2「恵美への疑惑」
恵美が転校してきて数日後の事、放課後のinterwineにて、
秋人、零也、鳳介が話をしていた。
「未だに桜井の入院先は、分からないのか?」
と言う零也に、
「僕も、見舞いに行きたくて、彼女に聞いたんだけど
知らないの一点張りなんだよね」
なお担任教師であるマチルダにも聞いたが、
修一が見舞いを嫌がっているとの事で、教えてもらえなかった
「功美さんの連絡先が分かればいいんだけど……」
と秋人が、頭を押さえながら言う。なお鳳介は、
「何か事情があるんだろ……」
とフォローするかのような事を言った。
そして、再び零也が、
「それにしても、桜井の急な入院に、病名不明、入院先不明と来てる。
何だか妙だな。それに従姉の事なんだけど……」
と言いかけたところで、
「えっ、桜井修一が入院!」
と言う声がして、
「天海!」
と零也が声を上げる。三人がいた場所のすぐ後ろの席に、
天海蒼穹が居たのだ。しかも彼女だけじゃない。
いつものように里美もいるし、真綾の姿もあった。
三人は、秋人たちが、来る少し前に、お茶したくて、
店に来ていて、今の席に座っていたのである。そして、席が近いのは偶然である。
「真綾もいたのか……」
「黒神に、半ば強引に誘われたの」
ここで里美が、
「あの桜井修一が、入院とはどういうことです?」
と聞くと、秋人が、修一が数日前から入院して、
学校に来ていない事や、具体的な病状や、入院している病院も謎だという事と、
加えて従姉である恵美が、不津校に転校してきたことも話した。
「あの従姉が……」
マチルダが、転校を示唆していたから、蒼穹は、ついにその時が来たかと思った。
以前から、赤い怪人の事で、話がしたかったから、蒼穹はいい機会だと感じた。
しかしそれ以上に気になる事があった。
入院してるとなると、当然、一階には誰も居ない筈である。
「でも、一階から人が住んでる気配がするわよ。それに昨日も、洗濯物干してたし」
それは彼女も、洗濯を干そうとベランダに出て、
偶然に、階下を見たのであった。更に里美も、
「私も見ましたし、それに完全防音ではありませんから、
僅かながらも、一階から音が聞こえてきますしね」
つまり、一階誰かがいるという事になる。
「それって、功美さんの可能性は?」
「音は毎日聞こえて来るから、あの人だって、
普段あまり家にいないはずだし……」
と蒼穹は言う。
ここで里美が
「ところで、恵美さんに何か、変わったとこありませんか?」
「変わったとこ?」
秋人は、首を傾げながら、
「そういや、女子から聞いたんだけど、体育の着替えの時、
どこかに行っちゃうみたい」
不津高では、体育の着替えは、男女決まった教室で行っているのだが、
恵美は、着替えの時になると居なくなって、
授業の時間になると着替えを終えて現れ、そして授業が終わると、
また居なくなって、制服に着替えた姿で現れるという。
どうやら、他の女子たちとは違う場所で一人着替えているらしい。
「今のところ、思いつくのは、これくらいかな」
と秋人は言うが、彼女が修一の従姉じゃないかもしれないという疑惑は、
両親がうろ覚えなのと、学校の先生まで従姉と言っているので、
違ったら大変なので言わなかったが。
すると零也が、さっき蒼穹が声を上げたので言えなかったことを言う
「その従姉についてなんだが、母さんが妙なこと言ってたんだ。
桜井の父親には、兄弟がいないって」
「えぇ!」
と声を上げる一同、そして秋人は、
「えっ、零也君の所も!」
と声を上げたので零也は、
「その様子だと、秋人の所もか」
「そうなんだ。でもうろ覚えだしさあ、先生も従姉って紹介しているし」
ただ零也は、
「ただ、母さんはシャレにならない冗談を言う事があるから、
本気にするのは危険だが」
と口元に手を当てながら言う。しかし秋人の両親もとなると、
うろ覚えとはいえ、信憑性は出て来る
ここで里美は、以前のマチルダの話から、
「もしかしたら、先生もグルなのではないでしょうか、
先生たちは、恵美さんの事を以前から、ご存じの様ですし」
蒼穹も、
「そう言えば、そんな事言ってたわね。
あっ、そういやあの時、桜井修一の様子がおかしかったのも、
何かあるのかな。まさか、大十字久美が絡んでいるとか」
大十字久美の関与は大げさかもしれないが、
ますます疑念の様なものが深まっていく。
ここまで、黙っていた真綾は、
「あのさ、今思い立ったんだけど、一階に住んでいるのって、
恵美って奴じゃない。一応、親戚だから下宿してるとか、
アイツも入院したって事だから、問題は無いだろうし」
すると里美は、
「それもありえますわね。一応親戚ですから」
とどこか納得したような素振り言いつつ、疑念は消えたわけではない。
なお、噂をすれば影が差すとは少し違うが、
この後、店を出た一行、秋人達と、蒼穹達は、
お互い釣られるように、店を出たのだが、偶然にも恵美を見かけた。
彼女はエコバックを持っていて、買い物帰りの様で、
一行は思わず、後をつけていた。そしてたどり着いた場所は、
「やっぱり、修一君の家だ」
