2「聞き取り調査」

 怪獣出現の翌日から各種SNSに関連動画が次々とあげられた。

町中よりも郊外の方が多く上げられ、

そこは、あの場で修一が見ていない部分があって、

それは隕石のようなものが落下してくる様子と落下後は、

修一が実際に見た通り、煙が上がり怪獣が出現した様子が移されていた。


 光の女神も同じで、隕石が落ち、煙が上がり、その中から姿を見せる。

もちろん、その様子を修一は見ていない。

修一が気づいた時には、女神は姿を見せていたのだから。


 なお修一以外にも巨人を光の女神と称する者は多くいて、

ネットだけじゃなく、学校でも、報道でも「光の女神」呼ばれていて、

あの巨人は一般的に、「光の女神」と呼ばれるようになった。


 そして学校にて秋人から、


「そう言えば、修一君。あの日、現場近くに行ったんじゃなかったっけ?」


友人たちには、休日に遊ぶに誘われて、

お使いを理由に、断っていて、その際にあの場所に行くことを話していた。

ネットで動画も上がっているし、世間一般にも話題になっているから、

特に問題ないと思い、


「ああ、実は怪獣と女神と戦う所を見てたんだ」


修一は記録していた映像をUMPCで見せた。

なお怪獣と女神が戦いだした部分からだから、瞳の姿は映っていない。


「随分近くに居たんだね」


と言う秋人に、


「近くって、ちょっと大げさだな。そんなに至近距離って訳じゃないんだし」

「これでも、十分近いと思うよ」


と秋人は言う。


 秋人に動画を見せていると、クラスの女子が


「光の女神の動画?見せて!」


と言って近づいてきた。修一は、秋人に見せてしまっているし、

断る理由もないので見せる。


「へえ~、結構綺麗に撮れてるわね」


動画を見ながら感想を言う。すると他の女子も、


「私にも見せて!」


と次々と集まってきて、ちょっとした騒ぎになった。


 この状況に、


(何だろう。異世界転生物でやらかしたみたいだな)


