12「暴走とデートの終わり」

 赤い怪人が、突如攻撃を止めたので、真綾は、


「さっさと追撃してきなさいよ!」


と言うが、


「もういいだろ。ここまでにしよう」

「何を言っているの!まだ決着がついてないわ」

「とにかくもう終わりだ。さっさとこの空間を解除しろ」

「嫌よ。アタシはまだ戦える」


と言って立ち上がって来る真綾だが、突如としてその動きが固まった。


(どうした?)


何かがおかしい。

次の瞬間、見えていた口元がシャッターのようなもので覆われる。

急に苦しむような動きを見せる。


「おい、大丈夫か?」


と声をかけた次の瞬間、襲い掛かって来た。

赤い怪人は、攻撃を受け止め、格闘戦となるが、

動きが変だった。先ほどまでと似てはいるのだが、


(感情を感じない。まるでロボットと戦ってる様だ)


しかも、口元が覆われたからなのか、声が聞こえないので、

ますますロボットの用だった。


「おい真綾、もう終わりだって言ってるだろ……」

「……」


やはり返事はない。ひたすら攻撃を続けている。

赤い怪人は、ひたすら応戦しつつ、


「いい加減にしろ!真綾!」

「……」


真綾は答えず、ただ淡々と攻撃を続けるだけだった。

赤い怪人は応戦するが、戦いにのまれない様に抑え気味にしているので、

だんだん押され気味になる。


「だから、いい加減にしろって……!」


やはり返事はない。ここまでも、その動きに感情を感じない。


 ここに至って、


(まさか、暴走……)


そんな事が頭によぎった。ただ本人も敵意を向けているのと、

動きが、無茶苦茶ではなく感情はないけど、

洗練された動きなので、断言できそうにはなかった。


 互いの蹴りと拳のぶつかり合いの果て、

赤い怪人の左拳と、真綾の右拳が再びぶつかり合う。

どちらも特殊な力を宿した拳、お互いの力が拮抗し合い、

周囲に衝撃波をまき散らしながらぶつかり合い。そして同時に弾け飛ぶ。

吹き飛びながらも、すぐに体勢を整えた両者は同時に着地した


 こうして両者は、一旦距離を取るが、真綾は胸の部分からの砲撃、

腹の部分からのビーム砲を再び撃って来る。

まだミサイルは撃ってこないが、それでも熾烈で回避しつつも、

時折迎撃する赤い怪人。


(まずいな、せっかく落ち着いたのに……)


このままでは、再び戦いに飲み込まれそうになる。

そうなったら今度こそ、彼女に取り返しのつかない事をしかねない。


 ここで、遂に真綾は小型ミサイルを大量に使ってくる。


「!」


直後、別のミサイル群が現れ、撃ち落される。


「えっ!」


その直後、現れたのは


「部長!」

「助けに来たぞ」


何時ものパワードスーツ姿の部長だった。

彼女だけじゃなく、見た事のない大柄の人型ロボットがいた。


(コイツは一体?)


白い装甲に赤いラインが履いていて、

竜を模した鎧を着ているように見えなくもないが、

ファンタジーと言うよりもSF的なデザインである。

ミサイル群は、部長だけでなく、コイツも撃ったようだった。


 更にもう一人、


(何だ?暗黒騎士は)


それは、修一の持つ、黒騎士の鎧と同じく黒い鎧だが、

デザインが随分と禍々しく兜に目をかたどった紋章があって、

一つ目と言う感じで、全体的には暗黒騎士と言う感じがする。

そしてマントも羽織っている。


(なんとなくだけど、中二病の奴らが好きそうなデザインだな)


そんな事を思った。


 ここで部長が


「長瀬が来るまでに、奴を取り押さえる。手伝ってくれ」


メイも来るようだった。


「わかりました」


部長と謎の二体と赤い怪人で、取り押さえようと試みる。


 四対一であったが、抵抗され直ぐには取り押さえる事が出来なかった。

ただ、そんな中、攻撃を受けた暗黒騎士が、


「助けるからな、真綾」


と声を上げた。


「えっ?天童」


その声は天童零也のものだった。


「お前、天童か?」

「あぁ、詳しい説明は後だ」


今は、真綾を取り押さえる事が優先で、

四人がかりでも少々大変だったが、取り押さえる事に成功した。

 

