13「桜井修一の帰還」

 さて、修一が戻れるようになったのは、

それから、三日後のことだった。

表向きは、病気が完治退院してきたという事になっている。

同時に恵美は転校したことになっているので、クラスメイトから、


「もう大丈夫なの?」


と気遣われることもあれば、


「恵美さん、どうしちゃったの?」


と恵美の消息を聞かれることもあった。気遣われた際は、


「もう大丈夫」


と答え、恵美の事に関しては聞いてくる人全員に、


「詳しくは知らないんだ」


と言ってはぐらかせ続けた。

なお隣の席の秋人は、事情は分かっていたからか、


「おかえりなさい。修一君」


と優しく声をかけてくれた。修一は思わず、


「ああ……ただいま」


と返していた。


 またその日は、部活の日なので、部室に向かうと部長と愛梨がいて、

周りに事情を知らない生徒もいるからか、


「おかえり、桜井」


と部長が言い、愛梨も、


「おかえりなさ~い。桜井君が休んでいる間は、

恵美ちゃんが頑張ってくれてたよ~」


と言う。さらに事情を知らない部員で

コスプレ班のフレアからは


「それにしても、恵美さんって、すごいねぇ。

あの天海蒼穹さんと知り合いだなんて」

「そうらしいですね……俺こっち来たばかりだから、実感が……」


と答える。


「そういや、『コスプレくじ』の事は?」

「知ってますけど……」

「じゃあ、映像見てみる?凄いお宝映像だよ。

私たちが作った恵美さんのコスプレの出来もいいけど、

あの天海さんが、兼ねてから似てるって言われてる……」

「いえ、別にいいです……」

「すごい見物だよ」

「いや、本当にいいですから、もう話は聞いてるんで」


と言って断った。


 その後も、知り合いに会うたびに、


「おかえり」


と言われ続けた。中には事情を知っている人々も居たが、

知らぬことにしているので、そう言っていたくれていたので、

修一は、恵美としてずっといたのだが、

何だか、ずっとどこかに出かけていて、帰って来たような感覚がした。


 さて家に帰った来た修一は、買い物を思いだし出かけて、


「「あっ!」」


天海蒼穹とばったり会った。先の事があるから、

気まずい雰囲気になりかけたが、蒼穹の方から、


「アンタも買い物?」


と声をかけられた。


「ああ……」


と返す修一、買い物に行く店は、同じ近くの激安スーパーなので、

そのまま二人は一緒に行くことに。そして蒼穹は、


「どうだった。女の子として暮らした感想は?」

「聞いてはいたけど大変だった。特に月のものってやつは……」

「でしょうね」


蒼穹も経験があるし、介抱しているから、その辛さは分かっている。


「皆に手助けしてもらえたけど、けど皆に知られてなければ、

一人で、抱えて大変だっただろうから、

そう言う意味では、木之瀬には感謝かもな」

「………」


不法侵入の一件のことに触れられ、

まだ気になるのか気まずそうな表情の蒼穹。


 ここで修一は、


「ところであれから何かあったか。特に日曜日の事とかで?」


何とも言えなさそうな表情で、


「まあ、色々ね……」


と言葉を濁す、あんまり聞かれたくなさそうであったので、

修一は、それ以上が聞かなかった。ただ、蒼穹は有名人であるから、

変に目立ってしまった事は間違いないようだった。


 その後二人は、店に入り、買い物を済ませる。

買うものは違うから、別々の場所に行ったのだが、

待ち合わせをしたわけじゃないのに、

偶然にも一緒になった。そして途中まで一緒に帰るころになったのだが、


「少し、アンタに聞きたいことがあるの」

「何だ?」

「空白の一日の事よ」

「!」


その言葉を聞いて強張る修一。


「その日は、何も覚えていないだろうけど、その前後はどうなの?」

「前後ねぇ……」


と言って悩まし気にする。


「実は、全く覚えていないわけじゃないんだけど、

あやふやと言うか、特に前の日はな……」

「じゃあ、さあ、覚えている分だけで良いから、教えてくれない?」

「いいけど、お前の方も教えてくれよ」


蒼穹も、修一と同じ日に空白の一日を持っているので、

彼は何時もの病気ほどでもないが、気になっていた。


「いいわよ。でもアンタから先よ」

「でも、大した話じゃないぞ?」

「とにかく教えて!」


蒼穹は睨みつけてきたので、


「わかったよ……」


と言いつつ、話を始める。


「確か、母さんと旅行に行ってたと思う」

「旅行……」

「泊りだったけど、ホテルとかじゃなくて、

どこかの家だった気がする」


その家が、何なのかは思い出せなかった。


 そして蒼穹は


「旅行なら、予定を立てているよね?

