3「瞳の異変」

 瞳の異変について詳しく聞くと、


「怪獣騒動の翌日、彼女と街中でばったり会ったんだけど、

普段は、いつも笑顔なんだけど、その日は無表情で、

一応、挨拶はしてくれたんだけど、口調もいつもと違うし……」


ここで、麻衣も、


「私も昨日会ったんだけど……同じで、なんだか怖かった……」


そして春奈は、


「もともとあの子、何考えてるか分からないところがあるんだけど、

ますます酷くなったというか……」


するとここまで、黙っているメイが


「私も会った……あれは創月瞳とは思えない……」


なお本人がいるから、気を使っているので誰も言わないが、

みんな、今の瞳はまるでメイの物まねをしているようだと思っていた。


 とにかく、怪獣と光の女神が現れた日を境に、おかしくなったのと、

現場にいた可能性があるので、同じく修一に話を聞きたいという事だったが、


「思い当たる節は……」


と言いかけて、思い当たる事があった。


「これは、あの人たちにも言ってないんだけど……」


赤い光に包まれて転移したことを話した。


「妙に思われるのが嫌で言わなかったけど……」


と隠した事が気になるのか気まずそうに言う修一に、麻衣は、


「転移自体は、おかしな事じゃないよ……まあ不可解には違いないけど……」


ここで春奈が、


「その時、瞳は?」

「分からない。一緒に飛ばされて、近くにいたのかもしれないけど、

最初は視界が悪かったし、視界が戻った後は、怪獣と女神の戦いに、

気を取られてたから……」


と言った後、ふと思い立って


「変な事と言えば、何で変身しなかったんだろ?」


春奈は


「瞳は、怪獣が出たからって、必ず変身して戦うわけじゃないわ。

あの子、気まぐれだから」


と言うが、修一は、


「でも変身アイテムを出してきて、呪文も唱えかけてたぞ」


と言うと、春奈は悩まし気に、


「確かにそれは変ね。急に変身を止めるなんて」


麻衣は、


「女神が現れたからかな……様子見で、急遽を止めたとか」


メイは、


「変身できない……何かがあったとか……」


そして修一の方を見ると、


「赤い光が……関わっているとか……」


そう修一が見た赤い光、修一を転移させただけじゃなく、

瞳に何かした可能性があるという。もちろん確証はない。


 その日は、結論は出ないまま、様子見と言う形になった。

ただ一つ言える事は、何かが起こっているという事、

それはあの怪獣又は、女神が関わっているような気がしたからだ。


 その日の夕方、修一は二階に住む蒼穹の元を訪ねた。

瞳と同じ学校に通っているので、

春奈以上に現状が分かっているような気がしたからだ。

なお二階には、当然里美もいて、話題が瞳の事だと知ると、


「そうですか……」


とどこか安堵した様に言い。


「どうして彼女の事?」

「俺の同級生の御神の事は知ってるよな。彼女は創月の幼馴染で、

気にしているみたいでな。

それに俺も実際に会って気になったしな」


現場でのことは隠しているが、気になったというのは事実である。


「それでしたら、天童君に聞けばよろしいのでは?」

「ストーカー被害者に、そのストーカーの事を聞けってか、さすがに出来ないだろ」


という修一のツッコミに、


「それもそうですね」


里美は言う。彼女も「応戦する会」の事は知っている。


 そして蒼穹は、


「正直言って、彼女の事は苦手だから、あんまり親しくないけど、

確かに怪獣騒動以降の彼女の様子は変ね。物静かっていうか、

普段の彼女はいつもニヤニヤしてるけど、今の彼女が無表情というか

とにかく近寄りがたい雰囲気ね」


と言った後、


「まあ、普段から彼女はボッチなんだけど」


瞳は、その言動から学内では孤立している。

だから、いつもと違っても状況に違いはない。


 春奈から聞いた以上のことは聞けなかったが、

ただ、春奈たちの前だけでなく、

四六時中と言うか、学校にいる間も同じである事は確かだった。


 話を聞き終わった後、一階に戻ろうとしたら里美から、


「貴方、変わりましたね」

「何がだよ?」

「これまでなら、二階に話を聞きに来るようなことが無かったですのに」


と皮肉たっぷりな言い方で言われたので、


「別にいいだろ。近場なんだし……」


近場と言うか、同じ家であるが。


「あのデートの所為ですか」


不機嫌そうに言う里美に、


「関係ねえよ!」


とデートの一件を指摘され、顔を赤くする修一。


「そういう事にしておきますよ」


