9「コスプレデート(1)」

 その後、天海蒼穹は、約束を録音されていて、

反故にできないとの事で、結局、言いなりになるしかなかった。

ただ、瞳は、あくまで修一ではなく恵美とのデートなので、

正体はともかく、周りの人間には、女の子二人で出かけるわけだから、

まあ、変な勘繰りはされないだろうと思った。

ただ一つ心配なのは、恵美のコスプレである。どんな格好かが、気になっていた。


 この街では、外の世界では奇抜とされる格好でも、

普通なので、蒼穹はコスプレイベントを見たことはあるが、

ただ人が集まっているようにしかめなかった。


(ただ、セクシーな格好で来られたらつらいかも)


と思っていた。


 そして迎えた日曜日、同じ家だけど、別々に出て待ち合わせた。

恵美が、部長宅で着替えを行うからであり、

更には、ウィッグにメイクも施すから、本人か分かりにくいので、

待ち合わせをするにあたって、どんな格好をしてくるか知っていた。

問題ないとは思ったが、実物を見ないと、分からないところがある。

そして先に待ち合わせ場所に来ている恵美を見て、改めて蒼穹は安堵した。

街の外では奇抜かもしれないが、

この街では、普通に街をうろついていてもおかしくない格好だった。


(ロボットアニメの主人公って話だけど、改めてみても、

何だかタヌキみたいな女の子ね)


とその格好を評価するも、恵美はやって来た蒼穹を見て驚いた顔で、


「おい、そっちまでコスプレしてくるなんて聞いてないぞ!」


と声を上げた。


「コスプレだなんて大げさな」


今の蒼穹の格好は、学校指定の夏服に、サマーセーターと言う格好。

これは瞳の指定で、サマーセーターは瞳が用意した。

普通の女子なら、特になんて事のない格好だろうが、蒼穹がその服装をすると、


「その格好、もろアレじゃねえか!」

「わかってるわよ!そんな事!」


本人も理解している。でもなんて事の無い格好と自分に言い聞かせてきたのだ。


「魔女と電撃って、どんな組み合わせだよ……」


と言う恵美、電撃は分かっているが、


(魔女って、何の事?全然魔女っぽくないのに)


蒼穹はアニメに関しては疎いので、そう思うのだった。


 とりあえず、待ち合わせた所で、


「ところで今日の予定は?」


と蒼穹から聞かれるが、恵美は


「デートなんてしたことないから、全然、そっちは」

「私もよ。デートなんてしたことないから」


なお恵美が、部長たちから受けている指令は、

とにかく街をうろつく事、その間は、何をやってもいいので、

当然デートもOKである。


「まあ、どうせ形だけなんだし、まあ肩の力を抜いて気楽にいきましょう」


と蒼穹は言い恵美も、


「そうだな……」


と恵美も同意する。


 更に蒼穹は、周りを見渡し空に浮かぶドローンを見つけ、


「そういや、アンタの行動は、ドローンで監視されてるんだよね」

「ああ、一応部長には話はつけている」


蒼穹が有名人であるので、他言しない様に言っている。


「監視と言えば、創月も俺たちを監視しているんだろ」


瞳が、


「約束は守ってね。見てるよ」


と言っていたという、手段は不明だが、間違いなく監視している。


 とにかく形だけとはいえ、何かしないといけない。


「まずは、どこに行く?」

「えっと、そうねぇ」


と二人は歩き出した。デートとは言っても、二人で夕方まで、行動を共にする以外、

細かい行動は指定されていない。


「とりあえず、ゲーセンでも行くか?」


恵美は提案する。この街に来て、そんなに経ってないから、

何処に何があるか分かっていない。


「うん」


蒼穹も同意して、ゲームセンターに向かった。

そこは、かつて黒神との対戦をした場所である。向かう途中、


「視線が痛いな」


と言う恵美、コスプレとは言っても、この街の住民から見切れば、

そんなに奇抜なものではない。

ただ街には、街の外から来た観光客もいるわけで、

加えて、有名なアニメキャラと言うのもあり、

余計に、注目を引くことになった。


 更に状況を悪化させているのは、蒼穹の存在だ。

本人は、現実逃避しているが、今の彼女は、

とある作品のヒロインのコスプレに近い状態。観光客の目線を引くうえ、

加えて、そもそも彼女は有名人だ。

それが、男女問わず見慣れない人間と一緒にいることで、

妙に目立ってしまっていた。


 痛い視線の中、とりあえずゲーセンに来た。

そして二人が入って、最初にやったのは、 ガンシューティングだった。

銃型のコントローラーで、モニターに映る敵を撃つ。敵は主にゾンビ。


「私これ得意なんだ」

「俺もだよ」


二人は、銃型のコントローラーを手に敵を倒していく。

両者、なかなかの手際なのと、有名人である蒼穹が来たので注目を浴びる。


「負けたわね」


とどこかスッキリした顔で言う蒼穹。


「僅差だけどな、どっちが勝ってもおかしくなかった」


と言う恵美、そうスコアは僅差だった。

しかしこの時、二人を恨めしそうに見る目があった。

 

