8「新たなる怪獣」
さて守護神機関、対怪獣対策室にもたらされた報告は、ファーストの細胞は、
他の生物と結合し自身に近いものに変異させるというものだった。
なお近い物なので、全く同じじゃないものの、
そこからファーストの細胞は、別の生物をファーストと同じ、
怪獣に変えてしまう可能性が示唆されていた。
その後、スラッグの肉片の分析結果が出て、その報告書をミオは見て、
「スラッグは、ファーストの細胞で蛞蝓が変異した存在のようね」
顔を青くするが、同じく報告書を見ていた澄玲が、
「でもスラッグの細胞は、他の細胞を変異させる事はないみたいですし、
怪獣が増えていくような事はなさそうですし」
しかしミオは、
「だけど変ね。最初の報告では変異した細胞も他の細胞と結合して、
変異させるってあったのに」
と疑問を呈した。
「実験室と自然界は違うって事ですよ」
と澄玲は言うものの、ミオは納得が行かないようだった。
そして今後の事であるが、
「回収したサンプルは、処分決定。
散らばっていると思われる細胞の回収も行われる。
まあ、センサーの完成を待たないといけないけど」
ファーストの細胞は特殊な電磁波を発しているので、
それを感知するセンサーが開発中との事。それを使って回収作業に入るという。
「このまま、事がうまく運んでくれれば、いいんだけど……」
ミオは何とも言えない不安を感じていた。
さてセカンドことリュミエールが予想していたように、
分析の結果、ファーストことミューティの細胞の性質に、
人々は気づいた。そしてミオが感じている不安は、
リュミエールの感じている不安と同じである。
あとリュミエールことセカンドの調査は、未だ手詰まり、
現状では彼女が、創月瞳に憑りついていることを知る術はない。
ただ桜井修一が鍵だとは思っている。
ファーストに関する報告書を読み終えたミオは、
(もう一度、桜井君に会わないと)
そんな事を思うのだった。
さて守護神機関から、分析を依頼されている研究施設では、
ファーストことミューティの細胞を観察している男性研究員がいた。
「コイツは、凄いな……」
その研究員は、研究に熱が入っているようで、
別の細胞を与えて、変異していく様を見ながら笑みを浮かべていた。
やがてある考えに憑りつかれる。
(この細胞を生きた生物に打ち込んだらどうなるんだろうか?)
この研究員は、別の研究所で分析している関係で、
スラッグの事は知らないが、怪獣になるのではと言う予測は出来ている。
それでも確かめてみたいという欲望を抱いていた。
そんな時であった。上司がやって来て、
「今、守護神機関から通達があった。細胞は回収して処分するとの事だ」
「そんなぁ~、こいつは、これから人類に多大な功績を残るかもしれないんですよ」
と嘆くが、
「数日前に、現れた蛞蝓の怪獣は知ってるだろ。
アレは、どうやらこの細胞で蛞蝓が変異したものだって話だ」
この上司は、かねてからこの細胞に危険性を感じていた。
「俺は、この通達は正しいと思っている。とにかくサンプルはすべて回収だ!」
と命令する。
「はい……分かりました」
と渋々了承した。
研究員は、守護神機関から提供されたサンプルはすべて返した。
しかし、培養したファーストの細胞の一部を持ち出すことに成功していた。
そして研究員は一匹のドブネズミを捕まえていた。
何故、ドブネズミかは家の近所で走り回っていたのを偶然見つけたからである。
(よし、こいつを実験台にしてやる)
そう思い、研究員は持ち出しに成功したファーストの細胞を、
注射器でネズミに注入した。そしてネズミの目は赤く光る。
数日後、この研究員は自宅で、惨殺されているのを発見された。
死体は獣に襲われたようであった。
研究員の死はニュースを通じて、対策室の面々も知っていて、
話題にしていたが、
「魔獣の仕業でしょうか?」
と尋ねる澄玲にミオは、
「多分ね、でも最近はゲートが発生していないから、
違法飼育していた魔獣が逃げ出して襲ったとか」
ここでおなじくオフィスにいた六華が、
「まあ、後は警察や冒険者の仕事ね」
と言って、当初は誰もファーストの細胞と紐づけて考える者は居なかった。
