8「零也と真綾の馴れ初めと次の日曜に向けて」

 さて零也が見舞いに来た時の事、


「お前、彼女いる身だよな。それが俺の所に来るのは、どうなんだろ」


男が変身しているとはいえ、ここにいるのは肉体的にも、

女性であるわけだから。それに見守る会の事もある。


「真綾には、話をしてある。むしろ様子を見てきてほしいって、言われたくらいだ」

「様子って、なんか怪しいな」

「まあ、彼女は長瀬メイだけじゃなく、赤い怪人にもご執心だからな。

正体については、お前だと事を疑ってたから……」


もし「性転換」を持っていたらと言う注釈が付くが、

とにかく、真綾の考えは当たっていた。


「お前の調子がよくなったら、多分勝負を挑んでくると思うぞ」

「やっぱりか……」


過去に、例の組織とやり合っている時に、彼女とも戦っている。

メイの嘆願で、見逃したが、恨まれても仕方ない。


「調子がよくなったらと言ってたが、悪くても、襲ってきそうだな」

「そんな事はしねえよ。それに執着も長瀬メイほどじゃないから、

一回勝負したら、気が済むと思う」


逆に言えば長瀬メイへの執着は、深いようである。


 ここで恵美は、ふと気になって、


「そう言えば、お前と真綾って、どういう慣れ染めなんだ?

それに彼女の過去の事も」


そう湖であったあの時に聞けなかったことを聞いたのだ。


「もともと真綾は、俺のボディガードだったんだよ」

「ボディガード?」

「実はな、俺の母さんは、作家なんだ」


以前、家に来た時の事を思い出し、


「もしかして、真魏亜ルナ先生」

「そう……」


真魏亜ルナは、陽香のペンネームで、売れっ子のライトノベル作家である。


「当時も、俺、ストーカーに付きまとわれていて」


以前メイが言っていたが、最新シリーズの主人公は、零也がモデルで、

それが、原因でストーカー被害に遭っていた。

しかも、零也の厄介なファンや、見守る会など、かわいく思えるくらいの、

シャレにならない奴だった。


「そんな時、母さんの友人の娘で、戦闘用のサイボーグという事で、

ボディガードになったのが真綾なんだ」


当時の真綾が、組織が壊滅し、親元に戻って来たばかりだったという。


「当時の彼女はなんか怖くて、好印象は抱けなかった。

向こうも同じでな。でも彼女は何を思ったか、

俺が、気があると思ったみたいでな」


零也に嫌われようと、過去をぶちまけたという。


「初めて聞いた時はドン引きだったけどさ、聞いてる内に対抗意識が出てきて」


もともと好印象を抱いていなかったというのもある。

同じように、零也も人に言えない事をぶちまけたという。

その後、暴露を繰り返した後、いつの間にか仲良くなっていたという。


「まあ、そんな馴れ初めだ」


と締めくくる。


「そうなんだ……」


何とも言えない表情の恵美。


「でも、互いに秘密の無い関係で、気が楽でいいよな」


と言い出し零也はノロケ話を始めたので、益々微妙な表情になる恵美。

なお秋人が来たのは、この直後であった。


 零也と真綾のなれそめ話はともかくとして、彼の言う通り、

真綾と、戦うという厄介ごとが待っているのだが、

その前に一つちょっとした出来事が待っていた。


 生理も三日過ぎたあたりら落ち着き始めていた。

なお三日目は、土曜日で休みなので、友人たちが様子見来てくれたりしつつも、

ゆっくりと過ごした。そんな中、


(もっと早くみんなに相談しておけばよかったな)


と思う、恵美こと修一だった。

ちなみ日曜日にはアキラが、相変わらずいきなり遊びに来て、


「シュウイチ、何で女になってるんだ?」


例のモノクルで、一発で見破るという一幕もあった。


 そして月曜日、まだ血は出るが、不快感は無くなって来ていた。

またその日は部活の日、調子はいいので、

プラモづくりを再開するのだが、その前に、全員での会合があって、


「来週の日曜日は空いてる?」


と愛梨が言う。恵美を含め部員全員が空いていた。そして部長が、


「現視研恒例、コスプレくじをする」

「コスプレくじ……」


恵美は話は聞いたことがある。くじを引きアタリを引いた部員は、

これまた、くじで選んだ衣装を着て、休みの日に街を練り歩くというもの。

そしてくじは平等で先輩たちはおろか、

部長も平等に引くという。なお去年は部長がアタリを引き、

とあるアニメのヒロインの衣装を着て、街を練り歩いた。

その様子は、動画にも残っていたが、恵美は部長の素顔を知るまでは、

それが部長とは気づかなかった。


「というわけで、引いてくれ」


と言って、くじの入った箱を差し出す部長。


「はい……」


と言って、くじを引いていく。なお、くじは封筒に入った状態で、


「封筒は返してね。それは次も使うから」


この封筒は、超能力、魔法、超科学をもってしても、

透視不可の特別なもので、中身を読まれないためである。


 くじの結果はと言うと、


「マジかよ……」


恵美が大当たりだった。すると愛梨は、


「一年が当てるのって、あーしが入ってから初めてだね~」


先も記したとおり、このくじは、平等である。

この後、衣装のくじが引かれる。なおサイズが合わない衣装が当たると、

日取りを延長して、会う衣装を用意してから行うが、

幸い、衣装のサイズは恵美に会っていた。そんな訳で、予定通り決行となった。


 くじの後は、普段道理の部活、恵美はプラモづくりを行うが、

日曜日の事を思う時が気ではなかった。


(せっかく、調子が戻って来たのに……)


