11「赤い怪人VS真綾」

 いきなりの登場に、


「なんで、こんな所に……」

「そりゃ、こっちセリフよ。せっかく……」


と不機嫌そうに、何かを言おうとしたが、


「まあいいわ、桜井恵美いや桜井修一、ちょっとツラ貸せ」


凱斗の時とは違って、逃げようとは思わなかった。

彼女も衆人環視の前で、勝負をしようなどとは、思わないだろうし、

目立たなきゃそれでいい。黙って真綾についていく恵美に、後を追う蒼穹。


 そして湖から離れて、周囲は木々に囲まれつつも、人気のない場所に移動し、


「ここならいいわね」


と言った後、恵美の方を指さし、


「赤い怪人になりなさい。勝負よ!」


すると蒼穹は、


「ちょっと、森羅さん……」

「貴女は黙ってて……!」


と蒼穹を制する真綾。そして恵美の姿を見て、


「その格好、話題になったロボットアニメの主人公ね。

じゃあこういった方がいいわよね。決闘よ!」


と声を荒げるが恵美は、


「決闘って、そんな大げさな……」

「うるさい!とにかく勝負よ!」

「わかったよ……」


元々、勝負は受けるつもりで、

逃げても凱斗とは違ってうやむやに出来る気がしなかったからだ。


 ただし、


「これっきりだからな、例の組織は滅んだんだし、もう戦う必要はないだろ」

「わかってるわよ……」

「約束してくれ、この戦い、勝っても負けても、二度と勝負を挑まないって」


難しい顔で黙り込む真綾だが


「わかった。約束する……」


どこか、不本意そうだが、約束した。


「とにかく始めるわよ」

「わかった」


恵美の背中が割れて、姿を見せたソレは、

彼女を取り込むかのように装着され、恵美は赤い怪人となった。


「本当に戦うの?」


と心配そうに、二人に尋ねる蒼穹。真綾は、


「当然よ」


と言い、赤い怪人は、


「大丈夫、軽い手合わせだ。大事にはしない」


と言い、すると蒼穹は、


「そう、じゃあ私は邪魔にならない場所にいるわ」


そう言うと、この場から、少し離れた場所に移動する。

心配だったが、大丈夫な気がしたので、彼女はこの戦いを止めずに、

最後まで見届けようという気持ちになっていた。


 そして向かい合う両者。


「それじゃ、始めるわよ!」


と真綾が言うと、


「良いぜ……」


そう言って構える赤い怪人。


 真綾の左腕から刃物が飛び出す。これは高周波ブレードで、

それで赤い怪人に襲い掛かる。赤い怪人も高周波ブレードで応戦する。

甲高い金属音が上がり激しくぶつかり合うが、

威力だけなら赤い怪人の方が上である。そして真綾は地面を蹴り、

間合いを取りつつ、右手の指すべてを、赤い怪人に向けると、

一本、一本から細いビーム砲が発射される。


「!」


素早く避ける赤い怪人、そして衝撃波で、応戦するが、

真綾は左手を開いた状態で、赤い怪人に向けると、

掌から銃口のようなものが出現し、

光弾による砲撃を使ってくる。怪人も光弾で応戦。更に真綾の太ももが開くと、

無数の小型のミサイルが飛び出し向かってくる。

赤い怪人は、背中から先に刃が付いた無数の触手を展開し、

すべて撃ち落としていく。


 メイとは違い、本格的な戦闘用サイボーグである彼女は、

体内に様々な武器を仕込んでいて、それらを活用し、

それらを余すことなく活用する。更に遠距離だけじゃなく、真綾は素早く近づき、

格闘戦に持ち込む。その格闘センスと四肢に、特殊な力を宿しているようで、

素早い動きと、それでいて重い一撃を食らわせてくる。


 だが赤い怪人も、この時は使っていないが、

多彩な遠距離攻撃を使えるし、近距離戦に持ち込まれても、

その格闘センスも高く、互角に真綾と渡り合う。


「相変わらず、やるじゃない」

「俺の力じゃないけどな」


赤い怪人が何なのかは、恵美こと修一は知らない。

女性になっている時しか使えない。鎧のようなもの。

鎧と言えば、エディフェル商会で購入した鎧は、

男性様なので、逆に恵美の時は使えないが、それは置いておくとして、

とにかく鎧なので、自分の力とは、思えなかった。


 更に真綾は、


「でも、本気じゃないわよね。前に戦った時よりも弱いわよ」


一見互角だが、実は赤い怪人方が手を抜いていた。


「大体、そんな強さで、あの組織を壊滅させられるわけがない」

「あの時とは、状況が違う。けどあの時もお前には手加減してたぞ。

長瀬からの助命嘆願があったからな」

「それが余計にムカつくのよ」


敵に情けを掛けられた事が気に入らない真綾。


「言っとくけど、アタシは本気でアンタ達を殺そうとしたんだからね。

そんなアタシに、情けなんて……」

「俺も、不本意だったがな。でも長瀬が何度も頼んできたんだ」


