5「恵美の正体」
蘭子たちが蒼穹の元に来た頃、恵美は一階の修一の部屋で、
(なんだか上が騒がしいな)
と言うようなものを思っていた。
そして恵美は財布からカードを取り出し、ジッと見つめた。
(これを見せて、すべてを白状するか……皆に心配させてるわけだし、
でもなぁ、これまでのウソがばれるし、そもそも変な目で見られるのもな……)
そんな事を思い。
「結局保身か……」
と呟き、自己嫌悪に陥った。
そして、投げ出すようにカードを机の上に置いた。
「風呂でも入るか」
お風呂に入って、さっぱりしたいと思ったのだ。
脱衣所に行き、服を脱ぎ浴室に入る。その時、湯船のお湯を桶に汲んで、
頭からかぶった。特に変化はない。
「マンガじゃないから、元には戻らないか」
と言って笑った。
そして体を洗い、頭も洗って、湯船につかる。
「ふぅ~~~」
と声を上げ、リラックスするも、
(早く元に戻れるようにならないかな……)
そんな事を考えつつ、しばらく湯船につかり入浴を楽しんだ後、風呂から出た。
そして、バスタオルで体をふいた後、
パジャマを持ってくるのを忘れたことに気づく、
「しまった……」
と後悔したが仕方ないので、バスタオルだけ巻いて、手で押さえながら、
自分の部屋に向かおうとしたが、
「!」
家の中から人の気配を感じた。この時、蒼穹達が一階に来ていたが、
その事を知らない恵美は、人がいない筈なのに人の気配がするので、
(まさか泥棒か……)
リビングにやって来ると、
「んっ?」
表玄関に繋がる扉が、僅かに開いていた。
(まさか、母さんか?でも何か引っかかる)
とにかく服を着ようと、急ぎ足で部屋に戻る。
そして自室に戻ると、
「天海、黒神……」
そこには、天海蒼穹と黒神里美がいた。
「なんで、お前ら……」
ここで、蒼穹が机の上に置いてあったカードを、手にしていることに気づく。
「天海、お前……」
すると蒼穹は、カードを見せつけながら言った。
「なるほど、お互い隠し事はできないわけね。桜井恵美、いや桜井修一!」
その時、動揺して、思わず手の力が抜けて、バスタオルが地面に落ちた。
そしてここに蒼穹の声を聞きつけて、
「何かあったの?」
と秋人を含め数人の人間がやって来て、この後、大惨事。
そんな中、何処からか功美がやって来て、
「あらら、バレちゃったわね」
と軽い口調で言うのだった。
この少し後、リビングにて恵美はパジャマ姿で、暗い顔をしていた。
そして、例にカードを手にする零也は、
「そう言えば、聞いたことがあったな。同一人物証明書」
そのカードには、修一と恵美の顔写真が載っていて、
二人が同一人物である事を証明すると書かれていた。そして里美が、
「まさかアナタが、『性転換』の持ち主だったとは」
「性転換」、それは「変身」能力の一種で、
性別を変える能力である。超能力としては、
稀有な能力なので、知っている人は知っている能力だった。
なお母親である功美は、修一がこの能力を持っていることを知っていた。
「まさか、修一君と恵美ちゃんが同一人物だなんてねぇ~」
と言って、笑っている瞳だったが、
「気づいていたでしょ、私たちは……」
と春奈が言う。
「どういう事だ?」
麻衣が、
「その千代子ちゃんが……」
魔法少女の一件を伏せつつも、明菜が両親の話から、
修一には従姉がいない事に気づき、その事を聞いて推測したという。
千代子は「性転換」を知っていたのと、もう一つ、麻衣は言葉を濁したが、
恵美には、思い当たる節があった。
(もしかしてあの時、影に隠れてたから)
赤い怪人の力で、魔法少女の敵と戦った時のことである。
更に部長と愛梨も、
「私たちも気づいてたよ……」
理由は知識があった事と、プラモを作るときの癖からである。
確証は、なかったらしいが。
そして蘭子も、
「私も気づいていましたわ。初めて会った時にね。
まあ確証はありませんでしたが」
「やっぱり、そんな気がした」
とジト目で蘭子を見ながら言う。
ここで、蒼穹が、
「でも、どうしてわざわざ女性になって、学校に通ってるわけ?