そして裏玄関から、入っていく彼女。
真綾の言う通り、恵美が下に暮らしているのは、間違いないようである。
この後、秋人達と真綾とも別れた。蒼穹達は、表玄関から、
家に入るが蒼穹は、
「先に上がってて」
と里美に言う。
「彼女と、話をするんですか」
「ええ、あの子には聞きたいことがあるから」
すると里美は、
「やめておいた方がいいですよ」
「どうして」
「彼女は得体のしれないところがあります。今は様子見をした方がいいですよ。
桜井修一だけならともかく、その親、更には学校の先生まで、
グルになって何かを隠してる様ですからね」
その言葉で、冷静になった蒼穹は忠告通り、様子見をすることにした。
現視研の部長は、悩んでいた。良くも悪くも借りは返すというのが、
彼女の心情である。なので部活の部長としてではなく、
過去の入院の事もあって、どうしても、修一のお見舞いがしたかった。
しかし恵美に、入院先を聞き出そうとしたが、
彼女は知らぬ存ぜぬで、埒が明かず、
そのことが悩みの種だった。まあ彼女は、
修一の母親の功美とも顔見知りなので、功美に聞けばいいのだが、
あいにく、自宅以外の、普段の連絡先を知らなかった。
あと部長は、恵美に疑念を抱いていて、
ある時、恵美が部室に来る前に、部長と愛梨が来ていて話をしているなかで、
「恵美ちゃん、あの子、入院先を知らないって言ってるけど、嘘ついてるね~」
と言われ
「やっぱりか、愛梨のウソ発見器は正確だからな。
アタシのは試作品だから、制度が悪くて」
彼女のパワードスーツには、自作の非接触型ウソ発見器を搭載している。
ただ彼女の言うように、まだまだ試作品である。
「あーしのは、下準備がいるけどね」
初めて会った時は、その準備ができていなかったとのこと、
ただ、最初に出会った時、気になることを感じたので、
準備をして、使用したところ。
彼女が、修一の入院先を知らないという事が、嘘だという事が
わかったのである。
しかし、嘘をついているからと言って問い詰めたところで、
容易に白状するかは別で、加えて部長は番長だが、
不良じゃない人間に手を出すのは、彼女の流儀に反するので、
脅すというのはもってのほかである。
加えて、変に問い詰めて機嫌を損ねられたら、プラモは作ってくれないだろうし、
それに、彼女は修一の縁者の事だから、修一に伝わって
彼の機嫌まで損ねてしまってはいけなかった。コンテストで賞を取って、
嘗ての栄光と言うと大げさであるが、とにかく現視研プラモ班を再興させたかった。
あと恵美に、関しては、もう一つ疑念があった。
「そういえば、プラモを作っている時の恵美ちゃんって、桜井君に似てるよね~」
「確かに、作ってる時の、細かな仕草とか、ほぼ一致するな。
やっぱり従姉だからか?」
「そうかもしれないけど、違うとしたら?」
「どういう事だ?」
ここで愛梨は、ある能力の事を話した。
「まさか、桜井がそれだと」
「確証はないけどね~。それに確かめるには、
DNAやら指紋が必要だからね~違ってたら大変だけどね~」
確かに、DNAやら指紋とくると犯罪者扱いだから、
愛梨の言う通り、違っていたら大変で、
やはり彼女の機嫌をやはり、彼女の機嫌を損ねかねない。
そして愛梨は、
「まぁ~嘘をついてるって言ってもさぁ~、
プラモづくりはキチンとしてくれてるんだし~
別に問題もないから別にいいんだけどね~」
部長も、
「確かにそうなんだがな……」
と言いつつも
「でも、アイツが本当に入院してると思うとな……一度見舞いに行かないと」
とモヤモヤしている部長。
愛梨も副部長として、お見舞いしたという思いがあるので
部長ほどではないがモヤっとしていた。
「彼女の機嫌を損ねずに、
真実がわかる方法があれば良いんだけどねぇ~」
と軽く首をかしげる愛梨だった。とにかくこの二人は、仮説を立て、
そのうえ実害もないとして気にもなるが、一旦放置を決めた。
しかし、確かめたいという思いを抑えられなくなるのである。
さて、秋人達はと言うと、恵美への疑念を、悪い方向へと考えてしまった。
もちろんイノの一件もあって、赤い怪人の事は気になるが、
彼女が悪い人間じゃないことは、重々承知していた。
しかし修一がいなくなって、親はおろか、教員まで、口裏合わせをしている状況、
ただならぬものを感じざるを得なかったのだ。
学食にて、秋人は、もやもやとした気分を抱える。
その様子に気づいた鳳介は
「あんまり深く考えない方がいい……その内、桜井は帰って来る……」
「そうかもしれないけど」
と秋人は言いつつも、
「ずいぶん鳳介君は、落ち着いてるね」
「そっちこそ……気にしすぎだ……」
そう言うと黙々と食事を食べだす。しかし、納得のいかない様子の秋人。
なお鳳介が落ち着ているのは、何が起きているか察しているからである。
それは、最近聞いたある話と、
加えて初めて修一の家に行ったときに、見たものをかけ合わせた結果であった。
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