 次はレースゲームをする。このゲームも二人は得意らしく、

激しい接戦を繰り広げ、勝ったのは蒼穹だが、


「やるじゃない」


と蒼穹は感心する。


「そっちこそすごいな」


と言う恵美。最後はまで最後は接戦だった。


 その次は、


「じゃあ今度はあれね」


と蒼穹が指さしたのは、エアホッケー。


「良いぜ」


勝負が始まる。二人の動きは互角で。

お互い一歩も譲らない戦いが続いたが、 最後に得点を入れたのは恵美だった。


「よし!」


とガッツポーズをとる恵美に


「あ~負けた~」


と言うものの、すっきりとした顔の蒼穹。


 次は音ゲー、音楽に合わせて、ボタンを押していく。

これもかなりのハイレベルな戦いだったが、


「やった!」


と蒼穹が声を上げる。


「負けた、負けた~」


これまた僅差で、蒼穹の勝ち。


 ここまで、二勝二敗、最後は同じくリズム系で

いわゆるダンスゲームだった


「あんた、踊れるの?」

「もちろん」


そう言うとお金を入れて、二人とも始める。

実は、恵美こと修一は、ダンスが上手い。アイドルの楽曲の振り付けや、

踊ってみたの動画を見て、良く真似して、完コピしたものである。


「上手いわね……」

「そっちこそ……」


 そう蒼穹もダンスは得意である。恵美には言わなかったが、

小学生の頃、里美と参加していたイベントはダンスイベントである。

もしアクシデントが起きなければ、光弓校にスカウトされることはなかったが、

小学生の部であるが、優勝していたかもしれないし、

体育祭の応援合戦では、見事なダンスを披露したことがある。

しかし惜しむべきは、光弓校にダンス部が無い事である。

 

 さて二人のダンスは上手いのと、ここまでのプレイもあって、

どんどん人が集まり、かなりギャラリーが出来てしまっていた。


「やべぇ、めだってきたな」


ここに来て恵美は人だかりを気にし始める。蒼穹も同様で


「どうする?もう出ていく?」

「そうだな、いっぱい遊んだしな」


そしてその場を、立ち去ろうとすると、


「ちょっと待て、天海蒼穹!」

「!」


聞き覚えのある声、そこには


「げっ、鴨臥凱斗」


凱斗は腕を組み、ふんぞり返っていた。


「なかなかの見物だったぞ。お前も、そこの連れもな」


と恵美を指し示す。


「しかし初めて見る顔だな……」


もちろん初対面ではないが、恵美のメイクが濃いせいで、

凱斗は恵美である事に気づいていない様子。あとコスプレである事にも、


「なあ、お前ら、俺と勝負しろ」


と恵美を指さす


「えっ?」

「もちろんこれまで遊んで来たゲームでだ」

「なんで?」

「決まっているだろ。お前らは、俺のランクを塗り替えた」


確かに、これまでのゲームで恵美と蒼穹はランクインした。


「だから、俺と勝負して、再度塗り替える!」


と宣言するも、ここまで来て勝負すると目立って仕方ないので、


「DXM!」


と叫ぶと、手にDXMが出現。


「煙幕弾!」


シリンダーが動き、恵美は床に向かって銃を向け、

引き金引くと、弾が発射され、着弾すると周囲に煙が充満する。


「今のうちに……」


恵美は、蒼穹の手を引き、


「えっ?」


二人は逃げ出した。


「おい、逃げるな!」


凱斗は追いかけてきたようだが、一心不乱に、二人は逃げた。


(何だろう、昔の映画みたいに奪われていく花嫁みたい)


