7「ミューティの脅威」
しずかな声で、衝撃的な一言を発したので修一は、
「どういう事だ。しくじったって?」
瞳は、淡々としつつも、どこか申し訳なさそうな口調で、
「本来なら、ミューティを完全滅却処理するはずだった。
だけど、最後の最後で使う技を間違えて……」
「何か問題なのか?怪獣が倒したろ?」
すると瞳は暗い表情で、
「ミューティの細胞は、他の生物と結合すると、その生物を怪獣に変えるんだ」
と言い出した。
彼女の言葉に、その場は騒然となる。
「じゃあ……蛞蝓の怪獣も」
「あれはミューティの細胞と蛞蝓が結合した結果生まれた新たなミューティだ」
なおリュミエールは、ミューティの細胞を感じ取る事ができるという。
ただ具体的な位置となると、怪獣化しないと分からない。
そしてミューティと言うのは、あの怪獣だけでなく、
細胞によって怪獣化したものもそう呼ばれる。
実は郊外の怪獣も、元は別の生物が細胞によって変化したものとの事。
「怪獣は、爆散したから細胞は飛び散ったって事だよな」
と言う修一の一言に、みんな青い顔になるが、
「細胞の結合は、この星の自然界では虫や小動物くらいだし、
頻繁に結合する事もないから、怪獣が大量に出現する事はないよ
細胞自体も自然に分解されるし」
ただ宇宙を揺るがすほど怪獣が生まれる可能性があるので、
細胞は分解を待たずに、速やか滅却処理の必要があり、
「ボクの任務はまだ終わってないんだ……」
と瞳は言った。
ここで春奈は,
「任務が終わってないって言っても、何で魔法少女の力を使ったの?
使わなくても戦う力はあるはずでしょ」
「ボクの力は、彼女の治療に使ってるから、戦いに力を回せないんだ」
なお学校であのように変身した理由は、力になれてないからとの事。
ただし最初の戦いが終わるころにはだいぶ慣れたらしい。
「彼女の体を使っていると言っても、体への影響は、
ボクが引き受けているから、どれだけ戦っても怪我をしたって、
彼女には影響は全くないから、安心して」
と言った。修一は
(安心って言われても、人の体を買って使うのは、どうなんだろうか?)
と思った。
更に瞳は話を続ける。
「それに魔法少女というか、魔法には細胞を無力化する効果ある」
ミューティの細胞は滅却処理の他、無力化する事も出来るが、
それを行うには、彼女一人では無理で、一族をかなりの人数動員して、
全員が地球の時間に換算して、一か月間活動不能に陥るほどの事を、
せねばならないという。だから滅却処理の一択なのだ。
しかし滅却処理は手間話少ないが、周囲への影響が酷く、
彼女を含めその事を気にする者も多い。
「でも魔法なら手軽に使えるし、
ボクたちは君たちの様に超能力を失う事もない。
使う魔法によるけど周囲への影響もないし」
魔法少女の力を使ったのは、単に代用と言うだけでなく、
周囲に細胞をまき散らせても問題がないという事もある。
それと魔法の事を調べていたのは、彼女と同じくミューティと戦う仲間たちに、
情報を送る為である。
更に彼女は賛美するように言った。
「特にリカバー光線は素晴らしい。アレを使えば細胞を無力化するだけでなく、
生物を元に戻る事ができる。ボクらにはできなかった事だ」
細胞を無力化できても、怪獣化した生物を元に戻すことはできなかったという。
「ただ効果を出すには、多少ダメージを与える必要はあるけど」
そして怪獣は消えたのではなく、元の蛞蝓に戻っただけ。
ここで春奈が
「たしかリカバー光線には、
怪物化した人間を元に戻る力があるって聞いてはいたけど……」
以前に瞳から、聞いた話である。ただしそれは等身大の話らしいし、
それ以前に、話だけで実例は見たことないので、彼女は半信半疑だった。
なお先に、郊外に行ってリカバー光線を使っていたのは、
散らばっている細胞の無力化の為。
ただし郊外にあるという具体的な位置が分からないので、
当てずっぽうで使っているので、何度も行う事となったが
「昨日でようやく郊外の分は無力化できた」
と瞳は落ち着いた口調で言う。
「郊外の分」と言うのが気になった修一は、
「まだの残っているのか?」
「この街から、反応がする。回収されて各研究機関で分析してる分だと思う」
と深刻そうに言う瞳。なお「回収されて研究機関に」と言う部分は、
ニュース等で報道されている。
「でも、研究機関なら隔離されてるから安全なんじゃないの?」
と明菜が言う。確かに他の生物と接触する機会はないようだが、
「研究機関と言うのが問題なんだ。結合するのが虫や小動物なのも、
結合が頻繁に起きないのも、自然界での話なんだ。
もし研究施設で、他の生物に細胞を直接組み込むようなことをしたら
どんな生物にも確実に結合する」
と瞳は真剣な表情で言うので、彼女の危機感が伝わって来る。
「もし人間と結合したら最悪だ」
確実に厄介な怪獣が生まれるという。
