3「一度疑念を抱くと」
さて、疑念を抱いてしまうと、秋人は恵美の一挙手一投足が、
どうにも気になってしまうもの。例えば体育の着替えは、何処で行っているのか、
気を付けていた秋人は、どこかに向かう彼女を追っていたが、
「有間君、何してるの?」
と先生に呼び止められてしまい。気を取られた間に、結局、見失ってしまう。
体育は男女別で、終わる時間が前後する事もあって、
授業後は追う事は出来なかったが、
教師が、呼び止めたことをきっかけに、実際どうかは分からないものの、
(やっぱり先生もグルなのかな……)
と思い始めてしまう。その後の授業中も上の空になりがちで、
とある休み時間、委員長であるレイナが、
「どうかされましたか?」
「いや、ちょっと……」
女性がらみの事となるので、変な勘違いをされそうで、
彼女には話づらい事で会ったが、
「もしかして、恵美さんの事ですか?」
「!」
「図星の様ですね」
「どうして……」
「貴方の仕草を見ていればわかります」
「いや……その……」
秋人は困っているようにソワソワするが、
「分かっていますよ。彼女と言うよりも、桜井君の事が気になるんですよね」
頷く秋人。
「私も気にしてはいます。急な入院に、入院先が不明ですからね」
レイナは学級委員として、お見舞いをしたいところで、
マチルダに問い合わせたものの、秋人の時と同じく、
「桜井君は、そう言うのは望んでないみたいだから、
彼の意をくんで、話すことはできないの」
と言われ、入院先は教えてもらえなかった。
そしてレイナは、
「急な話で、不可解なところがあるのは確かです。
入れ替わるようにやって来た彼の従姉、
しかも聞くところによれば、本当は従姉じゃないかもしれない
そうなれば、彼女が気になるのも理解はできます」
と言いつつも、
「でも、彼女は別段、問題は起こしていないでしょう」
確かに学校では、真面目に授業は受けているし、
修一と同じ現視研に入り、部活にも勤しんでいる。
おかしなところは、体育の時、何処で着替えているか、分からない事くらい。
「気にしても、仕方ないかもしれません。それに本当に桜井君に、
何かあるのなら、入院とかじゃなくて急な転校とか、
最悪、最初からいなかった事にされるでしょうから」
確かに、マチルダは修一が元気に帰って来ることを述べている。
ただし、この言葉を、信頼できればだが。
もちろんマチルダは、信頼のおける教師でもある。
「案外、何事もなく桜井君は帰って来るかもしれませんよ」
「ならいいけど……」
とは言うが、不安気である。
「まあ、気にしている人はあなた以外にもいますけど」
「えっ?」
「直接聞いてはないのですが、長瀬さんも、彼女の事を気にしてるようですし」
確かに、彼女も、恵美を気にしてる様であった。
まあ、気にはなるものの、その後は特に何事もなく、日々は過ぎていき、
日曜日を迎える。秋人は、昨日は異界に行ったものの、
その日は、特に予定もなく、修一の事を考えながらも散歩に出かけた。その途中、
「有間……」
「鳳介君」
ばっかりと二人は会った。この時は、鳳介は修行として、
走り込みをしていた。
「今日は一人か……?」
と言う鳳介に、
「うん修一君は居ないし、零也君はデートだし、他も皆デートだね。
アキラ君は、今日も異界だし」
「委員長は……?」
「巫女のバイト」
「もう一人は……?」
「彼女は今日も異界で狩り」
「そうか……」
そして鳳介は修行であるが、ここであったのも、
何かの縁なのと、そろそろ一休みしたいところなので、
二人で、話をしながら歩くことになった。
その話の内容は、 やはり恵美についてである。
「あの人は、悪い人じゃないのは、分かってるんだけど、
特にイノさんの一件でも、彼女のおかげで助かったし」
なお赤い怪人については、人様に話す事じゃないと思い、話してはいない。
ただ今となっては、赤い怪人の事も含め何かあるんじゃないかと思ってしまう。