さてミオと澄玲によるセカンドの調査は暗礁に乗り上げたままだった。
あの後、事前に連絡を取って修一にも会いに行ったが、同じ証言をするだけで、
新たな手掛かりはなかった。ただ何かを隠している雰囲気があるのと、
尾行をすると、気づかれていつも撒かれていた。
「また撒かれちゃいましたよ」
と言う澄玲に、ミオは、
「警戒しているのよ。でもそうするって事は、何かあるって事でしょ」
と断言した。
しかし現状ではただ問い詰めただけでは、
新たな証言は得られそうになかったので、
その後二人はオフィスで、
修一から提供されたものも含めたセカンドに関わる映像を、
互いのパソコンで確認した。それは、出現の前後も含める形である。
「これが動画に答えが手がかりが有ればいいんだけどね。
見つけたらそれを突きつけて白状されたやるんだから」
と言うミオに対して澄玲は、
「桜井君が、大十字久美のお気に入りだとしても、
彼自身は、ただの学生なんですよ。
いくら隠し事をしているからって、犯罪者を追い詰めるんじゃないんですから」
と言うがミオは、
「全く、貴方はまだ甘いわね。
今回の一件は、場合によっては世界の存亡にかかわるかもしれないのよ」
ゲートから来たわけでなく、宇宙からやって来た未知の存在なので、
何が起こるか分からない。ミオは最悪のケースも想定していた。
「そんな大げさな」
「とにかく真実を知らないといけないのよ」
ミオはこの一件に随分熱が入っているようだった。
しばらく魚の目鷹の目で、動画を見ていた二人だが、ミオが疲れたのか、
目を閉じて背伸びをした。
「ミオさん、少し休まれた方が良いですよ」
澄玲は自分以上に熱がはいり、根を詰めているように見えたミオを気遣う。
「コーヒーでも入れましょうか?」
「いや私が入れて来るわ」
そう言って給湯室に向かう。
一方の澄玲も、一休みしようと肩の力を抜いて、
何の気なしに、パソコンのモニターに映る映像を見た。
「!」
それは野次馬の一人が取った自撮り動画で、
セカンドか消えた後、ここで起きた出来事の感想を述べているものだった。
その背景の一角にそれは映っていた。
小さくて気が付かなかったが、恐らく肩の力を抜いたせいで、
気づけたのだと思われる。
この後、動画を、時間をさかのぼって確認する。
(いた……)
ここで、
「どうしたの? 随分画面に食いついてるけど?」
とコーヒーを持って来たミオが尋ねる。
「いえ、何でもありませんでした。何か見つけた気がしたんですけどね」
と誤魔化す澄玲。
「そう……」
と怪しむような仕草をした後、
「コーヒーどうぞ」
彼女にコーヒーを渡すと、
「ありがとうございます」
そう言って澄玲はコーヒーを受け取った。
「とにかく何か見つけたら、教えてね」
「はいわかりました」
と言って彼女はコーヒーを飲んだ。
さて、修一も学校で、事件の事が話題になっていた。
「冒険者の知り合いから聞いたんだけど、
キラットの仕業なんじゃないかって話だよ」
と秋人が言っていた。
「キラットって、確かネズミ型の魔獣だったよな」
「そう、傷口がそれっぽいらしいよ。多分魔法街の時のように、
違法飼育の魔獣の仕業じゃないかな。被害者が、飼育していたりして」
ここでも、魔獣の仕業と言う話で、ミューティの話題は出てこない。
もちろん、秋人は知らないからであるが、
知っている修一も、こういう事件が珍しくないのと
過去に、そういう魔獣に襲われかけたこともあるから、
直ぐにミューティと結びつけることはできなかった。
ただ、大きさは人間を襲う程度であるが、先の蛞蝓とは違い、
怪獣と言うには小さいからというのもある。
自体が大きく動いたのは二日後の事だった。
翌日、学校は休校で外出自粛の呼びかけがあった。あれから同様の事件が起きて、
死者を含めた大勢の被害者が出たからだ。その中には凄腕の冒険者もいた。
しかも、魔獣に詳しい目撃者の話では、ネズミ型の怪物だったが、
「キラット」ではなかったと言う報道があった。
朝、休校の連絡を受けつつ、報道でこの話を聞いた修一は、
ミューティの仕業じゃないかって思いに駆られた。
大きさだって成長途中とも考えられる。
(ネズミ型の魔獣ではなく、ネズミが変化したものじゃないか?)
