10「コスプレデート(2)」

 蒼穹のスマホで話をしている恵美と零也、

なぜ彼が、蒼穹の番号にかけて来たかと言うと、


「お前、携帯電話、家に忘れたか、マナーモードにしてないか?」


携帯を確認する修一、確かに携帯はマナーモードになっていた。

恵美こと修一の携帯はダイヤルキーの#ボタンの長押しが、

マナーモードへの切り替えだが、

それとは別に側面に、マナーモードへの切り替えボタンがある。

携帯を開かずマナーモードに変換できるという利便性があるが、

代わりに、ポケットに入れていてうっかり押してしまう事もある。

今回は、そのうっかりだったようだ。


 とにかく連絡を入れたかった零也は方々に連絡を入れた結果、

現視研のメンバーに繋がって、蒼穹と一緒と言う事が分かり、

蒼穹に連絡した次第だという。因みに蒼穹への連絡先は秋人から聞いたという。

因みに秋人は、イノの一件の時に蒼穹と連絡先を交換している。


 それは置いておき、零也は、所用で真綾に連絡を入れたのだが、

何度掛けても、連絡が付かなかった。

特に急ぎの要でもないので、最初は別にいいかと思ったが、

時間が経つにつれ、心配になって来た。真綾は恵美が調子を戻していることを、

何処で聞いたか、知っていたのである。なお零也は隠すわけでは無かったが、

話す前に知られていた。


「家の方に連絡入れたら、スマホを置いて、どっかに出かけたみたいで、

しかも俺と出かけるって、嘘までついたみたいで」

「だから、俺を襲いに来ると?」

「可能性だけどな」


既に予測していた事である。


「真綾も堅気だし本気で、始末しようとは思ってないだろうが、

急に襲ってこられたら、大変だろうから連絡をと思ってな」

「ありがとう、気を付けておく」


と答えた後、


「そう言えば、なんでお前、天海と一緒にいるんだ?

部活の連中は、誰も教えてくれなかったけど」

「いや、ちょっといろいろ、とりあえず連絡ありがとうな」


零也には、コスプレの件も、デートの件も伝えていないし、

改めて伝える気もないので、そのまま電話を切った。


「もういいの?」


と蒼穹が聞く、


「ああ……」


と言いつつ、スマホを蒼穹に返した。


 そして、もしもの為に蒼穹に話をする。


「それと、もしかしたら真綾が来るかも?」

「なんで、森羅さんが?」

「まあ、昔の事があってな」


すると思い出したように、


「昔なんかあったみたいね。もしかして酷い別れ方をした元カノとか?」

「それは断じてない」


事が事だから、いちいち説明するのはどうかと思い。


「詳しい事は言えないけど、付き合うどころか、敵同士だ」

「随分と物騒ね。まあ戦闘用のサイボーグみたいだから、

彼女は、元は堅気じゃない所に居たんだろうけど……」


と言いつつ


「まあ今は、問題は無いはずよ。彼女、特待生で

スカウトの際は、問題はないか調べるはずだから」

「そうなのか」


特待生と言うのは初耳であったが、言われてみれば、

初めて修一の家に来た時に、最初は蒼穹の元に居たのだから、

その可能性も高いと思われる。


 さて、真綾の話題は置いておいて、


「この後どうする?」


と蒼穹に尋ねられた。


「そうだな……」


やはり、話題は置いておくとしても、どうしても真綾の事を考えてしまう。


 零也も含め彼女が堅気になったとは聞いているが、

それでも、初めて修一の家に来た時は、扉を壊すとまで言っているし、

零也が居なければ、やりかねない雰囲気だった。


(まあ湖で長瀬と会った時は、大人しくしていたが)


少なくとも、人が大勢いるところで、事を起こすとも思えなかったが。


(やっぱり不安だな……)


しかし約束の関係上、まだデートは続けなければならない。


「映画館にでも行くか、あそこなら身を隠すにもちょうどいいし」

「そうね。見たい映画もあるし」


蒼穹も賛同し、二人は再び歩き出した。

そして街を歩いていると、やはり人々の目線が痛かった。


(やっぱり目立ってるな、これじゃあ真綾だけじゃなく、

鴨臥にも見つかりそうだな)


そんな事を思っていたが、何事もなく映画館には到着した。


 しかし、今日の映画館はと言うと、蒼穹の見たい映画は上映していなくて、


「何で今日に限って……」


その日、映画館では「恋愛映画フェア」と称して、

恋愛映画だけを上映していた。更にカップルシートは割引らしい。


 こんな時に恋愛映画なんて見てたら、ますますそれっぽい雰囲気になってしまし、

カップルシートなんかもってのほかと、恵美も蒼穹も思っていたが、

ここで瞳からのメール。


「映画見るなら、カップルシートで」


と言う内容のものだった。


 このメールを、恵美に見せると、


「他行くか……」

「そうね……」


とこの場を立ち去ろうとしたが、


「ゲッ!」


と蒼穹は声を上げて恵美の手を引き映画館の受付の方へ向かう。


「どうしたんだよ急に」

「お嬢が居たのよ」


そう、恵美と蒼穹を探す凱斗の姿を見かけたのである。

せっかく撒いたのに、見つかっては面倒な事になる。


「とりあえず中に入りましょう」

「分かった」


二人は、映画館の中に入り、 チケットを購入となるのだが、

慌てていたので映画は適当、その上、勧められた受付嬢から、

カップルシートを、そのまま頼んでしまった。

そして気づいた時には、後の祭りで、結局カップルシートで、

恋愛映画を見る羽目となった。

これは慌てていたからであり瞳からの指令に従ったわけでは無い。


 この状況は妙に意識してしまうので、二人とも、そろって、

ポップコーンやらポテトチップスやらを買い込み、

それを食べながら見る事で、何とか平静を保とうとしたが、

映画の内容は、これでもかってほどの甘いラブコメ。その内容故に、


(カップルシートで、こんな映画見て、

ますます本気のデートになってるじゃねえか!)