「多分、修一君も恵美さんも、大きな出来事に巻き込まれてるんじゃないかな。
そう思うと不安でさ」
すると鳳介は、ため息交じりの声で、
「陰謀論だな……」
「えっ?」
「大げさに考えすぎだ。実際は大したことじゃないのかもしてない……」
「どういう事?」
丁度その時だった恵美の姿を見かけたのは、
「あっ、恵美さん」
思わず後を追う秋人に、釣られる鳳介。
更に、
「天海……」
恵美を追うなか、同じように追っている人々をみた。
それは、天海蒼穹と黒神里美だった。
「何してるんですか?」
里美と蒼穹は、洗濯物を取り込むために、ベランダに出ていたが、
その際に家から出ていく恵美を見たという。
そして、急に里美が出ていって、それが気になって後を追う蒼穹と言う感じで、
「それ浮島の時と同じじゃないですか。
まさか里美さん、また修一君の弱み握ろうって考えてるんじゃ」
里美は、恵美の方を見ながら、
「ええ、彼女は桜井修一と従姉以上に繋がりが強そうですから、
彼女の動向からもしかしたらと思いまして」
「そんな事だろうと思った……」
とあきれた様子で言う蒼穹。
しかし、彼女も恵美の事が気になっているので、
里美が恵美を追っていると気づいた後、一緒に後を追った。
その後、理由は異なれど恵美の事が気になるのは、
蒼穹も秋人も同じなので、一緒になって後を追う。
鳳介は、そんな秋人達が気になり、一緒に行動する。そして恵美が向かった先は、
「ここってケーキ屋さん?」
と言う秋人に。
「たしかケーキバイキングで有名な店ですね」
と言う里美。その店は、妙に可愛らしい佇まいで、女性人気も高いが、
男性だけでは入りづらそうな感じであった。
恵美が店に入っていくのを、確認した四人は、
「私たちも入りましょう」
と言う里美だが、ここで、蒼穹が、店にやって来るある人物に気づいた。
「ちょっと待って、アイツは」
「凱斗ちゃん」
「鴨臥凱斗か……」
そうやって来たのは鴨臥凱斗である。
妙に煌びやかなジャンバーとジーパンと言う姿であるが、
回りキョロキョロと見ているなど、妙に挙動不審で、
やがて店に入っていく。そんな姿を見た里美は、
「あのお嬢、こういう店に来るんですね」
と意外そうに言う。そして、
「あのお嬢の弱みも握れるというなら、一石二鳥」
と言い出すが、秋人は、どこか悲し気な顔していた。
とにかく四人も店に入るが、店員から、
「五名様ですか?」
と言われる。
「えっ!」
と声を上げる四人、そう一人多いからだ。すると
「はい……」
と言う返事、声の主は、
「メイさん!」
と思わず声を上げる秋人。そう長瀬メイがそこに居た。
四人は気づかなかったが、彼女も恵美を追っていたのだ。
結局、メイも加わって五人になるも、
ちょうど恵美のいる席を見る事が出来る席を取れた。
そしてメイから事情を聞いた後、恵美の方を見るが、
「えっ、鴨臥と相席!」
と声を上げる蒼穹。そう恵美は凱斗と一緒だったのである。
「どういう事よ、これ……」
「これは意外な展開ですね」
と言う蒼穹と里美に対し、メイと秋人と鳳介は、
無言で、二人を見ていた。なお店に入った以上、
何もしないわけにはいかないので、
五人は、棚からケーキを取ってきて、食べている。
なお料金は先払い。
さて、恵美と凱斗は、偶にこの店のケーキの感想を言い合って、
談笑する事はあるが、二人は基本的に黙々とケーキを食べている。
そして里美は、恵美の事よりも、
「あのお嬢、あんな顔するんですね」
普段の凱斗は、仏頂面で偉そうであるが、
今はとろけるような笑顔、まさに乙女と感じで、
幸せそうにケーキを食べていたので、そっちの方が気になった。
「確かに、あれは可愛いかも」
と蒼穹も言う。
その後、恵美に、別段変わったところはなく、ひたすらケーキを食べ、
偶に凱斗とケーキの感想を言い合うだけであった。
「何もなさそうね」
と言いながらも、五人はケーキを食べつつ、様子を見ていたら、不意に、
