5「今後の方針」
守護神機関、対怪獣対策室のオフィスで連尺野ミオが、
デスクに座って、スナック菓子を食べながら、修一が渡したものも含め、
これまで集めてきた「光の女神」の動画を見ていた。ここで澄玲が、
「コーヒー汲んできました」
と言って、机に置いてあるコースターの上に置くと、
「ありがとう……」
と言ってコーヒーを飲んだ。澄玲もコーヒーを手に自分のデスクにもどる。
なお彼女の席はミオのデスクの対面である。
ミオはコーヒーを飲んで一息つくも、調査の方は、手詰まりであった。
修一を含めた目撃者からの情報を聞くも、
既にネットに出回っている動画以上の情報を得る事はできない上に、
巨人のいた現場には怪獣の肉片以外、痕跡が無い。ミオは悩ましげな表情で、
「それにしても、セカンドは何処に行ってしまったの……」
と言った。
なおセカンドと言うのは、
通称「光の女神」と呼ばれる巨人のコードネームである。ミオが命名した。
由来は郊外に現れた怪獣を「ファースト」と呼称し、
それに次ぐ形で現れたので、「セカンド」という事だ。
その前に街に現れた怪獣は「ゲート」から現れた関係上、別枠とされている。
あと「セカンド」と呼ぶには、もう一つ意味があって、
この街にはイクシードを含め、既に同じような巨人が2体いる。
ただイクシードは異世界由来なので、別枠扱いとされ、
異世界由来じゃない二番目の巨人と言う事である。
光の女神の行方について、悩まし気にしているミオに対し、澄玲は、
「ミオさん。やっぱりセカンドは宇宙に帰っちゃったんじゃないでしょうか?」
と彼女を和まそうとしたのか、冗談めかしたような言いかたで言う。
これに対しミオは、
「やって来た痕跡は会っても、出ていった気配はないわ」
両方が大気圏外から来たのは動画だけでなく、
各種観測所が捉えていた。出ていった姿は確認されてない。
「もちろん消えたわけだから、転移で観測網の外に出たとも考えられるけど」
もしそうなら、確認のしようがない。
そしてミオが和むどころか、ますます難しそうな顔をするので、
何とも言えない表情の澄玲。
そしてミオは、
「私は、桜井修一とかいう学生が何か知ってるような気がするわ」
「桜井君がですか?」
「なんとなくだけど、彼、私たちに何か隠している気がするの。
恐らく彼は、あの現場で何か見てるわ」
そんなことを話していると、澄玲と同い年くらいで、
パーマ頭で可愛らしい顔のエルフが、
「ああ、もうっ!ちくしょう!」
とあからさまにイライラしながら入って来た。
その様子に、澄玲は恐る恐る。
「……どうしたんですか、班長?」
エルフの名は チェルシー・ハラディル。
両親がともに来訪者であるが、彼女自身は、この世界生まれの来訪者二世で、
このセクションの班長でもある。
「どうしたも、こうしたも、圧力がかかったのよ」
「圧力?まさかセカンドの調査を止めろって言うんじゃ」
とミオが不安そうに言うと、
「いや、そっちは好きなだけ続けていいんだ。
けどアンタら桜井修一っていう学生に会いに行っただろ。
そいつに、あまり関わるなって上から」
すると澄玲はびっくりした様子で、
「えっ?彼ってただの学生さんですよね」
「それが、桜井修一って奴は、大十字久美のお気に入りなんだと」
「「えっ!」」
と驚く二人、特に澄玲は
「そんな!あの大十字久美の!まずくないですか!」
と同様が激しい。
「落ち着きなさい!」
とミオが一喝する。
そしてチェルシーは
「アンタらの所にも余計な事を言いに来る奴がいるかもだけど、
一切無視しろ。実際に大十字久美から圧力があったわけじゃない。
忖度してるだけだ!」
チェルシーと言う人物は、圧力に屈しないタイプだった。
「何かあったら、アタシが責任取るから、好きにやれ!」
「わかりました」
とはっきりとした口調で答えるミオ。
「わっ、わかりました!」
と澄玲は不安気であるが返事をした。
ちょうどこの時、対策室のメンバーである七原六華がオフィスに入って来た。
綺麗な黒髪ショートカットで、落ち着いた雰囲気の女性で、
「いまファーストの分析を頼んでいる研究室から報告が来たんだけど……」
回収した怪獣の細胞には特殊な性質があるという。その事を聞いた後、
澄玲は、
「そう言えば、『スラッグ』もファーストがいた場所の近くに現れましたよね」