表情は乏しかったものの、その必死さが伝わって来たので、

彼女の頼みを聞き入れたのだ。


「長瀬の言う事にも一理あったしな。確かに、お前はまだやりなおせる」


実際、やり直せる機会は与えられている。いい学校に通えているし、

全てを知って受け入れてくれている恋人もいる。


「余計なお世話よ」


掌から光弾を発射する真綾。それを軽々と避け、 赤い怪人も光弾を撃つ。

真綾も避けつつ、地面を蹴って一気に間合いを詰める。

そして高周波ブレードを展開し真綾は斬りかかる。

赤い怪人も再び高周波ブレードで応戦し、再び激しい剣戟が始まる。


 その中で、


「もっと、本気を出しなさいよ」


と言う真綾に対し、赤い怪人は、


「ダメだ、これ以上やったら、自分を抑えられない」


ここで、両者一旦、間合いを取りつつ、


「抑えられない?」

「赤い怪人の力を使っていると、戦いにのまれそうになることがある

そうなったお前を、殺してしまうかもしれない」


真綾は、


「別にいいわよ。それでも」


しかし、赤い怪人は、


「そうはいかない。お間は嫌いだが、長瀬との約束はまだ有効だ。

それにお前は、友人の彼女だ。

全てを知って受け入れているアイツを、悲しませたくない」

「……うるさい!」


と声を荒げる真綾。


「嫌でも、本気にさせてやる」

「お前、何する気だ……」


思わず赤い怪人は、蒼穹の方を見た。

第三者に、危害を加えるのではないかと思ったからだ。

最も、蒼穹は強いから、危害どころか返り討ち間違いないのであるが。


 赤い怪人の思いを察したのか、


「行っとくけど、人質を取らないわよ。アタシは弱虫の真似はしない」


と言った後、


「あの時、使えなかった私の本気を見せてやるから」

「本気?」

「zeiria 装着!」


それは突如出現し、彼女の体に装着される。


「パワードスーツか!」


頭部がどことなく狐面のようなマスクただ口元が見えている。

全身は黒くどことなく和のテイストがある特殊装甲服で、

機械の様だが、生物的に見える部分がある。

 

 そして真綾は、


「ハンデとして、教えてあげるわ。こいつはzeiria、

魔法と超科学のハイブリットのパワードスーツよ。

ただし、アタシの様な戦闘用サイボーグじゃなきゃ着れないの」


なお、かつての戦いでは直前の任務で故障していて、

自己修復で直していたものの、任務中はおろか、

組織が壊滅するまでに間に合わなかった。


「コイツがあれば、アンタにも勝てたわ」


そう言うと、普段の彼女と同じように、

腕から高周波ブレードが飛び出すが、

普段の真綾に装備されているのよりも大きい。


「こいつは、装着者の能力をコピーするの。

アタシの様にサイボーグならその機能も複製する。

しかも強化された形でね。その上鎧自体にも独自の武装があるのよ」


と言った後、マスクから見えている口元に笑みを浮かべ、


「ハンデはこれ位で良いわね」

「今の説明が、ハンデか分からないがな」


赤い怪人も、構え直す。


「さあ、行くわよ」


と言って、真綾は駆け出す。赤い怪人も迎え撃つように駆け出し、

そして先ほどと同じく高周波ブレードがぶつかり合う。

そこから、再び激しい剣戟が始まり、

お互いの武器が激しくぶつかる音が響く。


 強化と言っていたように、高周波ブレードの威力は上がっていて、

赤い怪人とほぼ互角になっていた。


(これじゃ、上手く加減が……)


赤い怪人は、戦いの飲まれそうになるのを必死に抑え、

何とか真綾と渡り合っている。


「もっと本気を出しなさいよ!」


ここで真綾は、軽く間合いを取ると、

今度は、手首から鞭のようなものが飛び出し振るってくる。

これは、パワードスーツの方の武装の様だ。その鞭を赤い怪人は避けていく。

しかし避けても、真綾は更に鞭を振るい攻撃してくる。

その鞭さばきは巧みで、赤い怪人は避けながらも、


「お前、まさか零也にも……」


と思わず口走ると、


「アタシにそんな趣味はない!」


と否定し、そう言う性癖があると思われるのいやなのか、

無理を引っ込め間合いを取り、

不気味なデザインの銃を手に出現させ、発砲してきた。

その弾丸を赤い怪人は避けながら、手にメタモルガンを出現させ、応戦する。


「初めて見る武器ね」

「ああ、以前はなかったからな」


と答えると、


「前のあの銃はどうしたの」


DXMはさっき呼び出した後、懐に仕舞い、

そのまま、赤い怪人になって、何時でも呼び出せるが、

今は、そのつもりはない。


「まあいいわ」


と真綾は言いつつ、射撃を続ける。赤い怪人は、銃弾を避けつつ、


(天海は、大丈夫か)