 その後、撒く事には成功したが、念の為、近くの喫茶店に入って、

身を隠すことにした。


「ふぅ~ここまで来れば、大丈夫かな」

「それにしても、お嬢ってゲームセンターでも遊ぶのね。意外だった」


と言う蒼穹に、


「確かに、アイツ、ゲーセンのイメージが無いよな」


と言う恵美に対し、


「ところで、アンタとお嬢は、どういう関係なの?」


と尋ねると


「前も言ったけど、ケーキの好みが合うだけで、

相席も偶然だし、そもそもアイツに会ったのも、

偶然、相席になったのがきっかけだしな」


と答えつつ、


「そう言えば、アイツ何で男装しているんだ。

見た所、性同一性障害じゃなさそうだけど」


恵美には、何となくであるが、無理して

男性を演じているように思えたのだ。


「何でも、家の都合みたいね。家が酷い男尊女卑で、

女が生まれること自体許さないとか」


だからと言って中絶はしないし、

生まれた子供を捨てる事もしない。


「でも、男として育てるみたい」

「マジか、酷いな……」

「本人は家の掟を重んじているみたいだけどね。

そうそう、アイツが女なのは公然に秘密なんだけど、

間違っても、女であることを指摘しちゃだめだから」


烈火のごとく怒るという、特に「お嬢」と言う言葉は厳禁。

この部分に関しては恵美も知っていて、


「そうらしいな。秋人から聞いた」

「有間君から……」

「何でも幼馴染らしいぞ」


するとハッとなったように、


「そういや、天童君と幼馴染だから、有間君と同じって事か、

だからあの時、『ちゃん』呼びしてたのね」


なお幼馴染から許されているようで、他の人間が言ったら、

恐らくシャレにならないと思われる。


 さて喫茶店に入ったのだから、何か頼もうと思ったら蒼穹のスマホが鳴った。


「ゲッ!」


と声を上げる蒼穹、相手は瞳だった。出てみると


「恵美ちゃんに代わって」


と言うので蒼穹は、スマホを恵美に渡す。


「困るねぇ~逃げたら一つだよ」


と茶化すように言うので、イラっとする恵美。

そんな彼女に瞳は続けて、


「ああいう時は勝負に乗るのが基本でしょうが」

「まさか、さっきのはお前の差し金か?」

「そんな訳ないでしょ。私に、あの『お嬢』を操る術はないよ。

だから、わくわくしたのに、機会を潰すんだから」

「別にいいだろ、何しようとこっちの自由なんだから」

「そうなんだけどね」


と言いつつも、


「まあいいや、せっかく喫茶店に入ったんだし、

飲み物程度で済まさないようにね。進めば二つだよ」


と言って電話は切れた。最後の一言にイラっとする恵美。


 蒼穹にスマホを返しつつ、恵美は電話の内容も伝えた。


「まあ、小腹も空いたし、なんか注文しましょう」


そして数分後、


「チョコレートパフェ、お持ちしました」


ウェイトレスが、チョコレートパフェを二つ持って来た。


「「………」」


どちらかが二つ食べるのではなく、注文が被ったのである。


「なんてアンタまで、チョコパフェを……」

「先に注文したのは俺だけど……」


メニューを見た蒼穹はどうしてもチョコレートパフェが、

食べたくなったのである。

恵美が注文したからと言って、替えたくはなかったのだ。


「……食べようぜ」

「そうね」


結局、二人そろって、チョコレートパフェを食べた。

微妙な雰囲気漂っていたが、パフェはおいしく。


「ふぅ~ごちそうさま」

「美味しかったわね」


と二人は満足げであった。


 そして、時間も経っていて、凱斗の事は大丈夫と思い

会計を済ませて、店を出た。因みに会計は別、

これは、蒼穹が言いだした。


「私、同年代におごられたくないの、借りを作るみたいでいやだから」


との事、なお上の人は良いらしいが。


 店を出て、相変わらず視線にさらされながら、街を歩いている。

ここでふと思い立って、


「そういや、黒神は?アイツ今日の事聞いて、何も言わなかったのか?」

「それが、まだ言ってないのよ……」


言えば、変な騒ぎになるのが目に見えていたからである。

出かけるときは、こっそりと出てきたという。


「よくバレなかったな」

「私も、そう思うけど……」


 するとここで、蒼穹のスマホが鳴った。嫌な予感がしつつ確認すると、


「知らない番号だ」


出てみると、


「天海、天童だ」

「天童君?なんで……」


質問には答えず


「今、桜井と一緒にいるだろ」

「ええ」


因みに零也には今日の事は言っていない。


「代わってほしい」


恵美に電話を替わると、


「真綾と連絡を取れなくなった。

もしかしたら、お前の所に行ったかもしれない」

「えっ!」


なんだか、厄介ごとの気配がするのだった。

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