しかも最初の被害者は研究員。
報道では、ミューティの細胞を分析をしていた研究所である事は伏せられていたが、
研究員と言うだけで、可能性は想像できた。
(リュミエールの言う愚かな奴だったんじゃないか)
不安に駆られた修一は、朝食のご飯を慌ててかき込む、
休校で、外出は控えるようにと言われていたものの、
いてもたっても居られなくて、外に出ていた。
もちろん、家を出る前に春奈たちに連絡を取ったが、電話には出なかった。
それは、瞳も同じだった。恐らくすでに動き出していると思われる。
そして外に出て、大通りに出ると、
「「あっ!」」
蒼穹とばったり会った。光弓学園も休校らしい。
「まさか、アンタも?」
「いてもたっても居られなくてな」
「確か、報道じゃ冒険者ギルドが動いているって」
二人が不安を感じたのはその部分だった。
魔法使いが対処してくれればいいが、
戦士や超能力者が対処すれば、危険な状態の細胞がばら撒かれることになる。
この後、二人は二手に分かれた。蒼穹は持っている鎧の専用魔法で、
修一は規格外だから、魔法は使えたが、
攻撃魔法は使いづらいので、やはり鎧の専用魔法を使う事にしていた。
そして怪物を探して、街を歩いていると、
路地裏に入っていく創月瞳を見つけたので、後を追って声をかけた。
「創月……」
「何だ君か……」
「お前が出かけてるって事は、まさか……」
「今騒ぎになってる怪物は、ミューティだ」
彼女はミューティの気配を街中にいる事を感じたという。
ただし、具体的な位置は分からないので、探している途中だという。
ここで、
「桜井君、創月さん!」
声がする方には、
「あんた、守護神機関の……」
「水野澄玲です」
「何でここに?」
「今日は見回りです」
この事態に、冒険者ギルドだけでなく守護神機関も駆り出されているらしい。
「とにかく、外出は自粛してください」
修一は
「わかった……」
と言いかけて、
「なんで、創月の事を?」
「調べたんですよ」
と言った後、修一の目をまっすぐと見ながら、
「貴方、彼女の事を隠してましたね」
「!」
「実はある野次馬が取っていた動画に、僅かににあなた達が映っていたんですよ。
声は聞こえません出来たが私には、挨拶を交わしているように見えました。
でも野次馬以外、会っていないと言っていましたね」
実際に挨拶を交わしていたし、隠していたのは事実だ。
「更に、過去の動画を遡って調べてみると、
創月さんが林に入っていく映像を見つけました」
その映像は偶然映り込んだものである。
それを元に聞き込みをして瞳に辿り着いたのである。
まあ彼女が奇行で有名なところがあったから身元がすぐに割れたのだが。
「貴方たちから、話を聞きたいですが、今は家に帰ってください。
危険な怪物が、街をうろついてますから」
と澄玲は帰宅を促した。
修一は、帰る気は無かったが、
「わかった……」
形だけでも帰るふりをしようとした。
ちょうどその時だった。近くのマンホールが飛びあがり、
「ギュルルルルル!」
と言う声をあげながら、
人間の大人よりも大柄の人型でネズミのような化け物が姿を見せた。
「まさか、こいつが!」
すると澄玲が、懐から銃を取り出すと、
修一と瞳を守る様に、前に飛び出した。
「早く逃げて、ここは引き付けるから」
化け物に銃を向ける。その様子に修一は、
「ダメ……」
と声を上げる。銃弾なら細胞を無力化できない。だが、
「大丈夫……」
止めるのを制止させる瞳。次の瞬間、澄玲の銃から魔法陣が浮かび上がる。
「あれは魔法銃ってやつだ」
魔法を付与した弾丸を撃つ銃。魔法による攻撃なので、
細胞の効果を無力化できる。
細胞の効果を無力化できても、死ぬわけではないのと、
リカバー光線の様に元には戻せない上、怪物自身の力が強いという事もあって、
軽く怯ませられるだけで、大したダメージは与えられない。それでも澄玲は、
「早く逃げて!」
二人を守ろうと必死だった。修一はこの状況に、
助太刀しようと鎧を着ようとした時、更に状況は悪化する。
魔法銃による銃撃の影響かは不明だが、
化け物は周囲を壊しながら急激に大きくなっていき、
「怪獣……」
化け物は50メートルほどの巨体になっていた。
それでも、澄玲は怯むことなく。魔法銃を撃ち続け、
「私が引き付けますから、二人とも早く逃げて」
すると瞳は、
「なかなかの勇気の持ち主だ」
感銘しているようで、
「後はボクの仕事……」
そう言うと、スティック状の変身アイテムを手に前に進んでいき、
「創月さん!」
と澄玲が呼び止めるも、お構いなしに
「マジカルジュエル……」
ここで修一も、
「待て!」
制止させるが
「メタモルフォーゼ……」
澄玲が見ている前なのに、瞳はイクシードに変身した。
イクシードに変身したことで、目を丸くする澄玲
「創月さんが、イクシード……」
この状況に修一はどうしていいか分からないものの、
この場に居たら危ないので、澄玲の手を引いて、
「ここに居たら危ない……」
と言ってこの場から離れた。そしてネズミ型怪獣とイクシードの闘いが始まる。
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