7「蒼穹とのひと時」

 翌日も学校に向かう恵美。なお蒼穹の指導で、ナプキンはきちんとつけている。


(調子が悪い……)


相変わらず下腹部は痛いし、貧血気味でおぼつか無い。

そんな状況下で学校に向かう途中、


「恵美さん、おはよう」」


と秋人に声をかけられた。


「秋人……おはよ……」


と返事をするが、秋人は心配そうに


「大丈夫?今日は休んだ方がいいんじゃ」

「大丈夫だ……」


と本人は言うがひどい顔色で、その言葉に納得できない。

なお本人としては、調子が悪いがまだ大丈夫と思っている。


 すると背後から、


「何が大丈夫よ。昨日倒れたじゃない」


背後にいたのは、蒼穹だった。背後には里美の姿もある。


「蒼穹さん、里美さん……って、倒れたの!」


と大声を上げたものだから、注目の的となる。

蒼穹は、しまったという顔で、口を押えた。すると、ここで里美が自慢げに、


「天海さんが介抱したんですよ。私も少しばかり手伝いましたが」


と言ったものだから、周囲から、


「えぇっーーーーーーー!」


と言う声が上がり、最初に秋人が声を上げたことで、

注目の的となったが、今の一言で、

さらに注目を浴びることになった。なんせ天海蒼穹は有名人だから。


 しかし蒼穹自身、あまり目立ちたくなかったからか、


「里美~そこまで言うことないでしょ~」


どこか情けない声を上げた。

すると里美は不敵な笑みを浮かべながらも


「事実ではありませんか、それに人助けをしたんです。誇りに思ってください」


しかし、蒼穹は、先も述べた通り目立ちたくないのと、

そもそも、目の前で倒れられたものだから、状況的に無視できなかっただけで、

この事を利用して、同行するつもりは毛頭なかった。

加えて、今倒れたことを話したのも、

無理をする恵美を前に口が滑ったにすぎないのだ。


 でも里美は、この件で、恵美に借りを作るだけでなく、

蒼穹の売名を行うつもりだったようである。しかし肝心の本人は、困惑しているし、

恵美も、目立ってしまうから、


(余計なことを……)