 その後、魔法陣が出現し、メイが姿を見せた。

恐らくは結界突入の転移魔法によるもので


(秋人かな)


と思う赤い怪人。そしてやって来たメイは、真綾の側に来て、ジッと見つめ、


「ハッキング完了……zeiriaを強制停止させる」


次の瞬間、真綾のパワードスーツが消える。

それに合わせ、彼女の拘束を解いた。同時に特殊空間も消えた。


 そして、


「アンタ大丈夫だった?」


と蒼穹が声をかけてきて、赤い怪人は恵美に戻りつつ、


「ああ……」


と返事をする。更に、


「恵美さん、ですよね?」


案の定、秋人の姿があったが、恵美がメイクをしているので、

本人なのか分からない様子だった。

一方、真綾の方は、いつの間にか、暗黒騎士は零也になっていて、

彼女を介抱していた。あとロボはどこかに消えていた。


「大変だったねぇ~」


と声をかけて来る愛梨、彼女もいっしょに来ていたようだった。


 この状況に恵美は、


「どうなってるんですか?」


と尋ねると、部長と副部長である愛梨と、

メイクと衣装を用意したコスプレ班とメイは、ドローンで状況を確認していた。

メイは勝手にやって来て参加していた。

なお、他の部員には録画した映像を後日見せる事になっている。

ここまでは、恵美も知っている事。


 その後、真綾との一件を知り、コスプレ班に留守を頼み、

ここまで来たという。ここでメイが恵美の側に来て、


「zeiriaは時間経過とともに……暴走する確率が上がる……最大98%……」

「やっぱりあれは暴走だったんだ……」


なお真綾はこの事実を知ってるらしい。


 そしてドローン越しに、zeiriaの使用を確認し、

メイが、詳細と危険性を教え、止めに来たという。

零也と秋人がいるのは、zeiriaはメイのハッキングで止められるが、

その為には接近の必要が有るので、

真綾を取り押さえる必要で、人手が欲しいが、コスプレ班の面々では危ないのと、


「それに……彼氏だし……」


と言う理由で零也を呼んだとの事。

あと秋人は、特殊空間への突入の為らしく、

魔獣軍団の時に使った疑似空間への突入の魔法、

この特殊空間は、異なるものだったが、適応可能だった。

あの時と同じく、一度に、全員突入させることができないようだったが。


 ちなみに、ここには最近部長が購入したバンで来たらしい。

なお部長は、自動車免許は持っていて、彼女の運転で来たという。


  そして、少し経った状況が落ち着いた後、

零也が傍に来た。なお彼はここに来るまでに、

改めて、詳しい事情を聞いている。近づき、コスプレしている恵美をジッとみて、


「しかし、水星……完成度高いな」


と感心している様に言いつつも、


「進んで何かに入れたか?」


と茶化すように言ったので、


「俺は、進んで二つ、逃げても二つ手に入れてやる」


と恵美は腹立たし気に言った後、


「ところで、あの鎧姿は?」


と聞くと零也は顔を真っ赤にして、


「すまん、その事だけは聞かないでくれ!」


と恥ずかしそうで、それでいて必死に拝む姿をみせるので、その必死さに、


「わかった……」


と答えるしかなかった。そして零也は、ここに来た理由も話すが、

既にメイから聞いた内容を、彼の視点で語る形であり、

彼もzeiriaの事は知っているようだった。もちろん、その危険性も含めてである。


 ここで、真綾が不貞腐れた顔でやってきた。


「言っとくけど、もう勝負はしないからな」

「わかってるわよ、勝負はあんたの勝ちでいいわよ」


その口調からが、納得していない様だったが、


「あんな醜態をさらして、もうアンタとは戦えない……」


zeiriaの暴走は、彼女にとっては醜態になるらしい。


「だいたい、アンタ、こんなところにいるわけ、しかも変装までして」


と真綾が言いだし、


「えっ?お前、俺を狙ってきたんじゃないの?」

「確かに、アンタを狙ってたのは確かだけど……」


実は、真綾がここにいたのは、偶然で、


「アタシは、ここにきて自分の気持ちを落ち着かせようとしてたのよ。

アンタと戦いたいって気持ちをね」


彼女は、赤い怪人との戦いを諦めようとしていたのだ。