加えて「研究機関」と言う報道はあったが、何処の研究機関かは報道されていない。
物が物なので、盗難の可能性を考慮し、その点は伏せているのである。
つまり細胞がどこにあるか分からないのである。この街にあるのは事実だが。
ここで明菜が、
「いくら何でも、人間や、動物に未知の細胞を投与するなんてしないと思うわ。
まあ細胞片を掛け合わせることはあるけど、その場合は?」
「怪獣になる事はないけど、細胞の異常性には気づくはず。
この街の研究機関なら、怪獣化の事もわかりそうな気がするけど」
「だったら、大丈夫よ。伏せられてはいるけど、
きちんとした研究機関だし、危険性が分かってバカな事はしないわ」
しかし瞳と言うか彼女の中にいるリュミエールは、
「信用はできない。地球に限らず、このレベルの文明だと、
どんなにきちんとした場所でも、愚かな奴が一人はいる。
危険が分かっていてバカをする奴がね」
彼女は様々な星をめぐって、そういう事例をいくつも見て来たという。
そして瞳は、
「どんなミューティと言うか怪獣が現れても、ボクがどうにかする」
と言った後、どこか自嘲気味に、
「ただ魔法少女の、イクシードの力に頼らなければいけないけどね」
と言いつつ、
「これで、ボクの話は終わりだ。満足していただけたかな?」
と言うと、修一が
「満足とか、そういうのは感じてないけど、疑問がある」
「何だい?」
「創月の意識はどうなってるんだ?」
ここまでの話は、この街の住民にとっても色々と衝撃的なので、
聞き忘れていた事なので、みんなハッとしたような顔をしている。
「眠っている」
と答えつつも、
「本来なら、意識は起こしておくんだけど」
一体化し、治療は本人に気づかれない様に行う事ができる。
また今回の様に、治療しつつも行動しなければいけない時でも、
基本は起こしておき、要所要所で、眠らせて体をコントロールするという。
「ただ、彼女は性格に難があって、
それが任務の妨げになりかねないから、寝かしておくことにしたんだ」
と言った後、付け加えるように、
「それに彼女は周囲から孤立しているから、
大人しくしてれば、おかしいとは思っても、
問い詰めてくる人間がいないと思ったしね」
彼女の言葉に対して、ここにいる全員が納得せざるを得なかった。
しかし次の言葉に対しては
「それにしても、彼女は奇行が多いんだろ。強い正義の心を持っているのに……」
「はぁ~?」
と修一を含め、麻衣以外の全員が納得いかず声を上げた。
「疑問に思うのは分かるよ。ボクだってそうだ。
でも、彼女の心の奥には強い正義の気配がする。
何かあって、今みたいになっちゃったんだろうけど」
その何かと言うのは、心の奥にありすぎて、
一体化しているリュミエールでも、読み取れないという。
「とにかく彼女の本質は正義だ」
そんなことを言われても、普段の彼女の行いを考えて、
納得いかない面々であった。
話を聞き終えた後、瞳に修一は改めて訪ねた。
「随分とあっさりと話したみたいだが、どうしてだ?」
内容が本当だとしても、今後の活動を考えれば、
話せることじゃないと思ったからだ。
「彼女の記憶から見て、信頼がおけると判断したからだ。
彼女もそう思っているみたいだしね」
「信頼ねぇ」
以前に、魔法少女である事を認めたのも、
自分の前で変身したのも、その信頼ゆえかもし入れないが、
そう言われても、これと言って何も感じなかった。
さてその後、すべき事はないので、全員帰路に就く。そんな中、修一は
「みんなどう思う?」
蒼穹は、
「彼女にかつがれてるんじゃないわよね?」
と疑いを抱いているようだが、春奈は、
「これまで瞳は、突拍子もないことは言うけど、嘘は言ったことはないのよね……」
ここで修一は、
「過去はそうでも、今回もそうとは限らないさ、
ただ俺は信じかけている。仮説が立証されつつあるからだけどな」
と自嘲気味に言う修一、さらに明菜は、
「いずれにしても、今は様子見ね。もし噓をついているとしても、
何かあるに決まってるんだから……」
彼女の言う通り、当分は様子見とした。
その後、麻衣が
「本質は正義か……」
とボソッと言う。春奈が、
「どうしたの?」
と聞くが、
「何でもない……」
と答える。麻衣だけは、思う所があるようだった。
この後、方向が違うので、春奈たち魔法少女組と
修一、蒼穹の二手に分かれて、帰宅する。そんな中、蒼穹は修一に
「これから、どうなるのか知らね?」
「さあな、でもこれが物語ならフラグがたってるけどな」
「まったくアニメとかの見すぎじゃない?」
「そうかもしれないけどな……」
と修一は自嘲気味に言うが、予想通り厄介ごとが起きる。
それらは、リュミエールが危惧する形で起こるのだった。
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