思うのだった。


 教室に着くやいなや、


「恵美さん大丈夫だった?」


と女子から声をかけられたが、話の中心は、

彼女の容態ではなく、天海蒼穹の事であった。

恵美は家に運んでもらったというと、いろいろと勘繰られそうなので、

調子が悪くて、覚えてないとはぐらかす、

実際、意識をなくしていたのだから、助けてもらった時の事は、覚えていない。


 その上、今現在も調子が悪いので、質問攻めはつらかったが、

ここで、ちょうど教室にやってきた蘭子が、


「皆さん、恵美さんは調子が悪いんですよ。お分かりでしょう。

そっとしてあげなさい」


と穏やかで、それでいて一括するよう言って、質問攻めはやんだ。


「ありがとう」


と礼を言うと、


「いいんですよ、その辛さは、よくわかっていますから」


そして隣の席の、秋人の方を向くと、


「あなたも、気を付けてあげてくださいね。秋人くん」

「わかってます」


と返事をする秋人だった。


 この日も、恵美は腹痛、吐気、倦怠感、貧血に悩まされることとなるが、

倒れたこともあって、心配した秋人や、同じく事実を知った鳳介、

メイ、春奈、麻衣のサポートもあって、放課後まで乗り切る。

今日は、部活がないから、帰りは、秋人は部活があるので、

鳳介が付き添って、帰宅したのだが、


「あっ……」


蒼穹とばったり会った。帰る道は、途中まで同じなわけだから、

こうやってばったり会ったっておかしくはないし、

途中までは一緒になるが、しかし朝の事もあってか、

妙にギクシャクした感じなる。そんな中で、


「言っとくけど、私はアンタが目の前で、倒れたもんだから、

無視できなかっただけだからね。この事で、賞賛をもらうつもりはないから」


しかし、彼女が恵美を助けたという事実は、彼女のお手柄として話題になっている。

朝の様子から、そんな気がないのは恵美にはわかっていた。


「わかってる……」


とだけ恵美は答えた。


 ちなみに里美がいないので、


「そういや、一緒にいるアイツがいないな?」

「里美なら、買い物に行ってるわ。あなたに夕食を作るんですって」


彼女もいっしょにいたが、里美の企みに、乗っかってるみたいで嫌になって、

勝手に帰ってきた。蒼穹は彼女の企みを含め、すべてを話し恵美は、


「何だよそれ……」

「正直、私も止められないんだよね。

彼女としては、私の為なんだろうけど、正直、迷惑だわ。アンタに何かあって、

桜井さんの機嫌を損なるようなことがあったら困るもの」


下宿している身の上では、大家の機嫌は気になる所。しかし恵美は


「母さんの事だ、そういう事も含め楽しむだろうよ」


と言うのだった。


 そして桜井家の側、ちょうど裏玄関と表玄関とに分かれるところで、鳳介が、


「そうだ、天海は、この後、用事は?」

「特にないけど……」

「じゃあ、あとを頼む。」

「えっ?」

「後で、夕飯を作りに行くから、その材料を買ってくる」


と言って恵美を、蒼穹に託す。


「ちょっと……」


さすが夕飯の面倒となると悪いと恵美は思ったが、

気分が悪くなって、うまく断ることができず鳳介は去っていく。


 結局、蒼穹に付き添われて、表玄関から家に入る形で、

帰宅した。昨日とは違って、倒れることはなかったものの、

フラフラには変わらず、一度寝たら起き上がれそうになかった。

蒼穹は、玄関までだけじゃなく、自室まで付き添うことに会った。


「ここでいいから……」


と言うと部屋に入り、パジャマに着替えてベッドに横になった。


 その後、少し横になっていていると、


「入るわよ」


蒼穹が入ってきた、手にはハーブティーを持っている。

なんでも、彼女の元から持ってきたものとのこと、


「こういう時は、これがいいから」

「ありがと……」

「言っとくけど、このまま放っておいたら、

気持ち的に、落ち着かないだけだから、変な勘違いはしないでね!」


思わず恵美は、


「なんかツンデレヒロインみたいだな」


と言ってしまい。蒼穹は顔を赤くしながら、


「変なこと言わないでよ!」


とキツイ口調で言った。なおハーブティーはうまく、


「私は、料理出来ないけどお茶くらいは入れられるんだからね!」


とキツメ言った。ますますツンデレヒロインぶりを見せた。


 茶を飲んだ後も、彼女は、部屋にいた。鳳介が来るまで、

何かあったら責任問題になりかねないとの事で

それ以上は、特に何もないと、きつい口調で言われた。


(ますますツンデレっぽいな)