その為にここに来た。先の課外学習の際に、

ここに初めて来て、心が洗われる気がしたという。


「だから、ここに来てたのに、アンタ達が現れるんだから、

気持ちが抑えられなくなったのよ」


つまりは、タイミングが悪かったのである。


「まあいいわ、もう帰るから」


と言う真綾だが、メイの方を見て


「そうだ、アンタの事は諦めないから、いずれ決着をつけてやる」


メイへの思いは根深いようである。


 帰ろうとするメイに


「送っていこうか?」


と言う部長だったが、


「お構いなく」


とそっけない言い方で断る真綾。すると、零也は


「真綾、俺も一緒に行くよ」


と言って付いていった。


 そして部長は、


「秋人は、アタシが送っていくとして……」


恵美の方を向き、


「ちょっと早いが『コスプレくじ』はここまでとしよう。

バンに着替えが積んであるから、着替えていくと良い」


実はネスブール湖に向かうと連絡を受けた段階で、

着替えに戻ってきてもらわなくても直接、家に帰れるように、

バンで向かい、現場で着替えてもらおうとしていた。

そして、着替えを積んだ後に、今回の一件が起きた。

なお何事もなければ、コスプレ班もここに来る予定だった。


 その後、みんなで、バンの元に向かう。

バンは、修一の自家用車の側に停めてあった。

そして恵美は、バンの中で着替えてメイクを落とし、本来の姿に戻った。

一方部長はドローンの回収をし、


「それじゃあ、アタシたちは行くから」


とバンに秋人と愛梨を乗せて、去っていった。


 残された恵美と蒼穹は、


「どうしようか?」


と言う蒼穹に対して、


「もう十分デートをしたから気がするから、もう帰ろう」


しかし、このタイミングで二人はそろって空腹を覚えた。


「近くで食事してから帰るか?」

「そうしましょう」


二人は近くの適当な食堂に入り食事をすることに。


 そして注文したのは、そろってカツカレー。


「なんで、また同じなの?」

「さっき事があったから、ガッツリしたものが食べたかったんだ」


二人は注文を取りに来たウェイトレスに、

ほぼ同時に、同じものを頼んでいた。なお注文を取った後、ウェイトレスは、


「仲が良いですね」


と微笑みながら言って立ち去った。

ウェイトレスは、仲のいい女友達に見えただろうが、

この一言で、妙に意識してしまい、顔を赤くする二人。


 気まずい雰囲気の中、食事をする羽目になったが、

出てきたカツカレーは、値段の割には量があり、味も美味く、


「「美味しっ!」」


と同時に声を上げてしまい。更に顔を赤くする二人であった。


 昼食の後、帰りは恵美の運転で家に帰るのだが、

その道中、瞳からメールがあって、


「もう帰ってもいいよ。十分、楽しましてもらったからね」


と言うものだった。メールを見た蒼穹も、内容を聞いた恵美も、

何とも言えない表情を浮かべるのだった。


 家に帰って、駐車場に車を停めると、


「今日はお疲れさま。じゃあ俺は裏玄関から入るから」


すると、


「表から入っていったら、面倒でしょ」

「そうだけど……」


するとここで、


「気を使わなくてもいいですよ……」


と言う声が聞こえ、


「「!」」


固まる二人、声の方を向くと、そこには里美は、

怖い目つきで、仁王立ちしていた。すると蒼穹は


「いや、これはその……」


すると里美は、


「事情は、存じています。罰ゲームですよね。創月さんの……」

「何でそれを?」

「創月さんから聞きまして、訳あって黙認してました」


その訳については、話す気はないらしい。


「まあ、この件に関しては、咎めるつもりはございません」


といった後、


「ですが私は、貴方を認めませんから、桜井修一」


と里美は言い、


「とにかく家に入りましょう」


といって、三人は家に入り、玄関で蒼穹達は二階、恵美は一階で別れた。


 その後は、特に何もなかったが、


(余計な火種にならなきゃいいがな)


と思う恵美であった。

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