9「イクシード対ネズミ怪獣」

 イクシードとネズミ怪獣は取っ組み合いとなるが、

直ぐに相手をつかんだ状態で、飛翔し飛んでいく。


「どこに向かっていくんだ?」


と澄玲の手を引いて逃げつつもイクシードの方を見ていた。すると澄玲は、


「あの方角だと、廃工場地帯になりますね」


場所的に人的被害が少なく、廃工場であるから、

戦いで壊してしまっても後片付けが大変なくらいの場所。


(彼女は気を使っているみたいだな)


と思う修一。


 一旦は離れたものの気になって、安全な距離を保ちつつ、後を追う修一と澄玲。


「どうして、あなたまで……」

「貴方が逃げないからですよ。それに対策室の一員として、

この状況を見届ける必要が有ります」


そして澄玲は気まずそうに、


「それに私のせいかもしれませんし」


彼女の攻撃の後で、巨大化したので澄玲は、

自分の攻撃の所為ではないかと思っている。

実際は偶然であり、関係ないのであるが、彼女は責任を感じていた。


 なお怪獣と取っ組み合った状態で、飛んでいるので、

そんなに速度が出せず、二人は走って後を追う事ができた。

廃工場の上空に着くと、そのまま急降下し、

イクシードがネズミ怪獣上に載っかかる形で落下し、

怪獣は地面に体を叩きつけられる。

なおイクシードが触れた状態で落下しているので、

落下時に散らばったであろう細胞は、無力化されている。


 イクシードが怪獣から体をどけると、


「ギュルアァー!!」


と叫び声を上げながら、素早く起き上がり、襲い掛かって来るが、

イクシードは蹴りを入れ、吹き飛ばす。


「ギュルル」


と声を上げつつ、体勢を立て直すネズミ怪獣。今度は爪で引っ搔いてくるが、

イクシードは魔法陣が浮かび上がる腕でガードする。

どうやら魔法障壁を使っているようだった。

その後、連続で引っ掻き攻撃を繰り出すが、

全て防御され、逆に手刀によるカウンターを喰らう。


「ギイィ!」


と声を上げて怯むネズミ怪獣。


 だがすぐに牙をむき出しにして、


「ギギギィィィィィ!」


咆哮を上がると同時に、全身の体毛が逆立ち棘のようになった。

その様子を見た修一は、


(おいおいまさか……)


何をしでかすか手に取るようにわかった。

特撮ではこういう時は、「伸びる」か「飛ばす」である。

もしかしたら体当たりも考えられるが、この時は思いつていなかった。


 そして今回は「飛ばす」だったようで、

棘のようになった体毛が射出され、イクシードへと飛んでいく。


「危ない!」


と声を上げる澄玲。するとイクシードが、飛んで来た針を、手刀で弾いていく。

その様子に修一は、


(相変わらず、すごいな)


