていないようには思えなかった。
この後は何とも言えない気まずい雰囲気を漂わせながらも、
二人は、瞳の家に到着した。
この前来た時の様に、
「いらっしゃい。」
と言って二人を迎え入れる瞳。
そして、この前と同じように、リビングに向かうが
その途中、半開きになっている扉に気付いた。
いけない事とはわかっているが、修一の病気である好奇心がわいてきた。
ただし、女の子の部屋を覗き見たいという、いやらしいものではない。
その部屋からは、何というか危ない気配を感じたのだ。
つまりは怖いもの見たさであった。
(ストーカー特有のあの部屋かな……)
衝動に負けた修一は、リビングに向かう二人に気付かれないように、
その部屋に近づき、中を覗き込んだ。
「!」
中は思ったとおり、ストーカー特有の写真だらけの部屋だった。
もちろん映っているのは、零也と真綾である。
なお両方のストーカーなので、
どちらかの顔をつぶすと言うようなことはしていない。
加えてちらっと見ただけだが合成写真と思われる結婚写真があった。
もちろん映っているのは新郎が零也で新婦が真綾だ。
二人の本気で結ばせたいと言う強い思いを感じるものだった。
修一は、扉を閉めた。すると
「何やってるんです?」
と澄玲が声を掛けてきた。状況から見て人に家の、
しかも女性宅の部屋を覗いたようだったんで、
軽蔑の眼差しを向けていた。しかし修一は冷静に、
「扉開きかけていたんで、閉めたんですよ」
「人の家の扉ですよ?」
「すいませんね。俺、半開きの扉を見ると、
どうにも閉めなきゃ気が済まないんですよ。分かりませんよね。この衝動は」
すると澄玲は、目線をそらせながらも
「分からないわけじゃないですけど……」
と言ったので、彼女にも身に覚えがあるらしい。
なお、苦し紛れの言い訳の様に聞こえるが、
実際修一は、頻繁ではないものの半開きの扉を見ると、
他人の家でも閉めたいと言う強い衝動にかられることがあるので、
今回こそ、ごまかしで使ったが、これもあながち嘘ではない。
なおこのやり取りの中、瞳は特にリアクションはなかった。
彼女というか、彼女の中にいるリュミエールは、
宇宙人なので、完全な他人事だから。
リビングに来ると、あの時と同じようにリビングに座って、
お茶も出してもらって、瞳は澄玲にもあの時と同じ話をした。
その過程で魔法少女のことも話す。もちろんイクシードのことだけで、
他の魔法少女の話はしなかった。そして彼女の反応は、
「にわかには、信じられませんね。
貴女があの光の女神で、創月さんと一体化してるなんて、まるで特撮ですよ」
との事で、当然と言えた。
「でもミューティ、私たちはファーストと呼んでますが、
その部分は我々も確認が取れています。ただ魔法で無力化と言うのは初耳です。
ですが、あの蛞蝓、私たちはスラッグと呼んでいますが、
その細胞が同じなのに変異させる力を失っているのは確認しています」
イクシードと戦いっていると言う事実と、
加えて細胞はまだすべて処分し終えていないので、立証は可能である。
細胞の件はまだ公表していないので、それを知っていると言う事は、
関係者と言う事になるが、だからと言って彼女の話は、
この街で置いても鵜呑みにできる事ではなかった。
そして澄玲は、
「話してくれてありがとうございます」
と言いつつ、
「確証がないので、貴女の話は、報告しません」
ただ直ぐに立証可能であるのと今後の為にも、
細胞と魔法に関することは、報告すると言う。ここで修一は、
「魔法少女に関しては?」
少し不安気に聞くと、
「そっちは、私の担当外なので、まあミオさんなら報告してるでしょうけど」
と目線をそらしながら言いつつ、
「それに、私は魔法少女の事は、イタズラに詮索すべきでないと思っていますから」
と言った後、修一の方を見ながら、
「桜井君は魔法少女の事は知ってるんですよね?」
「まあ……」
と今度は修一が目をそらしながら、
「偶然の重なりと言うか……」
再び目線を戻しながら、
「いろんな偶然が重なった結果です。今日の貴女だって、
イクシードの正体を知ろうとして、知ったわけじゃないでしょう?」
「まあ、そうですけど……」
「詳しい話はできませんよ。第三者の数人のプライバシーを侵害するんで」
澄玲は、
「さっきも言った通り、管轄外なので詳しい話は聞きませんよ」
と言った。
その後、
「怪獣関係で、また話を聞きに来るかもしれませんが、
最後に、随分とすんなりと話してくれましたが、
どうしてですか?」
と瞳に聞くと、
「見られてしまったからと言う事もあるけど、
貴女の持つ強い勇気を見て、信頼がおけそうに思えたから」
「信頼ですか?」
「はい」
と瞳ははっきりとした声で答えた。
そして、二人は瞳の家を後にする。
「桜井君、ミオさんが納得できてませんから、
何度か話を聞きに来ることがありますから、ご容赦くださいね」
修一は、うっとうしそうな顔をするも、
「まあ、仕方ないですね」
と答える。そして分かれ道に来て、
「それでは、私はここで、ではまた今度」
「さよなら」
と修一は挨拶し、二人は分かれた。
数時間後、守護神機関のラボで、
まだ処分していなかったファーストの細胞に魔力を当てる実験が行われた。
結果を対策室のオフィスで六華が報告する。
「魔力を当てたところ、細胞の性質の無力化を確認しました」
それを聞いたチェルシーが、
「それじゃあ、今後新たな怪獣が出てきたら魔法攻撃一択か」
そしてミオは、澄玲を見ながら、
「お手柄ね。澄玲」
「いえ、ちょっと思いついた程度で、
それに遅かれ早かれ皆さん気付かれるはずですよ。
だって同じ細胞を持つファーストと他の怪獣との違いは、
セカンドが戦ったか、イクシードが戦ったかの違いですから」
イクシードは特撮の巨大ヒーローみたいな見た目だが、
実態は魔法少女。イクシードの攻撃はすべて魔法だから、
魔法が影響するんじゃないかと言う事を理由に、
澄玲は実験を行ってもらったのである。
もちろん実際は、瞳から話を聞いたからだが、
その事とは言えないので、上記の理由を、思いつき報告した。
ただ彼女の言う通り、二体目となると、
遅かれ早かれ、誰かが気づいていた可能性がある。
しかし、ここで
「澄玲、あなた何か隠してない?」
「!」
その一言に、あからさまに動揺する澄玲
「そっ、そんな事ないですよ!」
彼女の様子に、ミオを含め、この場にいた全員が、
疑惑の目を向ける。
直後、警報が鳴った。
「何事!」
と声を上げるミオ。アナウンスが流れて
「緊急事態、施設内に侵入者あり!」
チェルシーが血相を変えて、
「大変!」
全員がオフィスを出ていく。
結果として、澄玲への疑惑は有耶無耶になったが、
しかし新たな波乱が起きようとしていた。
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