空白の一日は、どういう予定だったの?」


修一は、少し考え込むような仕草の後、


「確か、ピクニックに行く予定だった。場所は覚えていないけど」


その話を聞いたとたん、蒼穹は驚愕の表情を浮かべる。


「同じだ……」

「同じって……」

「私の方も、ピクニックへ行く予定だったの、

母さんに連れて行ってもらって、あと里美たちも一緒で……」


と言った後、


「私も、場所は覚えてないわ」


ただ修一の場合は、功美が、

蒼穹の場合は、母親や里美がいたので、何処に行ったか、

その日に、何が起こっていたかが分かっていた。


 

 蒼穹がピクニックに行った場所は、郊外の草原。

最初は、里美たちと一緒であったが途中で逸れて、

発見されたときは、近くの山中で、意識を失っていたという。


「俺と同じだ」


修一の場合は、草原とだけ聞いていて、具体的な場所は教えてもらっていない。

ただ彼も、母親と逸れて近くの山中で意識を失っていたらしい。


「気が付いたら、病院のベッドの上だった」

「私もよ」


二人とも、逸れている間の事はもちろん、

当日の事をすべて忘れていたという。その上、前日や後日の記憶も曖昧である。


 ここで修一は、


「あのさ、もしかして俺たち同じ場所にいたんじゃ……」

「私も、同じことを考えた。だから話を聞いてるの」


蒼穹は当時から、この街に住んでいるが、

修一は、遠方に住んでいたので、旅行という事になる。

ただ、その日の記憶が無いとはいえ、

修一はいろんな能力を手に入れたが、蒼穹はそんな事はないのは、

既に述べた通りで彼女の能力は、それ以前から持っている。


 修一は、頭を押さえながら


「母さんは、何か知ってそうなんだけど、何か聞きづらくてな。

まあ聞いたところで、はぐらかされそうな気がするけど」

「私も、そう思うわ」


お互い同じ場所にいたかもしれないという可能性は出たが、

それ以上は、何も分からないから、結局、話はここまでである。


 その後は、方向が同じなので一緒に帰る事に、

「空白の一日」についての話以降は、会話はなかったが


「やあ~チミ達、仲良くお出かけかな~」


と瞳が声をかけてきた。二人は顔を真っ赤にして、特に蒼穹が、


「偶然、同じ場所に買い物に行っただけよ。

あと帰りが同じ方向になるのは当たり前でしょ」


すると瞳は笑いながら、


「さっき、色々話してたよね。内容は聞けなかったけど……」


本当に、聞けなかったかは不明だが修一は、


「まさか、今度は俺たちに鞍替えしたんじゃねえだろうな」

「そんな訳ないよ。君たちは二番目だ」


と言いつつも、前と同じく、


「一番と二番の間には、越えられない壁があるけどね」


と言い放つ。そして修一が思う


(しかし、こんな奴が街を守る魔法少女の一人とは……)


と呆れるしかない。


「お前の家に、本当にグラサン野郎はいないのか、

どうせテレビ版だろうから、居たら引きずりだして、シメて、

不死身である事を後悔させるぞ」

「だから、チミはアニメの見過ぎ、私は怪獣を作ったりしないよ」


と言って笑う。因みに、この前の一件は春奈の鞄に仕掛けた盗聴器で、

「コスプレくじ」の事を知って仕掛けた事らしい。


「でも、デートは楽しかったでしょ?」

「大変だったわよ!」


と蒼穹は顔を真っ赤にして、声を上げ、


「そうそう」


と修一も同調する。


 しかし瞳は笑いながら、


「そうかなぁ~私には、楽しそう見えたけど、

ゲームセンターとかさ、映画の方は分からないけど」


と言いつつも、


「真綾さんの乱入は大変だっただろうけど、

まあチミらがあそこに行ったのが悪いんだよ」


案の定、あそこに真綾が行っていたことを、

知っているようだった。


(やっぱりストーカー、知っていて当然か)


と思う修一。


「真綾さんの襲撃は、彼女の勝手だし、

チミ達は恋路を邪魔してないから、文句は言わないけど」


と瞳は、言いつつも、


「まあこれからも、楽しませてよ。それに同じ機会はまた来るんだろうし、

それじゃあ、私は忙しいから」


そう言って、瞳は去って行った。


 その様子に、修一は


(忙しいって、どうせ天童たちへのストーキングだろ)


と思うのだった。一方蒼穹は、


「そういや、今回と同じことが、今後も起きるんだっけ?」


と言って、


「ああ、20歳になるまで不定期にな……」


と修一が答える。今回のような強制性転換は、不定期だから、

しばらく来ない事もあれば、直ぐに来る場合もあるらしい。


「アンタも大変ね」

「そうだな……」


と言いつつ、既にお礼は言っていたが、


「改めてありがとうな。あの時助けてくれて」

「何なのよ急に」

「なんか、感謝しなきゃいけない気がしたんだ」


彼女だけじゃない、事情を知った人たちに助け貰った。

大変だったけど、助けがあったおかけでどうにかなった。

だから、その事に感謝しないと言う気持ちになったのだ。


「全く急に、恥ずかしいじゃない」


と言って顔を赤くする蒼穹。


「とにかく、ありがとう」


と修一は言った。

 

 その後、家の付近の裏玄関への分かれ道、


「じゃあ、俺こっちから帰るから」


と修一が言うと、


「表玄関からは言ったら、こっちの方が近道だし、

今、人もいなし、私も気にしないよ」


と蒼穹から打診されるが、


「黒神が色々と、うるさいだろ。じゃあな」


そう言ってその場を後にした。

あのデート以降、お互い似た者同士とわかったからか、

二人の距離が接近しつつあった。

それが発展していくのは、まだ少し後の話であるが、

とにかく今回の一件は、二人の関係を変えるきっかけと言えるのであった。

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