そんな事を思っていても仕方ない。あと男には、まだ戻れそうになかった。







 一方その頃、蒼穹は部活に入っておらず、真っすぐ帰宅していたが、

そこに瞳が訪ねてきた。因みに里美は、風紀委員の仕事でまだ帰ってきていない


「ねえ、このゲームで対戦しよ」


と言ってゲームソフトを見せつけてきた。


「はぁ?」


彼女が、いきなり訪ねて来るのは、既に、経験済みだが、

ゲームの対戦を申し込まれるのは、初めてだった。


 なおそのゲームは、蒼穹の得意なゲームで、


「いいけど、私強いわよ」


と自慢気に言うと、瞳はニヤリと笑い、


「じゃあ、もし私が勝ったら、何でも言うこと聞いてくれる?」

「いいけど……でも犯罪はだめだから」

「大丈夫、大丈夫、私これでも常識はあるから」


と言ってニヤニヤ笑っている。


(本当に大丈夫なの?)


普段の彼女の言動が、結構過激なので、どうも信用できなかったが、


(まあ、勝てばいいのよ。勝てば……)


と思い承諾する。


 しかし結果は、


「うそ……」


蒼穹の敗北、しかも大負けであった。


「ふふん」


と勝ち誇った顔の瞳。


「もういっかい!」

「いいけど」


再び勝負が始まるが、その後も勝てなかった。呆然とする蒼穹。


「言ってなかったけど、私、このゲームで、eスポーツの大会に出た事あるのよ。

因みに準優勝」


なお優勝は、鳳介だが、それはともかく、


「じゃあ約束を通り……」

「何をさせる気?」

「大丈夫、ただ日曜部にお出かけしてもらうだけだから、ただ……」


その内容を聞いて、蒼穹は絶句した。





 部活が終わる頃、春奈の元に、瞳から電話がかかってきて


「あの、恵美さんに代わってほしいって」

「えっ?」


ちょうどこの時、恵美は、片づけを終え、下校しようとしていたところであった。

嫌な予感がしつつも電話を替わると、


「やあ、恵美ちゃん、家に帰ったら二階に来てくれるかな?」

「なんで?」

「いいからチミと勝負がしたいんだ」

「はぁ?」

「とにかく二階に来て鍵は開けとくから」


何だか家の住人の様な振舞だったが、なんだか嫌な予感がして、

とりあえず家に帰る。


 そして二階に行くと確かに鍵が開いていて、


「やあ、いらっしゃい」


瞳が笑いながら迎えてきた。まるで個々の住人の如くである。


「あらら、春ちゃんたちも来たんだ。今日のパトロールはどうしたの?」


恵美だけでなく、春奈たちもいた。


「何か心配になって来たのよ」


と春奈が言い、恵美は、


「勝負って、何をする気だ?」

「ゲームだよ」


そう言うと二階のリビングに行くと蒼穹がうなだれていた。


(何があったんだ)


テレビには恵美も知っているゲーム画面が表示されていて、


「このゲームで勝負しよ。負けたら、私の言う事を聞く」

「もし俺が勝ったら」

「もちろんチミの言う事は何でも聞いてあげる。

あと蒼穹ちゃんとの約束を帳消しする」


すると蒼穹が頭を上げ、


「お願い、絶対勝って!」


と言ってすがって来た。

とりあえず、助けてもらった恩もあるので、


「わかった」


と引き受けた。


 そんな訳で、勝負となったが、


「負けた……」

「いや~すごいね。僅差だったよ。蒼穹ちゃんとは大違い」


健闘はしたものの結局は敗北。再びうなだれる蒼穹。


「それじゃあ、約束通りに、」

「何をさせる気だ」

「次の日曜日に、蒼穹ちゃんとデートしてもらえるかな」


しかし次に日曜日は「コスプレくじ」の予定がある。


「その日は、予定が……」

「『コスプレくじ』だよね。でもコスプレして、

街に出たら、あと自由行動だよね。じゃあデートしても問題ないよね」


この一言に、恵美は、


「ちょっと待て、なんで『コスプレくじ』のこと知っている?」


今日決まったばかりだから、噂になるにしても早すぎる。


「壁に耳あり障子に目あり、春ちゃんの鞄に盗聴器あり」


ハッとなった春奈は、カバンを確かめると、確かに盗聴器が仕掛けられていた。


「昨日、私の家に遊びに来たとき!」

「正解~」

「何が正解よ!」


次の瞬間、春奈の鉄拳が瞳の頭に炸裂した。


「痛ったぁ~い!ひどいよぉ~」


涙目ながら、どこか余裕な瞳。


「あんたが、変なことをするからでしょ!」


春奈は怒り、恵美も、


「お前の家に、本当にグラサン野郎はいないのか、

いたらテレビ版だろうから、引きづりだして、シめるぞ」

「だからチミは、アニメの見過ぎだよ。とにかく約束だからね。

楽しみにしてるよ日曜日」


そう言うと、さっさと出ていってしまった。


「アイツ、天童のストーカーだから、盗聴もお手の者か」


と言う恵美、うなだれる蒼穹に、


「ごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい」


自分のことじゃないのに、なぜか謝る麻衣。

とにかくその場は微妙な雰囲気に包まれた。

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