という彼女を背に、修一は一階の自身の居住スペースに戻った。


 その日、怪獣が現れた場所では、未だに守護神機関による怪獣の残骸、

肉塊となっているが、その回収が行われていて防護服姿の人間が、行き来していた。

大きなものは自衛隊の協力の元、すでに回収を終えていたが、

まだ細かいものは残っていると思われ、その回収を行っていた。

夕方になって、作業は一旦終わり、作業員は撤収するが、

その後で小さな異変が起きていた。


 それは一匹の蛞蝓であった。一見、普通の小さな蛞蝓。

だが、その体が少しずつ大きくなっている。

成長と呼ぶには早すぎるし、加えてその大きさは、

この時点では、大きいとは言い難かったが、

その種類のナメクジとしたら異常な大きさで、

その内、目が赤く光りだすが、人々は帰った後であるから、

それに気づく者はいなかった。








 翌日、蒼穹は、登校して以来、時折教室にいる瞳の姿を追っていた。


(アイツが話を聞きに来るから……)


当初、蒼穹は瞳に関しては、違和感を覚えていたものの、

そんなに気になしてなかったが、修一が話を聞きに来た所為で、

気になってしかなくなっていた。


 瞳は、自由奔放すぎる言動が原因で、

クラス内では孤立している。誰も彼女と話したがる人間はいない。

しかし、彼女から話しかけられた時は、

ある程度は応じないと、答えてくれるまでしつこく付きまとってくる。


 しかし今の彼女は、これまで通り話しかけられることはないが、

逆に話しかけてくることもない。

顔も無表情で寡黙な状態で、以前とは違う意味で不気味な状態で、


(側にいるだけで寒気を感じるわね……)


まるで氷のような、あるいは鉄のような冷たさを感じた。


 そして、彼女の机の上には本が積み上げられていた。

ラベルが張ってあり、図書室から似ってきたものであることがわかる。

すべて魔法に関する本。


(まあ、彼女は魔法使いなんだから、おかしい事じゃないけど……)


こんな勤勉な姿は、あまり見たことがないので違和感がした。


 気にはなるものの、この前のコスプレデートのように、

おかしな事を持ちかけられるよりも、

黙ったまま、何もしてこない方が正直な話、ありがたいという気がした。


(まあ、何もしてこないんだし、このままでも悪い気はしないけど……)


だが突然こんな事を始めたのだから、不気味と思う部分があるが。


 しかし彼女を見ていて、


(ほんと、どうしちゃったんだろ……)


そんな事を思ってはいたが、本人に話しかけることはない。

話しかけると、藪蛇のような気がするからだ。


 そんな中での昼休みの時の事、この時は瞳を気にしつつも、

里美と話をしていたのだが、

二人と仲のいい同級生の一人が、


「天海さん、黒神さん、大変よ!」


とスマホを片手にやってきた。


「どうしたのよ」


と蒼穹が尋ねると、


「また怪獣が現れたんだよ」

「えっ!」


スマホには、その事実を伝えるリアルタイムの映像が映っていた。

そこに映っているのは


「蛞蝓?」


巨大な蛞蝓であった。


 なお現在怪獣は郊外にいて、進行がゆっくりなので、

警報等は出ていない。

この時、蒼穹は気づかなかったが、瞳が教室から出ていった。

そして駆け足で廊下を抜け、校舎を出て校内の一角で、

人気のなく、周囲にないもない場所に向かう。


 そして懐から、変身アイテムを取り出すと、真横に構え、


「マジカルジュエル……」


上に掲げて、


「メタモルフォーゼ……」


そしてスイッチのような物を押した。


 一方その頃、


(そういえば、創月さん)


周りを見渡す蒼穹。怪獣の事に気を取られて、

瞳がいなくなったことに今になって気づく。

その直後、窓の外からまばゆい光が差し込んだかと思うと、

直後生徒の何人かが、


「おいあれ見ろよ!」


と窓の外を指さしながら声を上げる。

その状況に、思わず窓際に向かう蒼穹。


「えっ!?」


と目を大きく見開き声を上げる。

 

 生徒たちが指さした先には「巨人の魔法少女イクシード」の姿があった。

イクシードは体をかがめたかと思うと、

飛翔し飛び去って行った。イクシードの正体が瞳であると知る蒼穹は、


(まさか、怪獣を倒しに行ったの?)


ただ、イクシードの正体がこの学校の生徒であるのだから、

こういう事もあり得そうだが、実際は今回が初めてで、故に驚きであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る