4「イクシードの戦い」

 一方、修一の学校でも、怪獣の事が話題になっていた

そして修一のもとに、秋人がスマホを手にやって来て、


「大変だよ、修一君!」


と怪獣出現を伝え、スマホでライブ映像を見せてきたので、

そのまま、彼のスマホの映像で動向を見続けていたが、


「そう言えば、この前みたいに冒険者ギルドからの連絡はないな」

「この前は、街中だったからね。

でも周辺にいる冒険者には連絡が言っているんじゃないかな」


冒険者ギルドからのメールは、エリアメールで、

怪獣がいる地域に送信されているから、

周囲の冒険者たちには連絡が言っている模様。


 そして中継映像では、巨大な蛞蝓が、溶解液を振りまき、

周囲の木々や道路を溶かしつつ、時より目から赤い光線を撃って、

周りを破壊しながら、ゆっくりと進む姿が映っている。


 やがて動画に突如テロップが入って、そこには、


『特殊機動兵器隊の出撃要請』


と出た。


「何だこりゃ?」


と言う修一に、


「知らないの、最近設立されたロボット部隊の事だよ」

「そう言えばニュースでやってたな」


ここで修一は思いだす。上級魔獣や怪獣、

あるいは巨大ロボによるテロリストに対抗して、

防衛省に設立された特殊部隊の事。この街にはある駐屯地を、拠店としている。

なお、自治体からの要請を受けて出撃するので、

メカニサルヴァの時は既に結成されていたが、要請がおくれたので、出動が遅れ、

出てくる前に事が終わった。


 しかしその時の惨状は、修一の活躍で最小限に抑えたものの、

酷いものになりかねないものだったので、以降、要請が迅速になり、

修一は知らなかったが、街の方に現れた怪獣の方に対処していたという。


 今回も早めの要請であるが、しかしその活躍を見る事はなかった。

映像を見ながら、


「あっ!」


と声を上げる修一達。

そうイクシードが飛来して、着地して怪獣の前に立ちふさがった。

以前修一が見た時とは違い、光になって飛んで来たのではなく、

巨人の姿で飛んできて、ヒーローの如く、両足と右手の三点着地した。


 一応魔法少女との事だが、イクシードは見た目の所為で、

どれがどう見ても特撮の巨大ヒーローにしか見えない姿をしている。

そして、地面を這っていた蛞蝓は、イクシードに呼応するように立ち上がった。

更に腕のようなものが生えていて、ますます怪獣と言う感じになった。

両者は睨み合うと、戦いが始まった。まずはお互い接近し、拳の応酬をする。

イクシードは拳を除け、時に受けるものの、ものともせずに、

拳を叩き込むが、時に蹴りも入れるが、

敵の体は柔らかいようで、あまり効果が無いようだった。


 更に敵の腕が触手のようになり、

伸びてきて、イクシードの首に巻き付き、

締め上げつつ、口のように見える場所から溶解液を吹き付け、

イクシードの金属製の鎧を溶かしだす。


 だがイクシードは苦しむようなそぶりは見せず、

両手を交差させたかと思うと、魔法陣と共に掌から光の刃を出現させ、

その刃で、首を絞めている触手を切り落とす。

そして、切り落とされ、首から触手が地面に落ちると同時に、

胴体を切り裂く。拳はあまり効かなかったが、

こっちは効果があるようで、傷口から緑色の体液が流れ出し、

怪獣は苦しそう悶える。


 だが苦しそうにしながらも、今度は目から光線を放つ。

これに対して、イクシードは両手の光の刃を振り回し光線を弾いていく。

そして弾きながらも、再び体を切り裂くが、傷口から出た体液は、

ものすごい勢いで、イクシードを吹き飛ばすほどだった。


 スマホの画面でこの状況を見ていた修一は、


「ウォータージェットか」


この体液自体には、特に何の効果もないが、

ただ高圧で噴射されるので、それによる破壊効果があるようだった。

そして体液の噴射が止まり、イクシードが体勢を立て直そうとすると、

再び噴射をして追い打ちをかける。

体液の噴射は自由にコントロール出来るようだった。


(昔の漫画に、そういう能力を持ったキャラがいたな)


とこの様子に修一は、そう思った。


 一方、イクシードは、高圧噴射される体液に弄ばれている状態だったが、

途中、光の刃を仕舞い魔法障壁を展開し、体液を防ぐ。

そして、体液が止まると障壁を解除し、

魔法陣と共に右手に光でできた槍のような物を出現させ、投げつけた。

槍は怪獣の体に深く刺さった。

 

 そして追い打ちのように、開いた右手を前に突き出し光弾を発射した。

単発ではなく、小さな光弾を大量に発射する。それはマシンガンのようであった。

光弾が怪獣の全身に命中するが、怪獣はよろめくように後ろに下がりものの、

倒れる事は無く耐えきる。


 すると切り落とされた触手の代わりと言わんばかりに、

新たな触手が怪獣の体から複数現れて、イクシードに向かって伸びていく。

そしてそれらが、拘束しようと迫るが、それをかわしていき、

時には再び光の刃を出して切り裂いていく。


 そしてある程度近づくと、飛び上がって、

怪獣の体に連続でキックを入れていった。よく見ると足には光の刃が付いている。

単純な攻撃が効かないようだった。


 だが怪獣も負けじと触手を伸ばし、イクシードを捕まえようとするが、

イクシードはそれを掻い潜りながら、 手の刃や刃の付いた蹴りを入れていき、

怪獣を追い詰めていくが、しかし怪獣は逃げるという事を知らないのか

溶解液とビーム、体液の高圧噴射と徹底抗戦の構えだった。


 しかし、怪獣は疲弊しているのか動きが鈍くなり始めた。

ただイクシードの方も、肩で息をしているかのような動作を始めた。

この様子をスマホ越しに、見ていた修一の後ろから、


「時間切れ……」


振り向くと、そこには春奈と麻衣がいた。

彼女たちは動画を後ろから覗き見た様だった。秋人は、


「どうゆう事?」


と言うと、


「何でもない」


と誤魔化す。それを聞いた修一は、


(特撮の巨大ヒーローみたいに、イクシードにも時間制限があるみたいだな……)