と思いつつも、指摘したら面倒なので、


「わかった……」


とだけ恵美は答える。


 しかし二人きりのこの状況、妙に決まずい雰囲気で恵美は思わず、


「なあ、あの黒神って、最初の対戦の時といい、どうして俺に絡んでくるんだ?」

「アイツが変な勘繰りしてるだけよ」

「それにしても、過干渉だよな」


すると、蒼穹はため息交じりの声で、


「アイツは、自分の夢を子供に押し付ける親みたいなものよ」

「夢?」

「特待生の星だってさ」

「特待生?」


ここで蒼穹は恵美に、彼女の学校の特待生制度を話す。


「なんか、漫画みたいだな」

「そのきっかけは、もっと漫画みたいよ。

当時、小学生だった私と里美と鈴夏の三人で、イベントに参加してたの、

何にしてたかは言えないけど、その時、会場にゲートが開いて怪獣が現れた」


怪獣とはいっても、そんなに大きくはなかったが暴れて、イベント会場は滅茶苦茶。


「私たちは、怪獣に目を付けられて、襲われたものだから、

能力で応戦した。この頃には、既にエレメンタルマスターだったから」


彼女達だけで倒したわけでは無いが、彼女たちの活躍は目覚しく、

光弓校の関係者の目に留まり、スカウトされ、中学からであるが、

特待生として、学校に入学したという。


 そして特待生となれは、功績を残さないといけないので、

今日まで、がむしゃらにやって来た結果として、街の有名人となったという。


「頑張ってるんだな」

「まあね、私もアンタと同じ母子家庭で、

アンタところはどうか知らないけど、私は、母さんに苦労を掛けて来たから、

だから将来は良い仕事について、楽をさせてあげたいのよ」


いい仕事に就くには、学歴は大きくかかわって来る。

だから、特待生の話が来た時は嬉しかったし、そして無事卒業しないといけない。


「だけど、正直目立つのは好きじゃないのよね。

本当は、もっと普通に過ごしたいのよ。特待生の星なんて、もってのほかよ」


進学校に入ったからと言って、街の有名人になるつもりはなかったと言う。


「里美は、私を有名人にしたいみたい。自分にはできないからって、

私に託そうとしてるのよ」

「どうして?」

「まあ、特待生をスクールカーストで上位にしたいんだと思う」


その為の中心的存在に、蒼穹を据えた様だった。

自分では役不足なのはわかっているから、


「私は、その役を望んでないのに……」


と悲しげな顔をするが、蒼穹の思いとは裏腹に、

彼女は、特待生の中心的存在になりつつあった。


 ここまで聞いた恵美は、思わず、


「俺と同じか……」


と言っていた。そしてハッとなって、


「ところで、鈴夏って誰た?」


初めて聞く名だったので、気になって尋ねたが、

蒼穹は険しい顔するとだけ、答えなかった。


 その代わりに、彼女は、


「それよりも、ずっとアンタに聞きたかったことがある」


その為に、ずっと連絡先を聞いていたのだ。


「赤い怪人って、なんなの?」

「実を言うと俺も、わからない」

「はぁ?」

「前に異界に行ったとき、俺が話していた空白の一日こと覚えているか」

「ええ……それじゃ、まさか」

「俺が、規格外になった時、性別を変える力も、赤い怪人の力も持っていたんだ」


その言葉を聞いて、黙り込む蒼穹。


「まあ、信じてもらおうとは思わないがな」


という恵美だが、


「信じないとは言ってないわ……」


と言って険しい顔の蒼穹。


 そんな彼女に、


「俺からも聞いていいか?」

「ええ」

「どうして、赤い怪人の事を?」


すると蒼穹は、


「昔から夢に出て来るの、赤い怪人とそっくりな奴が、

ただそいつは青いんだけどね」

「青い怪人か」

「でも、そいつが夢に現れた時は、私の後ろに立っているだけなの」


しょせんは夢だから、何度も見るものの、軽く気になる程度だった。

でも色違いの赤い怪人の存在を知って、強く気になるようになった。


「アンタとお揃いと言うのが気に入らないけど、実は私も空白の一日がある」


ただ修一とは違って、力を身に着けたという事はない。

エレメンタルマスターはそれ以前から使えていた。


「青い怪人の夢を見るようになったのは、それ以降なのよ」


だから、彼女の夢も空白の一日に関係あるのではという思いを抱いていた。


 ここで恵美は思い立って、


「俺の空白の一日は」


と具体的な日付を言った。すると蒼穹は目を見開き、


「私と同じ日だ」


二人は同じ日の記憶が無いのである。


「どういう事……」


という事と言う蒼穹だが、恵美こと修一にも、答えは出せなかった。


 そんな中で、呼び鈴が鳴った。


「煌月君かな?」


そう言うと、蒼穹は部屋から出ていった。


 蒼穹が出ていき少ししてから、部屋に戻って来たのだが


「よう、調子はどうだ」

「天童……来たのはお前だったのか」

「いや、煌月も来てる。アイツは今、台所にいるよ」


零也は、ここに来る途中、買い物を終えた、鳳介と会って、

一緒に来たという。


「天童君が来たから、私はもういいわね」


そう言って、蒼穹は部屋を出ていった。


 そして零也と二人きりになる恵美。そんな中で零也は


「もしかして、天海と一緒だったのか?」

「煌月が俺を彼女に託したんだ。夕飯の買い物とか言って」

「そうか」


と言いつつ、


「それで、調子はどうだ?」


再度聞き、


「ちょっと落ち着いた。ところでどうして」

「秋人から話を聞いて、お見舞いにな。これ見舞いの品」


零也はエコバッグを持っていて、

その中からミックスナッツを出してきた。


「こういう時はこれが良いらしい。

そういや煌月が夕飯を作るんだよな」

「ああ」

「アイツの料理ってすごく旨いぞ。

煌月流料理術ってやつだが、とにかく旨いうえに健康にもいい」

「さすがに夕食まで作らせるとなると悪いな」

「いいんだよ、アイツに任せておけば……」


と笑いながらいう。


 その後は、零也と話をしていたが、秋人もやって来て、

気分はよくなかったものの。

友人たちと、話をしていると、更に気が楽になった。

夕飯は、鳳介が作った豆乳鍋だった。


「こういう時は、豆乳鍋に限るらしい」


体を鍛える上で、その基本を作るのは食事であるという事から、

生み出されたのが、煌月流料理術である。

和洋中とバリエーションに富んだレシピがある。

また煌月家は女系家族故に、生理に対応した料理も存在していた。


「うまいな……」


もちろん栄養バランスも考えられている。


「それはよかった……」


と言いつつも


「達也師には程遠いだろうがな……」


とも言う。なお食事は蒼穹たちの分もあって、

別室で彼女達も食べていたが、里美が、当てが外れて、

悔しそうな顔をしていたことはしらない。


 とにかく食べていると、調子もよくなっている気がした。

友人たちの世話になりその友情が身に染みると同時に、

同じく、世話をしてくれた蒼穹、彼女と話をして、恋とは違うものの、

自分と似ている所もあって共感を覚えた。


(しかし、空白の一日が同じ日なのは)


これが、ただの偶然なのか疑問であった。

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