大丈夫とは思っているが、

ここに来て彼女の事が、気になり、サーチで確認するが


(いない……)


この場を離れたのかと思ったが、どうにも気になり、攻撃を避けながら、


「天海をどこにやった!」


ずっと戦っていたから、どうにかできるとは思わなかったが、

思わず聞いていた。


「出ていってもらったわ。この特殊空間からね」

「特殊空間……」


魔法街の時や、魔獣軍団との戦いの時の結界を思い出す。

ただ魔法街の時は、張られたとき気配を感じたが、今回は何も感じなかった。


「装着の際に展開したのよ。気づかなかった?」


以前の結界とは違うものと思われる。

なお結界内に人間は、真綾の意思で、外に転送できるとの事で、

それで、蒼穹を追い出したという


「これで、逃げ場もないし、それに心おきなく戦えるわよね!」


真綾は嬉々として言いながら、銃撃をしてくる。

引き続き赤い怪人は、それを回避しながら、メタモルガンを撃つ。





 その頃、蒼穹は困惑していた。突然二人が消えたのだから、


(いったいどこに行っちゃったんだろ。

転移って感じじゃなかったけど)


実際は蒼穹が転移したのだが、本人にはその感覚がない。


 そして蒼穹は、二人を探そうとしたが、


(なんか待っていなきゃいけない気がする)


そう思いこの場にとどまった。そしてしばらくここにいると

そこにやってくる人々がいた。


「あなた達は……」


現れた面々は、この場の状況を知り、

ここにやってきてもおかしくない人々だった。







 赤い怪人と真綾の銃撃戦がしばし続いた後、

真綾の銃撃がやむ、どうも弾切れになったようだった。

だが、そこで終わるわけもなく、銃を何処かにしまったかと思うと、

瞬時に接近して、強力なパンチを受けた。


「グッ……!」


一瞬だったので、赤い怪人は避けることができず、

もろに受けて吹き飛び、

更に真綾は手のひらから光弾を発射し、

追い打ちをかけられた。


 そこに真綾は接近し、さらなる追い打ちをかけようとするが、

赤い怪人は、その状態から、素早く立て直して、格闘戦で応戦。

メタモルガンは、仕舞って、

左手から衝撃波を伴う強力なパンチを繰り出し、


「クッ……!」


今度は真綾が吹っ飛んで、地面にたたきつけられる。

彼女とは違って赤い怪人は、

遠距離攻撃による追撃は行わなかったが、

素早く接近し、拳による追撃を行う。


 一方真綾は、体勢を立て直し、攻撃を受け止め、

赤い怪人に蹴りを食らわせる。そして赤い怪人は軽く怯むもの、すぐに応戦し、

再度、拳と蹴りの応酬となる。赤い怪人の衝撃波を伴う拳と、

真空刃を伴う右足と爆発を伴う左足の蹴りだが、

それなりにダメージは受けているが、彼女は、どこか嬉しそうに、


「本気になってきたわね……」

「………」


赤い怪人は、返事をしなかった。


 しばしの間、拳と蹴りが、時にぶつかり合い、

時に交差し合いを続けていたが、

再び赤い怪人は左拳の強力なパンチと、真綾の方も右拳から、

同様の衝撃波を伴うパンチが繰り出され、両者の拳はぶつかり合った。


「ク……!」

「………」


二人の拳は、拮抗しつつも周囲に衝撃波をまき散らしていき、

最後は、お互い弾け飛んだ。


 吹き飛ぶことで再び大きく間合いを取ったが、真綾は


「まだまだぁ!」


と声を上げると、パワードスーツの胸部が開き、

砲撃、腹の部分からはビーム砲、太もも部分が開き、

先も使った小型ミサイル、強化されているので発射量が多め、

そして背中からも、さらに多くの超小型ミサイルが発射される。


 遠距離攻撃の雨あられに対し、赤い怪人は、

触手の方を展開、更には左手から火炎弾、

右手からは、電撃を放出し、これらで飛んでくる光弾や、

超小型ミサイルを撃ち落としていく。

更に、左手を空に向け、光弾の雨を降らせる


「!」


真綾は、攻撃を回避するが、避けきれず何発かは被弾する。

更に、赤い怪人は瞬時に接近し、今度は爆発を伴う左足の蹴りを食らわせる。


「うぁぁぁぁぁぁぁ!」


今度は、クリーンヒットだったので、思いっきり吹き飛んだ。


 そして赤い怪人は、両手を自分の胸にかざす、

すると黒い靄のようなものが発生し、その奥に光が収束する。

どうやら止めを刺そうと、なんだかの強力な攻撃を、

行おうとしてるようだったが


「……!」


赤い怪人は、ハッとなったような動作をすると、

両手を下し、靄が消える。そう攻撃を止めたのだ。


(危ない。飲まれて真綾を殺すところだった)


ギリギリのところで正気を取り戻したのだった。

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