「お前ら何やってんだ?」
と声を掛けられ、
「〇△□×!」
訳の分からない悲鳴を上げる蒼穹。
「そんなに驚くことはないだろ?」
声を掛けたのは、零也だった。秋人は
「零也君、どうして……」
と言いかけて、側に真綾もいる事に気づき、
「そういやデートだったね……」
そう零也は、真綾とのデートでここに来ていたのだ。
更に、一緒にいた真綾は、五人の様子を見て、
「どういう組み合わせよ。特にアンタ」
と言ってメイを指さした。
「なんで、アンタがこんなの所に居るのよ!」
「………」
メイは答えない。
「黙ってないで、なんか言いなさいよ!」
と真綾が声を上げる中、
「ホントに、何やってるんだ、お前ら」
「恵美さん……」
蒼穹が上げた悲鳴をきっかけに、恵美も、五人に気づき、
こっちに来たのであった。
零也は、初対面なので
「初めまして、天童零也です」
「知ってる。修一から聞いた。そっちもな」
と真綾の方を見る。
「お前らは、デートだとして」
五人の方を見て、
「そっちはどういう集まりだ?ただの相席か?」
確かに店は混雑しているので、相席となっても別段不思議ではない。
「まあ、そんなところ……」
と誤魔化しで秋人が、言いかけた時、
「お前ら……」
凱斗がこっちにやって来た。
妙に低い声で、背中に禍々しいオーラが見えるようだった。
そして近くまで来ると、
「見たのか……?」
すると里美は、
「何のことです?」
と言うも、引き続き、
「見たのか……?」
と言うので、
「まあ、あなたが幸せそうに、ケーキを食べる姿なら見ましたが」
と里美は言うが、それが地雷だった。凱斗の顔が真っ赤になり、
「秘密を見られたからには、生かしてはおけん!」
と言い出した。
「えっ!」
と声を上げる一同。
今にも襲ってきそうな様子の凱斗、
「これ食って落ち着け!」
と恵美が、棚からケーキを取って、一かけらを
フォークで、凱斗の口に押し込むように食べさせた。
「そんなんで、落ち着くはずが」
と言う蒼穹だったが、凱斗はとろけるような笑顔を浮かべ、大人しくなった。
「うそっ!」
と蒼穹は声を上げた。とにかく騒ぎは回避され、凱斗は
「すまん。取り乱した」
と言いつつも、
「今日の事は誰にも言うなよ。もし話したら、命が無いと思え!」
と言った後、
「今日はもう帰る」
と言い残して去って行った。余談であるが、恵美と凱斗が、五人に気づいたのは、
ケーキを平らげ、新しいケーキを取りに行こうとした時なので、
当然、お残しはしていない。
その後、五人は目立ってしまったので、居づらくなって、
既に取っていたケーキを平らげ、店を出た。
なお既に平らげている恵美も一緒だった。
因みに、零也と真綾は引き続きデートで、店に残った。そして恵美は、
「ところで、お前らどうして、アソコに居たんだ。本当に相席なのか?」
するとメイが、
「母さんは……桜井君のお父さんの同級生……」
その言葉を聞いて表情が強張る恵美、
「貴方は誰……?桜井君はどこ……」
すると恵美は、
「そう言う事か……」
と言いつつも、
「詳しい事は言えないが、心配ない。
いつかは分からないけど、桜井修一は帰って来る。だから騒がないでほしい」
と言って秋人の方も見る。
言葉だけじゃ、納得できない秋人は何か言おうとするが、鳳介が、
「俺は、最初から信じている……今日は、むしろ有間達が心配で一緒にいる……」
と言った後、恵美をじっと見つめ、
「必ず帰って来るよな……桜井……」
恵美は、
「お前まさか……」
と言いつつも、
「今日は、帰る」
と言った恵美は去って行った。
そして秋人は、鳳介の言葉が気になり、
「鳳介君……」
と声をかけるも、
「修行の続きだ……」
と言って、鳳介は走り込みに戻って行った。
そして残された面々は、何とも言えない気持ちを抱えるのだった。
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