そんな事を思いつつも、


(それにしても、なんだか変だな)


修一は、イクシードの戦いを一度しか見たことはないから、

正直何とも言えない部分があるし、

光の刃を使っているなど以前とは違う戦い方をしているのは確かだが、

単純に戦い方が違うのではなく、

根本が違う気がした。そうまるで別人が戦ってるような気がした。


 そんな中、イクシードは地面を蹴って間合いを取り、

両手を前に伸ばし掌を交差させるという動作をする


(この動きは……)


だがすぐに、ハッとなったような動作をすると、

前に突き出していた腕を、胸のあたりに持ってきて、

三角の形を作ると言ったポーズをとった。

 

 すると春奈が、


「ダメッ!」


と声を上げた。麻衣も困惑した様子だ。


「どうした?」


と振り返り修一が聞くと、


「何でも、何でもないから……」

「?」


何かあるようだったが、ここじゃ言えない事だと思い。

突っ込んで聞くのを止めて、スマホの画面を見る。


 すると胸の手で三角を作っている部分に魔法陣が浮かび上がったかと思うと、

光が発せられた。特撮の巨大ヒーロー特有の

必殺技の光線と言う感じじゃなく、優し気で暖かな色をした光だった。

そしてその光は怪獣を包み込む。すると怪獣は、光の粒子になり消えてしまった。


 その様子をスマホ越しに向ている修一は、驚いたように


「怪獣が消えた……」


秋人もこの様子に、驚いていたが、


「ウソッ!」


と声を上がる春奈に、驚愕の表情を浮かべる麻衣。

その様子に


(何かあるな。魔法少女絡みで……)


と思う修一だった。


 その頃、怪獣を消したイクシードは、この手の特撮ヒーロー如く、

空へと飛び去り途中で消えてしまった。

怪獣が消えたので、要請されていたロボット部隊の出番はなかった。


 その後、修一は彼女たちの様子が気になったので、

空き教室で、話をすることに、今回もメイが一緒である。

そこで思った通り、イクシードには変身時の時間制限がある事を聞いた。


「それと、イクシードが最後に使った技は、

秋人は『ヒール』似てるって言ってたけど」


ヒール、即ち治療魔法の事である。春奈は、


「あれは、瞳がリカバー光線って呼んでる技で、怪我を治したり、

ものを修理する事ができるの」

 

本人の気まぐれで偶に使うだけの物なので、同じ魔法少女である彼女たちと、

メイしか知らないという。


「あれを怪獣に使えば、治療する事になるから……」


だから、ダメと言ったのである。


「でも、怪獣は消えちゃったぞ」

「ええ、私たちも驚きでもうなんていうか、訳が分からない」


春奈は困惑したように言った。


 この時、修一は、ある考えに憑りつかれていた。


「俺、さあ我ながらアホな考えって言うか、特撮の見過ぎって言うか……」

「どうしたの……桜井君……」


と麻衣が心配そうするが、


「あの光の女神なんだけど、空から落ちて来たみたいだろ」

「そんな動画もあったけど」


と言う春奈に、


「空って事は宇宙の可能性もあるよな」


するとここでメイが


「間違いなく……宇宙……」


と言う。


「それで、その女神がどうしたの?」

「だから、昔の特撮みたいに、その女神が創月に憑りついてるってことないか?」


修一の一言の後、その場は静まり返った。


 この状況に、引かれたと思った修一は笑いながら、


「ただのオタクの痛い妄想だ。忘れてくれ」


春奈は、真剣そうな様子で


「根拠は?」

「根拠と言っていいんだか、分からないけど、彼女がおかしくなったのは、

女神が現れてからだ。俺もいたけど、彼女もいた。それにあの不可解な転移。

それも女神の仕業なら、それに」


修一は、両手を前に伸ばし掌を交差させて、


「さっき、イクシードがこんなポーズを取ってたろ。

これって、リカバー光線ってのを使う時に取るのか?」


と言うと、


「いいえ、初めて見たけど」


麻衣も


「私も……」


と言う。そして修一は


「これは、女神が怪獣に止めを刺した際に使った光線を撃つポーズだ」


ここでメイが、


「確かに……」


と言う。女神が怪獣を倒す瞬間の動画はネットに出回っているが、

春奈と麻衣は、その動画をきちんと見ていなかった。


 修一はポーズを止めつつも、


「まあ、根拠と言えるかどうか、彼女がふざけているだけと考えられるしな。

まあ、しょせんはオタクの痛い妄想。忘れてくれ」


と自嘲気味に言うも、春奈は、


「桜井君、忘れて無いかな?私たちもオタクだって事」

「えっ?」

「私たちも同じ妄想に憑りつかれつつあるわ」


根拠の乏しい突拍子もない妄想。

ただこの場にいる人間たちは、そうと分かっていても、憑りつかれつつあった。

それ以前に、女神が瞳に何かしたんじゃないかと言う疑惑はあったのだから。

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