と思う。


 一方澄玲は、


「やっぱりいつもと違いますね」

「違う?」

「いえ動き自体は同じなんですけど、

何と言っていいか、そんな感じがするだけなんですけど」

「………」


修一も同じようなものを感じていたし、

それに澄玲は、守護神機関の人間として、イクシードを何度も見てきたようだから、そのフィーリングは確かと言える。


 引き続き射出された棘を弾き続けるイクシード。

弾かれた棘は落ちて地面に突き刺さる。

あと弾かれた棘は、修一たちの方には飛んでいかない。

距離もあるけど、二人の存在に気付いているイクシードが、

二人の方に飛ばないように、調整しているからである。


 なお避けないのは、この棘は硬化した皮膚なので、

ミューティの細胞で構成されているから、

それを無力化する必要があったからだ。

あと余談であるが、先の蛞蝓の際の体液は、

イクシードによってできた傷口から放出されていて、

傷口には、魔力が残留していたので、体液を構成する細胞は無力さされている。


 やがて棘は、打ち止めとなる。


「ギイィ!」


ネズミ怪獣は声を上げ向かってくる。

イクシードはそれに向かって左手から光弾を撃った。


「ギィ!」


光弾は怪獣の腹に命中し、怯む怪獣。

更に今度は右手から、小さな光弾を大量に射出する。

それはまるで、光のマシンガンだった。


「ギィ!ギィ!」


次々と命中する無数の光弾に悲鳴を上げるネズミ怪獣だったが、

途中から、


「グルゥ!」


怪獣は鳴き声を上げながら、光弾をものともせず、

手の爪が伸びたかと思うと。イクシードに向かって突進していく。


「ギイィー!」


傷だらけになりながらも、怪獣は伸びた爪を立てて、攻撃しようとするも、

イクシードの光弾に爪が折れてしまう。


「ギッ!?」


そしてイクシードは、撃つのを止めて、怪獣の顔を掴み、地面に叩きつける。


「グェ!!」


そしてうつ伏せに倒れた怪獣に馬乗りになると、プロレス技、

キャメルクラッチをかけ始めるイクシード。


「グエェー!」


と苦しそうな声を出すネズミ怪獣。

イクシードは、さらに体重をかけて締め上げていく。


「ギイィ!」


必死にもがくが抜け出せないネズミ怪獣。


 その様子を見た澄玲は。


「いつもながらもプロレス技ですけど、なんか違うような気がします」


これもフィーリングである。なお修一は知らなかったが、

普段のイクシードもプロレス技を使うらしい。


 その後も、その後もイクシードは締め上げ続けていたが、

ここで突如、技を解除し怪獣から離れた。

次の瞬間、怪獣の背中からビームのような物を撃って来た。

イクシードはその攻撃を察知して離れたのだ。

そして一旦距離を離して着地する。

イクシードが離れると、ネズミ怪獣の背中ら出ているビームが止まり、


「ギュルルルー」


と声を上げて、立ち上がると、口から火炎弾を発射した。

瞬時に左手から水色の弾、恐らくは水属性の魔法弾を発射し、打ち消す。

この様子に、修一は


(まだ変異の途上なのか、何処まで変化していくんだ)


と思う。最初は等身大だったが、今は巨大化し、攻撃パターンが増えていく。

そして思わず、


「いつになったら打ち止めになるんだよ」


と言う修一。


「打ち止め?」


と澄玲が言い。


「あの怪獣には変化の限界が……あっ!」


この時修一は思わず口が滑ったことに気づき、

口を手で押さえる。ここからは澄玲は、疑いの眼差しで、


「桜井君、貴方あの怪獣について何か知ってるんですか?」

「いや、それはその……」


歯切れが悪くなる修一。


「そう言えば、創月さんがイクシードに変身した際も、驚いていませんでしたね。

もしかしたらご存じだったじゃ?」

「………」


黙り込む修一。そんな彼に澄玲は


「後でゆっくり話を聞かせてもらいますから」


と言いつつ、引き続き状況を見守る。



 ネズミ怪獣は、背中からだけでなく、同様のビームを胸や腹からも出し、引き続き口からの火炎弾で、攻撃を仕掛けて来る。

イクシードはそれらを全て回避し、時に手刀で打ち消しながら、

接近し、蹴りを入れる。


「ギイィー!」


と声を上げて怯むネズミ怪獣。

だがすぐに体勢を立て直すと、イクシードへと飛び掛かっていく。

イクシードはそれを両手で受け止め、振り回し出す。


「ギィ!ギィ!」


と叫び声を上げながら抵抗するが、やがて投げ飛ばされ、宙を舞う。

そこに追い打ちとばかりに、イクシードは肩からビームを発射し追い打ちをかける。

爆発を伴いながら落下していき地面に叩きつけられるネズミ怪獣。

なおまだ絶命しておらず、イクシードは、

そこに更なる追撃として ジャンプキックをしかける。

ネズミ怪獣はここまでのダメージが尾を引いたのか、

避ける事も出来ず、直撃を受けてしまう。


「ギュルアァァァァァァァァァァァァァァー!」


と断末魔ののような叫び声を上げるネズミ怪獣。


 ここでイクシードは、頃合いになったのか、

胸に両手を使って三角の形を作り、リカバー光線を使う。


「また怪獣が消えた……」


驚きで茫然となる澄玲。一方、修一は、


(本当に元に戻ってる……)


澄玲には、怪獣が消えたようにしか見えなかったが、

修一は、怪獣が消えた後、ドブネズミが残っていることに気づいた。


 怪獣が消えると、飛び去って行くイクシード。

その後、彼女は巨大化前のネズミ怪獣によって、

巻き散らかされたであろう細胞の無力化の為、市街地に行って、

リカバー光線を使うのだった。


 一方、


「あれ?桜井君」


澄玲は修一がいない事に気付き、周りを見渡す。

修一も澄玲が怪獣に気を取られている隙に、その場を後にしていた。

そして怪獣退治のボランティアや、

市の要請を受けたロボット部隊が到着したのは、その直後、

イクシードと入れ替わる形であり、すべてが終わった後であった。

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