つーか、もうバレたんだから、何で今も女のままなの?」
ここで恵美は、ムッとした顔で、
「戻りたいけど、戻れないんだよ」
と答えた。ここで蘭子は、
「ご存じないんですか?『性転換』能力の持つ男は、能力が勝手に発動して、
一定期間、戻れなくなることがあるんですよ」
ここで里美がハッとなったように、
「そう言えば、聞いたことがあります」
なおこの事実は、「性転換」以上に知られていない。蘭子は、
「もともと、同一人物証明書は、そう言う人向けの物なのですよ」
ここで、零也は、
「そうだったのか、俺はまた、何かの理由で、
元の姿に戻りたくない人向けかと思っていた」
「性転換」は他の変身能力とは違い強制的に解除ができない。
望むなら一生変身したままで居られる。
そして秋人は、
「じゃあ、この事を先生たちは、この事を知っていて」
功美が、
「私が学校に、頼んでおいたのよ」
そう恵美が、着替えの時いなくなるのも、体は女でも中身は男なので、
一緒に着替えさせるわけにはいかず、空き教室を使わせてもらっていた。
そして功美は、
「ただ、能力を隠すために従姉って事にしたのは、修一の意向だけど」
すると皆の視点は恵美に向かう。
「変な勘違いされたくなかったんだ。この能力を利用して、
変な事してるって思われたくないから、
つーか、そういうことするって思うだろ」
何人かは、そう言う考えを抱いたのか、気まずそうにする。
同じ理由から、隠したがる人間も多く。「性転換」の能力者は、
潜在的に多いと思われる。
ここで蒼穹は、
「でもアンタ、何度か、力を使ってたんだよね」
「ああ、男だと入りずらいケーキ屋とかな」
ここで部長が、
「でも、どうして合戸路の連中の時は?」
「相手が相手ですから、赤い怪人の力が必要だったんです
赤い怪人は、女性にならないと使えませんから」
「赤い怪人?」
愛梨は、赤い怪人を知らなかったので、部長が説明する。
部長は真一から話を聞いただけでなく、
マイに記録された映像データを真一から見せてもらっている。
「そうだったんだ。何だか特撮ヒーローみたい」
と興味深そうに言う。
なおメイも、
「私の時も……同じなの?」
「ああ、相手が相手だからな」
ここで秋人が、
「浮島の時も?」
「いや、あの時は好奇心を押えられなくて、サーチを使いたかっただけだ。
赤い怪人のサーチは強力だからな。別に大蛇と戦うつもりはなかった」
そしてイノが、
「私を助けた時は?」
「あれはサーチを使うために浮島に行っていて偶然、君を見かけて、
さら怪しい奴もいて気になってな、そして、襲われそうになっているのを見て、
俺の病気が抑えられなくなったんだ」
正義感と言う病気である。
「終わった後、やってしまった感が出て、
その日は、サーチを使うのを辞めたけどな」
と自嘲的に言うが、イノは
「でも、私を助けてくれた事には違いありません。
改めて、ありがとうございます」
と礼を言われ、気まずそうにする恵美。
そして、恵美は、
「ところで、お前らはここにいるんだ。
つーか勝手に人の家に入ってきて、立派な犯罪じゃねえか」
すると蘭子が、
「私が、すべてを仕組みましたの。この状況を作るために……」
「はぁ?」
「なお、長瀬さん以外の皆さんには、何をするか、教えていませんでした」
「確かに木之瀬に呼ばれれば、理由が分からなくとも、来ないといけないだろうな」
と恵美が言うと、
「それだけじゃないですよ。違う人間もいますが、
皆さん、貴方を案じての事なのですよ。
急な入院に、入院先も不明と来て、気になるに決まってるでしょう」
しかも代わりにやって来た従姉に、怪しい部分かあるとなると、
余計に気になってくるわけで。
ここまで話を聞いて、恵美も気まずそうにする。
隠していた事への負い目もあるからだ。更に蘭子は続ける
「それに、今後の事を考えても、周囲の人間には、
情報の共通が必要だと思いますし」
秋人が、
「どういう事?」
「単純に戻れなくなるわけじゃないんです。その間に、必ず……」
ある話をする。それを聞いた蒼穹が、
「そんな事が起きるの!」
と声を上げる。
「はい」
と言いつつ恵美や、男性陣の方を見ながら、
「男の人には分からないでしょうね。その辛さは」
とどこか厭味ったらしく言いつつ。
「今回は今後の事を考えて、荒療治をさせてもらいました。
罪に問うというなら、甘んじて受けましょう」
ここで功美は、
「そんな事はさせないわよ。むしろ蘭子ちゃんはグッジョブね」
と蘭子の行動を支持した。
恵美も、特に害もなかったから、何かするつもりはなかったし、
功美も、支持もあるので、蘭子たちはお咎めなしだが、
しかし恵美は、蘭子たちの行動が良かったんだと知る事になるが、
同時に、厄介ごとも呼ぶことになるのだった。
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