と恵美はそんな事を思い、益々意識してしまう事となった。

それは蒼穹も同じである。


 映画はこれでもかって言うほどのハッピーエンドだったが。


「なんか、小恥ずかしい話だったな」

「そうね……」


と顔を真っ赤にし、感想を言い合いつつ外に出る。

しかしまだまだ、時間はある。なお時間は、12時であった。

喫茶店でパフェを食べ、二人そろって、

映画館でポップコーンやポテトチップスを食べた所為で、

あまりお腹が減っていない。


 映画館の外に出ると、


「ちょっと済まない」


と言って、携帯で電話を始める恵美、一方の蒼穹は、周りを見渡した。

やはりこっちを見ている人々がいる。目が合って、

目を背ける人もいる。現状、目立つことは仕方ないのと、

諦めているが、凱斗と勝負となると余計に目立ってしまう。

凱斗も有名人だから。なお周りの人々の中に、その凱斗は今は居ない。


 恵美が電話を終えるのを見計らい、蒼穹が、


「いつまでも市街地にいると、お嬢に出くわしかねないかも」


もう時間は断ったから、探すのは諦めただろうが、

ばったり会ってしまったら、話は別である。


「他の場所に移動できる?」


と聞いてきた。「コスプレくじ」は街をうろつくと言うのが、

決まりである。他の場所に移動可能かは分からない。


「もう聞いてる」


そうさっきの電話は、同じことを考えて、部長たちに連絡を取ったのだ。

蒼穹は、その手際の良さに感心しつつも、

考えていることが一緒だったという事で、微妙な気分を味わうのだった。


「取りあえず、九龍か、ネスブール湖かのどちらかだけど」


と言われ、蒼穹は


「ネスブール湖でしょう」

「そうだよな、九龍はない気がする」


と恵美も言う。


 行き先が決まったとこで移動手段である。


「電車で行って、途中からバスに乗るか」


この方が、交通費が安いのであるが、


「あなた達、仲良くお出かけ?」

「桜井さん」

「母さん……」


そこに居たのは功美だった。


「瞳ちゃんから、話は聞いてるわ」


と言いながら近づいて、


「しかし恵美ちゃんのコスプレ、完成度高いわね。

私も仮面をかぶった方がいいかしら」

「それはやめて!」


そして蒼穹の方を見ると、


「蒼穹ちゃんも完成度高いわね。元が良いからかしら」


なお恵美とは違って蒼穹は、軽く化粧をしてる程度である。


「何しに来たの?」


と恵美が言うと、


「デートと言えば車でしょう」


そう言って指し示した先には桜井家の自家用車があった。


「せっかく車を持っているのに、デートに使わなきゃ」


そう言うとスマートキーを恵美に渡した。


「このカオスセイバーⅢはアナタの車なんだから、ねえ恵美ちゃん」

「このカオスセイバーⅢ?」


蒼穹は、名前が気になったが、それ以上に


「アンタの家の車って、アンタの持ち物なの?」

「一応、俺名義だけど……免許を取った時にもらったんだ」


なおAIカーである。ゲート事件以降の法改正で、

中型免許(AIカー限定)は、14歳からとれるようになっていた。



 スマートキーを渡した功美は、


「それじゃあ、楽しんできてね」


と言って歩いて去って行った。


「何だか、タイミング良すぎるわね」

「創月から、話を聞いたとか言ってるけど、もしかして、グルなのかな」


と恵美はそんな事を云った。


 とにかく車が手に入った。しかし懸案事項があった。


「なあ免許持ってるか?」

「私、運転しようか?」


ほぼ同時に言った。ここでも考えていることが一致したのだ。

恵美は、免許証と同一人物証明書の二つを持ってきていた。

免許所には修一の写真が付いているから当然の話だが、

ところが、今、恵美は濃いメイクをしているので、

もし途中で警察に声を掛けられた場合、証明書の恵美の顔を見ても、

分からない可能性があるからだ


 とにかく、蒼穹は免許を持っていて、考えが一致したので、

彼女が運転する事になった。途中、実際に警察に止められたので

この判断はよかったのである。なお無免許かどうかの確認なので、

免許を見せたら、直ぐに開放してくれた。


「………」


しかし妙に考えが合う事に、二人は微妙な気分というか、

妙に意識してしまうところがあり、道中は無言だった。


 ネスブール湖の到着し、駐車場に車を止めると

二人は、湖の畔にある展望台に来ていた。

その湖面が、太陽光を反射して輝いているのが見えて、


「なんだか綺麗だな」

「そうね……」


と青い空と、魔法石の力で汚れない湖と、白い雲。

さらに遠くに見える天空城。

それらが、合わさり見せる風景は美しいものであった。


「この前来た時は、じっくり風景を見れなかったからな」


蒼穹は


「これで、ネッシーが現れたらいいんだけど」

「あのドラゴンか」


あの時、湖底で見たウォーティドラゴンの事を思い出す。


「時期的には、まだまだ先なんだけどね」


と蒼穹が言う。


「しかし、いい眺めだな」


と恵美は言い、引き続き、その風景に見とれていた。


 だが、


「アンタ達、こんなところで何してるの?」

「!」


声の方を向くと、どういう訳か真綾の姿。

彼女は、半袖で短パンと言う格好である。


「変装しているみたいだけど、私の目はごまかせないわよ」


と言って恵美の方を睨むのだった。

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