と言うと、全員青い顔をする。なおスラッグと言うのは、
イクシードが戦った蛞蝓型の怪獣の事。対策室で命名した名前である。
澄玲の言葉に、六華が、
「スラッグの肉片は分析中だけど……」
怪獣はイクシードが消滅させたが、戦闘中に切り落とし触手や、
肉片などは残っていて、こちらも回収し分析をしている。
その結果が出た時、ミオは再び顔を青くして、新たなる疑問を抱くのだった。
放課後、修一は携帯電話で蒼穹から連絡を受け、
「帰ったら、二階に来てくれる?それと出来るなら魔法少女たちも連れて来て、
創月さんの事で話があるから」
と言われ、
「わかった」
と修一は答え、春奈たちに連絡を取った。なお千代子は、予定が合わないので、
春奈と麻衣だけが、来ることになった。
二階に行くと蒼穹が一人で、里美は、今日遅いという。
だからこそ修一達を呼んだわけであるが、
「創月に何があったのか?」
と修一が尋ねると、
「その事で、確認の為に魔法少女に来てほしかったの」
「私たちですか?」
と尋ねる春奈。
「そう、今日ね」
蒼穹は学校にイクシードが現れ、怪獣の元に飛んで行った事を話した。
「こういう事は初めてだから、魔法少女の意見も聞こうと思って」
話を聞いた春奈や麻衣は驚いたように、
「そんな事、初めてだわ」
と言った後、
「イクシードは体を光に変える事ができるんだけど、
その状態だと大きさをかなり小さくする事ができるの」
なお直接、光に変身する事も可能で、実際修一も、その瞬間を見ている。
そして小さな光に変身する事で、変身した場所を誤魔化しているという。
「学校で変身だなんて、
それじゃあ正体が学校の生徒だって言ってるみたいじゃない。
瞳はそんな事はしないわ」
瞳は、そういう所はきっちりとしているという。
なお怪獣を倒した後は、イクシードの姿では戻っては来なくて、
いつの間にか瞳は戻って来ていたとの事で、行きとは違い、
帰りは小さな光になって、人知れず戻って来たと思われる。
ここで麻衣が、
「やっぱり、桜井君の言う通りじゃ……」
「何の話?」
と蒼穹が聞いたので、修一は、
「オタクの痛い妄想だと思って聞いてくれ……」
と前を置きして、例の仮説を話した。すると蒼穹は、
「たしかに、特撮の見過ぎよ」
と苦笑いするものの、
「でも何かが憑りついてるってのは、確かかもしれないわね。
もちろん彼女の悪ふざけかもしれないけど」
と瞳に何が憑依してるという考えには賛同しているようである。
「それより、これからどうするの?特に魔法少女の皆さん」
「「えっ?」」
と声を上げる春奈と麻衣。
「私は、正直、あの女には関わりたくないの。
例え憑依だろうが、オカルト映画みたいに周りに迷惑をかけないなら、
気にはなるけど、放っておくつもりよ」
実際、今の瞳は普段の彼女よりも大人しく、
クラスメイトとしても好都合らしい。
「言っちゃ悪いけど、普段の彼女の方が、悪魔憑きみたいだしね」
散々な言われようだが、その通りなので、誰も文句は言えない。
「それで、あなたたちはどうするの?」
と再度問う。春奈は
「私は事実を知りたいです。魔法少女として、
得体の知れない存在が、その力を使っている言う事を、
捨ておくことはできません」
麻衣も
「……魔法少女として、このままではいけないって言うか……」
春奈は宣言するように
「瞳に直接会って、問い詰めようと思う」
「その時は私も……」
二人とも魔法少女としての使命感で動いているようだった。
その横で、うなだれる修一、
「どうしたの、桜井修一?」
「いや、二人とも、魔法少女の使命感だから、すごく立派じゃん。
俺なんか、下賤な好奇心だからさぁ……」
二人の立派さを前に、恥ずかしい様な、情けない様な、そんな気持ちだった。
「桜井君、そんなに卑屈にならないで」
と春奈は言い、麻衣も、
「それに、桜井君はあの現場に居たんだから……その……
無関係じゃないというか……知る権利があるというか……」
とフォローし、
「ありがとうな……」
と修一は言うが、暗い表情はからわず、
蒼穹もその様子に、何とも言えない気分になって、
最終的に、瞳に会って問い詰めるという事になったが、
微妙な雰囲気のまま、場は解散となった。
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