と思いつつ、その後も授業が始まるまで、騒ぎは続いた。

超能力、魔法、超科学と言った普通でないものが日常に溶け込んだこの街でも、

こういう、巨大な超人と言うのは珍しい物で、

また怪獣も含め、ゲート以外から来たという事も大きい。

この騒ぎが、ある出会いに繋がる事となった。


 その二日後、部室で修一は、あい変わらずプラモデルを作っていた。

なおコンテスト用の作品は既に完成し提出していて、結果を待っている状態だった。

そんな部室に、


「失礼するわよ」


と黒いスーツを纏い茶髪でおかっぱ頭の猫耳の半獣人の女性が入って来た。

凛とした顔立ちで、強気な雰囲気のある二十代後半くらい美人で、

その姿から来訪者か、その血筋のどちらかだと思われる。


「誰だ?」


と番長でもある部長がいつものように凄むように言うが、女性は怯むことなく。


「守護神機関。怪獣対策室の連尺野ミオよ」


なお部室の外には、ブラウンのスーツを着て、

癖毛で可愛い顔立ちで、気弱そうな小柄で二十代前半、

もしかしたら十代でも通りそうな女性がいて、おどおどしながら


「お、同じく、水野澄玲です」


声が、聞き取りづらく、


「あぁ?」


と声を上げるが、凄味があったので澄玲が涙目で、


「ごめんなさい!ごめんなさい!」


と頭を下げ始める。


 ここで、ミオが、


「アンタ!なに謝ってるのよ!」

「だって、相手は鋼のスケ番ですよぉ~」


相手が番長故にこの反応も仕方ない事だが、


「番長が何よ!しっかりしなさい!」


と喝を入れつつ、その番長こと部長の方を向いて、


「ところで、桜井修一はどこ?」


この部室には男は修一だけだから、分かりそうだが、そんな事を聞いてきた。


「俺だけど……」


と修一が、プラモづくりの手を止めて答えると、


「貴方が……」


修一の方に向き直る。


「なんか様ですか?」


と聞くと、


「貴方、光の女神を近くで目撃したそうね。話を聞かせてくれないかしら?」


と言って来た。


 ただ口調が高圧的なので、修一の悪い病気である負けず嫌いが出てきそうになったが、

ここで顧問であるマチルダがやって来て、


「やっぱりここに居たのね。ミオミオ、待ってるように言ったでしょ」


するとミオは顔を真っ赤にして、


「マチルダさん!その名前で呼ばないで!」


と情けない声を上げた。


 ここで修一は、


「一体、何なんですか?」


と聞くと、マチルダは


「彼女からどこまで話を聞いてる?」

「自己紹介を聞いたくらいですけど、ところで守護神機関ってなんです?」

「桜井君はこの街に来たばかりだから、まだ知らないのね」


マチルダは、説明を始める。それによると守護神機関は、

市からの業務委託を受けて、怪現象を調査し、場合によってが対策を行う民間の組織で、

この街では、公的な存在として知られているが、

それ以外の場所では、存在が隠されている秘密結社な存在らしい。


 ゲート絡みではWTWから一部業務委託を受けているが、

今回、郊外に現れた怪獣と光の女神は、

状況からゲートが関わらない事例なので、ここが主体となって調査するという。


「ミオミオっというか、連尺野さんは、私の家のご近所さんで、

彼女が小さいころからよく知ってるの」


因みに来訪者二世との事。


 そしてミオは、


「今回、私と澄玲が光の女神の調査を担当しているの。

それで、ここの生徒の桜井修一君が、女神を近くで見たって情報を得て、

話を聞きに来たの」


マチルダは


「私は話してないわよ」


とも言った。修一が女神を見たという話は、

クラスメイトだけでなく、担任教師であるマチルダも知っていたが、

他にも他のクラスや、先輩たち、もちろん現視研の面々も知っているが、

とにかく、大勢の人間に話が広まったので、

どこから、話が伝わってもおかしくない状況なのは修一も理解している。


 なお彼女は、修一に話を聞きに来るにあたって、

学校には話を通していた。本来なら応接室で、待ってもらって、

マチルダが、修一を連れてくることになっていた。

なおこの日は放送設備が不調だったので、呼び出しはできなかった。

 

 加えて、そのマチルダに用事が入る。

しかも彼がいる現視研の部長が番長とあってか、

顧問である彼女以外、呼びに行ってくれる教師は居なくて、

用事が終わるまで待たせる事となったのだが、

元来、行動的なミオは、自分で現視研の部室を探し出して、

ここに来たわけである。なお修一が、現視研の部員で部室にいるであろうことは、

学校に来た時マチルダから聞いていた。


 そして、


「とにかく、貴方から話を聞きたいの」


と言うミオに、マチルダが、


「部室じゃなんだから、近くの空き教室に行きましょう」


ここで修一は、部長に、


「あの構いませんか?」


と聞くと、


「いいぞ……」


と許可が取れたので、空き教室に移動する事に。


 空き教室にて、事情を聞かれた。実際に見たことに関しては、


「これを見てください」


話をするよりも、手っ取り早いので動画を見せた。彼女は、


「コピーを貰えるかしら?」

「いいですけど」


すると彼女はUSBメモリースティック渡してきたので、

動画をそれにコピーして、渡す。


「ありがとう」


とミオはお礼を言いつつ、


「随分近くで撮ってるわね」


という感想だった。


「どうしてここに居るか教えてくれる?」


現場にいた理由まで聞かれた時は、お使いで、近くにいた事などを話し、


「最初に怪獣が出現した際に、場所も近かったから、物珍しさで見に行ったんです。まあ野次馬ですよ」


と答えた。確かに野次馬なので嘘ではない。


 ただここでミオは、


「他に誰かいなかった?」


と聞いてきた。


「!」


あまり話したくないから、僅かに動揺したものの。


「ネットに俺のとは違う動画が上がってましたし、

帰りに野次馬も見かけましたから、他にも人がいたんでしょうが、

俺は会ってませんよ」


と答える。瞳の事は言っちゃいけないので、

伏せてはいるものの、その事を悟られているのか、


「そう……」


と修一をジッと見ながら答えたので、納得していないように思えた。


 すると澄玲が、


「ミオさん、学生さん相手に、凄んじゃいけませんよ!」

「別にそんなつもりはないわよ」


とミオが言いつつ、澄玲が


「ごめんなさいね。怖かったですよね」


と申し訳なさげに言う。


(この人、夢沢に声が似てるな)


と思いつつも別に怖くはなかったのと、気を使わせてるみたいなので


「別にそんな事は……」


と言いつつも修一は、


「とにかく人とは会わなかったですね。

事が終わって山を下りるときに、さっきも言った野次馬は見かけましたけど」


と答えるだけだった。


 納得していないようだったが、


「あとで改めて話を聞くことになるかもしれないけど、今日はありがとうね」


そう言って彼女たちは、帰って行った。

その後、修一は部室に戻った後、プラモづくりの続きをして、

下校時刻になって家に帰るのであるが、


「ちょっといいかな?」


春奈に呼び止められ、空き教室に移動した。

なお二人きりではなく麻衣やメイもいる。


 ここに移動したという事は、魔法少女絡みの話をするのだが


「一応聞いておきたいんだけど、私たちの事は話してないよね?」

「話してないけど、だいたい魔法少女の事は聞かれなかった」


そう言うと安堵した様に、


「そう、ならよかった……」


と言ったので、


「どうして、そんなこと聞くんだ?」

「守護神機関は、私たちの事を探ってるから」


魔法少女は、強い力を持つ正体不明の存在故に、調査対象となっているらしい。

その事実を聞いた修一は、


「色々大変そうだな」


と言いつつ、


「とにかく、俺は何も話していないから」


と修一は答える。


 さて春奈たちが聞きたかったのは、その事だけじゃなく、


「もう一つ聞きたいんだけど、怪獣と光の女神が現れた時に、瞳を見なかった?」


修一は、春奈たちには隠す必要はないので、


「あの人たちには言ってないけど、創月の事は見た。

山の中で変身しようとしてたが、結局しなかったんだよな」


なお春奈は、当日、瞳が郊外に行くことを、本人から話を聞く形で知っていた。


「やっぱり、現場に居たんだ……」


と春奈が、どこか訳ありげに呟いた。


「何かあったのか?」


と修一が聞くと、


「実は、あの日以来、瞳の様子が変なのよ。何だか別人見たいって言うか」


修一も、彼女に最後にあった時、おかしいなとは思ったが、

そう思ったのは彼だけではないようだった。

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